breather 君に時を

第78話 冬暁 act.9-side story「陽はまた昇る」
ルームライトのオレンジ色は記憶のままに暖かい。
師走の早い日没に夜は来る、もうカーテン向こうは黄昏も暮れる。
それでも小さな一室はルームランプに明るんでテーブル越しの横顔を照らす。
すこし伏目がちに睫の翳が長い、その首すじ昇らす薄紅色に英二は笑いかけた。
「周太、隣に座ってくれないの?」
せっかく二人掛けのソファなのにな?
そんな想い笑いかけたテーブル越し黒目がちの瞳こちら見て、穏やかな声が言った。
「ごはん食べるには窮屈でしょ、英二の体大きいから…家でも食事の時は向いあいだし、」
すこし羞んだようなトーン答えてくれながら包み開いてくれる。
買ってきた惣菜ならべる仕草は手際いい、相変わらずの主夫姿が嬉しくて微笑んだ。
「周太が並べてくれると美味そうになるな、周太の料理が食べたくなる、」
手料理、もうどれくらい食べていないだろう?
そんな月日数えかけた前に缶ビールさし出された。
「あの…はい、」
今きっと恥ずかしがって困っているな?
こんな貌も懐かしくて嬉しいまま受けとった。
「ありがとう周太、」
「はい…あの、いただきます、」
また気恥ずかしげに答えて箸をとる。
その仕草ひとつ端正に変わらなくて、見惚れながらプルリング引いた。
かつん、
乾いた音に口づけ啜りこんで、ほろ苦い。
アルコールの香、水滴あわく光る缶、ほっと吐いた息にオレンジかすかに混じる。
爽やかで甘い香は懐かしくて記憶の数だけ愛しくて、けれど今は知ってしまった理由に笑いかけた。
「周太、今日はのど飴いくつ食べた?」
はちみつオレンジの香は咳こんだ痕。
咳こんだ数だけ今日を無理した、その理由を聴きたいけど訊けない相手は小さく笑った。
「ん…ふたつ?」
「俺にもくれる?持ってるんだろ、」
笑いかけたテーブルの向こう、カーディガン姿が立ち上がってくれる。
ハンガー掛けたダッフルコートのポケット探す、その背中が3ヵ月前より細い。
夏の終わりにも見たカーディガンの背中、あの体温また捉まえたくて英二はソファを立った。
「周太、」
名前を呼んで腕を伸ばし、カーディガンの背中そっと抱きしめる。
ふわりオレンジ甘く頬かすめて黒髪やわらかに顎ふれる、この身長差なにも変わらない。
それなのに抱きしめた肩は華奢になった、その現実はニット透かす体温にも告げられて微笑んだ。
「すこし熱っぽいんだろ、周太?先に風呂すませてくれていいよ、楽になるから、」
きっと無理をした、そんな容子に夕暮の電子文字が映りこむ。
“ いま向かいのビルが窓割れた、なんか機動隊っぽいの突入したけど全員マスクしてる怖い何? ”
ビルの窓を割ったのは、いま抱きしめる人の手かもしれない?
その結果は何が起きたか未だ解らなくて、それでも信じている。
この人は何があっても変らない、そして変えられそうにない想いごと抱きしめた肩そっと微笑んだ。
「ありがとう英二、でも英二こそ先に入って…冷えちゃったでしょ、」
優しい言葉ほほ笑んで手に掌を重ねてくれる。
ふれる温もり少し熱い、きっと疲れの微熱ある手に笑いかけた。
「だったら周太、一緒に入ろ?もうずっと一緒に入ってないよ、」
君と一緒の風呂なんて、もう何ヶ月前の事だろう?
考えて直ぐ思いだせない程その時間が遠い、あれは夏だ。
『北岳草を必ず見せて?英二、』
北岳草、あの花を約束した夜から5ヶ月すぎた。
あの約束の夏まであと7ヶ月、この時間に自分は何を出来るだろう?
そして今日まで自分は何を出来たのか?その焦り願いごと抱きしめる人が羞んだ。
「…いっしょにはいるのはだめです」
やっぱり今夜は拒まれちゃうんだ?
