ステージおきたま

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「春駒日記」からアイディアもらった芝居のシーンはどう?

2019-10-28 08:44:25 | 菜の花座

 相変わらずミニブームが続いてる。もう1週間以上にもなるんだぜ。とんでもねえよ!ブログ訪問者が800とか、1000とかに跳ね上がり、その6割方が、「吉原を全力で駆け抜けた花魁『春駒日記』が素晴らしい!」って、どういうことよ?アクセス数増えるのは歓迎なんだが、いまいちこのバブルの実態がつかめない。どうも、「春駒日記」がマンガになったことと関係あるようなんだが、かと言って、マンガ読む人が、参考とかって、関連ブログに寄り道したりするか?不可解この上ないだろ。

 でもまぁ、せっかく読んでくれてるんだから、感謝しなくっちゃね。それと、推薦したりリツィートしたりしてくれてる人にもありがとう、って言おう。で、こうもみんなが「春駒日記」に興味持ってるなら、それ参考に書いた芝居台本もちょこっと覗いてくれんかなぁ。けっこう面白く書けてると思うんでね。『予兆・女たちの昭和序奏』の一節だ。

 春駒、台本では乙子(源氏名・乙女)が小さな女性向け雑誌社に逃げ込んで来るところから始まる。追って来た牛太郎と庇い通そうする女性記者たちのやり取り。不思議な女講談師紅蘭、こちらも実在の本荘幽蘭がモデルの活躍。吉原での暮らしを涙ながらに語る乙子。と、事前レクチャーはそのくらいにして、興味のある人は読んで欲しいもんだな。ちょっとした短編小説の趣きはあると思うぜ。

 

シーン⑧

            突然、長澤乙子が飛び込んでくる。髪も着物も乱れている。

乙子    お願いです!助けてください。

            驚いて立ち上がる繁と野生子。繁、すぐに駆け寄り、乙子を抱きとめる。

繁     どうしたんですか?

乙子    追われています。すぐ、そこに。

野生子   誰に?

乙子    見つかったら、

            と、不安気に入れ口をしきりに窺う。

繁     わかった。こっち、隠れて。

            と、給湯室に連れて行き陰に隠す。木刀を手にした河本鉄蔵が入ってくる。

鉄蔵    女が入り込んだと思うんだが。

野生子   どなたです!ノックもなしに突然侵入して、失礼でしょう。名を名乗りなさい。

鉄蔵    そんなことはいい。女を出しなさい。逃げ込むのを見たんだ。

野生子   誰も逃げ込んだりしていません。

繁     そうです。見ればわかるでしょう。

鉄蔵    隠し立てしない方がいいですぜ。厄介ごとになります。

野生子   厄介になるのはあなたの方です。不法侵入です。

繁     恐喝です。

鉄蔵    こっちか?

            と、無視して給湯室に向かう。立ちはだかる二人。

繁     誰もおりません。

野生子   たとえいたとしても、あなたには渡せません。

鉄蔵    いるんでしょ、やっぱり。

            立ちふさがる二人越しに乙子にどなる。

鉄蔵    おい、乙子!出て来るんだ。悪いようにゃしねえ。お店の方には、内々で済ませていただくようにとりなしてやる。なっ、そんなとこ、隠れてないで出てくるんだ。

繁     誰もおりません。

鉄蔵    (乙子に)ほれ、こちら様にもご迷惑おかけすることになるんだから、おとなしく出て来るんだ。

野生子   誰もいないと言ったでしょう。

            乙子、恐怖のあまり身動きしてしまう。湯飲みなどが落ちて壊れる音がする。

鉄蔵    この奥だな。

繁     違います。ネズミです。

鉄蔵    お嬢さん、庇いだてはおよしなさい。

繁     誰もおりません。ネズミです。

鉄蔵    乙女、借金のある身なんだよ。おめえが逃げたら、国のご両親が困るだろうが。足抜けなんて御法度破り成功しっこないんだ。おとなしく一緒に帰ろ。いたぶったりしない。約束する。

