映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

アイズ

2008年11月13日 | 映画(あ行)

角膜に焼き付けられた記憶

                * * * * * * * *

盲目のバイオリニスト、シドニーは角膜の移植手術を受ける。
手術は成功し、幼い頃以来失っていた視力を取り戻したのだけれど、
なぜか、通常では見えないはずのものまで見えるようになってしまった。

これは、つまり、「シックス・センス」ですね。
彼女には死者や、これから死のうとしている人、霊を連れて行こうとする死神(の様なもの?)が見えてしまう。
怖いですよ。これは。
・・・そういえば私、ホラーは久しぶりかも・・・。
というか、怖いから避けていたのか・・・?
途中、思わず飛び上がって驚いちゃったところとか、
鳥肌が立っちゃったところとか・・・。
毎日、こんなものが見えたら、ほんとに、生きていくのがイヤになりそう・・・。
なまじ、見えるから怖い。
見えないほうが良かったのか?。
彼女はこの現象が、移植された角膜のドナーと関係があるのではないかと思い、
調べ始めるのですが・・・。

このストーリーがただのホラーにとどまらなかったのは、ラストがいいんです。
これは、そのドナーが単に恨み辛みをシドニーに訴えかけていたのではない。
もっと大事なことを訴えかけていたんですね。
その思いを受けて行動することの意義。
なんだか、感動させられます。
もともと、シドニーは盲目でも、きちんと自立して生活していました。
それが、あまりにもショッキングなものが見えてしまうことにパニックを起してしまったわけですが、
でも次第に元来の凛とした強さがよみがえってくるんですね。
このヒロイン像がとてもいい。
なんだか、得した感じのするホラー。


それから、このたび初めて認識したのですが、
盲目の人が角膜移植をして視力を得た時、
特に初めてのような場合、目から入ってくる情報が多すぎて、
大変な混乱を起すというのですね。
私たちは当たり前にやっていることなんですが、
結構大変なことなんだなあ・・・と。
また、こういう人は字が読めないんですよ。
考えてみたら当たり前なんですが・・・。
シドニーが目が見えるようになってからも、
点字の楽譜や、点字のメモを読むシーンがあって、ちょっと、はっとさせられました。


この作品は、タイのダニー&オキサイド・パン兄弟の
2001年作品「The EYE」をリメイクしたものということです。
ハリウッドのお得意の手ですが、なんだか、本家に対して失礼な気がしますよね。
もともとの作品で、十分にいいのに、
なんだってわざわざ作り直さなきゃならないんでしょ・・・。
・・・って、考えてみたら、こんな面白い作品、
ハリウッドで作り直してくれなかったら、知らないままだったわけですもんね。
そういう点ではありがたいというべきなのか・・・。

2008年/アメリカ/97分
監督:ダヴィッド・モロー、ザヴィエ・パリュ
出演:ジェシカ・アルバ、アレッサンッドロ・ニヴォラ、パーカー・ポージー、ラデ・シェルベッシア


「無痛」 久坂部 羊

2008年11月12日 | 本(ミステリ)
無痛 (幻冬舎文庫 く 7-4)
久坂部 羊
幻冬舎

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私にははじめての作家です。
著者は医師でもあるので、その知識がふんだんにいかされたミステリとなっています。
ここに登場するのは、為頼(ためより)という医師。
彼は人の外見だけでその人の症状を完璧に読み取ることができる。
まあ、普通の人は、顔色などを見て具合が悪そうだ・・・くらいの判断はできますが、彼はそれをもっと詳細に読みとるのですね。
こんな医者がいたらいいなあ・・・とは思いますが、
彼は例えばガンが治るか治らないかまでわかってしまう。
医者もイヤでしょうが、診られるほうもちょっとイヤかも。
たとえワラのような可能性でも、信じたくなるかもしれないですし・・・。
でも、このストーリー上、彼の妻はガンの不治がはっきりした時に、
一切の治療をやめ、夫婦でオーストリアに渡り、豊かな時間を過ごします。
こういうのはいいなあ、と思います。
抗がん剤の治療は、苦しいばかりで、さらに体力を消耗し、
本来もっと長く生きられたかもしれないのに、寿命を縮めている。
こんな描写は、医師としての著者の本音でしょうか。
・・・私は共感しますが、いざ自分の身の上のこととなったら、
どうなるかわからないなあ・・・。

さて、話がそれましたが、冒頭、無残な一家四人の殺害事件。
一体誰が何のために・・・。
捜査は行き詰まりを見せる。
その真犯人と医師為頼が次第に接近していくわけです。
スリルとサスペンスに富み、また、医学的な部分はミステリアスでもある。
結構ボリュームたっぷりの本ですが、一気に読めます。
犯人像も、すごく特異ですが、憎みきれないところもあって、それは悪くない。