こんなこと当たり前だろう、だって今夜は話すためにある。
それなのに一緒に風呂へ入れば済し崩し、そんな予想と納得に笑った。
「じゃあ周太から入ってよ?そうしないと俺、周太を連れこむの我慢できそうにないよ?」
こう言えばきっと先に入ってくれる、そう謀った台詞に赤い首すじが肯った。
「ごはん食べたらはいります…だからちょっとはなれて?」

水音くぐもる扉越し、気配たしかめながらイヤホンに耳澄ます。
午後に掴んだばかりの鍵は耳元で語ってゆく、その記憶を刻む。
“ 電話したら晉伯父さんが出てくれた、待っていたと言われたよ…それでここに待ち合せて、英二の言う通り不起訴記録を私は見せたよ、”
綺麗な低い声は録音にも透ってゆく。
もう覚悟を決めた、そんなトーンに父の声は語る。
“ なぜ不起訴にしたのか、その理由は小説の通りなのかと訊くことは正直怖かった、もし事実なら法律も法曹も解らなくなるからな…でも訊いた、”
語る言葉を追いながらチェスターフィールドのウィングバックが映りだす。
重厚なめらかな革張りの椅子に端正な顔は佇んだ、あの切長い瞳は過去を見ていた。
“ すべて事実だと伯父さんは認めたよ、いつもどおり静かに笑ってな…戦後を支えた学者のスキャンダルだ、国ぐるみ隠したがるのは当然だろう、
そう納得しながらも信じたくなかったよ、国も法律も個人を守る存在じゃ無いと認めることだからな?司法試験に受かったばかりの私には厳しかった、”
静かな口調、けれど絶望が悶えている。
この想いを父は三十三年ずっと抱いていた、その後悔を自分はしたくない。
「…だから周太、俺を棄てないでよ?」
独り呟きながら録音を頭脳へ覚えこむ。
もう三十年より前に断絶された父と湯原家の選択、けれど自分が再び繋いでしまった。
そのことを父は何を想い見つめていたのだろう?そんな推測に3月の言葉が今やっと解かる。
『この息子は、お家にとって邪魔ではありませんか?ご迷惑であれば、今すぐ私が無理にでも連れて帰ります、』
春3月、川崎の家に訪問した父は自分を連れ戻しに来た。
あれは同性愛の結婚を止めに来たのだと想っていた、けれど本当は違う。
『とても恨むことは出来ません、私は心から納得するしかありません…同じ男として私は息子が羨ましい、英二が選ぶなら私には止められません、』
三十三年の後悔は今も哭いている、だから父は納得するしかなかった。
三十三年前に父が選びたかった道は今の父とは違う、だから息子を羨ましいと言ったのだろう。
だから息子の選択を父は止めない、その証に渡された封書は封緘されたまま自分の鞄に入っている。
―物証も証言も揃ったけど、確実に観碕を追い詰めるには、
五十年前の不起訴記録と拳銃、小説、そして田嶋の証言と父の証言。
不起訴記録には観碕の名前も記される、これが不正なのだと小説と父の証言が裏付ける。
小説の信憑性は拳銃とその埋められていた「奈落」の所在地、それを田嶋の証言は傍証してくれる。
これだけ揃えても観碕は否定するかもしれない?けれど構わない、
「…どうせ時効だしな、」
独りごと微笑んでイヤホンの台詞に頷けてしまう。
“ 国も法律も個人を守る存在じゃ無いと認めることだからな ”
そう父が言った通りだ、きっと「個人」を護るためじゃない。
だから観碕はいつも大義名分が必要なのだろう、そんな男だと今もう直接に知っている。
こんなふうに集めてきた事実たちを今夜、あのひとは全てを聴きだそうとするだろうか?
『僕は14年ずっと父を探してきたよ、父の全部を受けとめる覚悟も出来てるんだ、良いことも悪いことも僕は知りたいんだよ?庇われたくない、』
大雪の夜、そう電話ごしの周太は告げた。
知りたいと告げて会いたいと言ってくれた、だから「知りたい」が目的だろう。
そう解っているから今も想いが解らない、今、周太は自分を想ってくれているだろうか?
