chastely 君のままで
第78話 冬暁 act.11-side story「陽はまた昇る」
あまい香は林檎、ふたり重ねた掌にたずさえる。
ふたくち齧った痕あざやかに白い、その紅い実に掌ふたつ温まる。
ビジネスホテルの狭いソファふたり座って、林檎ひとつ挟んだ瞳は真直ぐ自分を映す。
澄んだ黒目がちの瞳は無垢のまま揺るがない、この変わらない眼差しに英二は微笑んだ。
「周太、誰も死なせていないって、どういう意味で言ってくれてるんだ?」
今、言ってくれた言葉もういちど聴かせてほしい。
そこにある今日と3ヵ月の現実を受けとめたくて、ただ微笑んだ前で長い睫ゆっくり瞬き言った。
「そのままの意味だよ、僕は誰ひとり死なせていないから…英二のおかげだよ?」
穏やかな声そっと笑って見つめてくれる。
その言葉に眼差しに言えない事実を見つけ笑いかけた。
「俺の救急法ファイル、実戦でも実践できたんだな、周太?」
実戦、実践、同じ音の言葉、けれど意味は違う。
この同音異義語ふたつ重ねた質問へ困ったよう見あげてくれた。
「あの、えいじ?もしかしてその…それオヤジギャグとかいうやつなの?」
今どんな反応したら良いの?
そう困惑が黒目がちの瞳に見あげてくれる、この真面目なままが嬉しくて尋ねた。
「前に黒木さんが言ったんだ、周太、こういうのは面白がってくれる?」
今すこし肩の力抜きたい、だから勝手に拝借してみた。
なにより拝借相手が面白いだろう?そんな意図に黒目がちの瞳つい笑ってくれた。
「ふっ…ちょっと面白いかな、だって黒木さんがそんなこと言うなんて…それ冗談のつもりで言ったのかな、それとも真面目に言ったの?」
やっぱりそこが面白い?
こんなことでも共有できた感覚が嬉しくて笑いかけた。
「黒木さんが言ったってこと自体が面白いだろ?土曜の大雪のとき言ったんだよ、七機に戻ってミーティングしてる時にさ、」
「そんなオフィシャルな場で言っちゃったの、黒木さん…光一にツッコまれちゃったんじゃない?」
可笑しそうに訊き返してくれる笑顔に嬉しくなる。
こうして単純に面白がって笑ってほしい、そうして寛いでほしい人に応えた。
「嬉しそうにツッコンだよ、実戦で実践なんてアッチの時も使えそうだねって絡んだから黒木さん、怒ったみたいな貌で真赤になってた、」
「ん、あっちのとき…?」
なんのこと?そんな問いかけ見あげてくれる。
その純粋な眼差しに初めての知識を染めたくて、そっと顔よせ耳打ちした。
「周太も知ってるだろ?夜…時だよ、それこそ実戦で実践だろ?」
こんなこと言ったら恥ずかしがるに決まっている、そして慌てるだろう?
そこに生まれる隙のはざまテーブルへ腕伸ばしナイフ畳んだ隣、林檎ともに持つ手が熱くなった。
「そ、そんなことまたっ…えいじのえっちばかちかんっ、」
ああこの台詞ほんと懐かしいな?
こんなふう罵られることすら君だと幸せ、そう想う自分は馬鹿だろう。
こんなに自分を馬鹿にしてしまう人だから護りたくて今日まできた、その想いごと笑った。
「これくらい24歳の男なら普通の会話だよ、周太?ほんと相変わらず周太は初心だな、そういうとこ大好きだよ、」
本当に君だから大好きになった、道ならぬ恋と言われる事も解かっているのに?
