Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

スローガン

2024-09-07 | 映画(さ行)


◼️「スローガン/Slogan」(1968年・フランス)

監督=ピエール・グランブラ
主演=セルジュ・ゲンスブール ジェーン・バーキン アンドレシア・パリシー ジュリエット・ベルト

セルジュ・ゲンスブールを本格的に聴き始めたのは社会人になってから。ヨーロッパ音楽に中坊の頃から興味があったこと、初めて買ったFM雑誌の表紙がセルジュのアルバムだったこと、平成初めのシャルロット人気、などいろんなきっかけがあるが、少なくともピチカートファイブやカヒミ・カリィがゲンスブール作品を取り上げた頃には、コンプリートと題された9枚組CDセットが本棚のいちばん目立つところに鎮座していた。僕にとっては憧れの不良老人。それは今でも変わらない。

しかしながら出演作や音楽担当の映画に触れるのはその後。ジェーン・バーキンとセルジュの出会いとなった記念碑である本作、「スローガン」を初めて観たのは、1997年、WOWOWの放送だった。

感動するラブストーリーじゃない。むしろ呆れてしまいそうな話だ。CM監督セルジュが映画祭で訪れたベネチアで奔放なイギリス娘エヴリンと出会い恋をする。ギャーギャー騒ぎ立てるばっかりのエヴリンに振り回されるが困った顔するでもなく、生まれたばかりの子供と妻を放り出す無責任な中年男。

常識的に観てたらイライラしそうなものだが、二人が一緒にイチャイチャする場面の無邪気さ、現実味のなさ、小洒落たインテリアやファッションにいつの間にかワクワクしている。「あなたは素敵、私も素敵」何言ってるの?お嬢さん😓でも、なんか憎めない。そして翌1969年を"エロの年"だと歌ったお騒がせカップルが実際にこの映画で出会ったという事実が役に重なって、ゲンスブール好きにはたまらない長編PVのような作品。

映画宣材もオシャレで、90年代のリバイバル、緑色のフライヤーが大好き。もしポスター持ってたらお気に入りのゴダールのポスター剥がして代わりに部屋に貼ってる。

2024年9月に宅配レンタルDVDで再鑑賞。離婚を切り出したセルジュに妻フランソワが諭す台詞が、今の自分の年齢で観るとチクリと痛い。
「40歳なんだから33歳に見せる必要ないでしょ」
若い女といることが自分を若返らせてくれると思っている男。気持ちはそうでも実際は違う。確かにそうだよ。うん。

セルジュ・ゲンスブールが手がけた主題歌スローガンの歌。不安定なのに印象に残る不思議なメロディ。様々にアレンジを変えて本編で流れるのも楽しい。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

サスペリア

2024-09-04 | 映画(さ行)


◼️「サスペリア/Suspiria」(2018年・アメリカ=イタリア)

監督=ルカ・グァダニーノ
主演=ティルダ・スウィントン ダコタ・ジョンソン ミア・ゴス クロエ・グレース・モレッツ

傑作「ミラノ、愛に生きる」に衝撃を受けて以来、ルカ・グァダニーノ監督は気になる存在。繊細な人間ドラマのイメージがあるだけに70年代ホラー「サスペリア」のリメイクを手がけたと聞いた時は驚いた。舞台は東西に分かれた時代のベルリン、クラシックバレエからコンテンポラリーダンスに様変わり。

ホラーは苦手だけど、オリジナル「サスペリア」には抗えない魅力を感じていた。それは鮮血の美学とも言うべき他では観られない映像と、ゴブリンのおどろおどろしい音楽(音楽室のピアノで「エクソシスト」とこれのメロディを弾いてた私w)。ストーリーの記憶はあやふやでも、それらは記憶にしっかりと刻まれていた。

バレエ団の陰に悪魔復活の野望が隠されている…という基軸のお話を、失踪した女性を追う精神科医を絡めて謎解きのような展開。しかしオリジナルでジェシカ・ハーパーが演じた主人公スージーはただひたすらに巻き込まれて怖い目に遭った人。本作ではアーミッシュ部族の出身との設定で、一般の人とは異なる風習の中生きてきた人物となっている。

