映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「花と流れ星」 道尾秀介

2012年07月12日 | 本(ミステリ)
定石+ほんのり、心憎い短篇集

花と流れ星 (幻冬舎文庫)
道尾 秀介
幻冬舎



                    * * * * * * * * * 

著者と同姓同名、売れないホラー作家道尾秀介の登場する本作は、
「背の眼」から始まるシリーズの一つなのでした。
ですから本当はそちらから読むべきだったと思うのですが、
そちらを読んでいなくても、十分に楽しめましたよ。


ここに登場する"道尾秀介"は、
いわばシャーロック・ホームズにおけるワトソン、
御手洗シリーズにおける石岡くん、
火村准教授シリーズに於ける有栖川有栖、
そんな役割を果たします。
となれば当然出てくる名探偵役は、死んだ妻に会いたくて「霊現象探求所」を構えている真備(まきび)。
その助手を務めているのが凛という女性で、
道尾は、彼女にほのかな想いを寄せているのです。
定石プラスほんのり(あくまでも"ほんのり")。
こういう人物関係を見るだけで、もうなんだかワクワクしてしまいます。


さて本作は、彼らが登場する短篇集。


冒頭「流れ星のつくり方」は、
3人が温泉旅行に来ているというのどかな情景から。
凛が飲み物を買いに出ると、近所の家の窓から一人の少年が声をかけます。
少年が語る恐ろしい"友人"の体験談。
両親が殺されるという恐ろしい事件。
でも犯人がどうやって逃げたのかわからない。
凛はその話を電話で真備に伝え解答を得ます。
道尾秀介さんらしく、悲惨なその事件ですが、
少年の切ない思いにうまく縁取られて、やわらかな印象を残します。


ゾッとさせられるのは「モルグ街の奇術」
何やらレトロな探偵小説の趣があります。
ある夜、とある小さなバーで真備と道尾が飲んでいると、見知らぬ男が声をかけます。
その片腕の男は、自らを奇術師であるといい、
この腕は奇術の失敗によって失ったというのです。
この片腕喪失の謎を解いてみないか、
もし解けなければ二人の右腕を頂戴する、と。
道尾はこんな怪しげな話には乗りたくなかったのですが、
真備が気軽に応じてしまいます。
さて、この二人はみごとに謎が解けるのでしょうか・・・?
もちろんそんな悲惨な結末にはならないと予想はつくものの、
ちょっとドキドキしてしまいます。
そしてまた、その真相は、かなり怖いです・・・。
一風変わった謎解きでした。


その他に3篇。
人が抱えこんている大きな心の傷。
謎を解くことでそれらがほんの少し癒されていくようです。
どれも満足の行く読み応えでした。


「花と流れ星」道尾秀介 幻冬舎文庫
満足度 ★★★★☆ 

オレンジと太陽

2012年07月11日 | 映画(あ行)
“使命”を持つ人



                    * * * * * * * * * 

今作はイギリスで1970年まで行われていた
オーストラリアへの「児童移民」の実態を明らかにした女性、マーガレット・ハンフリーズの物語です。


イギリス、ノッティンガムで社会福祉士として働くマーガレットは、
「幼い子供だけで船に載せられ、オーストラリアに送られた」
という人の話を耳にします。
彼女自身これまで聞いたことがない話だったのですが、
調べてみると実際、過去に英国が児童施設に入った子供たちを、福祉の名のもとにオーストラリアへ送っていた。
そこで子供たちを待っていたのは、劣悪な環境の施設と重労働、性的虐待・・・。
それは数十年に渡りその数13万人以上。


