昨日は新国立劇場でニュルンベルクのマイスタージンガーを見てきました。前回オペラに行ったのはCOVID19が騒がれ始めた2019年の2月のタンホイザー(新国立劇場)。従って2年9ヵ月ぶりとなります。今回の公演は、新国立劇場、東京文化会館、ザルツブルク・イースター音楽祭、ザクセン州立歌劇場の国際共同制作として実現しました。もともと2020年の6月に新国立劇場で上演予定でチケットを購入していたのですがCOVID19のために1年延期となったものです。しかも今年の8月に東京文化会館で予定されていた公演も緊急事態宣言下で直前に中止となり、今回ようやく実現の運びとなりました。
久しぶりのオペラ。しかも大好きなワーグナーということもあって久しぶりの興奮状態です。頭の中を美しいライトモチーフが駆け巡ってしまい昨夜は熟睡できませんでした。今日は休暇を取得して昼過ぎに友部のアパートにに戻り、朝と午後は打合せが入ったりして在宅勤務。でも全く仕事が手に尽きません(汗)・・・
久しぶりに訪れる新国立劇場です。COVID19対策として入場前に検温(センサーでチェック)があり、ロビーでの飲食は禁止となっていました。
今回の公演は14時開演、30分休憩を2回はさみ、終演時間が20時。約6時間の長丁場のオペラです。実際に幕が引いたのは20時10分過ぎでした。
前にコメントのように、本公演は、新国立劇場、東京文化会館、ザルツブルク・イースター音楽祭、ザクセン州立歌劇場の国際共同制作で上演されます。指揮は新国立劇場芸術監督の大野和士、演出はイェンス=ダニエル・ヘルツォーク、美術はマティス・ナイトハルトです。配役を新国立劇場のHPから以下に引用しておきます。
- 【ハンス・ザックス】トーマス・ヨハネス・マイヤー
- 【ファイト・ポーグナー】ギド・イェンティンス
- 【クンツ・フォーゲルゲザング】村上公太
- 【コンラート・ナハティガル】与那城 敬
- 【ジクストゥス・ベックメッサー】アドリアン・エレート
- 【フリッツ・コートナー】青山 貴
- 【バルタザール・ツォルン】秋谷直之
- 【ウルリヒ・アイスリンガー】鈴木 准
- 【アウグスティン・モーザー】菅野 敦
- 【ヘルマン・オルテル】大沼 徹
- 【ハンス・シュヴァルツ】長谷川 顯
- 【ハンス・フォルツ】妻屋秀和
- 【ヴァルター・フォン・シュトルツィング】シュテファン・フィンケ
- 【ダーヴィット】伊藤達人
- 【エーファ】林 正子
- 【マグダレーネ】山下牧子
- 【夜警】志村文彦
学生時代にオペラの魅力に取りつかれて40年近く経ちます。今まで100回近くはオペラに足を運び、特にワーグナーはお気に入りの作曲家です。でも今回のニュルンベルクのマイスタージンガーは過去に1度しか聴いたことがありません。あまりにも長すぎるのと、公演自体が少ないことが理由です。前回は1988年のバイエルン国立歌劇場の日本公演でした。サヴァリッシュ指揮でベルント・ヴァイクル、ぺーラ・シュライヤ、ルチア・ポップ(数年後に若くして亡くなりました)など錚々たる大歌手たちの歌の競演。それまであまり好みでなかったサヴァリッシュのオペラ指揮者としての本領を垣間見て、それ以来大ファンになったこと、聞きに行った公演は初日ではなかったため、ヘルマン・プライ、ルネ・コロは歌わずに、ダブルキャストの別な方が歌い、その演技に魅了されたことなどを幕が開く前に思い出したりして、久しぶりのオペラへの期待に胸を膨らませていました。
新国立劇場の会員になっているため、先行予約でS席を購入。購入したチケットは1階5列目の左側ブロックです。COVID19対策で前の前方2列は立ち入り禁止となっているため実質前から3列目です。舞台とほぼ同じ高さとなるため、歌手の表情や演出の細部を楽しむことができました。
指揮者の大野和士さんは私とほぼ同年代、ヨーロッパで活躍し2018年に新国立劇場の芸術監督に就任しています。今まで一度も大野さんの生演奏に触れたことはありません。しかもオーケストラは長年音楽監督を務めている東京都交響楽団で、今回とても期待していました。大野さんの作り出すワーグナーは指揮者とオケの一体感があり丁寧に歌わせている印象。ややゆっくりしたテンポで常に抑制が効いた演奏です。ワーグナーの壮大なオーケストレーションを期待している人には物足りなかったかもしれませんが個人的には好きです。
演出は舞台の動きが激しく、しかも細部にわたり凝っていました。舞台中央に回り舞台があって、間近で見ていると頭がくらくらするほど?目まぐるしく回ります。このオペラは各幕に多くの場が存在するので、効率的に場面を作り出していました。回転中にミシミシ軋む音まで聞こえました(笑)。それから、熊さんや豚さんのぬいぐるみが現れたのには驚き。劇中劇?の打ち合わせで、熊さんがぬいぐるみ頭部を脱いでスタッフ?から指示を受けている場面には爆笑。また3匹の子豚は何を象徴しているのでしょう。ラインの乙女? 合唱の皆さんも直立不動は許されず、踊ったりダンスをしながら歌ったりと大忙し。とにかく動きがあります。舞台近くで見ていると、エキストラの皆さんのちょっとした仕草など、細部にわたり工夫が凝らされていました。上下2層の舞台では高さ10m以上もある高所で演じるために螺旋階段を上っていくのです。上で歌ったり演じたりするソリストの方は大変です。高所恐怖症では務まりません。またコロナの時代を感じる選出も目立ちました。手を取り合うことはなく、お互いの手を上下に20~30cm離して踊る姿は何となく滑稽に感じました。エキストラの方が椅子に着席する際にスプレーでアルコール消毒してから布巾でふき取る姿などコミカルに演じられていました。合唱団の方も何となく疎らな印象。舞台上でも極力ソーシャルディスタンスを保ち? 舞台上の人員も心持ち控えめな印象。
今回歌ったソリストの皆さんは、たぶん初めて聴く方ばかり。ハンス・ザックスを歌ったトーマス・ヨハネス・マイヤーが強く印象に残りました。美声、声量、貫禄を兼ね備え、潤いと深みのある声の力で心に訴えかけてきます。一方コミカルな演技で喝采を浴びていたのがベックメッサ―役のアドリアン・エレート。2幕のリュートを抱えた姿にはもう目が点。3幕で痛々しい姿で現れて狼狽して歌う姿やカーテンコールでのギャグ?など演技力が突出していました。声はバリトンでもやや高めの印象ですね。対照的に動きの少ないヴァルター役のシュテファン・フィンケはやや甘めの美声、何となくジークムントみたいな印象(歌い方かな?)。ボーグナー役のギド・イェンティンスは美声を聞かせていました。エーファを歌った日本人の林正子さんも男性陣を相手に魅力的と芯の強さを備えたヒロインを演じていました。もう一人日本人キャストで拍手を送りたいのはダーヴィッドを演じた伊藤達人。急遽代役としてアサインされたようで、演技、歌唱共に大健闘です。まだ若い方のようでこれからの活躍が期待できそうです。カーテンコールでは舞台上で両手をばたばたさせて拍手する姿が可愛らしかった?です。
幕間の休憩時間に外に外出してみました
隣接する東京オペラシティーのイルミネーション
昔と変わっていません
再び劇場に戻り、外のラウンジでコーヒー休憩
今回の公演、日本語と英語の字幕が併用されていました。あまりにも距離が近いのでほとんど見ませんでしたが、日本語と英語を比較すると、英訳のほうがシンプルな表現で分かりやすかったです。
1幕の途中でマイスター達が舞台を向いて並んで座っている場面で、数分間館内の照明が点燈され明るくなりました。マイスター達も気になるのか客席の方を振り向いています。あれは何だったのでしょうか。
一方、2幕に登場する夜警がとても明るい照明で客席を照らす場面がありました。予め注意喚起する掲示物を2幕終了後の幕間にロビーで見つけました。
あとは3幕の幕切れ。とっても痛快でした。現代なら許されるでしょう。