―飯のときは他愛ない話しか出来なかったな、呑ませても酔ってくれないし、
大雪のこと、大量遭難事故のニュース、芦峅寺出身の谷口のこと。
そんな話を訊かれるまま口にして食事した、周太も大学の話をしてくれた。
缶ビールとオレンジジュースで作った即席のカクテルも喜んでくれた、あの酒に夏の約束を想ってほしかった。
そんな願いと食事したテーブルはもう片付いて今は缶ビールひとつだけ、この風景に他愛ない会話すら幻のよう想えてしまう。
今夜ここに居るのは現実だろうか?
「…あわよくばって考えてはいたけど、」
本音こぼれて笑いたくなる、今夜ここに期待してしまう自分が可笑しい。
あの電話から相手の想い量っては自信失くしそうで、それでも縋りたい本音に公園も2度待った。
もう来てくれないかもしれない?そんな不安にも離れられなくてベンチ座りこんで、そうして逢えた今だから期待したなくなる。
諦めかけて、そして掴めた今の時間だから想いすら取戻せる?
そんな期待するから今も録音を記憶している。
この証言から得られる「鍵」まだあるかもしれない、まだヒント隠れている?
その可能性に探るまま声は終わって、ほっと息吐きイヤホン外して水音に気がついた。
「…泣いてる?」
シャワーの音かすかに嗚咽まじっている?
そう気がつくまま小さな機械ポケットにしまい、浴室の扉に立った。
さああっ、…ぅ、
水降りそそぐ音、そして小さな微かな声。
それでも確かに泣いている気配に英二は呼び掛けた。
「周太?どうした、」
かたん、
掴んだドアノブ素直に回って扉が開く。
ふわり石鹸の香ふれて湯気くゆらし熱ふれる、そのカーテン向こう気配ふり返る。
きっと泣いている、そう解ってしまう空気ごとカーテン引いて湯の飛沫ふる背中を抱きしめた。
(to be continued)
にほんブログ村
心象風景写真ランキング
blogramランキング参加中!

第78話 冬暁 act.9-side story「陽はまた昇る」
ルームライトのオレンジ色は記憶のままに暖かい。
師走の早い日没に夜は来る、もうカーテン向こうは黄昏も暮れる。
それでも小さな一室はルームランプに明るんでテーブル越しの横顔を照らす。
すこし伏目がちに睫の翳が長い、その首すじ昇らす薄紅色に英二は笑いかけた。
「周太、隣に座ってくれないの?」
せっかく二人掛けのソファなのにな?
そんな想い笑いかけたテーブル越し黒目がちの瞳こちら見て、穏やかな声が言った。
「ごはん食べるには窮屈でしょ、英二の体大きいから…家でも食事の時は向いあいだし、」
すこし羞んだようなトーン答えてくれながら包み開いてくれる。
買ってきた惣菜ならべる仕草は手際いい、相変わらずの主夫姿が嬉しくて微笑んだ。
「周太が並べてくれると美味そうになるな、周太の料理が食べたくなる、」
手料理、もうどれくらい食べていないだろう?
そんな月日数えかけた前に缶ビールさし出された。
「あの…はい、」
今きっと恥ずかしがって困っているな?