英国で児童施設に入っていた、というのはつまり圧倒的に私生児が多いようなのです。
宗教上のこともあり、結婚外の子供というのは世間からも家族からも疎まれていたのでしょうね。
今はそこまでひどい状況はないでしょうけれど。
そんなわけで、実の親も知らぬうちに、オーストラリアに送られてしまった
などということがほとんどのようです。
「オーストラリアは、太陽が輝いていて、オレンジがたくさん実っているよ」
などと甘い言葉をささやかれて。
物心つくかつかないかでこのようなところに無理やり連れてこられた子供たちは、
自分がどこの誰なのかもわからないまま大人になり、
子供の頃の虐待の記憶と相混ぜになってひどく苦しんでいる人が多いのです。
このような多くの人々の苦しみを少しでも癒そうと、マーガレットは立ち上がりました。
彼女は真実を明るみに出しただけなのですが、
こういうことには反感を持つ人も多いのです。
特に、教会を批判しているとして、嫌がらせを受けたり、実際に身の危険を感じたり。
また、自分の子供を置き去りにして、オーストラリアに長期滞在しなければならず、
そのことも非難の的になります。
人の心の痛みを自分のことのように引き受けるために、PTSDの症状が現れたり。


数々の困難を背負いながらも、
私がやらなくて誰がやるのか、
という思いで仕事を続けるマーガレット。
“使命”という言葉がふさわしいですね。
天から与えられた役割とでもいうのでしょうか。
そういうことをやりぬく人は喩えようもなく強く美しい。
憧れます。




今作のように、オーストラリア史の隠された事実を描く作品に
「裸足の1500マイル」というのがありました。
これはアボリジニと白人の混血児をアボリジニから隔離し、
白人社会と同化させようとしたもの。
これも強制的に子供たちを親元から引き離したのです。
このことも1970年ころまで行われていたようです。
私の子供の頃「白豪主義」と呼ばれていたオーストラリアの正体がそれなんですね。
「裸足の1500マイル」のところにも書いたのですが、
私たちはエアーズロックで愛を叫んでる場合じゃないです。
きちんと歴史を学びましょう。

「オレンジと太陽」
2010年/イギリス・オーストラリア/106分
監督:ジム・ローチ
原作:マーガレット・ハンフリーズ
出演:エミリー・ワトソン、デビッド・ウェンハム、ヒューゴ・ウィーヴィング、リチャード・ディレイン、ロレイン・アシュボーン

日曜洋画劇場45周年記念 淀川長治の名画解説DX 熱き血潮編

2012年07月10日 | 映画(な行)
懐かしの名画たち

                  * * * * * * * * * 

日曜洋画劇場45周年記念として出されたこのシリーズは、
淀川長治氏の名解説を集めたもの。
淀川氏が出演した1967年4月から1998年11月までのものをジャンルごとに分けてあります。
今作は「熱き血潮編」と名付けた、アクション作品集。
他には、「夢見る瞳に乾杯編」、「明日への希望編」、「真理と感慨編」というのがあります。

さて、このそれぞれに50作もの淀川氏の前解説、後解説が収められているのです。
もちろん実際にTV放映されたもの。
膨大なコレクションですね。
これが放映順なので、約30年の淀川氏の年齢の重ね方を目のあたりにするわけです。
・・・これもすごい。
そしてもちろん、時代と映画作品の移り変わりも興味深いものがありますね。


例えば今作の始めの方では、アラン・ドロン、チャールズ・ブロンソン、
クリント・イーストウッド・・・(マカロニ・ウエスタン→ダーティ・ハリー)。
ははあ・・・、確かに懐かしい。
それからメル・ギブソン、アーノルド・シュワルツェネッガー、ブルース・ウィリスなんかが出てくる。
その時々で、多く出てくる俳優が集中するのは、いかにも時代の流れです。
また、例えば「エイリアン2」の解説で、
「監督はジェームズ・キャメロンという32歳の若手、今後が楽しみ」
・・・なんて言っていたりするので、納得してしまいます。
解説シーンは全くTVに使われたそのままで、
実は映画作品のスチール写真の一枚でも挿入されていればなあ・・・と思わなくもないのですが、
まあ、仕方ありません。
こんなに解説ばかり聞くと、どの作品も見たくなってしまって大変です。
淀川氏はどんな作品も決して貶しませんよね。
映画への愛が満ち溢れています。
簡単なストーリー、見所、監督のこと、
時には主演俳優のゴシップめいたこと、ご自身の体験談なども交え、
今にしてもやはり、映画関係のブロガーとしては目指すべき高みだと思います。


