萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第77話 決表act.8-another,side story「陽はまた昇る」

2014-08-02 22:23:16 | 陽はまた昇るanother,side story
resolidification 壁と祈望と



第77話 決表act.8-another,side story「陽はまた昇る」

かちん、

微かな電子音に点いた画面、ニュースが聞えだす。
真白な画面は雪の風、それから人々の話す横顔たち、そして字幕。
ランプ明るい部屋に雪の映像じっと見つめてしまう、そんな自分に周太はため息吐いた。

「…けっきょく、ね?」

結局、いつも追いかけしまう。

今日だって幾度も解らなくなった、それなのに今もニュース見つめてしまう。
この画面どこかに青い冬隊服が映らないかと探して見つめて唯ひとり追いかけている。
映される映像は昼間の風景で今は夜、もう雪は止んでいる、それでもため息は唯ひとりへ零れだす。

英二、今どこにいるの何しているの?

「ん、…メール、」

独り自室にベッドの上、携帯電話へ手を伸ばす。
タオル被ったままスウェットの膝抱えてメール開く、その文面また考えこむ。

From  :英二
subject:初雪
本 文 :おつかれさま周太、電話したけどもう寝てるのかな。
     冷えこんでるけど体調大丈夫か?明日は休みだって言ってたけど無理するなよ、
     去年の初雪を周太は憶えてる?あの初雪は俺にとっていちばん幸せだよ、森も夜も。
     今日、逢いたかったな。

From  :英二
subject:銀世界
本 文 :おはよう周太、屋上から見た都内は真白だよ。
     今日は雪掻きすると思う、出るかもしれないけど心配しないで。
     でも俺は周太を心配するよ?

昨夜と今朝と、送られた2通は自分を呼んでくれる。
去年の今は素直に嬉しかった、でも今は途惑いが混じってしまう。

『馨さんそっくりの目と声で笑ったんだ…馨さんから話を聴いたのか、日記を読んだのか、全て解ってる貌だ、』

馨さんと似ている男だよ、そう田嶋教授が見た男は英二だろう。
他に該当しそうな男など自分は知らない、だから解らなくなる。

どうして英二は「日記を読んだ」と教えてくれないのだろう?

―僕だってお父さんの日記を読みたい…解ってるのに、どうして英二?

どうして?なぜ?ずっと考えながら雪道を帰ってきた。
あの研究室を出てから「日記」を見つめ歩いて、気が付いたら宿舎に着いていた。
そのまま風呂をすませ今こうして座りこんでいる、そんな一人の部屋は静かでカーテンの向こう夜が鎮む。

「…声だけでも、ね…」

ぽつん、静かな部屋の呟きに今日を考えだす。
今朝も逢いたいと想って、その前は伊達の部屋で起きた瞬間に驚いた。
だって同じベッドで眠ったのは両親と唯ひとりだけで、それなのに違う人と目覚めた途惑いが携帯の手を止める。

「だって…きっとえいじおこるもの、」

気恥ずかしさに首すじ熱くなる。
もし今朝の事を知ったら拗ねて怒るだろう、だから言えない。
けれど言わないことも裏切るみたいで哀しくて、それでも今日の疑問ぶつけられたら?

英二、どうして日記のこと何も言わないの?

「…訊かない分だけ解らなくなる、ね?」

また独り呟いて携帯電話を持ち直す。
もう思い切って電話してしまえばいい、そんな思案に着信履歴ひらいてすぐ通話が繋がった。

「湯原くん?今、電話いいかな?」

あれ?

「あ、…美代さん?」

違う相手の声に途惑わされる、ちょうど繋がったことも不思議だ?
それでも今日なにがあったか思い出して笑いかけた。

「ん…今日は模擬テストおつかれさま、雪とか大丈夫だった?」
「ありがとう、道路封鎖も無くて帰れたの、」

朗らかなトーン可愛い声に今日の出来がもう解かる。
きっと良い答案が書けたのだろう?そんな予想に尋ねてみた。

「ん、よかった…試験の出来も良かったんでしょ?」
「ちゃんと全部答えられたよ、本番でもこれなら嬉しいんだけど。湯原くんこそ雪は大丈夫だった?都心は混乱したみたいだけど、」

