◼️「セイ・エニシング/Say Anything」(1989年・アメリカ)
監督=キャメロン・クロウ
主演=ジョン・キューザック アイオン・スカイ ジョン・マホーニー リリ・テイラー
80年代青春映画といえばジョン・ヒューズ監督だった。好きな作品はいくつもある。あの人の映画は、人生のわずか数日、いや数時間が、登場人物たちにとって大きな成長をもたらす瞬間を切り取ってきた。青春時代にそういう尊いモーメントは確かにあるし、大事なことだ。だけど避けては通れないのはその先。将来のことや人間関係、諦められない気持ちがどうなるんだろうと思いながら、映画を観ていたのも正直なところ。89年にキャメロン・クロウ監督が発表した「セイ・エニシング」は、そんな青春モーメントのその先に一歩踏み出した映画だ。
高校卒業のタイミングで、あまり目立たなかった男子ロイドが優等生の女子ダイアンに告白。優しくて気遣いができる彼の人柄に好意を抱く彼女。付き合うのも初めてづくしだし、留学でイギリスに旅立つ日は迫っている。不器用な二人は一緒にいたい気持ちと焦りで関係がギクシャク。娘離れできない父親、身分違いの恋というハードルもあって、心穏やかではない日々。そこに彼女の父親の脱税疑惑が。
この映画にも貴重な青春モーメントはたくさん描かれる。初対面の父親に潔い挨拶をする場面、バックシートで抱き合いながら「幸福すぎて」と震えが止まらない場面、その翌日詳細に父親に報告する娘と表情が固まる父親。この映画が誠実なのは、二人がこれからを考える様子が幾度も出てくること。恋をして浮き足立つ映画は散々観てきたけど、ロイドは会う大人それぞれから進路について尋ねられたり、ダイアンは父親の罪はどうなるのかで気が気じゃない。紆余曲折を乗り越えて旅立つ二人が爽やかな感動をくれる、ちゃんと地に足がついた映画だ。だけど、スクリーンの恋愛模様で夢見させてくれる映画とは違うから、好き嫌いは分かれるかも。今の自分の年齢で観たせいで、好意的に思えるのかな。ハッピーエンドなのに、ちょっとだけビターな味がする。
ダイアンとうまくいかない悩みから、コンビニでたむろする男子たちと会話する場面が印象的だ。女の扱いは心得てるみたいに言う彼らに、「じゃあ何故お前らはここにいる?」と辛辣な質問をするのは笑った。他の女で解決しようとする男子たちの情けなさ。彼らを前に「ダイアンがいいんだよ!」と叫ぶロイド。いいぞ、そうだ。それでいい。ロイドの相談相手である異性の友人コリーの存在も好き。彼女が元カレの悪口を歌にする場面、ナイス。
サントラはキャメロン作品らしいかなり渋めの選曲。特にピーター・ガブリエルのIn Your Eyesの使われ方がいい。ロイドとダイアンの大切な青春モーメントに流れてた曲。彼女の家の前でラジカセ抱えて、この曲を流して聴かせようとする場面にちょっとウルっ🥲。