さて、ところで、日曜洋画劇場って今でもやっているのでしたか・・・?
全く見たことがありません。
吹き替えの、あちらこちらカットされCMでズタズタにされ、
・・・というような映画は、見る気になりません・・・。
ビデオも何もなかった時代。
映画館で見損なったら、このようなTV放送に頼るしかなかった時代の華でしたね・・・。


今作で紹介されている作品
「狼よさらば」「ブリット」「ダーティ・ハリー」
「ロンゲスト・ヤード」「マッド・マックス」「ターミネーター」「
ダイ・ハード2」「ランボー」「レオン」「スピード」
など、など・・・。

50作は書ききれませんが、雰囲気としてはこんな感じ。
そのうちまた、続きを見たいと思います。
では皆様、
さよなら、さよなら、さよなら・・・。

日曜洋画劇場45周年記念 淀川長治の名画解説DX ?熱き血潮篇(アクション/スポーツ) [DVD]
淀川長治
ポニーキャニオン


「日曜洋画劇場45周年記念 淀川長治の名画解説DX 熱き血潮編」

「生きていてもいいかしら日記」 北大路公子

2012年07月08日 | 本(エッセイ)
すべてを忘れて読みふける面白さ!

生きていてもいいかしら日記 (PHP文芸文庫)
北大路 公子
PHP研究所


                  * * * * * * * * *  

ある日曜日、例によって映画を見た後、
帰宅のため、私は大通駅から地下鉄に乗りました。
我が家は札幌の西方面なので、東西線宮の沢行きを利用します。
電車に乗ってすぐに本を開き
・・・ふと気がつくと「南郷18丁目」。

ひえ~!!

札幌にお住まいの方なら、そんなバカなとお思いでしょう。
大通駅からは全く逆方向で、しかも7つも先の駅だ。
そもそも逆方向に乗ったのが、しょうもない間違いではありますが、
さて、どうしてそこまで気が付かなかったという問題です。
(いや、やはり逆方向に乗るほうがどうかしてるか・・・^^;)
いや、それはさておき、
つまり、あまりにも本が面白くて、全く周りのことに気づいていなかったのです。
その本がこれ。
・・・すご~く回りくどい前フリでした。


この本の著者は札幌にお住まいで、
この本は著者の日常を語るエッセイです。
それがまあ、ほとんど自虐ネタ。
40代、独身。
実家住まい。
お仕事はライターなので、いつも殆どお家にいるようです。
好きなもの昼酒。
・・・それで、ご近所の人からはナニモノ?といぶかしがられているのだとか。


それにしても彼女の発想力が人並み外れてなんとユニークなこと。
そしてひたすら自分の失敗談や、妄想を惜しげもなくぶちまけるイサギの良さに、
もう止められなくなってしまいます。
そしてつい笑ってしまうので、本当は電車の中などで読むべきではないのですけどね・・・。


例えば彼女は、「お相撲さんになりたい」といいます。
ある日、中学の頃の日記を見つけて、そこには「妖精になりたい」などと書いてあった。
あまりの気恥ずかしさに即シュレッダーを買いに行ったとありますが、
まあとにかく、今はお相撲さんになって余力に満ちた人生を送りたいというのです。
朝起きて布団を上げる。
おやつの甘栗を剥く。
ベロンベロンに酔って帰ってきてからカップ麺を作って食べる。
これらのことに彼女は渾身の力を使うという。
けれどお相撲さんならこんなことは安々とやってのけるだろう。
そういう"余力"に憧れるのだそうで・・・。
ね、普通の発想じゃないですよね。
しかも女性がお相撲さんになりたいとは。
まあつまり、こんな話が満載で、
ついニヤニヤしながら読みふけってしまいます。