野生子   あなた、遊郭の牛(ぎゅう)太郎(たろう)ですね。

鉄蔵    おっと、今時、妓夫(ぎふ)とか牛太郎なんて言いませんよ。番頭だ。

野生子   お引き取りください、番頭さん。ここは、婦人のための雑誌社です。婦人たちのより良き暮らしを目指して出版活動しています。

鉄蔵    だから、何です。足抜け女を助けるのが仕事だとでも言うんですか。それとも、あんた方が、この女の借金を肩代わりしてくれるんですか。

野生子   自由廃業は大審院の判例で認められています。意志に反して、売春を強要することは法律違反です。

鉄蔵    そんなことは、世の中の上っ面の決まり事だ。誰も真っ当に信じちゃいませんよ。金を借りりゃ何としてでも返済するのが、世の仕(し)来(きた)りっても

んでしょうが。

繁     体を売ってまでも返さねばならぬなど、人間性に悖(もと)るものです。

鉄蔵    売れるものは売る、買えるものは買う、それが人の世の習いってもんですよ。神代の時代から変わらぬことだ。

野生子   男の暴虐です。身勝手です。女は男の欲望の生贄になってきたのです。

鉄蔵    そんなことは、私の知ったことじゃない。私の仕事は議論することじゃない。足抜けした女を連れ戻すことなんでね。

野生子   私たちを頼って来られた女性は守り通すのが私たちの使命です。

鉄蔵    おやおや、婦人雑誌社はいつの間に救世軍に宗旨替えなさったんです。それとも、矯風会だかって金持ちご婦人方のご道楽の先棒担ぎですかい。

繁     か弱い少女を虐げる人たちに屈するわけにはまいりません。

            鉄蔵、にやりと笑いを浮かべて、すごみ始める。

鉄蔵    主義者かぶれの女ども相手にいつまでも時間をつぶしてるわけにはいきませんぜ。こちらが大人しく出ているうちに女をお渡しなさい。

野生子   お断りします。

鉄蔵    仕方ねえなぁ。

            と、手にした木刀を野生子に擬する。

鉄蔵    乙女、おめえが我がまま言うから、このお人方が痛い目見ることになるんだぜ。いいのか、そんな傍迷惑なことして。

            乙子、躊躇った挙句、おずおずと出て来る。繁、乙子を庇って前に立つ。野生子も鉄蔵の前に立ちはだかる。

鉄蔵    このぉ、女(あま)!

            と、切っ先を野生子の胸元に突き入れる。野生子、木刀の先端を両手で握って止める。怒った鉄蔵、木刀を引き抜き、振りかぶる。

 

シーン9

            紅蘭、入って来て、一喝!

紅蘭    何してやがる!!

            驚いて振り向く鉄蔵。

鉄蔵    うっ!?

紅蘭    一瞬ひるむ悪漢に、素早く飛びつく娘一人!(講談調で)

野生子、やにわに木刀を持つ手にしがみつく。

鉄蔵    な、何しやがる!

            と、野生子を振りほどこうとするが、紅蘭素早く寄って、

紅蘭    すかさず一撃、紅蘭の鉄拳!(同じく講談調)

            紅蘭、走り寄って鉄蔵の鳩尾に一発食らわせる。崩れ落ちる鉄蔵。

鉄蔵    ううっ・・・

紅蘭    思い知ったか悪漢めぇぇぇ!

            と、取り上げた木刀を掲げて見栄を切る紅蘭。野生子と繁、思わず拍手。

紅蘭    これで良かったか?

野生子   正解です。

繁     ザッツライト!

紅蘭    そっちの娘は?

野生子   足抜けです。吉原から。

紅蘭    吉原?ってことはこいつは、牛太郎かい。

            鉄蔵、ようやく意識が戻り、

鉄蔵    てめえ、邪魔だてしやがって。

紅蘭    おっ、あんた、大文字屋の若い(わかい)衆(し)だね。

繁     えっ、若くなんかないけど。

紅蘭    吉原じゃ店働きの男をみんなそう呼ぶのさ。

鉄蔵    お、おめえ、

紅蘭    まだいたのかい、吉原に。そうか、他に行き場はねえか。

鉄蔵    誰だ、おめえ。

紅蘭    覚えてないのかい。あんたのお店に、女郎にしろって頼み込んだ紅蘭だよ。どうだ、思い出したか?

繁     女郎にぃぃぃ!?

繁・野生子・乙子 まさかぁ!!!!