しかし、実のところ、私は途中で投げ出したくなったところもいくつか・・・。
ここに登場する要造という男が、
とんでもなく粘着質のぞっとするくらいにいや~~~な奴なんですよ。
まあ、それに見合った運命をたどるのですが・・・。
それに、医師の本領発揮しすぎのリアルな死体や犯行の描写・・・。
う~ん、具合悪くなりそう・・・。

というところで、全く、強烈でした。
あまりに強烈なので、この本の主題は本当は、
「犯罪者の心身喪失は罪にならない」
という現代日本の法律にあると思うのですが、
それはすっかりかすんでしまいました。

この残虐に耐える自信のある方にはお勧めです・・・。

満足度★★★☆☆


「海街diary2 真昼の月」 吉田秋生 

2008年11月10日 | コミックス
海街diary 2 (2) (フラワーコミックス)
吉田 秋生
小学館

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書店でこの本を見つけたときには、思わず「ラッキー!」とつぶやいてしまいました。(気持ちの上では、飛び上がっていたんですが・・・)
待ってました。
1巻を読み終わったその時から、ずっとこの続きを待っていました。
前巻が出たのが2007年5月なんで、一年半ぶりですか~。
この本には4話収められていますが、
およそ4ヶ月に一話のペースで雑誌に掲載されているようです。
それだけじっくり練り上げられているというわけなんでしょうが、
ほんとに、待つ身には長かった・・・。
そういえば、このブログに「本」を取り入れはじめたばかりの頃に
「1」を読んだはずです。

鎌倉の古い家に住む4人の姉妹の物語。
末の「すず」は、異母姉妹。
一話一話中心人物が入れ変わりながら、
この姉妹を取り巻く人々の様子も含め、大きな一つの物語を構成していきます。
鎌倉の4姉妹・・というといかにも古風な、おしとやか姉妹を想像してしまうかも知れませんが、
みな、まさに現代を生きる女性たち。

この一作目「花底蛇」に出てくる、産婦人科医院の息子、
一見ワルなんだけど、ムダにいい男のマトモな藤井くん。
彼のことを詳しく知りたい方は「ラヴァーズ・キス」をぜひご覧ください。
きっと、著者のお気に入りなんだろうなあ・・・。

私が好きなのは、やはり元気なサッカー少女すずちゃん、でしょうか。
素直で真摯、なんに付けても一生懸命。
そりゃ、こういう子を、男の子がほおって置くはずがありません。
でも、風太くんは前途多難そうだなあ・・・。
人のことには敏感なのに、自分のこととなると、無頓着。
まあ、こういうところがかわいいんです。
サッカークラブの男の子たちも、それぞれ、個性豊かで素敵ですね。
多田君はこの先、何を目標にしていくのか。
まだまだ、目が離せません。
はあ、しかし、このペースだと、続きはまた、一年半先ですね・・・。
気長に待つことにします・・・。

ところで鎌倉・・・よさそうですよね。
私、学生時代にたった一度行ったことがあります。
(ウン十年も前だっ!)。
また、行ってみたくなりました。
おいしいものもたくさんありそうだし・・・。
ちょっと古風な町並みとか家の構えとか、
北海道は、そういう点では「日本」ではないので、あこがれるんですよ・・・。
そうしたら、さっそく、「すずちゃんの鎌倉さんぽ」という本が出ているではありませんか!
全く、ツボを押さえていらっしゃる。
完璧、つられて買いですね!

満足度★★★★☆


幸せになるための27のドレス

2008年11月09日 | 映画(さ行)
幸せになるための27のドレス 特別編

20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

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衣装ダンスからはみ出す27着のドレスの運命は

                  * * * * * * * *

ちょっと息抜きという感じで、時にはラブコメを・・・。
主人公ジェーンは、会社勤めの傍ら、
ブライドメイド(花嫁付き添い人)に生きがいを感じ、
毎日誰かの結婚式の準備に奔走しています。
人の結婚の世話は一生懸命なのに、自分の恋にはとても臆病。
長年片思いの上司に思いを打ち明けることもできない。
そんなときに妹テスがやってきて、
あっさりとその上司を虜にし、婚約してしまう。
でも、お人よしのジェーンは、
妹に以前から自分が彼のことを好きだったことを打ち明けることもできず、
妹のためにブライドメイドを務めることになってしまう。

なんだか、このジェーンに共感を覚えてしまうんですよ・・・。
結構こういう人って多いんじゃないかなあ。
なかなか自分の主張ができず、お人よしで、損ばかり・・・。
日本人なら特に多そう。
ほんとうにバカみたいなんだけれども、
こんなジェーンを好きになっちゃいまして、
通常のラブコメ以上に、彼女に感情移入してしまった気がします。