同性に恋愛して人生懸けるなんて馬鹿だと言われる、蔑まれ差別すらある、そんなこと最初から解っていた。
それでも願いたい幸せはこの隣にしかない、そう気がつかされる瞬間は傍にいない時間こそ思い知らされて離れない。
だから今日も、きっと逢えば笑顔ばかりじゃないこと知りながら逢いたくて、罵られ詰問される覚悟ごと笑った真中で黒目がちの瞳が微笑んだ。
「ほんとえいじばか…でも、ありがとう英二、」
ありがとう、
そう告げて黒目がちの瞳が微笑んでくれる。
林檎ひとつ重ねた掌に優しい手もう一つ重ねて、穏やかな声は言ってくれた。
「ありがとう英二、英二のお蔭で僕ほんとにね…ありがとう、救けてくれて、」
ありがとう、それだけしか言えなくても笑ってくれる。
その瞳は澄んで明るい、そして前より勁くなった眼差しに現実は伝わる。
―現場に行ったんだな周太、そこで怪我した人を救けて、
今日そのために約束の時間は来られなかった。
今日この街あちこちで自分が待っていた時間、あのとき生命の境にこの瞳は佇んだ。
いま林檎に重ねた手は今日どこか誰かの救い手だった、そんな手が愛しくて放せない。
「周太、俺こそありがとう、もう何度もファイル使ってくれたんだろ?」
この問いかけだって答えそのままは言えないのだろう?
そう解っているけれど今は受けとめたくて、その願いに優しい声が微笑んだ。
「ん…それで英二、聴きたいことがあるんだけど、」
「応急処置のことか?」
訊き返しながら頭脳のファイル捲りだす。
けれど林檎はさんだ静かな瞳が問いかけた。
「英二、なぜ金曜日は本庁でボルダリングしてたの?」
本庁は、警視庁本部のこと。
そこで何があったのか周太は尋ねた、それが秘密ひとつ暴露する。
だって周太が土曜日どこで何をしていたのか明かしてしまう、それでも問いかけた瞳に確かめた。
「そんなこと訊いて良いのか周太、金曜日は周太が本庁に居たって言ってるのと同じだよ?俺に話していいのか、守秘義務だろ?」
守秘義務があるんだろ、なんて質問もまた暴露を誘ってしまう。
それは問われた相手も解かっている、それでも静かな声は告げた。
「僕が話したら英二も話してくれるでしょ、だから…英二、どうして本庁の壁をスーツ姿でクライミングしていたの?」
また訊かれて鼓動そっと軋みだす。
こういうことだと解って今日は逢いに来た、それでも傷みに微笑んだ。
「俺に尋問するために今夜は一緒にいてくれるんだ、周太?」
きっと逢えば詰問される、それくらい解かっていた。
けれど現実に目的を宣言されたら哀しいのは自分だけの未練だろうか?
そんな傷みにも林檎の重ねた手は温かい、この温もりだけ見つめたいけれど口開いた。
「本庁の壁でクライミングなんて真面じゃないな、でも周太は見たのか?」
真面じゃない、そう自分でも思っている。
だから嘘なんて吐いてない、そう笑いかけた真中で黒目がちの瞳ゆっくり瞬いた。
「英二、僕の見間違いだって言うの?」
「金曜は俺、本庁に居たよ、」
問いかけに言葉かけて笑いかける。
けれど答えなんて本当は言っていない、それでも嘘は無いまま事実を告げた。
「山岳警備隊の研修会があったんだ、午後は警視庁のメンバーでミーティングだったよ。吉村先生も救急法の講師でいらしてた、」
どれもが事実、そして探られても破られない。
だから口にした答えに穏かな声が尋ねた。
「後藤さんと光一もだよね、後藤さんは山岳救助の技能指導官で警視庁山岳会長、光一は山岳レンジャーの小隊長だし。他は誰がいたの?」
「原さんがいたよ、所轄の山岳救助隊の代表で、」
また事実を答えて、けれど黒目がちの瞳が見つめてくる。
もしかして訊くのだろうか?その予想まま周太が尋ねた。
「他には?…所轄も関わるから原さんがいたんでしょう、それなら所轄の上の人は?」
自分は君をみくびっていた、少し前まで。
この自分が君に尋問されるなんて考えたこと無かった、少し前までは。
この自分なら誰に問われても崩れない、けれど崩れたくなる唯ひとりの相手に微笑んだ。
「地域部長の蒔田さんもいらしたよ、周太のお父さんの同期だって言ってた、」
カードひとつ自分から捲ってみせる。
これで満足してくれるだろうか?そうしたら自分は崩されない。
だってアリバイの鍵は「蒔田」だ?