明るく尋ねてくれる声に昼の会話を思い出す。
そしてニュースに心配のまま重ねて尋ねた。

「僕は大丈夫だよ、奥多摩こそ雪多いんでしょ?朝で30cmとか言ってたし…雪掻きとか、」

今日は雪掻きだってメール着たよ、そう箭野は教えてくれた。
メールの送信人は黒木、だから第七機動隊山岳レンジャーは除雪作業に出たのだろう。
もしかして美代は見かけたかもしれない?そんな可能性と尋ねた電話に笑ってくれた。

「警察からも除雪が来てくれてたよ?光ちゃんや宮田くんは見かけなかったけど、でもいたかもね?」

ほら、やっぱりすぐ解かって教えてくれる。
この聡明に気恥ずかしくなって微笑んだ。

「ん…そう、おしえてくれてありがとう、」
「どういたしましてよ、大したこと教えてあげられてないけどね?」

言ってくれる声は明るくて、だから申し訳ない気持ちになる。
だって美代も本当は英二に好意あるはず、そんな板挟みに可愛い声からり笑った。

「湯原くん、最近の私ってホント恋愛より入試って感じよ?このまま大学に入って研究一辺倒になったらお嫁いけなくなりそう、」

ほらまた見透かすようなこと言ってくれる。
この言葉も美代の本音だろう、それでも零じゃない想いへ笑いかけた。

「大学生になったらまた変わるかもよ?その、れんあいとか大学生っぽいみたいだし美代さんもてるし、」

大学時代は恋愛とかも華やかだろう?
けれど自分は無縁だった、その反対に美代は聴講の時ですら騒がれている。
だから予想したまま気恥ずかしさと言ってみた電話ごし可愛い声が笑いだした。

「でも湯原くん、25歳の1年生なんて問題外じゃない?4年生より年上なのよ、」
「そうだけど、大学院生なら年上もいるよ…それに東大なら浪人して入る人も多いから、」
「あ、そうね?でもこんな私でも良いなんて人いるのかな、私も勉強が忙しくてそれどころじゃないだろうし、」

可笑しそうに笑ってくれる言葉たちから向学心は篤い。
それだけの覚悟で美代は受験を決めた、その願い叶えたくて微笑んだ。

「ん、美代さんなら良い勉強の時間をすごせるよ?だからセンター試験も二次試験も無事に受けてね、風邪とかひかないで?」
「ありがとう、気をつけるね?湯原くんも体くれぐれも気をつけて、」

優しい声なにげなく笑ってくれる、その言葉に鼓動そっと締められる。
今さっきも薬飲んだばかり、そんな現実は言えないまま少し話して電話を終えた。

「…ごめんね美代さん、」

切った電話に謝って見つめてしまう。
本当は喘息を抱えてしまった、その療養を拒んで無理していると知ったら美代は何て言うだろう?

―きっと怒るんだろうな美代さん、だって一緒に勉強しようって約束したのに、

ずっと一緒に植物学を勉強しよう、夢を一緒に追いかけよう?

そう初めて約束した相手だからきっと怒る、こんなの裏切りだと言われて仕方ない。
そんなふう言われたら自分だって哀しくて泣くだろう、それでも今ここで終われない。

『じゃあ俺の幻かもしれんな?馨さんに逢いたいって願望が現実化したんだろ、』

祖父がいた研究室の窓辺、雪明りに父の友人は微笑んだ。
あの想いそのまま自分の願いでいる、だから今ここまで追いかけてきた。
ようやく14年を懸けて父のパズル揃いだす、そんな今を途中で辞めるなんて考えられない。

だから英二、どうか真実を教えて?

「ん…かけよう、」

ひとりごと指が動き着信履歴からナンバーを呼ぶ。
信じたい、この想い懸けて発信ボタン押してほら、通話が架かる。

「周太、元気か?」

とくん、

鼓動ひっぱたかれる、瞳もう底が熱い。
この声ひとつ響かされて祈りだす、どうか自分を信じさせて応えて。
唯ひとり信じ続けたいと願っている、そんな祈りのまま唇から言葉が出た。

「英二、お父さんの日記はどこにあるの?」

久しぶりの会話、けれど核心から聴かせて?
だから応えてほしい嘘吐かないでほしい、この願いに綺麗な低い声が微笑んだ。

「大丈夫だよ、周太。いつか読めるから心配しないで待ってて?」

嘘、吐かないでくれた?