しかし、彼女の上司も、とんでもないニブチンですよね!
しかも、目立ちたがりやで、気に入られるためには平気で嘘もつくという
テスの本性も見破れないなんて!
そこへ行くと、ジェーンが上司を見る表情で、
彼女が彼を愛していることをすぐに見抜いたケビンはやはりさすが。
まあ、ここはオーソドックに、ちゃんと、ジェーンのよさに気付いてくれる人が現れる、というわけです。

さて「27のドレス」というのは・・・。
結婚式の時に、ブライドメイドはお揃いのドレスを着るんですね。
ジェーンはこれまで27人のブライドメイドを務めたので、
その時のドレスが27着もたまっている! 
しかし、これはど派手で、到底普段着ることはできない。
どの式でも花嫁は言い訳のように、
「これはすそを切ればまた使えるのよ・・・」というのですが。
どちらかというと趣味が悪くて、
また、花嫁が引き立つようにできている、というわけで、
実際、取っておいてもどうにもならないもののようです。
しかし、彼女は思い出があるから・・・と、すべてを大事にとってある。
けれども、彼女が人の幸せよりも、まず自分の幸せを考えようと決意した時に、
ドレスの運命が変わるわけです。

それから、先日「ブーリン家の姉妹」を見たばかりのせいで、
姉妹関係にも注目してしまいました。
話は全然別ですけどね。
かなり性格の違う姉妹が同じ男性をはさんで複雑な心境に陥っていく
・・・というあたり、似ているところもある。
私には兄がいるだけなんで、
やっぱり、姉か妹ががいればよかったなあ・・・と思います。
ライバルでありつつも、結局は寄り添うことができる、
そういうのがうらやましい。

2006年/アメリカ/111分
監督:アン・フレッチャー
出演:キャサリン・ハイグル、ジェームズ・マッデン、マリン・アッカーマン、エドワード・バーンズ


ブーリン家の姉妹

2008年11月08日 | 映画(は行)

イギリス版「大奥」
               * * * * * * * *

16世紀イングランドの歴史絵巻。
時の国王はヘンリー8世。
しかし、世継ぎとなるべく男子が生まれない。
そこに目を付けたのが新興貴族のトーマス・ブーリン卿。
何とか娘を差し出して、男子が生まれれば、一族は安泰ということです。
その役は姉のアン(ナタリー・ポートマン)が受けるはずでした。
しかし、王が気に入ったのは妹のメアリー(スカーレット・ヨハンソン)。
アンは、これを屈辱と感じ、嫉妬を抱きます。

妹メアリーはどちらかというと凡庸だけれど、大変気立てがいい。
姉アンは、気性が激しく、頭が良くて野心的。
姉妹でありながら、かなり違いますね。
これをこの二人の女優がまた、見事に演じているのです。
共演・・・というよりは競演ですね。
一人の男を挟んで姉妹が嫉妬の炎を燃やす。

しかし、言ってみればこの浮気モノの、いい加減な王が元凶ですよね。
そもそも、妻がいながら、つぎつぎと手当たりしだいに女に手を出す。
まあ、王の特権とはいえ、・・・また、世継ぎのためとはいえ。
そして、そんな移ろいやすいものに、自らの権力・運命をゆだねようとする、
貴族の男たちも、また、情けない。
映画には出てきませんが、このヘンリー8世は、この後、
ほとんど破れかぶれという感じで、結婚と離婚を繰り返すのです。
こんなことのために、数々の女性の悲劇があったわけです。
どこの国にも多かれ少なかれ、こんな話はあるようですが・・・。

しかし、このアンはたくましいのです。
決して王には体を与えず、じらして、
当時カトリックでは絶対にありえなかった離婚をさせてしまう。
これはイングランドがローマ教皇と訣別したことを意味し、
その後のイギリスの歴史に非常に大きな影響を与えることになる。

そうしてついには、王妃の座を得るアンなのですが、生まれた子どもは女子・・・。
結局アンはやりすぎたのですね。
「マリー・アントワネット」でも思ったのですが、
女性は結局「産む機械」としか見られていない、というのが切ないです。
この意志の強いアンでも、その役割に徹するほかなかった・・・。
しかし、一度は愛し、王妃であった人にこの仕打ちとは・・・。
誠に残酷な中世の歴史・・・。
重厚で、じっくり見入ってしまう、中身の濃い2時間です。
この続きは、「エリザベス」をご覧ください・・・というわけですね。
このアンの娘こそがそのエリザベス。
なるほど、・・・すごく納得がいきます。
彼女こそは「産む機械」としての生き方を拒否したわけです。
ちょっと、因縁も感じますね。