それにしても、結局地下鉄は中央がホームになっている駅で乗り換えようと思ったら終点まで行ってしまい、
ものすごい時間ロスでした。
お陰で一冊読み終えましたが。
(イヤ、だから、逆方向に乗ったのは本のせいじゃないんですって。)
う~ん、でも面白いだけで結局なんにも残らないじゃない、と、
自分で激しく自己嫌悪に駆られりもしたわけですが、
いみじくもこの本の裏表紙にこんな言葉がありました。
「読んでもなんの役にも立たないけれど、
思わず笑いがこみあげて、不思議と元気が出てくる」

とありました。
そうですよね。
ちょっぴり落ち込んだりした時に、この本を読んだら
小さな事でくよくよするのがバカらしくなりそうです。
座右の一冊にしてもいいかも。


「生きていてもいいかしら日記」北大路公子 PHP文芸文庫
満足度★★★★☆

アメイジング・スパイダーマン

2012年07月07日 | 映画(あ行)
スパイダーマンには、若さが必要ってこと?




                    * * * * * * * * * 


サム・ライミ×トビー・マグワイアのスパイダーマン3部作の記憶もまだ新しいところです。
一作目は2002年ということなので、10年しか経っていないのですが、
多分3Dで、作ってみたくなっちゃったんでしょうね。
(でも私は2Dで見ましたけど。)
そういえばあのスパイダーマンのコスチュームも高校生の男子ならまだ許せるかな?という感じ。 
主人公は若くてイキが良くないとダメなのです。
だから主役交代も仕方ないのでしょうかね。
(・・・それを言ったらバットマンは、いい年したおじさんがあのマスクにコスチューム、
ちょっと恥ずかしいゾ)



さて今作のスパイダーマン=ピーター・パーカーは
ソーシャル・ネットワークで人気急上昇のアンドリュー・ガーフィールド。
高校生の役をやってますが実は28歳なんですけど・・・。
ま、いいか。


ピーターの両親は13年前に失踪。
ピーターは叔父夫妻に預けられて成長します。
このおじさん、おばさんがもうすごくいい人なんですよね。
わが子のようにピーターを愛しています。
すごく真当な人たち。

だからこそ、ピーターは自分がボコボコにされるのも厭わず、
いじめられている子をかばったりする。
この下地が大切なんですよ。
まあ、スパイダーマンになりたての時は、ちょっと舞い上がって調子に乗ってしまいますが。
気持ちは優しいけれどてんで力はない、そんな高校生だったピーターが、
ある特殊な蜘蛛に刺されることにより、超人的な力を持った“スパイダーマン”になるのです。
しかし、スパイダーマンは一夜にしてならず。
いくら素晴らしい身体能力を身につけても、
その力を使いこなすためにはやはり練習が必要なのでした。


一方、以前ピーターの父親と以前共同研究をしていたコナーズ博士は、
今はトカゲのような身体の再生能力についての研究をしています。
自らの失った片腕を何とか再生させたいと願って。
ピーターが父親の遺品から見つけたヒントにより、
ついにコナーズ博士は画期的な“新薬”をつくり上げるのですが・・・。
これぞ、マッド・サイエンティスト。
普通、あんな姿になって喜びますかねえ・・・。
どんなにパワーがあっても、普通なら絶望にかられて死んでしまいたくなると思うな。
まあ、精神的にも恐ろしくポジティブ&アグレッシブになるという効能もある薬なんでしょうねえ・・・。



まあそのような筋立てはともかくとして、
今作、ピーターとその彼女グウェンのやり取りの爽やかさ、
悪人と思われてしまったスパイダーマンをみんなが理解して応援してくれるようになっていくさま、
そういうところがとても気持ちよく見られました。
結局失踪した両親はどうなったのか。
それはまたのお楽しみ、ということのようです。
いや、もう見なくてもいいし・・・
と、思いつつまた見てしまうのかしらん・・・?