「…ぁ、」

良かった、嘘吐かないでくれた、待っててと約束をくれる?
また約束ひとつ結んでくれるなら信じても良いのだろうか、待っても許される?

「周太、雪で寒いけど体は大丈夫?風呂で温まって髪ちゃんと拭いた?」

ほらまた綺麗な低い声が心配してくれる。
こんな言葉たち優しさなのだと信じていたい、それでも確かめたい願い声になる。

「大丈夫だよ英二、ね…どうしてお父さんの日記のこと僕に黙っていたの?」
「俺も待ってるんだよ、周太?」

すぐ答えて声は澱まない。
けれど答えよく解らないまま尋ねた。

「待ってるって英二、なにを待ってるの?」
「いつかを待ってるよ、家でも約束した通りだよ周太、」

綺麗な低い声が約束また笑ってくれる。
この声ずっと好きだった、今も好きでいたいと願うのは未練だろうか?

―逢いたいって朝も想ったのに午後は疑って、なのに今もう僕は、

あなたの目的は何?

そう訊いてしまいたい、けれど聴くのが怖くて泣きたくなる。
もし聴いて裏切られたなら哀しい苦しい、だって夏の事すら今も本音は悶えている。
この夏に他の人を抱いてしまったことは英二の本心、そんな人だと解っても信じたがる自分が苦しい。

どうして自分は英二を好きでいたいのだろう?

ただ孤独に寂しい子供が無いものねだりするだけ?
ただ愛されていると安心したくて今も信じたがるだけ、去年の秋が真実だと思いこみたいだけ?
ただ幸福な夢を見ていたいだけかもしれない、こんな自分の弱さごと膝抱え込んだまま電話の声が微笑んだ。

「周太、絶対に俺は周太を自由にするよ、周太がほしいもの全部をあげるから待ってて、お願いだから…こんな俺だけどもう一度だけ信じてよ?」

もう一度だけ信じて、だなんて、なぜ言ってくれるの?

「…どうして信じてって言うの?」

どうして信じてほしいの英二?
その答え聴きたい電話ごし綺麗な低い声が告げた。

「周太を好きだから信じてほしいんだ、俺が帰りたいのは周太の隣だよ?周太、俺を信じて待ってて?」

それなら英二どうして?
どうして父の日記を隠すの、どうして父の友人に父の貌を見せたの?
どうして自分と出逢ったのだろう、なぜ自分に告白してくれたの、あなたは何が欲しい?

こんな問いかけたち廻って止まなくなっていく。
あの秋が愛しくて信じたくて還れるのだと信じていたくて、信じたいほど唯ひとり逢いたい。
だからこそ14年追いかけてきた父の真実に解らなくなる、なぜ先回りして日記すら隠されるのか解らない。

「英二、信じてって言うくせに信じられる行動をしてる?お父さんの日記も光一のことも、」

問いかけた言葉に電話の向こうが息を呑む。
こんなこと言われたら英二は傷つく、そう解っているから続けた。

「僕は14年ずっと父を探してきたよ、父の全部を受けとめる覚悟も出来てるんだ、良いことも悪いことも僕は知りたいんだよ?庇われたくない、
だから光一は僕を止めないんだよ、僕を信じてるから。僕だって英二が山に行くの止めないでしょう?僕も同じなんだよ、英二こそ僕を信じてる?」

庇われたくない、だって本気で選んだことだ。
本気だから信じてほしい解かってほしい、そして信じたい願いに笑いかけた。

「あいたい、顔を見て話したいんだ…時間くれる?」

あなたは何て応えてくれる?
この応え次第で二度と逢えない、そんな想いに綺麗な声そっと微笑んだ。

「俺も逢いたいよ周太、いつ逢ってくれる?今すぐでも俺は逢いに行くよ、」

ほら、応えてくれた。

「…っ、」

ほらもう視界ゆっくり滲みだす、こんなに自分は逢いたがる。
こんな自分だと見透かされているのかもしれない、そして嘘また吐かれてしまう?
そんな哀しい予測しながらも声ひとつ信じていたくて、涙ゆっくり瞬きに治め笑いかけた。