同じくアンを主役とした映画で「1000日のアン」というのがあります。
かなり古いですが、見てみたい気がします。
また違ったお家事情がありそうです。
しかし、う~んDVDは出ていないみたいです。

2008年/アメリカ=イギリス/115分
監督:ジャスティンチャドウィック
出演:ナタリー・ポートマン、スカーレット・ヨハンソン、エリック・バナ、ジム・スタージェス


ミスト

2008年11月07日 | 映画(ま行)
ミスト

ポニーキャニオン

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情報が閉ざされた時・・・
                           
                 * * * * * * * *

う~む、正直、これはわざわざ劇場に見に行かなくて良かった・・・と思いました。
後味悪すぎです。
ラストの部分は、スティーブン・キングの原作にはないものだそうなのですが、
そこでいろいろと賛否両論あるようです。
私の場合は、賛否、というよりとにかく感情的に、やだ~!、
ということに尽きます。

 

激しい嵐が町を襲った翌日。
デイヴィッドは息子のビリーと隣人の弁護士ノートンを伴い、
町のスーパーに買い物に行く。
そこへ突然一人の男が「霧の中に何かがいる!」と叫びながら飛び込んでくる。
店の外の駐車場は深い霧に包まれ何も見えない。
スーパーに多くの人が閉じ込められた。
恐怖とパニックに直面した人々の行動や心理が描写されていきます。

ここで、要点は外との連絡が遮断されたこと。
一体何が起っているのかまるでわからない。
ただわかるのは、外には自分たちの生命を脅かす生き物が確実に潜んでいるということ。
まず、深い霧ということで、一番重要な視覚情報が閉ざされるわけです。
そして、電話、テレビ、ラジオなど通信網もダメ。
「情報」がいかに大切か、ということがわかります。
それがないので、闇雲に不安で、混乱し、何かにすがりつきたくなる。
この作品で怖いのはむしろ、外の正体不明の危険な生物より、
この人々の疑心暗鬼の心です。

一人の狂信的な女性の言動に、次第に人々は突き動かさされてゆく。
こういうときに平常心を保てる人、というのはどういう人なのでしょう・・・。
必ずしもインテリ度とは関係がないようでもある。
どんな時にも冷静に自分で考え、行動できる人というのはある意味理想です。
たいていのパニック映画では、
このような人が、惑える人々を率いてサバイバルを果たす。
この映画も、そのようには見えるのですが・・・・。
勇気ある人の判断がいつも正しいとは限らない。

ただ、やはり、この作品の最大のテーマが「情報の遮断」にあるとすれば、
このエンディングは必然ということになりますね。
周りの状況がわかってさえいれば、こんなことにはならなかった。
しかし、こうまでしてハッピーエンドを拒否する必要がありますかね。
こんな作品で・・・。

結局スーパーでひたすら震えながらじっとしている方が良かったのか。
私は思うのですが、きっと、彼らがスーパーを立ち去った後、
皆は再びパニックに襲われ、多くの人が我先にと自分の車をめがけて走り出したのではないでしょうか。
そこでまた繰り返される大惨事。
それでも怖くて行動できなかった人だけが、生き残る。
つまり、何もできない、自分で勇気ある判断も行動もできない小市民だけが生き残る、
ということで、この後アメリカはさぞかし政治がやりやすくなるでしょうね・・・。
市民はいいなりですもん。
そういう陰謀のストーリー。
・・・あれ?
全然違いますね。
バカなこと考えちゃいました。
あんまり後味悪いことの反動です!

想像ついでですが、私はもう一つの結末には結構自信がある。
映画には描かれない更なるラストでは、多分、デイヴィッドは自殺するのではないでしょうか・・・。

2007年/アメリカ/125分
監督:フランク・ダラボン
出演:トーマス・ジェーン、マーシャ・ゲイ・ハーデン、ローリー・ホールデン、アンドレ・ブラウアー


「ルポ 貧困大国アメリカ」 堤 未果

2008年11月06日 | 本(解説)
ルポ貧困大国アメリカ (岩波新書 新赤版 1112)
堤 未果
岩波書店

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米大統領選に、決着がつきましたね。
だからというわけではありませんが、たまにはこんな本も読んでみました・・・。

今、アメリカの経済界は大変なことになっていますが、
この本は、そのアメリカのひどい格差の実態について書かれています。
なんとも、心が暗くなっている話ばかりですが、
どうも日本もその跡をたどっているように思えてならない。
今、きちんとその実態を理解しておくことは、必要だと思います。

