萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第78話 冬暁 act.5-side story「陽はまた昇る」

2014-08-13 23:50:00 | 陽はまた昇るside story
ice nucleation 忘却の粋核



第78話 冬暁 act.5-side story「陽はまた昇る」

白い花、深紅の花に黒紫、その墓前に雪まだ残る。

黒い墓碑の頭上は曇るまま白く動かない、けれど風ゆるく頬冷やす。
静かな石畳にチャコールグレーのコートは佇んで見つめてくる、この見慣れた顔に英二は微笑んだ。

「父さん、俺を見て馨さんだと思ったから驚きましたよね、なぜ馨さんのこと忘れた顔するんですか?」

言葉遣いから変えて声のトーン変えていく。
この話し方も声も父には伝わらないかもしれない、でも知っている可能性は高い。
馨はオリンピックにも出場経験がある、だから知っているはずの声と顔の前で父は静かに言った。

「英二、どういう意味だ?」
「父さんも解ってますよね、あの小説を読んで気づいて、だから忘れた顔してる、」

きっと父は読んだのだろう?
だからこそ忘れたフリしている、その確信に切長い瞳ゆっくり微笑んだ。

「どの小説のことだろう、」
「お祖母さんが大切にしている本です、父さんも読んだって聴いたよ?」

証人の名と笑いかけた真中で端整な顔が静かにため息吐く。
もう観念するのだろう?そんな顔は花束片手に小さく笑った。

「父の墓前で訊くなんて英二、考えたな?」

父は父親、祖父の前で嘘吐くなんて出来ない。
それを解かっているから選んだ場所に問いかけた。

「お祖父さんにも聴いてもらいたいんです、聴くべき人だって父さんも解ってますよね?万年筆の単語を読んでるから、」

ただ一単語、それでも父なら意味を気づくだろう?
この推測と見つめた墓前に綺麗な低い声が尋ねた。

「いつフランス語の勉強したんだ?大学ではドイツ語だったろうに、」

フランス語、

これを言ってしまったなら自白も同然だ。
そして辿れる推定と笑いかけた。

「父さんは子供の頃にフランス語を教わりましたよね、斗貴子さんから、馨さんと一緒に、」

これは証人がいる、だから言い逃れはさせない。
そう見つめた真中で端正な顔は溜息ひとつ微笑んだ。

「夏に葉山へ行ったのは英二、事情聴取が目的か?」

事情聴取だなんて父こそ今の本音だろう?
そんな相手に笑って問いかけた。

「あの小説も届いてすぐ読んでますよね、大学が正月休みで帰省中だったから。それなのになぜお祖父さんに内容を話さなかったんですか?」

あのとき晉は時期を選んで送っている、その意図は父だ。

『 La chronique de la maison 』

パリ郊外に舞台を変えても描かれる屋敷は全く同じ。
家族構成も変らない、ただ親戚は誰も登場しないだけで国籍も違う。
けれど人間の職業や性別は同じで感情もきっと事実のまま、そんな「記録」に問いかけた。

「小説は事実だと考えたから、だから裁判官でも検事でもなく弁護士なんですか?」

なぜ父は弁護士を選んだのか?

その理由を深く考えたことは無かった、だけど「小説」で説明がつく。
あの事実を知ったら父が何を選ぶのか?解っているから笑いかけた。

「あの小説が事実だから母さんと結婚したんだろ?鷲田の祖父なら家ごと護れるから、」

ずっと不思議だった、なぜ父があの母と結婚したのか?