「アメイジング・スパイダーマン」
2012年/アメリカ/136分
監督:マーク・ウェブ
出演:アンドリュー・ガーフィールド、エマ・ストーン、リス・エヴァンス、デニス・リアリー

ミラノ、愛に生きる

2012年07月06日 | 映画(ま行)
妻であり、母であることからの開放



* * * * * * * * * 

イタリア、ミラノの上流社会。
富豪の婦人が息子の友人を愛してしまう・・・。
このように聞けばよくある情事の物語・・・と思えるのですが、
今作は肌触りが上質です。
見かけは美しい光沢のあるシルク。
でも実は質実なリネンが混ざっているという感じでしょうか。


この夫人エンマは、ロシア人。
若いころ夫に見初められミラノに来てから、
この名門の暮らしの中で、ロシア人の本当の自分の名前を思い出すこともなくなっていました。
そんな彼女が、ふと我にかえったのは、
シェフである息子の友人アントニオの料理を食べた時。
海老料理を口に含むティルダ・スウィントンの愉悦の表情が素晴らしい。
家でパーティーを開いても1人自室で刺繍をしていたりする、目立たないエンマ。
無理に心の底に押し込めていた何かが
その時目を覚ましたようです。
この官能的なまでの食事シーンには唸ってしまいます。


アントニオが作るスープで、母の情事を嗅ぎとってしまう息子。
彼は「裏切りだ」と母をなじりますが、
それは勝手に彼自身が作り上げた母親像が壊されてしまったことへの怒り。
いい奴なんですが、ナイーブに過ぎましたね・・・。
いえ、男子にとって“母”とはそういうもの。
しかたのない事でもあります。


ドラマは思いがけない方へ展開を見せますが、
これはつまり、エンマをその立場に縛り付けていた最も大きな力は、
最愛の息子に他ならない、ということなのかも知れません。
単なる情事というのではなく、自己の開放。
こういうところが光っています。



さて、それにしてもティルダ・スウィントン。
50歳くらいだと思うのですが、引き締まってたるみのない美しいボディ。
これなら脱がせ甲斐があるといいますか、
息子と同年代男子との情事も全然アリですよね。
あわわ・・・、
我が身とひき比べるなどと無謀なことはしないことにしましょう。

ミラノ、愛に生きる [DVD]
ティルダ・スウィントン,フラヴィオ・パレンティ,エドアルド・ガブリエリーニ,アルヴァ・ロルヴァケル,ピッポ・デルボーノ
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン


「ミラノ、愛に生きる」
2009年/イタリア/120分
監督:ルカ・グァダニーノ
出演:ティルダ・スウィントン、フラビオ・パレンティ、エドアルド・ガブリエリーニ、アルバ・ロルバケル、ピッポ・デルボーノ

「無理 上・下」 奥田英朗

2012年07月04日 | 本(その他)
何が無理かって・・・

無理 上 (文春文庫)
奥田 英朗
文藝春秋


無理 下 (文春文庫)
奥田 英朗
文藝春秋



                  * * * * * * * * * 

この本の帯に曰く。
「一気読み、必至!!」
「※この物語には夢も希望もありません。でも笑える面白い。」
はい。
全くそのとおりでした。
著者の「最悪」が好きだった方なら、こちらも必読です。


合併で生まれた地方都市・ゆめの。
ここで暮らす5人の男女にスポットを当てながらストーリーは進行していきます。


市役所で生活保護を担当する男。
生保受給者のあまりの生活態度のいい加減さに人間不信。


東京に憧れる女子高生。
ごく平凡な日常を送っていたのですが・・・。


暴走族上がりのセールスマン。
インチキ商品の訪問販売をしています。


スーパーの警備の仕事をしている中年女性。
彼女の心の支えは新興宗教。


無理難題を押し付けられて苦悶する市会議員。
奥さんも苦労のモト



これらなんのつながりもない5人が、次第にぬきさしならない問題を抱えていくのです。
そして、たぶん最後には彼らの人生が、どこかで交差するはず・・・と思えば、
なんとも意外な方法で、実際的に"交差"。
こ、これはアクション作品でもあったのか!! 
これが映画なら最後のシーンは絶対スローモーションですね。
無音で。


