始業式。
「3年生諸君、体調管理を最大限気をつけてしっかりラストスパートせよ、結果を出すことも大事だが、どこまでがんばれたかを体に残すことが大事」という学校長の言葉に深くうなずく。みなさんが「平成」最後の卒業生になるとのお話にも。
そうだった。受け持っている今の一年生たちは、新しい年号の証書をもらって卒業していく。
昭和の終わりに奉職し、30年間お世話になり、新しい年号で教師生活を終えるのだなあと、思う。
そんな時期に『平成くん、さようなら』という小説を上梓し、ちゃっかり芥川賞の候補になっている古市さんは、まさに機を見るに敏な方だ、文藝春秋だしな、ためしに読んでみるかと年末に手に取ってみたが、なんとこれは! 自分的感覚では「火花」や「コンビニ人間」以上に鉄板で受賞すると思った。新幹線の中をきっちり充実できた。
平成がまもなく終わりとなる現代日本を舞台にした作品だが、「安楽死が法的に是とされている」という結構になっているので、パラレルワールドものとも言える。
その設定以外は、これでもかと描写される具体物、ブランド名で現実そのままだから、主人公の平成くんが古市氏自身のメディアでの姿と重なって、私小説的おもしろさも感じる。
ちがうか、主人公は平成くん――「へいせい」ではなく「ひとなり」と読むのがほんとうなのだが――と同棲する、同い年の愛ちゃんだ。
イラストレーターの愛ちゃんと、若手評論家の平成くんは、雑誌の対談で出会う。
愛ちゃんの方からアピールし、二人で暮らすようになって二年が経つ。
~ 平成くんといることは、とても居心地がよかった。私が不眠で苦しんでいる時には「寝ないでポケモンGOができて羨ましい」と本気で言っていたし、仕事が思うように評価されなかった時は「バカに褒められても嬉しくないでしょ」と笑ってくれた。(古市憲寿)『平成くん、さようなら』文藝春秋 ~
愛ちゃんへの好意はあきらかに抱いていながら、二年も同棲していながら、彼らの間に肉体的な結びつきはうまれていない。
その理由を論理的に説明はされ了承はしているものの、心から納得しているわけではない。
さらに、平成の終わりとともに、「安楽死するつもりだ」と平成くんが言い始める。
「自分は終わった人間だから」と論理的に説明されても、到底受け入れられはしない。
残される人の気持ちを想像しようともしない態度も許せない。
こんなキャラクターの男ならあり得る展開かもしれないと読み進めていくと、終盤思わぬ展開になる。
人間としての平成くんの姿が立ち上がってくるのだ。
小玉ユキ『ちいさこの庭』は、コロボックルのような小さくて不思議な生き物と人間との交情をせつなく描く短編集だ。
「四百年の庭」で、相手のことを思うが故に別れようとする武士の姿に泣いてしまったが、平成くんの終盤では同じことをたぶん感じていた。平成のおわりにこんな小説を読めて幸せだった。