Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

気狂いピエロ

2022-10-01 | 映画(か行)

◼️「気狂いピエロ/Pierrot Le Fou」(1965年・フランス)

監督=ジャン・リュック・ゴダール
主演=ジャン・ポール・ベルモンド アンナ・カリーナ

2022年9月13日の夕刻。ゴダールが亡くなったとのニュースがあるぞ、と携帯に通知が届いた。あまたの映画監督がいる中で、わざわざ携帯が教えてくれるくらいだ。映画界への影響の大きさは計り知れない。誰かの死に際して何かコメントするのは決して好きではないのだけれど、それを契機に亡くなった映画人の作品に触れるのは、これまでの映画生活の中で幾度もやってきたことだ。アイコンにゴダールの「男性・女性」を使ってる僕だから、そろそろ何か言わなくちゃ。

「映画ファンあるある」だけど、世間が評価している映画が自分にはピンとこなかった時、これが面白いor良い映画だと思えない自分は大丈夫?と一度は思ったことがあるのではなかろうか。僕にとってその経験はゴダールだった。

初めて観たのは多くの方々が絶賛する「勝手にしやがれ」。
はぁ(深呼吸)、正直言います。
😖大っ嫌い!
ズタズタの編集と細切れの音楽に気分が悪くなり、なんかカッコいいこと言ってるんだけど、もう気持ちが盛り上がらないから何がなんだかわからない。もう二度と観たくない!と「スターシップ・トゥルーパーズ」並に毛嫌い(虫嫌いなんです)して、それ以来ウン十年封印。新作なら大丈夫かも、と仕事帰りにレイトショーで「右側に気をつけろ」を観たけれど、やっぱり良さが理解できなくて。翌日仕事だっちゅうのにオレは一体何をやっているのか、と悲しい気持ちしかなかった。

それを打ち崩したのは、アンナ・カリーナが出演するゴダール作品だった。
「女は女である」
あっ楽しい♪
ちゃんと音楽が流れている(爆)
アルファヴィル
特撮がないのにクールなSF♪
台詞を深読みすると面白い(気がするw)
女と男のいる舗道
ゴダール作品でいちばん好き♡
アンナをただひたすら眺めていたい

そして「気狂いピエロ」にたどり着いた。初見は1996年5月。WOWOWが邦題の表現に配慮して、原題の「ピエロ・ル・フ」のタイトルで放送した録画を観た。その場で理解できるかどうかは抜きにして、あるがままにまずは映画を受け止めて、自分なりに何がいいのか何が気に食わないのかを考える。そこにちゃんと向き合えたのは、このゴダール作品を観たことからだ。でもそれこそが"鑑賞"。音楽の授業でモーツァルトの「魔笛」かなんか聴いて、「どんな場面が浮かびましたか?」と考えたのと同じ。

「気狂いピエロ」は女に振り回されるフェルディナンの姿を追い続ける映画。退屈な日常から逃げ出したかった彼は、再会した昔の恋人マリアンヌと一夜を過ごすが、そこから何者かに狙われて二人の逃避行が始まる。されど緊張感はまるでなくって、南フランスでバカンス気分でくつろいだり、ノートに詩を書いたり。しかし追手は確実に迫りフェルディナンも危機に陥る。その裏には…。

「気狂いピエロ」は裏切りのドラマ。マリアンヌに"ピエロ"と呼ばれてフェルディナンだと毎回訂正するのだけど、彼女にとって彼は自分を楽しませる道化師だった。でもストーリーが特別面白い訳じゃない。むしろ筋書きなんて二の次でよい。この映画の魅力は強烈な色彩。顔に塗りたくる青いペンキ、巻き付けるダイナマイトの黄色と赤。ベルモンドの真っ赤なシャツ、カリーナや彼女の兄役が着るフレンチボーダー、島に渡る小舟の派手な塗装、ところどころに挟まるネオンサイン、サインペンの文字。とにかく絵になる。気に入ったアートを眺めているように心地よい。

そして散文のように散りばめられた映像と言葉の余韻と響きを楽しむこと。"なんかカッコいいこと言ってる"は確かに訳がわからないけれど、ところどころにハートに残る言葉がある。それを"ええやん"と思えたらそれでいいと思うのだ。

言葉をきちんと扱える人ってカッコいい。昔からある粋な言い回しを知っていたり、時には政治用語を皮肉ったり、文学や芝居や映画の言葉を上手に引用できる人は素敵だ。ゴダールの引用は難しいけれど、すべてを理解できなくていい。こんな事を言うと熱心なゴダール好きから、ファッションで映画を観るんじゃねぇと怒られそうだけど、映画の観方なんて人それぞれ。難解なゴダールだけどなんか雰囲気が好きって軽いノリでもアリだと思うのだ。いちばん怒るのはゴダールかもしれないけどw。今なら「勝手にしやがれ」に向き合えるかな。

(ラストの会話)
やっと見つけた
何を?
永遠

自分で選んだ死。ゴダールは永遠を見つけたのだろか。



コメント
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