それにしても一人ひとりの抱える問題は、なんとも気が重くなることばかり。
例えば、はじめの公務員氏は、
生活保護費を切り詰めなければならないという命題を背負い、
生保受給審査を厳しくするあまり、ある人物の恨みを買ってしまいます。
また、空疎な心を埋め合わせるように、主婦相手の援助交際にハマってしまう。
そんな時に例の相手から命に関わる攻撃を受けるのです。
生命の危機&買春がバレる危機。
一体どーするんだっ!!


自業自得の面もありながらドツボにはまっていくさまは、
つい同情を禁じ得ないけれど、どこか可笑しくもある。
そんなのが5人分。
キツイです~。

そしてまた、さあ、これからが大変、大騒ぎ!!となる寸前で、
ぷつりと終わってしまうのです。
著者の思いを察するに、

彼らがこの泥沼から這い上がるのは無理!

もうこの先のドタバタを書くのは無理!!

そういうことなんでしょうね・・・。
私は意外とまともな生活感覚のある加藤くんが好きでした。

「無理 上・下」奥田英朗 文春文庫
満足度★★★★☆

ジェーン・エア

2012年07月03日 | 映画(さ行)
現代に通じる人生を自分で選びとる女性像



             * * * * * * * * * 

シャーロット・ブロンテ作の有名な作品で、これまでも何度か映画化されているのですが、
なぜか今まで読んでもいないし、見てもいないという・・・。
でもそのおかげで、今作をとてもスリリングに見ることができ、それはそれで幸いなことでした。
(この年でこれを読んでいないというのは、ちょっと恥ずかしい感じなんですけど。)


ところがです、私にはジェーン・エアにまつわる一つの記憶が。
その昔、少女向け漫画雑誌の「りぼん」の付録に、
カラーシリーズという読み切りまんがの冊子がついていまして、
毎月いろいろな方の作品が楽しめたのです。
そんな中にあったのが、わたなべまさこさんの「小さな花」という作品。
これがジェーン・エアのストーリーだったのです。
ただし、孤児院時代の物語。
まあ、子供向けですからね、その先のストーリーはあったとしても理解しがたかったでしょうね。
冷たくて厳しく、そして惨めなこの施設の少女時代のジェーンに、
私はいたく感情移入して何度も読んだ記憶があります。
今ネットで調べたら、この記憶は確かなようで、
この付録がついたのは1963年だったようです。
私は10歳未満・・・!! 
このシリーズは結構気に入っていてしばらく家に置いてあったので、
その後大きくなってからも読み返していたので覚えているのでしょう。
・・・今も持っていればかなり“お宝”の部類のようですが、
さすがに、今はありません。
読んでみたい気はします。



さて、前置きばかり長くなりました。
施設で育ったジェーン・エアは、
ソーンフィールドというお屋敷に、住み込みの家庭教師の職を得てやってきます。
そしてその屋敷の主人ロチェスターと恋に落ち、
ついにプロポーズを受けるのですが、
その結婚の日に、彼女は恐ろしい秘密を知ります。



今作は、貧しい女の子がお金持ちに見出され、幸せになるという
シンデレラ・ストーリーではありません。
身分や財産で女性の運命が決められた時代。
彼女はその時代に抗うように、自分の意志で人生を決めていきます。
慎ましく言葉少なの彼女ですが、
だからこそ、その意志の強さが光ります。
もっとも、何の後ろだてもない彼女は、こうしなければ生きて来られなかったのでしょうけれど。
ミア・ワシコウスカが見事にこうしたジェーン・エアを演じきっていました。
今作が出版されたのは1847年。
この時代にこういう女性像というのはかなりセンセーショナルだったようです。
けれども、今もやはりこの自立した生き方にはひかれます。
150年以上も前と、今も同じ課題を有しているというのは、ちょっと悔しいくらいです。