こんな貌も懐かしくて嬉しいまま受けとった。
「ありがとう周太、」
「はい…あの、いただきます、」
また気恥ずかしげに答えて箸をとる。
その仕草ひとつ端正に変わらなくて、見惚れながらプルリング引いた。
かつん、
乾いた音に口づけ啜りこんで、ほろ苦い。
アルコールの香、水滴あわく光る缶、ほっと吐いた息にオレンジかすかに混じる。
爽やかで甘い香は懐かしくて記憶の数だけ愛しくて、けれど今は知ってしまった理由に笑いかけた。
「周太、今日はのど飴いくつ食べた?」
はちみつオレンジの香は咳こんだ痕。
咳こんだ数だけ今日を無理した、その理由を聴きたいけど訊けない相手は小さく笑った。
「ん…ふたつ?」
「俺にもくれる?持ってるんだろ、」
笑いかけたテーブルの向こう、カーディガン姿が立ち上がってくれる。
ハンガー掛けたダッフルコートのポケット探す、その背中が3ヵ月前より細い。
夏の終わりにも見たカーディガンの背中、あの体温また捉まえたくて英二はソファを立った。
「周太、」
名前を呼んで腕を伸ばし、カーディガンの背中そっと抱きしめる。
ふわりオレンジ甘く頬かすめて黒髪やわらかに顎ふれる、この身長差なにも変わらない。
それなのに抱きしめた肩は華奢になった、その現実はニット透かす体温にも告げられて微笑んだ。
「すこし熱っぽいんだろ、周太?先に風呂すませてくれていいよ、楽になるから、」
きっと無理をした、そんな容子に夕暮の電子文字が映りこむ。
“ いま向かいのビルが窓割れた、なんか機動隊っぽいの突入したけど全員マスクしてる怖い何? ”
ビルの窓を割ったのは、いま抱きしめる人の手かもしれない?
その結果は何が起きたか未だ解らなくて、それでも信じている。
この人は何があっても変らない、そして変えられそうにない想いごと抱きしめた肩そっと微笑んだ。
「ありがとう英二、でも英二こそ先に入って…冷えちゃったでしょ、」
優しい言葉ほほ笑んで手に掌を重ねてくれる。
ふれる温もり少し熱い、きっと疲れの微熱ある手に笑いかけた。
「だったら周太、一緒に入ろ?もうずっと一緒に入ってないよ、」
君と一緒の風呂なんて、もう何ヶ月前の事だろう?
考えて直ぐ思いだせない程その時間が遠い、あれは夏だ。
『北岳草を必ず見せて?英二、』
北岳草、あの花を約束した夜から5ヶ月すぎた。
あの約束の夏まであと7ヶ月、この時間に自分は何を出来るだろう?
そして今日まで自分は何を出来たのか?その焦り願いごと抱きしめる人が羞んだ。
「…いっしょにはいるのはだめです」
やっぱり今夜は拒まれちゃうんだ?
こんなこと当たり前だろう、だって今夜は話すためにある。
それなのに一緒に風呂へ入れば済し崩し、そんな予想と納得に笑った。
「じゃあ周太から入ってよ?そうしないと俺、周太を連れこむの我慢できそうにないよ?」
こう言えばきっと先に入ってくれる、そう謀った台詞に赤い首すじが肯った。
「ごはん食べたらはいります…だからちょっとはなれて?」

水音くぐもる扉越し、気配たしかめながらイヤホンに耳澄ます。
午後に掴んだばかりの鍵は耳元で語ってゆく、その記憶を刻む。
“ 電話したら晉伯父さんが出てくれた、待っていたと言われたよ…それでここに待ち合せて、英二の言う通り不起訴記録を私は見せたよ、”
綺麗な低い声は録音にも透ってゆく。
もう覚悟を決めた、そんなトーンに父の声は語る。
“ なぜ不起訴にしたのか、その理由は小説の通りなのかと訊くことは正直怖かった、もし事実なら法律も法曹も解らなくなるからな…でも訊いた、”
語る言葉を追いながらチェスターフィールドのウィングバックが映りだす。
重厚なめらかな革張りの椅子に端正な顔は佇んだ、あの切長い瞳は過去を見ていた。
“ すべて事実だと伯父さんは認めたよ、いつもどおり静かに笑ってな…戦後を支えた学者のスキャンダルだ、国ぐるみ隠したがるのは当然だろう、
そう納得しながらも信じたくなかったよ、国も法律も個人を守る存在じゃ無いと認めることだからな?司法試験に受かったばかりの私には厳しかった、”
静かな口調、けれど絶望が悶えている。
この想いを父は三十三年ずっと抱いていた、その後悔を自分はしたくない。