まずは・・・

☆貧困が生み出す肥満国民
貧困・・・と聞けばやせ細った姿を想像しますが、
なぜか、アメリカにおいては貧困層の子どもは肥満児が多い。
貧しいと、食事が安価なジャンクフード・ファストフードばかりになるというのですね。
給食はハンバーガーにピザ、マカロニ&チーズ、フライドチキン、ホットドッグ・・・。
ニューヨークの児童の4分の1は貧困児童で、
その3分の2が無料~割引給食制度に登録しているというのですが、
その給食の実態がこの通り。
裕福な家庭の子どもは、低カロリーで栄養価の高い手作りのお弁当を持参しているという。
この給食を提供しているのが、日本でもどこにでもあるファーストフードの大手チェーン店。
コストと効率しか考えない企業論理の犠牲というわけですか・・・。

☆民営化による国内難民と自由化による経済難民
2005年8月のハリケーン・カトリーナ。
日本でも相当話題になったひどい災害でしたが、
あれは自然災害などではなく、人災であるという。
FEME(連邦緊急事態管理庁)の対応が悪すぎた。
このFEMEがその他の救助活動を禁じたために、
内部で起きた暴力や略奪を防ぐすべさえなかったというのです。
FEMEは、当初は、災害の規模を縮小し多くの人命を救う、というその目的のためにきちんと機能していたのに、
民営化により、いかに災害対策をライバル会社よりやすく行うか
という目的にすり替わってしまった。
ニューオリンズの街は今もなお電気さえ通っていないところも多く、
瓦礫の山だという。
当然、仕事もなく失業者があふれている。

また、今アメリカで行われている学校のチャータースクール化。
公設民営化ですね。
このことで、国からの教育予算は大幅にコスト削減され、
貧困家庭の子どもたちは教育における平等な機会を奪われている。
また多くの移民たちも職がなく、あっても単純労働でひどい低賃金、
子どもたちは未来に希望がなく、軍隊に入るほかない・・・。

☆一度の病気で貧困層に転落する人々
アメリカは医療費が高いとはよく耳にします。
それは日本のように公的な医療保険制度がないため。
実は我が家のアメリカ留学中の娘がある日、歯の詰め物がポロリと取れてしまった。
仕方なく歯医者へ行ったら、きちんと治療するのに日本円にしたら20数万円かかると言われたとのことで・・・。
応急措置で穴だけふさいでもらい、その後、一次帰国した時にこちらの歯医者で治しました・・・。
私、最近保険の利かない歯の治療をしましたが、一本8万円でした。
それでも、なんでこんなに高いの?と思ったのに。
一体アメリカの人は虫歯になったらどうしているのでしょう。
さぞかし朝晩せっせと歯を磨いているのだろうなあ・・・。
もちろん、民間の保険はありますが、
カバーされる範囲がかなり限定されるのだそうです。
それで、中流程度の家庭でも、一度入院などの自体が生じようものなら、
多大な借金ができて、もう這い上がることができなくなってしうという・・・。
これが貧困層なら、そもそも始めの治療自体も無理ですよね・・・。
出産も日帰り出産が増えてきているとか・・・。

☆出口をふさがれる若者たち
アメリカには「落ちこぼれゼロ法」というものがある。
全国一斉学力テストで良い成績を出した学校にはボーナスが出るが、
成績の悪い学校は助成金削減または廃校。
このシステムがサービスの質を上げ、全体的学力の向上につながるというのですが・・・。
なんと、この法にはすべての高校は軍のリクルーターに個人情報を提出するという一文がある。
軍は貧困家庭を狙い、学費免除をえさに入隊を勧めるという仕組み。
貧しいために進学できず、まともな職に付けないという悪循環を断ち切るためには
入隊するしかない。
なんて卑劣な状況なのでしょう。
また、移民に対しては「市民権」をえさに、これまた入隊を迫っている。

一方、現役の大学生たちもまた、非常に苦しい状況にあるというのです。
それは学資ローン。
ローンは比較的簡単に組めるそうなのですが、
それがやがてずっしりと肩にのしかかってくる。
大学を出て就職しても給料は安く、バイトと掛け持ちしてもなお、苦しい。
何のためにわざわざ借金までして大学を出たのかわからない・・・。
カード破産も多発。

☆世界中のワーキングプアが支える「民営化された戦争」
軍隊に入るしかなくて入隊し、イラクに送りこまれた貧困層の青年たち。
しかし、彼らはまだいいというのです。
いまや、戦争さえも民営化。
物資の運搬、倉庫の作業・・・これが企業の派遣社員として、
これまた貧困層をターゲットに雇われ、イラクに送り込まれる。
丸腰で戦場に立つのと同じ。
劣化ウラン弾の放射能にもさらされ・・・。
万が一のことがあっても単に事故死で「戦死者」には数えられない。