さて一方、ロチェスター氏はある苦悩を抱えているために、
憂いをたたえ、セクシーですね。
孤独な魂がひかれあうというのも、無理がなく納得できます。
それからこのお屋敷の古めかしく陰気な様もすごい。
現に家政婦長(ジュディ・デンチ!)も言っていましたよね。
冬はあまりにも何もなくて気が滅入ると。
夏はそれなりに、多分ご自慢のイングリッシュガーデンなどもあって、心地よさそうですが。
あんなだだっ広いだけで陰気なお屋敷には、怖くてとても住めそうにありません。
特に夜などは・・・。


ジェーンがさまよった荒野は、「嵐が丘」なども思い起こすような、いかにもイギリスの原野。
今作の撮影は、実際に小説の舞台となった英国ダービーシャ州だそうです。
このイギリスの時代と自然、ジェーンの生き様。
ピタリとハマって、本当に見応えのある作品に仕上がっています。
満足、満足。



2011年/イギリス/120分
監督:キャリー・ジョージ・フクナガ
原作:シャーロット・ブロンテ
出演:ミア・ワシコウスカ、マイケル・ファスベンダー、ジェイミー・ベル、サリー・ホーキンス、ジュディ・デンチ

津軽百年食堂

2012年07月02日 | 映画(た行)
受け継がれる思い



                   * * * * * * * * * 

東京で暮らす青年大森陽一は、
偶然の出会いから、同郷の七海とルームシェアをすることになります。
青森県弘前市の彼の実家は、代々続く大森食堂を営んでいます。
七海の実家は写真館を営んでいましたが、
そのためか写真家を目指しているのです。
ある日陽一の父が事故で入院。
店のピンチヒッターとして陽一は10年ぶりに帰郷しますが・・・。


都会では周りがめまぐるしく変わっていくのに、
故郷の店は10年前と少しも変わらずそこにあります。
東京で就職に敗れ、店を継ぐと言い出した陽一を、叱り飛ばした父。
仕方なく東京に残ったものの、やはり定職には付けない陽一は、
この先の自分の道を考えているところでもありました。
弘前の満開の桜が陽一を迎えます。
100年前から受け継がれてきた、津軽そば。
故郷の歴代の人々の思いを、彼は受け継ぐのでしょうか?
そして、七海は?


ふるさとの街の佇まいと桜の花にすっかり癒されてしまいます。
こうした故郷を持つ人がなんだか羨ましくなりますね。
私は故郷に住み続けているわけですが、
幼い頃に住んでいたその場所は、今やマンションが林立する住宅地。
かつての面影を探すことも難しい。
故郷は心の中だけに。
今やそういう人が多いのかも知れません。
こうした家族と故郷の絆を目と体で実感できるというのは、なんと幸せなことでしょう。
それはたぶん自分の存在意義にもつながってくる。
今はあまりにも都会に人が集中し過ぎています。
程よい人の輪の中で、それぞれが自分らしく生きられればいいのかも。


さて、今作のキャスティングがとてもユニークで、いいですよね。
現代青年の陽一が、オリエンタルラジオの藤森慎吾さん。
明治時代の、初代店主(つまり、陽一のご先祖様)が、同じくオリエンタルラジオの中田敦彦さん。
従って同時に出てくるシーンはありませんが、
それぞれいい味出ています。
雰囲気ぴったり。
心に染み入る良作です。

