映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ゴールデンスランバー」 伊坂幸太郎

2009年01月18日 | 本(ミステリ)
ゴールデンスランバー
伊坂 幸太郎
新潮社

このアイテムの詳細を見る


第5回本屋大賞受賞、
そして、2008年このミステリがすごい!国内ベスト1に輝く作品です。
もう、文庫化を待ちきれず、読みました。
最近著者は、目に見えない世の中を動かす何か強大なもの
・・・国家権力であり、マスコミが作り出す風評であり・・・、
そういうものへの危惧をテーマにした作品を描いていますね。
これはその集大成といっていいかも知れません。
さらに、精密な伏線、軽妙洒脱な会話、登場人物たちの連鎖。
こういう、いつもの伊坂幸太郎の持ち味満開。
これで面白くないわけがありません。
舞台は、この日本と良く似た別の日本。
仙台で、金田首相の凱旋パレードが行われた。
ところがその最中に首相は何者かに暗殺されてしまう。
犯人の疑いをかけられたのが、この本の主人公、青柳雅春。
ところが、これは彼には全く身に覚えのないこと。
にもかかわらず、犯人に仕立て上げられ、追われる身となってしまう。

学生時代の友人、森田は言う。
「逃げろ!オズワルドにされるぞ」。
オズワルドというのは、ケネディ暗殺事件の時に、犯人に仕立て上げられ、殺されてしまった人物。
この暗殺を謀ったのは、何か他のもっと巨大な影の力で、
オズワルドは犯人に仕立て上げられただけ。
挙句に口封じのために殺されてしまった・・・と、憶測されている人物です。

まさしく、青柳雅春は、オズワルドにされてしまった。
それも、昨日今日でなく、
何年も前からこの計画が周到に準備されていたらしいことがわかってきますが、
本当に薄ら寒い気がしてきます。

ストーリーは、この青柳が追っ手を逃れていく様をスリリングに描いていくのですが、
彼の学生時代の友人たちとの交友場面が
フラッシュバックのように挿入されています。

「ゴールデンスランバー」。
これはビートルズのポール・マッカートニーが
ちりぢりバラバラになったメンバーを呼び集めようと作った曲。
バラバラになったビートルズと、自分の懐かしい昔の仲間たちを重ね合わせています。
青柳は、学生時代に親しくして、今はもうほとんど会うこともなくなっていたこの昔の仲間たちに、助けられていくんですね。
特に別れた恋人、今はすでに結婚していて一児の母の樋口晴子。
彼女の行動はもう、感動的で、泣けました・・・!
TVでイヤというほど、指名手配として名前も顔も流されている。
そんな中で、一体どうやって逃げきることができるのか。
この、旧友たちに限らず、いろいろな人たちの手助けがあるんです。
こんなところに心が熱くなってきます。
ややきな臭く、危ない世の中かも知れないけれど、
人はこういうこともできる・・・ってところがいいじゃないですか。
ちょっとほっとさせられます。
また、ラストも泣かせるんですよ。
この本にも、「たいへんよくできました」のスタンプを押しましょう!


さて、この本を読んだら、やっぱりビートルズを聴きたくなってしまいました。
「GOLDEN SLUMBERS」は彼らのラストアルバム「ABBEY ROAD」に収録されています。
短い曲で、歌詞も私でもそのままわかるくらい平易。
Once there was a way
To get back homeward・・・
と、始まる甘く切ないこの曲。

あの頃はそうは思わなかったけれど、
なんて輝いていた幸せな日々。
今はもう決して帰ることができない
失われた日々。

この本の底に流れる切ない郷愁の念と
実に良くマッチした曲です。
改めて好きになってしまいました。

満足度★★★★★

GOLDEN SLUMBERS