大国アメリカの、真の姿がこれか・・・。
問題のサブプライムローンというのも、
結局、アメリカの富裕層が貧困層の貧困度を甘く見ていたんですよね。
皮肉なもんです。
なにやら日本も教育界では同じ過ちを繰り返そうとしているようにも思えるし。
私たちはしっかり目を開けて、世の中のことを見ていなければなりませんね。
アメリカの人々も、こんな状況を何とかして欲しい、という思いでオバマ氏に票を投じたのが良くわかります。
人種問題がどうのこうの、というより、もっと差し迫った問題山積み。
オバマ氏は、これらの問題にどう立ち向かおうとしているのか。
お手並み拝見というところです。

満足度・・・というより納得度★★★★★


ラブ・アペタイザー

2008年11月04日 | 映画(ら行)

神は私たちが嫌いなのか・・・

             * * * * * * * *

(DVD)
老大学教授ハリー(モーガン・フリーマン)は、
息子を麻薬中毒で亡くし休職中で、妻と静かな二人暮らし。
彼が行きつけのコーヒーショップで知り合った人々の、
様々な恋の出会いや失恋を絡めた人生模様を語っています。

この作品は日本では公開がなくて、いわゆるDVDスルーというヤツなんですね。
確かに、終始静かに語られるこのストーリーは地味ではありますが、
とても上質で、胸にしみます。

まず、その行きつけのコーヒーショップがなんだか素敵なんですよ・・・。
明るくて清潔でいかにもコーヒーは美味しそう。
ふっと、香りが漂ってきそうな・・・。
そこの店長ブラッドリーはまじめで誠実でいい人なんですが、女運が悪い。
・・・というか、女心がわかっていないというべきか。
最初の妻はあるとき知り合った女性(!)と駆け落ち。
次の彼女は、結婚式当日にドタキャン。

また、そのコーヒーショップ店員のオスカーは、通りがかりのクロエに一目ぼれ。
この二人はほんとにいい感じなんですが、
あるときクロエがふと占い師に運命を見てもらうと、
あなたの彼のこの先の運命が見えないといわれてしまう・・・。


「アペタイザー」は、食前酒とか前菜のことですね。
恋の始まり。
ハリーはよく人が恋に落ちる瞬間を目撃してしまうのです。
「ハチミツとクローバー」の中にありましたよね。
「初めて人が恋に落ちる瞬間を目撃してしまった。」
ちょっとさめた目をしているハリーは、特別意識しているわけでもないのに、
そういうことがすごく目についてしまうのです。
その瑞々しくまた無鉄砲な情熱をうらやましくもあるのだけれど、
その先に必ず来る、修羅、
気持ちの行き違いや別れが彼らには見えていないことに、哀れを感じてもいる。


私たちが生きていく上で必ずある、人と人との出会い、そして死。
息子の死で、ずっとある意味「諦観」の思いを抱いているハリーは、
「神はよほど私たちが嫌いなのだろうか・・・」とつぶやく。
これに答えるのはブラッドリーで
「いや、そんなことはない。神は困難を乗り越える勇気を与えてくれる。」
何度も、失意のそこから這い上がったブラッドリーの言葉らしいですね。

みんなの恋愛の相談を受けたりしていたハリーなのですが、
最後には、その皆にまた、生きる勇気を与えられるのです。

はい、しみじみと味わい深い良い作品でした。

2007年/アメリカ/102分
監督:ロバート・ベントン
出演:モーガン・フリーマン、グレッグ・キニア、ラダ・ミッチェル、セルマ・ブレア


ブタがいた教室

2008年11月03日 | 映画(は行)

いのちの長さは誰がきめるの?

               * * * * * * * *

昨日の「食堂かたつむり」に引き続きまして、さっそくこれを見てみました。

6年2組の新任教師、星先生が、ある日子ブタを連れてきて言うのです。
「卒業までの1年間、ブタを飼育して、最後にはみんなで食べたいと思います」
教室は騒然となりながら、やってみよう、ということになる。

学校ではよく、ウサギとかニワトリを飼っていますね。
でも、その飼っていたニワトリが寿命で死んだ時でさえ、
食べるという行為はタブーとなっているのではないでしょうか。
ここでは大胆にも、食べることを目的として、ブタを学校で飼う。
前代未聞です。

子どもたちはさっそくブタにPちゃんと名前をつけ、
思いのほかせっせと世話をします。
残飯の用意。ブラッシング。糞の始末。
名前を付けた時点でさっそく危惧が感じられますね。
このようにペット視してしまっては、後がつらいのではないかと・・・。
ブタがすくすくと成長し、どんどん愛着が沸いてきた時に、
やはり大きな問題が発生する。

本当に、Pちゃんを食べちゃうの?