「…蒔田さんと英二、親しいの?」
ほら、質問ひとつ与えてくれる。
この問いかけ素直に笑いかけた。
「青梅署で何度かお会いしてるよ、奥多摩交番に勤めている時にお父さんと話すこともあったって言ってた、」
聴きたいだろう、このことは。
『僕は14年ずっと父を探してきたよ、父の全部を受けとめる覚悟も出来てるんだ、良いことも悪いことも僕は知りたいんだよ?』
そう告げた君なら父親の欠片が欲しいだろう。
だから見せたカードに黒目がちの瞳ゆっくり瞬き、尋ねた。
「英二、なぜ蒔田さんの執務室からボルダリングする必要があったの?」
ほら、やっぱり君は追及してくる。
このため今夜ここに君は来た、そう解かるから微笑んだ。
「蒔田部長の部屋には行ったよ、でも何しに行ったと周太は思うんだ?」
「お手伝いとか英二はあるよね、そのメンバーなら、」
すぐ答えられて詰められる、この調子では少し危ないだろうか?
そんな想定も可笑しくて笑いかけた。
「俺がいちばん下っ端だから?」
「コピー取るとか飲み物を買いにとか…動ける機会たくさんあるよね、英二は、」
穏やかな声また問いかけてくる。
その言葉たちに困らされながらも今この事態なにか楽しくて笑いかけた。
「コピー取りに蒔田さんの部屋に行ったよ、コーヒーも買いに出たけど。俺は普通に廊下を歩いてエレベータに乗ったよ、周太?」
これも事実、そして君はこれ以上もう解らない。
このまま、解らないまま傍にいてほしいと願うのは身勝手だろうか?
自分が「誰」なのか知らないまま、ただこの自分を見つめて傍にいて。
(to be continued)
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第78話 冬暁 act.11-side story「陽はまた昇る」
あまい香は林檎、ふたり重ねた掌にたずさえる。
ふたくち齧った痕あざやかに白い、その紅い実に掌ふたつ温まる。
ビジネスホテルの狭いソファふたり座って、林檎ひとつ挟んだ瞳は真直ぐ自分を映す。
澄んだ黒目がちの瞳は無垢のまま揺るがない、この変わらない眼差しに英二は微笑んだ。
「周太、誰も死なせていないって、どういう意味で言ってくれてるんだ?」
今、言ってくれた言葉もういちど聴かせてほしい。
そこにある今日と3ヵ月の現実を受けとめたくて、ただ微笑んだ前で長い睫ゆっくり瞬き言った。
「そのままの意味だよ、僕は誰ひとり死なせていないから…英二のおかげだよ?」
穏やかな声そっと笑って見つめてくれる。
その言葉に眼差しに言えない事実を見つけ笑いかけた。
「俺の救急法ファイル、実戦でも実践できたんだな、周太?」
実戦、実践、同じ音の言葉、けれど意味は違う。
この同音異義語ふたつ重ねた質問へ困ったよう見あげてくれた。
「あの、えいじ?もしかしてその…それオヤジギャグとかいうやつなの?」
今どんな反応したら良いの?
そう困惑が黒目がちの瞳に見あげてくれる、この真面目なままが嬉しくて尋ねた。
「前に黒木さんが言ったんだ、周太、こういうのは面白がってくれる?」
今すこし肩の力抜きたい、だから勝手に拝借してみた。
なにより拝借相手が面白いだろう?そんな意図に黒目がちの瞳つい笑ってくれた。
「ふっ…ちょっと面白いかな、だって黒木さんがそんなこと言うなんて…それ冗談のつもりで言ったのかな、それとも真面目に言ったの?」
やっぱりそこが面白い?