『良い学校を出て良い会社に入り、良い妻を迎える。それで人生は無事に過ぎていくとただそれだけだった、誇りも意味も私には見つかっていない、』

卒業式の翌日、帰った実家の夜に父はそう言った。
あのときは解らなかった言葉、けれど今なら解かる想いに父は微笑んだ。

「私を軽蔑するかな、英二は、」

軽蔑、

そんな言葉に父の傷みが軋む、だって不似合だろう?
京都大学法学部を出て一流企業の法務室で国際弁護士を務める、その経歴はエリートと言って良い。
それなのに本人自身は卑屈な本音を苦しんできた、そこにある願いも真実も見つめながら微笑んだ。

「軽蔑したことは無いよ、父さんが美幸さんに恋したことは正直ちょっと傷ついたけど、でも納得もしてるから、」

これは本音、だって父が恋しても仕方ない。
そして責めることも出来ないまま父が小さく笑った。

「納得するなんて英二、おまえも美幸さんに好意があるみたいな言い方だな?」
「好きだよ、」

あっさり言葉が出てまた自覚させられる。
そんな自分に笑った真中で困ったよう微笑んだ。

「英二、おまえは周太くんに本気なはずだろう?」
「本気だよ、あの家まるごと周太が好きなんだ、」

笑いかけながら自分の欲深さに呆れてしまう。
それすら今は可笑しくて笑った向こう父が口開いた。

「私もあの家が好きだよ、だから小説を読んだ時すぐ解かって、怖くなったよ、」

怖くなった、そんな言葉に父の今までが解かる。
これが普通の反応だろう、そう納得するまま笑いかけた。

「父さん、川崎の事件について教えてもらえる?弁護士なら色んな方法で調べられるよな、同期から内部事情も聴いてるだろ?修習で伝手を作れるから、」

この男ならそれくらい出来るだろう、だって自分の父親だ?




(to be continued)

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short scene talk ふたり暮しact.60―Aesculapius act.73

2014-08-13 23:32:04 | short scene talk
二人生活@帰省
Aesculapius第5章act.5-6の幕間



short scene talk ふたり暮しact.60―Aesculapius act.73

「雅樹さん、鉢植えの積みかたってコレで良いかね?」
「大丈夫だよ光一、忘れもの無いかな?(ああ一緒に帰省って幸せだな照幸)」
「うんっ、オヤジたちの写真も持ったし大丈夫だよ?(冷蔵庫も冷凍室も空だしブレーカー切ったし)」
「じゃあ…帰ろうか?照(行くじゃなくて帰るって幸せ照れるな)」
「うんっ、帰ろうかってイイねっ、ふたりの家だもんねっ(ほんとに一緒の家だもんね)」
「ふ…照(ふたりの家って幸せ照れるな嬉しい照萌)」
「じゃあ雅樹さん、運転お願いしまーす(ご機嫌笑顔)」
「はい、出発するよ?(お願いしますって可愛い光一こういう気遣い嬉しい萌)」
「うんっ、本家に一緒に帰るお初だねっ(初めてだね暮らすために帰るの)」
「そうだね、照(ああなんか照れるな萌)光一、お昼なに食べたいかな?」
「帰り道で通る店ならサービスエリアとかかね?(アレコレあるよね)」
「ファミレスとかでも良いよ?河辺のあたりは色々あるし、(そういえば光一ってファミレス行ったこと)」
「うんっ、ふぁみれすってヤツ行ってみたいね、(ご機嫌笑顔)(ソレ行ったことないんだよね話には聞いてるけど)」
「じゃあ河辺でお昼にしようね(笑顔)(やっぱり行ったことなかったよね明広さんがファミレスは行かなかったし家の辺りにも無いし)」



雅樹と光一@帰省その1.出発 って感じです、笑

Aesculapius「智者の杜」読み直したら校了です、
第78話まだ加筆します、出先から取り急ぎ、笑




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雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚181

2014-08-13 14:19:12 | 雑談寓話
雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚181

花サンと雪山散歩してアレコレ話して、
御曹司クンの拗ね発言を聞いて困ったなーどうするか考えながら宿戻って、

「また後でね、笑」

ってお互い温泉に行ったら濁り湯で、
星空が近いな思いながら浸かってどうするかな考えた、

御曹司クン今回の雪山&温泉を花サンに文句つけていて、
ソレが花サンには苦痛でまたストレスになることが心配だな思った、
っていうかアイツまじ問題点を分かっていないだろ?

もし今回の雪山ハイクに文句つけたのが昨夜なら、花サンの自傷の重みを分かっていない、
自分から事情を聞く前だとしても単なるワガママ嫉妬がすぎる、だって「つきあっていない」んだから?