卒業の間際、6年2組では子どもたちのディベートが繰り広げられます。


「こんなにかわいいPちゃんを、食べられるわけがないじゃない。」
「どこか別のクラスに引き継いで飼ってもらおう。」
「でも、その先はどうなるの?」
「自分たちが食べると決めて飼いはじめたのに、人に押し付けるのは無責任じゃないか。」
「ブタは、人間が食べるために生まれてきたんだ。」
「そんなの、人間の勝手な理屈だ。」
「私たちの知らないところで、殺されてしまうのはイヤだ。」
「食べることは、命をつなぐことなんじゃないか。」
「先生、いのちの長さは誰がきめるんですか?」

このような子どもたちの討論シーンには、台本がなかったそうです。
子どもたちの真剣な表情、はっとさせられる言葉に、
涙があふれて止まりませんでした。
命を考える授業。
その目的においては確かに成功ですが、大人でもなかなか答えを探すことが難しいこと、
小学生には厳しすぎる課題であったかもしれません。
でも、教科書を読むだけでは、絶対に得られない何かを彼らは学んだのです。

もともと、この話は、大阪の小学校であった実践。
TVのドキュメンタリーで放映され、話題となったそうです。
ちょうど今朝も、TV番組でこの映画にからめて、
その実践をした先生と、当時の子どもたちのインタビューが放映されていました。
先生は当時から16・7年を経た今でも、その時の結論がそれでよかったのかどうか、
ふと考えてしまうことがあるそうです。
この問題に正解はないし、いつか答えが出ることもないんですね。

さて、子どもたちを見守る教師、妻夫木聡は好演だったですねー。
決して教師がしゃべり過ぎない。
「命は大切です。」なんてことは一言も言わない。
子どもたちに自分自身で考えさせ、答えを見つけさせること。
ここがいいんですよ。
そして、教師の思いを受けて、真剣に考え、討論する子どもたち。
こういう姿を見たら、先生も、自分の職業に誇りを感じるでしょうね。
昨今教師は、親からは苦情や無理難題を押し付けられ、
上司からは評価にさらされ、
しかも、超多忙という大変な職業であるわけですが、
こういう子どもたちを見たら、やっぱりやめられない、と思うんだろうなあ・・・。
というか、こういうぎゅうぎゅうの毎日では、
このような実践に取り組みたくても取り組めない、
というのが、今時の実情のような気がします。
このストーリーでは、大変理解ある校長先生がいて、
この星先生をバックアップしてくれるのです。
親からの苦情にも責任を持って対応し、説得してくれる。
昨今、ことなかれ主義の人は多いですからね。
こういう校長も貴重です。


突き詰めれば、たった一匹のブタの命です。
センチメンタルに過ぎるかもしれません。
毎日、どれだけのブタや牛の命が食料のために奪われているのかを考えて見れば。
でも、そのことすら私たちは忘れがちですね。
命を「いただく」のだ、という自覚を、
やはり時々は思い出したいものです。

エンディング曲がトータス松本。
涙に暮れて疲れた心を、やや上昇させてくれます。
子どもたちが一人ひとり、卒業証書を受け取るシーンを重ねながら。
う~ん、いいエンディングロールでした!

2008年/日本/109分
監督:前田哲
出演:妻夫木 聡、原田美枝子、大杉漣、田畑智子


「食堂かたつむり」 小川糸

2008年11月02日 | 本(その他)
食堂かたつむり
小川 糸
ポプラ社

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癒し系の物語・・・そう思って読み進んでいたら、思わぬ落とし穴がありました。
生きるってことは、実はなかなか「優しい」だけではダメなのですね・・・。

この物語の主人公倫子は、ある日突然、
一緒に暮らしていた恋人に家財道具まですべて持ち去られてしまいました。
そのショックのために、声まで失ってしまいます。
やむなく、山間の故郷に戻り、そこで食堂「かたつむり」を開きます。
お客はあらかじめ予約の入った一日一組だけ。
彼女は、その一組のお客のために、メニューを考え料理を作ります。
材料はほとんど地元で調達されたもの。
今風に言えばスローフードですね。
登場する一品一品がありきたりでなく、工夫されていて、なんともおいしそう・・・。
こんな食堂があれば私も行ってみたい・・・。
こんなので、お客はあるのだろうかとひそかに心配するのですが、
この食堂で食事をするカップルは幸せになれる・・・そんなジンクスも生まれて、
少しずつ評判になり、うまく回転を始めます。

実は倫子は、母とどうしてもうまくいかずに、この町を出たのですが、
帰ってきてもしばらくは同じような状況です。
倫子は土地の人々とはとてもうまく関係を結べるのに、
どうしても母に打ち解けることができません。
ただ、母の家を借りて食堂を始める条件が、
豚のエルメスの世話をすることだったので、
毎日、エルメスの世話は欠かさない。
義務感だけではなく、彼女は毎朝エルメスのためにわざわざパンを焼き、
慈しみ世話をする。
そのエルメスの温もりは、時として孤独に押しつぶされそうになる倫子の心をなぐさめます。
そんな毎日のうちに、倫子は思いがけない母の真の姿を知る。
ところがその母が、自分がかわいがっていたエルメスを料理するようにというのです。


