■「十三人の刺客」(2010年・日本)
●2010年日刊スポーツ映画大賞 監督賞・助演男優賞
●2010年日本アカデミー賞 撮影賞・照明賞・美術賞・録音賞
監督=三池崇史
主演=役所広司 山田孝之 伊勢谷友介 沢村一樹 市村正親
工藤栄一監督1963年製作の同名東映時代劇を、三池崇史監督でリメイクした娯楽時代劇。あまり期待せずに劇場に足を運んだが、長尺も気にならず楽しむことができた。これは男として血がたぎる映画ですな。僕がこういう女優が活躍しない映画を観に行くって滅多にないことだが・・・(恥)。次期老中と言われる明石藩主松平斉韶(なりつぐ)は人間味のない暴君。幕府の行く末を案じた家臣から主人公が藩主暗殺を企てる。その命を受けた島田新左衛門は信頼できる仲間を集めて、参勤交代の折に襲撃しようとする。一方、その動きを刺した斉韶の家臣鬼頭半兵衛はそれを阻止すべく・・・。オリジナルの映画は観たことがないが、
「洋邦名画ベスト150中上級編」(文藝春秋)で日本映画ベストワンに選出された映画で、通好みの娯楽作であることは知っていた。リメイクは失敗するとよく言われるものだが、いい素材を愛してそれを楽しんでリメイクするとここまでできるという格好の例がこれだろう。男として血がたぎる映画。女優が出ない映画は観ない主義の僕も心底楽しむことができた。
役所広司はこの映画に関するインタビューで、「映画の現場は大人が真面目に遊んでいる」と表現したがそれが銀幕を通じてよく伝わってくる。クライマックス50分に及ぶ大殺陣はド迫力。セットを組むだけでもきっとわくわくするだろう。そしてそれを舞台に「斬って斬って斬りまくる」。多くの出演者がいる中でとびきり存在感を放っていたのは松方弘樹。華麗な太刀捌きが見られる映画ではないが、その中で唯一キリッとした殺陣をみせている。それでも13人で何百人もの敵に挑む訳だから、もう最後は型も何もなくよろよろと刀振り回すだけにもなっちゃう気はするけどね。それでも新左衛門と半兵衛の対決は手に汗握る。市村正親がいいんだよなぁ・・・ダメな殿でも主君は守らねばならない武士の忠義を貫こうとする。大義の為に死ぬか忠義の為に死ぬか・・・どちらにしても武士の悲しさ。その二人に対して、侍を嫌う山の民木賀小弥太(伊勢谷友介)、侍として生きることに疑問を抱いていた島田新六郎(山田孝之)。
グロい部分からも決して逃げない、というかむしろみせたい三池監督らしい場面も。四肢を斬られ舌を抜かれ斉韶の慰みものになった女性が出てくる場面には正直驚いた(全裸で登場させる必要はないと思ったのだが・・・)。役所広司扮する新左衛門はあまりの姿に絶句してしまうが、斉韶への怒りから笑みさえもらす。どの役者もいい演技をみせてくれる。クールでスマートな印象の伊勢谷友介が野性的で面白いし、六角精児や古田新太も昼ドラ「Xmasの奇跡」の窪田正孝クンも頑張ってるね。でもこの映画で意外な大健闘はなんと言っても吾郎チャンだろう。血まみれのキレっぷりがすご。細部を言えばきりがないかもしれない。やりたいことをやりきった映画をいろいろ言わずに楽しむのが吉かと。