『本命は他にいるよって言われてね、私のこと一番好きだからつきあってるんじゃないのって訊いたら困った顔されて黙られちゃって、』
『なんでトモさんとは泊りで出掛けるんだって責められちゃった、俺には断ったくせにって。友達とは泊りに行くのに俺とは無いって友達以下だろってね?』

なんて感じに花サンは御曹司クンに言われたと言っていたワケで、
御曹司クン自身も年明けその件についてきっちり断言した、

『お互いつきあってる相手もいないし別に変じゃないし』

お互い付合ってる相手もいない、っていうのは花サン&御曹司クンのこと、
だから御曹司クンは「花サンと付合ってるつもりはない」と断言している、こんなこと言いながらも

『友達とは泊りに行くのに俺とは無いって友達以下だろ』

なんて言っている御曹司クンの意図はいわゆる、友達以上恋人未満ってやつなんだろう?
で、ナンデ御曹司クンがこんなこと言ったりやったりしてるのか~って結論が嫌だった、

From:御曹司クン
本文:なんでいきなり帰るんだよ?そんな怒るなんて田中さん誘ったから?
   俺と田中さんが一緒してもおまえに怒る権利なんて無いだろ、俺だって自由にデートしていいじゃん?
   おまえが俺のこと本気で好きでつきあってくれてるんなら怒られて当り前だって思う、それなら俺だって謝るけど。

From:御曹司クン
本文:返信くれていないけど休日で圏外なだけ?それとも嫌われてる?
   田中さんのこと怒ってるんならもう会ったりしないから許してよ、
   俺のこと無視しないで、ほんと何でも言うこと聴くから会いたい、

あんなメール送ってくるアタリ御曹司クンはホントに解かっていない、
なんで自分が怒っているのか解ってくれない、こんな意思疎通の断絶はキツイ、

ほんとこれからどうしよっかな?

そんなこと考えながら温泉ぼんやり浸かって星を見あげて、
かなりノンビリしてから部屋に戻ったけど花サンやっぱり戻っていなかった、
いつも長風呂の花サンだから予想通りな展開で、自分も旅先のいつも通りに絵葉書を書いて、
冷たいモン飲みながら持参のPC繋いでやることやって携帯のメールチェックしたら受信があった、

From:歯医者
本文:こんばんわ、あの本読み終わりました。こういう見方があるんだなって面白かったです。
   次なにかおススメありませんか?あなたの紹介なら小説も面白いのかなとか期待しています、

小説はあまり読まないマニュアル本でてっとり早く知識吸収→自分磨きしたい、
そんなこと言ってた顔はまだ2度しか会っていないだけに記憶は正直曖昧だった、
だけど話していた言葉とかは憶えているから少し考えて、で、思いついたまま紹介した、

Re :そちらの地元を舞台にした小説ですけど、古美術の世界なので知識吸収にも良いと思います。
   アレな人って骨董や芸術の知識で人間レベル量ってくる人もいるし役立つかもしれません、笑

なんて書き出しで小説ひとつ紹介して、
そしたら間もなく返信が着た、

Re2:地元が舞台って面白そうですね、古美術の店が多いのは患者さんから聴くこともあります。
   そういう知識も社交上あると便利ですよね、さっそく探して読んでみます。

ってカンジの返事に相変わらずの優等生っぽさ笑って、
そしたら真赤に茹で上がった上機嫌の花サンが戻ってきた、

「はーーいいお湯だったね、そっちも星見えた?」

なんて言った花サンはツキモン落ちたみたいにスッキリで、とりあえず元気になったらしい顔にすこしだけ安心した。

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第78話「冬暁5」草稿UPしてあります、英二と父の対話です。
Aesculapius「Chiron 智者の杜6」読み直したら校了、夏休み前日=終業式の日になります。
この雑談or小説ほか面白かったらバナーorコメントお願いします、続けるバロメーターにもしてるので。
楽しんでもらえてたら嬉しいんですけど、ってことで短いけど続きです、笑

取り急ぎ、



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