その先はこの物語の圧巻といっていいでしょう。
癒し系と思っていたこの物語の、実に厳しい真の姿がそこに表されています。
わたしたちの生命は、このようにとても貴重な生命の犠牲の上に成り立っているのだということを、いつもは忘れてしまっています。
スーパーでパックで売っているお肉では、それは感じにくいですもんね。
エルメスの命。
母の真の気持ち。
これらが少しずつ倫子に生きる力を注ぎ込んでいくのです。
そうそう、「ブタのいた教室」という映画も公開中ですね。
まさに、同じテーマだと思います。
私たちは命を受け継いで、次の命に引き継いでいくのだけれど、
今、そういうことがとても見えにくいんですね。
何でも、お金さえ払えばすぐに手に入ってしまう。
食べ物がどこから来て、どこへ行くのかもわからない。
これってすごく不自然なことのように思えてきます。

大変つらいのですが、この現実をしっかり受け止めて、
わたしたちはいつも「食べる」ときには感謝を忘れてはいけないですね。
「いただきます。」
この言葉を忘れないようにしたいと思います。

この本は、癒し系のほんわかしたストーリーではなく、とても力強い生へのメッセージでした。

満足度★★★★★


裸足の1500マイル

2008年11月01日 | 映画(は行)
裸足の1500マイル

アット エンタテインメント

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民族の誇りと自由をかけて

             * * * * * * * *

舞台は1931年、オーストラリア。
オーストラリアでは、先住民アボリジニの混血児を家族から隔離し、
白人社会に適応させようとする隔離・同化政策が採られていました。
これが70年代まで続いていたというのは驚きです。

14歳モリーとその妹8歳のデイジー、そして従姉妹の10歳グレイシーが、
強制的に母親の元から引き離され、寄宿舎に入れられてしまいます。
寄宿舎とは名ばかりで実のところ、収容所。
キリスト教を強いられ、英語を強制される。
決して家に帰ることは許されず、逃亡には罰が下される。

なんというか、この白人だけが優秀であるとでもいうような、
ナチスめいたその考え方には怒りを感じてしまいます。
白人の文化だけが貴重なもので、アボリジニの文化など取るに足りない野蛮なもの・・・そういう押し付けにも。
今、こんなことをいう人がいたら、一斉非難を浴びますけどね。
そうしてみると、社会はほんの少しずつでも、良い方向に向かっているのでしょうか・・・。
確かに、意識的な差別は少なくなっては来ているのでしょうが、
経済的な格差はちっとも縮まりません。


さて、本題に戻りまして、この3人はある日脱走を図ります。
目指すは故郷の母の元。
しかし、距離にして1500マイル。
すなわち2400キロ。
といっても、実感がわかないので、地図を眺めてみました。
北海道の北端稚内の宗谷岬あたりから、
ぐいーっと、鹿児島県の南端、佐多岬あたりまで直線で結ぶと考えてください。
なんと、その長さがおよそそれくらい・・・。
日本列島の長さ?!
オーストラアって広いんですね!
それを知ると、この逃避行の大変さが胸に迫ってきます。

子どもだけで何の装備も持たず、果てしない荒野を、歩き続けるしかないのです。
しかも、彼らを連れ戻そうと、追っ手も迫ってくる。
三人を率いるのは年長のモリー。
この子がまた、「生きる力」に満ちている。
挑むようなそのまなざしが印象的です。
オーストラリアの広大な台地に、ウサギよけのフェンスが縦断して作られている。
それに添ってゆけばたどり着ける。
大変頭の良い子なのです。
時には足跡を消す工夫をし、
時には地元のアボリジニに食料を分けてもらいながら、歩き続けて90日。
終始続く広大な荒野の光景が目に焼きついています。
彼女らは単に母の元を目指したのではない。
民族の誇りと自由をかけて歩き続けたんですねえ・・・。
これはまた、彼女たちが、アボリジニの村に生まれ育ったからこそ、
このようなたくましさを身に付けていたわけです。
白人の子なら、こうは行きません。
そしてもちろん、日本に住む私たちも・・・。

今は昔の物語ですが、語り継がねばならない物語でもあります。
エアーズロックで愛を叫んでる場合じゃないですよ。
このような歴史も知っていなければ・・・。

2002年/オーストラリア/94分
監督:フィリップ・ノイス
出演:エヴァーリン・サンピ、ローラ・モナガン、ティアナ・サンズベリー、ケネス・ブラナー