本作では東西冷戦、分断された都市ベルリン、ドイツ赤軍のハイジャック事件、同じ宗教なのに少数派の人々…と何かと対立する存在が示される。それはバレエ団の裏に隠された魔女と人間界という関係にもつながる。ヒロイン、スージーはオリジナルと違って古参魔女の器となることを受け入れず、自ら魔力を手にする存在へとなっていく。それは彼女を縛り付けていた母親という存在からの離脱。ここでも実の母、新たな母として受け入れることを迫る魔女。ここでも相対する関係が見えてくる。オリジナルの怖い目に遭ったヒロインの話を念頭に観ていたら、予想の上をいく結末が待っている。

でもねー、これは期待した「サスペリア」じゃない。ショックシーンも、血みどろのクライマックスも、不気味なティルダ・スウィントンもいいけれど、美学とも評された毒々しい映像の個性は感じられない。レディオヘッドのトム・ヨークによる音楽は、映画を彩る重い空気を作ることには成功しているものの、身体に染み付くような、単調で呪文のようなゴブリンのメロディとは違う。あのメロディがあるから、オリジナルの「サスペリア」は悪夢から観客を目覚めさせない怖さがあった。「決して一人では観ないでください」とキャッチコピーとあの旋律は、ペアで僕らの心に刻まれたんだもの。

あ、クロエたん好きだから、出番があまりにも少なくて消化不良なんだろって?

はい、図星w




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジュリア

2024-09-02 | 映画(さ行)


◼️「ジュリア/Julia」(1977年・アメリカ)

監督=フレッド・ジンネマン
主演=ジェーン・フォンダ ヴァネッサ・レッドグレープ ジェーソン・ロバーツ

初めて観たのは中学2年。フジテレビ系の映画番組だった。映画と名がつくものには訳もわからず食らいついていた頃だったから、ジェーン・フォンダの名前で観る気になったんだろう。2024年8月に宅配レンタルDVDでウン十年ぶりに再鑑賞。

作家リリアン・ヘルマンの自伝的な作品「Pentimento」を原作にした作品。リリアンにとって幼い頃から大切な存在だった女性ジュリアとの、幼い頃の出来事から別れまでが描かれる。この映画について触れる文章には、女性の友情物語という表現がよく使われている。でも友情という言葉では表せない、もっと強いつながりや思いがある。あこがれ、という表現が適切かわからないが、対等な立場で仲良しというよりも、リリアンがジュリアを慕っている間柄。この感情が、映画後半に危険を冒してジュリアのいるベルリンを訪れる力になっていく。

リリアンの代表作となる戯曲は「子供の時間」。「ジュリア」本編の中で、長年の恋人ダシール・ハメットから「紛れもない傑作だ」と評される場面も出てくる。この戯曲を映画化したのが、ウィリアム・ワイラー監督の「噂の二人」。同性愛だと周囲に疑われて精神的に追い詰められていく女性が忘れられない作品だ。「ジュリア」でも、リリアンとジュリアの関係をそうした性的指向を疑う言葉をかけられる場面が出てくる。決してそうではないのだが、リリアンがジュリアに向けられた気持ちが単に友情と呼ぶレベルを超えた大切な関係だということが、こうした面からも伝わる気がする。

リリアンと長年恋愛関係にあったダシール・ハメットをジェイソン・ロバーツが演じている。リリアンに暖かくも厳しい助言をしたり、睡眠の邪魔だと邪険な扱いをしたりだが、アメリカに戻る彼女をにこやかに迎える姿に、言葉にせずとも伝わる気持ちが見える。

映画後半はほぼサスペンス映画の様相。この緊張感が、それぞれが置かれた切実な状況を示していて目が離せなくなる。ジンネマン監督の代表作が「真昼の決闘」だったことを思い出させる。折しもナチスが台頭してきた時期のベルリン。ユダヤ人であるリリアンが身の危険を乗り越えて、ジュリアとの短い再会を果たす場面は観ているこっちまで待ち焦がれていたような気持ちになる。追われる身だが笑顔を絶やさないジュリア、積年の思いで胸がいっぱいのリリアン。二人の表情は対照的。

原作のタイトルPentimentoは、もともと描かれていた下絵が透けて見えてくること。映画冒頭でこれが語られるのだが、リリアンが過去を見つめ直すことを表しているのだ。改めて観て、あの頃じゃわからなかった切なさや、ジンネマン監督の巧みな見せ方を味わうことができた。ジョルジュ・ドリュリューの音楽も美しい。





コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする