先ほど新国立劇場のワルキューレを聞いてきました。オペラは昨年9月のロイヤルオペラ(マクベス)依頼一年ぶりです。今日は2016/2017シーズン開幕の初日ということもあって開場はほぼ満員。2階正面の4列目と非常に良い席を予約することができました。14:00開演、19:30終了の長丁場で腰がヘトヘトです(笑)
ワルキューレはワーグナーの中でもお気に入りで、今まで何度も聞いてきました。でも今日の公演はいつものワーグナーと何かが違うのです。こんなにしんみりと歌を聞かせてくれる、しかも泣かせてくれるワーグナーは初めての経験。それだけ素晴らしい歌手陣に恵まれたようです。飯守泰次郎指揮の東京フィルハーモニー交響楽団は終始控えめで、主役の歌手を引き立てていました。個人的にはもっと弦楽器の厚みと深みが欲しいかなと思いましたが、そういう音楽作りなのですね。きっと。
演出は東京リングに比べても保守的。それが一層音楽を引き立たせてくれたようです。個人的には今日のような演出のほうが音楽に専念できるので好きですね。あまり記載するとネタばれするので止めておきますが、傾斜と奥行きを活用した立体感ある舞台設定でした。光の明暗を効果的に使っていた印象です。3幕冒頭のワルキューレの騎行の場面は1,2幕と雰囲気が異なり目が覚めましたが、ブリュンヒルデが登場してからは電飾も消えて、音楽に専念できましたね。奥行きを活用した舞台だったので舞台の奥から歌う場面も多く、ソリストの皆さん声量たっぷりとはいえ多少酷だったのではないでしょうか。
歌手は皆さん素晴らしかった。ジークムント役のステファン・グールドは世界的なテノール。冒頭から絶好調で若々しいジークムントを演じていました。ジークフリートと間違えるかのような純情さがにじみ出ていて、ジークリンデと共に若々しい兄弟を演じていました。
ジークリンデ役のジョゼフィーネ・ウェーバーは初めて聞きました。声に若々しさと透明感あって、心に響いてくる歌声です。1幕の最初は多少緊張気味のようでしたが、尻上がりに役に溶け込み、見事なジークリンデでした。若い頃のワルトラウト・マイヤーを思い出します。ブリュンヒルデを歌ったイレーネ・テオリンのように声に迫力が備われば大歌手の仲間入りを果たせるのではないでしょうか。フンディング役のアルベルト・ペーゼンドルファーは、迫力ある人間界の豪族を歌い上げていました。
トリノコの木からノートゥングを抜き取ってから1幕最後へかけてのクライマックスは、本オペラの聞かせどころ。今まで聞いた公演(例えばバレンボイム指揮)ではテンポが上がってオーケストラ主導で高揚していくことが多いのですが、飯守さんの音楽ではあくまでも歌手が主役。じっくりと歌わせていました。さすがにステファン・グールドも最後は疲れていたように見受けられました。
2幕で登場する結婚の女神フリッカはエレナ・ツィトコーワが歌います。ヴォータンの魂胆を見抜きジークムントの死を要求する強い女神を声の力で表現していました。一方のヴォータンを演じたグリア・グリムスレイは心の葛藤、悩みを抒情的に表現します。声量は決して大きくありませんが舞台の奥からでも声がよく通ります。3幕では弱音の表現に心打たれました。2幕の前半は音楽が単調で眠気に襲われることがよくあるのですが、今日は全く違いましたね。
ヴォータンの心の悩みを察したブリュンヒルデを演じたイレーネ・テオリンも素晴らしい。今日一番の感動はブリュンヒルデでしたね。特に2幕最後でジークムントに差し迫った死を告げる場面、そしてジークムントの純粋な思いに負けて、父ヴォータンの命に逆らいジークムントを守ることを約束、そして決闘におけるジークムントの死、そしてフンディングの死と、あまりの素晴らしさに圧倒されます。劇的に圧倒的な音楽ではなく、心の内面を歌い上げるドラマとして響いてくるのです。
クライマックスの3幕。ヴォータンが迫りワルキューレ達に守ってもらえずに1人未知の世界へ旅立つジークリンデ。ブリュンヒルデから受胎告知をうけた後に、最後に歌う救済の動機のなんと見事なこと。昇天するような透明な歌声に感動しましたね。実は飯守さんの解説(新国立劇場のHP)で初めて知ったのですが、この救済の動機の音楽は、指環の中であと一場面しか出てこないそうです。神々の黄昏の最終場面ですね。この場面、昔、ワルトラウトマイヤーが歌ったときにも鳥肌たった経験がありますが(確かバレンボイム指揮)、その時に匹敵するほど素晴らしかったです。
そして感動のクライマックス。ブリュンヒルデはヴォータンの悩みを知り尽くしています。最後にヴォータンが槍を落として娘のブリュンヒルでに駆け寄る瞬間は涙を誘います。こんなに感動的な幕切れだったとは。
炎の輪の中で眠りにつくブリュンヒルデ。早く続きが見たい・・・

正面玄関の生け花です。

14時に開演。2幕後の休憩時にはすっかり日が暮れていました。2回の休憩をはさんで5時間30分の公演ですが至福のひと時はあっという間に過ぎ去りました。久しぶりのオペラに大満足し、単身赴任先の茨城県へ常磐線で戻ってきました。本ブログは常磐線の中で思いつくままに書き上げたので誤字脱字容赦下さい。
来月はウイーン国立歌劇場の日本公演で、今日と同じワルキューレを聞く予定です。こちらも楽しみです。
最後に今日の公演のキャストを記載しておきます。
指揮 飯守泰次郎
演出 ゲッツ・フリードリヒ
ジークムント ステファン・グールド
フンディング アルベルト・ペーゼンドルファー
ヴォータン グリア・グリムスレイ
ジークリンデ ジョゼフィーネ・ウェーバー
ブリュンヒルデ イレーネ・テオリン
フリッカ エレナ・ツィトコーワ
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団