「…だから周太、俺を棄てないでよ?」
独り呟きながら録音を頭脳へ覚えこむ。
もう三十年より前に断絶された父と湯原家の選択、けれど自分が再び繋いでしまった。
そのことを父は何を想い見つめていたのだろう?そんな推測に3月の言葉が今やっと解かる。
『この息子は、お家にとって邪魔ではありませんか?ご迷惑であれば、今すぐ私が無理にでも連れて帰ります、』
春3月、川崎の家に訪問した父は自分を連れ戻しに来た。
あれは同性愛の結婚を止めに来たのだと想っていた、けれど本当は違う。
『とても恨むことは出来ません、私は心から納得するしかありません…同じ男として私は息子が羨ましい、英二が選ぶなら私には止められません、』
三十三年の後悔は今も哭いている、だから父は納得するしかなかった。
三十三年前に父が選びたかった道は今の父とは違う、だから息子を羨ましいと言ったのだろう。
だから息子の選択を父は止めない、その証に渡された封書は封緘されたまま自分の鞄に入っている。
―物証も証言も揃ったけど、確実に観碕を追い詰めるには、
五十年前の不起訴記録と拳銃、小説、そして田嶋の証言と父の証言。
不起訴記録には観碕の名前も記される、これが不正なのだと小説と父の証言が裏付ける。
小説の信憑性は拳銃とその埋められていた「奈落」の所在地、それを田嶋の証言は傍証してくれる。
これだけ揃えても観碕は否定するかもしれない?けれど構わない、
「…どうせ時効だしな、」
独りごと微笑んでイヤホンの台詞に頷けてしまう。
“ 国も法律も個人を守る存在じゃ無いと認めることだからな ”
そう父が言った通りだ、きっと「個人」を護るためじゃない。
だから観碕はいつも大義名分が必要なのだろう、そんな男だと今もう直接に知っている。
こんなふうに集めてきた事実たちを今夜、あのひとは全てを聴きだそうとするだろうか?
『僕は14年ずっと父を探してきたよ、父の全部を受けとめる覚悟も出来てるんだ、良いことも悪いことも僕は知りたいんだよ?庇われたくない、』
大雪の夜、そう電話ごしの周太は告げた。
知りたいと告げて会いたいと言ってくれた、だから「知りたい」が目的だろう。
そう解っているから今も想いが解らない、今、周太は自分を想ってくれているだろうか?
―飯のときは他愛ない話しか出来なかったな、呑ませても酔ってくれないし、
大雪のこと、大量遭難事故のニュース、芦峅寺出身の谷口のこと。
そんな話を訊かれるまま口にして食事した、周太も大学の話をしてくれた。
缶ビールとオレンジジュースで作った即席のカクテルも喜んでくれた、あの酒に夏の約束を想ってほしかった。
そんな願いと食事したテーブルはもう片付いて今は缶ビールひとつだけ、この風景に他愛ない会話すら幻のよう想えてしまう。
今夜ここに居るのは現実だろうか?
「…あわよくばって考えてはいたけど、」
本音こぼれて笑いたくなる、今夜ここに期待してしまう自分が可笑しい。
あの電話から相手の想い量っては自信失くしそうで、それでも縋りたい本音に公園も2度待った。
もう来てくれないかもしれない?そんな不安にも離れられなくてベンチ座りこんで、そうして逢えた今だから期待したなくなる。
諦めかけて、そして掴めた今の時間だから想いすら取戻せる?
そんな期待するから今も録音を記憶している。
この証言から得られる「鍵」まだあるかもしれない、まだヒント隠れている?
その可能性に探るまま声は終わって、ほっと息吐きイヤホン外して水音に気がついた。
「…泣いてる?」
シャワーの音かすかに嗚咽まじっている?
そう気がつくまま小さな機械ポケットにしまい、浴室の扉に立った。
さああっ、…ぅ、
水降りそそぐ音、そして小さな微かな声。
それでも確かに泣いている気配に英二は呼び掛けた。
「周太?どうした、」
かたん、
掴んだドアノブ素直に回って扉が開く。
ふわり石鹸の香ふれて湯気くゆらし熱ふれる、そのカーテン向こう気配ふり返る。
きっと泣いている、そう解ってしまう空気ごとカーテン引いて湯の飛沫ふる背中を抱きしめた。
(to be continued)

心象風景写真ランキング
blogramランキング参加中!
