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ネクロポリス 上 (朝日文庫) 恩田 陸 朝日新聞出版 このアイテムの詳細を見る |
待望の文庫化です。
この話の舞台、アナザー・ヒルはなんとも不思議な世界。
まずこの世界は、日本が英国の植民地となっていた。
そういう歴史の分岐点があったとして、そちらの系統をたどる未来の英国。
すっかり日本と英国の文化が同化していて、なんともおかしな具合。
そしてさらに、その英国領のどこかにあるアナザー・ヒル。
ここでは一年のうちの一定の時期「ヒガン」に、亡くなった人が帰ってくる。
そう、それは日本のお彼岸のようなものではあるのですが、
なんとそのなくなった人というのは、実体を伴っていて、話もできる。
突然亡くなり、最後の別れも伝えられなかった人々とまた再会し、ゆっくり話をすることができる。
・・・恐怖というよりは懐かしく、うれしいイベントなんですね。
この地のこの行事は、世界的にはウワサには登るものの、
ばかげた迷信だと思われている。
日本人学生ジュンが、実体験するべく、
初めてこの地を訪れるところから物語りは始まります。
広い水路を船で進んで行くと、
アナザー・ヒルの入り口のところには巨大な鳥居がたっている。
なんてミスマッチかつ奇妙な眺めでしょう・・・。
しかし、ちょっと怖いけれど平和な祝祭であるはずのその日、
その鳥居になんと死体が吊り下げられていた・・・。
ファンタジー、ミステリ、そしてホラー。
これらが混沌とする全く不思議なストーリー。
これまで恩田陸のヨーロッパが舞台の作品には、独特の雰囲気がありました。
ちょっとひんやりして物憂くて、寂しくて・・・。
でも、この作品はちょっと雰囲気が違います。
周囲の英国人はやたらと話好きで、人懐っこくて、どこかユーモラス。
「血塗れジャック」なる、殺人犯も登場し、
陰惨なストーリーになってもくるのですが、
この、人々のほんわかした雰囲気にちょっと救われます。
このストーリー中、百物語「ハンドレッド・テールズ」をするシーンがあるんです。
夜中に1人ずつ怪談を語り、100そろえようという・・・。
しかし、ある事件が起きて、ほんのいくつかだけで中断されてしまった。
・・・いやあ、もっとたくさんやって欲しかったですね。
怖いけど・・・。
とにかく予測がつかない展開で、
どうやって収拾を付けるつもりなのかと、心配になるくらいなんですが・・・
それにしても、これは無事着地できたといえるのでしょうか・・・?
恩田ワールド満開。
面白くはあるけれど、好き嫌いはあるかも・・・です。
そして、なんとこの本の解説が、萩尾望都なんですよ!
恩田氏も、さぞかし本望でございましょう。
満足度★★★★☆