こんなことでも共有できた感覚が嬉しくて笑いかけた。
「黒木さんが言ったってこと自体が面白いだろ?土曜の大雪のとき言ったんだよ、七機に戻ってミーティングしてる時にさ、」
「そんなオフィシャルな場で言っちゃったの、黒木さん…光一にツッコまれちゃったんじゃない?」
可笑しそうに訊き返してくれる笑顔に嬉しくなる。
こうして単純に面白がって笑ってほしい、そうして寛いでほしい人に応えた。
「嬉しそうにツッコンだよ、実戦で実践なんてアッチの時も使えそうだねって絡んだから黒木さん、怒ったみたいな貌で真赤になってた、」
「ん、あっちのとき…?」
なんのこと?そんな問いかけ見あげてくれる。
その純粋な眼差しに初めての知識を染めたくて、そっと顔よせ耳打ちした。
「周太も知ってるだろ?夜…時だよ、それこそ実戦で実践だろ?」
こんなこと言ったら恥ずかしがるに決まっている、そして慌てるだろう?
そこに生まれる隙のはざまテーブルへ腕伸ばしナイフ畳んだ隣、林檎ともに持つ手が熱くなった。
「そ、そんなことまたっ…えいじのえっちばかちかんっ、」
ああこの台詞ほんと懐かしいな?
こんなふう罵られることすら君だと幸せ、そう想う自分は馬鹿だろう。
こんなに自分を馬鹿にしてしまう人だから護りたくて今日まできた、その想いごと笑った。
「これくらい24歳の男なら普通の会話だよ、周太?ほんと相変わらず周太は初心だな、そういうとこ大好きだよ、」
本当に君だから大好きになった、道ならぬ恋と言われる事も解かっているのに?
同性に恋愛して人生懸けるなんて馬鹿だと言われる、蔑まれ差別すらある、そんなこと最初から解っていた。
それでも願いたい幸せはこの隣にしかない、そう気がつかされる瞬間は傍にいない時間こそ思い知らされて離れない。
だから今日も、きっと逢えば笑顔ばかりじゃないこと知りながら逢いたくて、罵られ詰問される覚悟ごと笑った真中で黒目がちの瞳が微笑んだ。
「ほんとえいじばか…でも、ありがとう英二、」
ありがとう、
そう告げて黒目がちの瞳が微笑んでくれる。
林檎ひとつ重ねた掌に優しい手もう一つ重ねて、穏やかな声は言ってくれた。
「ありがとう英二、英二のお蔭で僕ほんとにね…ありがとう、救けてくれて、」
ありがとう、それだけしか言えなくても笑ってくれる。
その瞳は澄んで明るい、そして前より勁くなった眼差しに現実は伝わる。
―現場に行ったんだな周太、そこで怪我した人を救けて、
今日そのために約束の時間は来られなかった。
今日この街あちこちで自分が待っていた時間、あのとき生命の境にこの瞳は佇んだ。
いま林檎に重ねた手は今日どこか誰かの救い手だった、そんな手が愛しくて放せない。
「周太、俺こそありがとう、もう何度もファイル使ってくれたんだろ?」
この問いかけだって答えそのままは言えないのだろう?
そう解っているけれど今は受けとめたくて、その願いに優しい声が微笑んだ。
「ん…それで英二、聴きたいことがあるんだけど、」
「応急処置のことか?」
訊き返しながら頭脳のファイル捲りだす。
けれど林檎はさんだ静かな瞳が問いかけた。
「英二、なぜ金曜日は本庁でボルダリングしてたの?」
本庁は、警視庁本部のこと。
そこで何があったのか周太は尋ねた、それが秘密ひとつ暴露する。
だって周太が土曜日どこで何をしていたのか明かしてしまう、それでも問いかけた瞳に確かめた。
「そんなこと訊いて良いのか周太、金曜日は周太が本庁に居たって言ってるのと同じだよ?俺に話していいのか、守秘義務だろ?」
守秘義務があるんだろ、なんて質問もまた暴露を誘ってしまう。
それは問われた相手も解かっている、それでも静かな声は告げた。
「僕が話したら英二も話してくれるでしょ、だから…英二、どうして本庁の壁をスーツ姿でクライミングしていたの?」
また訊かれて鼓動そっと軋みだす。
こういうことだと解って今日は逢いに来た、それでも傷みに微笑んだ。
「俺に尋問するために今夜は一緒にいてくれるんだ、周太?」
きっと逢えば詰問される、それくらい解かっていた。
けれど現実に目的を宣言されたら哀しいのは自分だけの未練だろうか?
そんな傷みにも林檎の重ねた手は温かい、この温もりだけ見つめたいけれど口開いた。
「本庁の壁でクライミングなんて真面じゃないな、でも周太は見たのか?」
真面じゃない、そう自分でも思っている。
だから嘘なんて吐いてない、そう笑いかけた真中で黒目がちの瞳ゆっくり瞬いた。
「英二、僕の見間違いだって言うの?」
「金曜は俺、本庁に居たよ、」
問いかけに言葉かけて笑いかける。
けれど答えなんて本当は言っていない、それでも嘘は無いまま事実を告げた。
「山岳警備隊の研修会があったんだ、午後は警視庁のメンバーでミーティングだったよ。吉村先生も救急法の講師でいらしてた、」
どれもが事実、そして探られても破られない。
だから口にした答えに穏かな声が尋ねた。
「後藤さんと光一もだよね、後藤さんは山岳救助の技能指導官で警視庁山岳会長、光一は山岳レンジャーの小隊長だし。他は誰がいたの?」
「原さんがいたよ、所轄の山岳救助隊の代表で、」
また事実を答えて、けれど黒目がちの瞳が見つめてくる。
もしかして訊くのだろうか?その予想まま周太が尋ねた。
「他には?…所轄も関わるから原さんがいたんでしょう、それなら所轄の上の人は?」
自分は君をみくびっていた、少し前まで。
この自分が君に尋問されるなんて考えたこと無かった、少し前までは。
この自分なら誰に問われても崩れない、けれど崩れたくなる唯ひとりの相手に微笑んだ。
「地域部長の蒔田さんもいらしたよ、周太のお父さんの同期だって言ってた、」
カードひとつ自分から捲ってみせる。
これで満足してくれるだろうか?そうしたら自分は崩されない。
だってアリバイの鍵は「蒔田」だ?
「…蒔田さんと英二、親しいの?」
ほら、質問ひとつ与えてくれる。
この問いかけ素直に笑いかけた。
「青梅署で何度かお会いしてるよ、奥多摩交番に勤めている時にお父さんと話すこともあったって言ってた、」
聴きたいだろう、このことは。
『僕は14年ずっと父を探してきたよ、父の全部を受けとめる覚悟も出来てるんだ、良いことも悪いことも僕は知りたいんだよ?』
そう告げた君なら父親の欠片が欲しいだろう。
だから見せたカードに黒目がちの瞳ゆっくり瞬き、尋ねた。
「英二、なぜ蒔田さんの執務室からボルダリングする必要があったの?」
ほら、やっぱり君は追及してくる。
このため今夜ここに君は来た、そう解かるから微笑んだ。
「蒔田部長の部屋には行ったよ、でも何しに行ったと周太は思うんだ?」
「お手伝いとか英二はあるよね、そのメンバーなら、」
すぐ答えられて詰められる、この調子では少し危ないだろうか?
そんな想定も可笑しくて笑いかけた。
「俺がいちばん下っ端だから?」
「コピー取るとか飲み物を買いにとか…動ける機会たくさんあるよね、英二は、」
穏やかな声また問いかけてくる。
その言葉たちに困らされながらも今この事態なにか楽しくて笑いかけた。
「コピー取りに蒔田さんの部屋に行ったよ、コーヒーも買いに出たけど。俺は普通に廊下を歩いてエレベータに乗ったよ、周太?」
これも事実、そして君はこれ以上もう解らない。
このまま、解らないまま傍にいてほしいと願うのは身勝手だろうか?
自分が「誰」なのか知らないまま、ただこの自分を見つめて傍にいて。
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