新潮社 昭和63年
このボロボロになった銀座日記はどなたかがもち
こんでこられたものだ。池波氏喫煙者なので、タバ
コをすっておられるのは、気もち悪くなってしまうので、
大丈夫かしらん、とおもったが、意がいとおもし
ろくて、大丈夫だった。このひとは、ラッキーストライク
とかの両切りを吸うんだね。
ポーク・カツレツをけっこうな頻度で食べていて、
安の定、通風で苦しんでおられる。いまほど栄養学
が発達していなかったのか、痛風の発作が起こっているのに
シャーベットやなんかを平気で食べたりする。
けど、ぼくにとってはこの三日間はよかった。だんだん
衰えていく様が分かるのだが、最後の一行、ベッドに入り
いま、いちばん食べたいものを考える、考えてもおもい浮
かばない、に泣けてくる思いがした。アメリカ映画をこよなく
愛し、試写室通いを頻繁にされていて、ぼくの好きな、
「エンゼル・ハート」、「カミーユ・クローデル」を褒めていた
ので、センスいいじゃん、と頷くことしきりだった。
(読了日 2022年10・8 0:54)
(鶴岡 卓哉)