鉄蔵    あ、あん時の色気ちがいか。

紅蘭    そう。その色気ちがいだ。あん時ゃ、よくも小突き回しておっ放り出してくれたねぇ。廃娼運動の回し者だろ、って散々毒づいてさぁ。

鉄蔵    あ、当ったり前だろ。だれが好き好んで女郎になるって言うんだい。怪しいに決まってんだろ。

紅蘭    馬鹿野郎!世の中にゃもの好きと女好きにゃことかかねえんだ。吉原知らずにものが書けるかい。女郎知らずに女優が務まるかい。

鉄蔵    ちっ、やっぱり覗きじゃねえか。

紅蘭    別れた亭主にゃ、その筋に顔効く奴もいたんだが、まっ、脅し上げてまで成っても面白かねえなって思ってね、潔く諦めたんだ。

鉄蔵    その色気ちがいが、どうしてこんなとこいるんだ。

紅蘭    話せば長いことながらぁ(と、節をつけたあと、会話調に戻って)あんたにゃ関係ねえや。

鉄蔵    女郎に成りたかったあんただ、廓の掟は十分にわかってるだろう。足抜けはきつい御法度だ。そちこちに迷惑かかってる。娘を渡してもらおうか。

            紅蘭、にやりと笑い、

紅蘭    私しゃねぇ、女郎に成りたくて、わざわざ頼みに行ったんだ。この娘はどうだい。無理やり女郎にされちまったんだろ。なんと理不尽な話じゃねえか。無理くり借金押っ付けて、雁字搦めに縛り上げて、抜けられないようにするなんぞ、盗人以下だぜ。

鉄蔵    なに、訳のわからねえこと言ってやがんだ。

紅蘭    私しゃねえ、春の売り買いを否定しやしない。そこはこっちのお嬢さんたちとは大いに違うんだ。だがね、そりゃ自由意思に基づいての売買契約が前提だ。嫌だって女を、札びらで無理やり股広げさせるてのは、許すわけにゃいかねえんだ。まっ、この紅蘭が後ろに付いたってことだから、この娘のことは諦めるんだね。あっ、大文字屋のご主人にゃ、そっと筋通しておくから、あんたが責められないようにさ。

鉄蔵    ちえっ!まったくへんてこな女ばかりだ。世の中の常識てやつがさっぱり通用しやしねえ。ああ、やだやだ!先々女が男買うよな時代がくるんだぜ、きっと。

紅蘭    おお、いいねぇ。いい男、買いたいもんだねえ。男のお酌で一杯、なんて乙なもんじゃないか。なっ、あんたたちもそう思うだろ?

野生子   買いたくはないけど、男のお酌で一杯は、悪くない。

繁     私は、手酌の方がいい。

            驚く紅蘭、野生子。

紅蘭    そうかい、男より酒かい。ははは。

繁     いえ、そんな、一人で酒飲むなんて、そんな、・・・

紅蘭    いいさいいさ。今度、刺しで飲もうじゃねえか。

野生子   私は、男の酌で。

紅蘭    そうだな。ただし、じじいはダメだよな。

鉄蔵    なんとでもほざけ。

            と、捨て台詞を放って出ていく。

 

シーン10

その背に向かって追い打ち。

紅蘭    そうだ、今度は男芸者も置いときなよ。そん時ゃどっと繰り出すからさ、ほら、明治の新しき女たちのようにさ。

野生子   ああ、青鞜社の尾竹紅吉、吉原登楼事件。

繁     誰ですか、それ?

野生子   青鞜社は知ってるでしょ。

繁     平塚らいちょう女史ですね、「元始、女性は実に太陽であった。真正の人であった。 今、女性は月である。他に依って生き、他の光によって輝く、病人のやうな青白い顔の月である。」

紅蘭    おお、よく知ってんじゃないか。さすがは優等生。

繁     優等生だなんて、そんなぁ・・・

野生子   青鞜からすでに20年、女の置かれた位置は、少しも変っちゃいない。

紅蘭    こんな幼(いたい)気(け)ない娘を獣欲の餌食にしてる世の中だからなぁ。

繁     よく、逃げてこられたわねぇ。恐かったでしょ。

乙子    はい。ずっと機会を狙ってました。外に出るときは、監視の番頭さんがいつだっていっしょ。病院に薬をもらいに行く時だけは一人で出られるんです。だから、今日は、病院に行く振りをして、急いで龍泉寺町に抜ける露地の木戸抜けて、夢中で駆け抜けて、電車に飛び乗って。でも、途中で見つけられて、番頭さんが人力車で追い掛けてきて、

繁     そう。恐ろしかったでしょうね。

乙子    捕まったら、裸で吊るされるから。

紅蘭    あいつら、女の体、モノとしか思っちゃいないからなぁ。

繁     どうしてここに逃げ込んで来たの?

乙子    これ。

            と、懐から、雑誌「モダン婦人」を差し出す。繁、雑誌を受け取り、

繁     これ、うちの雑誌!

乙子    記事読んで、

            繁、雑誌を野生子に渡す。野生子、ページを繰って、

野生子   記事って、これ?「飛び立て、籠の鳥」?

乙子    はい。きっと助けてくれると思って。ここしか無いから。

紅蘭    (野生子に)あんたの記事じゃないか。

野生子   ええ。(乙子に)そう。ありがとう。読んでくれて。よく決断してくれたわ。

乙子    もう、とても、我慢できませんから。あんなところ。とても生きて行けない!

野生子   そうでしょうね。

紅蘭    長いの、吉原?