「じゃあ水曜日に…あのベンチで、」




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雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚170

2014-08-02 00:59:10 | 雑談寓話
雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚170

正月3日、花サンと出掛けた山中湖で大晦日の話を聴いた。

「それでね、山下公園でカウントダウンしてるとき彼メールしてて、文面ちらっと見えて訊いちゃったの、私じゃない人と一緒に来たかったのって。
隣にいるのお前なら良いのにって文章が見えたけど、私じゃない誰かと一緒にいたいのって訊いちゃって。そしたら本命は他にいるよって言われてね。
それでまた訊いちゃった、私のこと一番好きだからつきあってるんじゃないのって。そしたら困った顔されて黙られちゃって…年越にこんな恥ずかしいね、」

彼=同僚御曹司クン

で、彼メールは大晦日に自分宛に着たメールのこと。
長文注意なアツクルシイ文章だったから時間もかけて書いたんだろう、
ソンナもん年越カウントダウンでされて+こんなこと言われたら凹むだろう?

隣にいるのお前なら良いのにとか隣に人いる時メールすんなよ?しかも幸せ楽しいはずの時間に、

なんて内心に肚立つな思いながら花サン傷ついた理由よく解って、
大晦日あのメール返信しなかったの正解×こんな御曹司クンの遣り口は嫌いだ思って、
これからドウしよっかな考えながら花サンに提案した、

「富士急ハイランドとか行っちゃう?笑」

絶叫系好きなんだよね、叫ぶわけじゃないけど、笑
それは花サンも同じだって知ってる、だからの提案に花サン笑ってくれた。

「行きたい!」

ってワケでジェットコースターその他に乗りまくり、
休憩に座ったベンチは富士からの風が冷たくて熱い飲み物が美味しかった、
これで少し元気になるといいな思いながら雪の遊園地ながめて、そしたら花サンが言った、

「あの人に怒られるかな、付き合ってもない相手に振り回されてバカだよね、私…」

あの人、は御曹司クンじゃない。
そう解かるから彼女の言葉は哀しかった、だから笑ってやった、

「彼が知ったら御曹司クンのこと、ぶん殴りそうだね?笑」

きっと殴るだろう、彼だったら。
花サンの話で聴いた事しかない、でもソンナ気がして笑ったら花サンちょっと照れた。

「殴ってくれるかなーけっこう穏やかな人だったけど?」

訊いてくれる貌は幾らか照れながらも明るくなっていた、
こんな貌するほど今も大切な存在でいる、それごと大切にしてあげたいまま言った、

「ここは殴るだろ、フツーに、笑」
「あははっ、ふつーに殴るとこなんだ?」
「それは殴るよね、大事な人が傷ついたら無条件で、笑」
「無条件か、そんなに大事って想ってくれてたかなーあの人も、」

笑ってくれる「あの人」彼への言葉は全てが過去形、
そんな現実に哀しいって思った、だから笑って言った、

「花サンが想ってる分だけ彼も想ってるだろ?笑」
「じゃあ一番って想ってくれてたのかな、だと嬉しいけど、笑」
「ふうん、彼のご両親からも言われたクセに?笑」

なんていう会話しながら色々と哀しかった、
こういう花サンの想いを御曹司クンは全く知らない、でもやって良い事じゃなかった、

自分をいちばん特別って想ってほしい、

そういうのって誰にもある願いかもしれない?
それは一度喪ってるなら尚更に強く願う人もいる、花サンもそう。
だからこそ御曹司クンのしたことは悔しいって思った、その原因が自分だってことも嫌だった。

もう全部を話したほうが良いんだろうか?

そう思いながら話すなら土日が良いなとか考えて、
だったら御曹司クンにも言うだけ言っておく必要があるなって思った。

今日か明日、御曹司クンに選択ひとつさせるかな?

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