津軽百年食堂 [DVD]
藤森慎吾,中田敦彦,福田沙紀,ちすん,伊武雅刀
キングレコード


「津軽百年食堂」
2011年/日本/106分
監督:大森一樹
原作:森沢明夫
出演:藤森慎吾、中田敦彦、福田沙紀、ちすん、藤吉久美子、伊武雅刀

TSUKEMEN  LIVE  2012 ~EL DORADO~

2012年07月01日 | コンサート
2012年6月29日 TSUKEMEN LIVE に行って来ました。


TSUKEMEN は、ヴァイオリン(TAIRIKU & KENTA)とピアノ(SUGURU)、計3人のイケメンユニットです。
札幌でコンサートがあると知り、張り切ってチケットを買ったのはいいのですが・・・。
札幌のKitaraコンサートホールで2日間の日程。
6月28日、29日です。
そこで私は単純に金曜夜のほうがいいなあ、と29日を購入。
セブンイレブンで、チケットを発券してもらってまず驚いた!! 
なんと13:00開演となっているではありませんか。
きちんと確かめもせず、申し込んじゃったのねえ・・・。
そうですよね、2日日程の時はこういうことがあるのだったのを、すっかり失念していました。
私、こう見えても真面目?な公務員なんで、
平日にお休みを取るなんていうのは本当に用事のあるときくらい。
まあでも、だからこそ、たまにはいいかという気になりまして。
お昼前から休暇をとって、GO!
北海道は今、一番いい季節なんですよ。
(でも今日はちょっと気温が上がりすぎでしたが)。
良いお天気の金曜日。
昼間からフリーだなんて、それだけでもう、幸せな気持ちになってしまいます。

さて会場へ来てみると、想像通り、いるのはオバサマ達ばかり。
平日の昼間ですからねえ。
やっぱり主婦が多いですよね。
私も立派なオバサンだから人のことは言えない。
TSUKEMENの皆様には、もう少し年齢層が低いほうがやりやすかったと思いますが
(ゲーム音楽などもあったので)
でも、素敵な演奏をどうもありがとうございました!!



このコンサートツアーは、一昨日の室蘭から始まったばかりで、今日が3日目。
明日は旭川だそうです。
彼らの3枚目のCD~EL DORADO~が発売になったところで、
その中の曲が演奏されました。
クラシック、映画音楽、ジャズにゲーム音楽、アニメソングまで。
クラシックの基本を踏まえつつ、ジャンルを超えて音楽を自分のものにする。
観客よりも自分たちがまず楽しんでいる感じ。
こういう若い人達の音楽活動が、
近頃私にはとてもいい刺激なのです。
元気を分けてもらう感じです。


あれ、なんだか聞いたことがあるような・・・と思ったその曲は、
なんと“CHA-LA HEAD-CHA-LA”。
あのアニメ、ドラゴンボールのテーマソングでした。
それから、ゲーム、ファイナル・ファンタジーの戦闘シーンの曲なども。
オバサンといえども私がこれを知っているのは、実はうちの娘たちのおかげ。
なるほど、彼らは多分、我が家の娘たちとほぼ同年代なわけですね。
それから、もちろん彼らのオリジナル曲もありまして、
中でもピアノのSUGURUさんの“たんぽぽ”は、優しく背中を押してくれるような素敵な曲。
「ガンガン、頑張れ!頑張れ!ではなくて、
道端のたんぽぽみたいに、目立たなくてもいいから、のんびり自分の道を行け」
というような気持ちで作った曲だそうで、
これは私“たんぽぽ”としてもうれしい曲でありました。


・・・というわけで、大満足。
幸せな金曜の午後でした!


「TSUKEMEN LIVE 2012 ~EL DORADO~」

EL DORADO
TSUKEMEN
キングレコード


KIYARI
TSUKEMEN,TAIRIKU,KENTA,SUGURU,ハンス・ジマー,ヘンリー・マンシーニ,チック・コリア,渡辺俊幸,植松伸夫,セルゲイ・プロコフィエフ
キングレコード


BASARA
TSUKEMEN,ハワード,菅野よう子,TAIRIKU,リスト,SUGURU,ウィーラン,ロータ,ウィリアムズ,マンシーニ,KENTA
キングレコード