乙子    1年経ちます。

紅蘭    国は東北?

乙子    ええ。山形。

繁     山形?それじゃ、あの・・身売り相談所が設けられたって所あたり?

乙子    ええ、あの伊佐澤村とは川向いの山の中。

繁     凶作?

乙子    それもありますけど、生糸の値段が急に下がって、1/3以下になってしまって、

繁     ああ、世界恐慌のあおりだ。   

乙子    お蚕さんの種代金、支払えなくなっちまって。取れたコメもすべて持って行かっちぇ、家中の金になるものなんもかも全部売り払って、そんでも足んねくて、5人兄弟、私、一番上だから、吉原に。下の弟も口減らしでカムチャッカに行きました。身売りの代金1000円。それでどうにか借金済ませて。着いたその日から、お客さん取らされて、・・・・(興奮する乙子の言葉には訛りが)

            乙子、あふれ出る涙を袂から取り出した手拭いで必死で抑える。見守る女たち。繁、そっと肩を抱き寄せる。

乙子    一晩に3人も4人も・・・

            繁に抱かれたまま、涙ながらに廓の暮らしを絞り出す。

乙子    しょしい、無理やり、

繁     いいのよ、話さなくたって。

乙子    ・・・浅ましい・おぞましい・・金払ったんだからって、無理やり、・・・うち、汚(よご)れちまいました。体も心も汚(けが)れちまいました・・・

            激しくしゃくりあげる。繁、しっかりと抱きしめる。

繁     そんなことない。そんなことないわ。

乙子    いいえ、いいえ、だって、だって、半年も経ったら、何にも感じなくなったんですから。何人も男に抱かれても、何されても、・・・・

            さらに、激しくしゃくりあげる乙子。泣き続ける乙子を見つめ続ける女たち。荒々しく涙をぬぐう野生子。静かに涙を流し続ける繁。

            やや気持ちが治まって、

乙子    一月ほど前、おりものが増えるようになって、ここ(腿の付け根を触る)もずきずき痛むようになって、定期診断で入院が決まりました。横根だから、手術で切らねばならないってお医者さんが。

紅蘭    リンパだよ。梅毒とかの性病の所為だね。

乙子    たくさん入院してました。吉原以外の廓の花魁たちも。酌婦のお姐さんも。

紅蘭    そうだろうねぇ。

乙子    何度も入院退院繰り返して、げっそり痩せて、もうここで死ぬのだけが楽しみ、なんて、・・・まだ、若いのに、・・・そんな姐さんたち見てたら、何年か先の自分の姿だって思えて、・・・

野生子   使い捨てなのよ!消耗品なのよ!!

乙子    手術も麻酔はそん時だけの局所麻酔。終わったその晩から、痛くて痛くて。みんなと一緒に泣き叫びました、ずっと、ずっと。

紅蘭    あの吉原病院てのはねぇ、楼主たちが費用を出してるから、けちり倒してんだよ。食いもんだって、酷いって話しじゃないか。

乙子    薄いおかゆに支那卵一つ、それに麩の煮物と梅干。

繁     そんなんじゃ体力回復しないじゃありませんか。

乙子    楼から差し入れを取り寄せる人もいるけど、それもすべて貸しになるんです。そうやって、退院した時にゃ、借金で雁字搦めにするんです。

野生子   弱みに付け込むなんて。

乙子    退院だって、完全に治るまで待っちゃくれません。まだ患部に痛みが残るうちから、客取らされる。

            女たち、一斉に非難の声を上げる。

乙子    このまま客取ってたら、また、病院に逆戻り、そして、入院、手術、退院、入院の繰り返し、いつかあのやせ細った姐さんのようになるんだって、思ったら、居ても立ってもいられなくなって、・・・

繁     逃げようと思ったのね。

            乙子、大きく頷く。

野生子   こんな生き地獄が、目と鼻の先に広がってるんだ。

繁     男の人方には、そんな女の苦しみが見えないのでしょうか。

紅蘭    てめえの都合よく考えんのさ、女郎だって喜んで金までもらってるってね。

乙子    優しいお客さんもいます。金払ったのに、一晩、うちの身の上話を聞いてくれた人もいたし。身請けしたいけど、金がないって泣いてた学生さんなんかも。

紅蘭    そんな惚れたんなら、抱きかかえて逃げりゃいいのさ。意気地なしめ。

繁     男の人も寂しいんですね。

野生子   ダメ!あなた、男に免疫ないんだから、簡単に騙されるよ。

乙子    廓の話しは、作り事なんです。どんなに情愛深く彩られてても。

紅蘭    そういうこったな。さて、それで、(乙子に)あんたどうするつもり。

            途方に暮れる乙子。

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