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ねじまき少女(上・下) パオロ・バチガルビ
2009年のSF界の超話題作とのこと。ストーリーよりも世界観の提示に重きが置かれたような作品だ。意図的に続けて読んだわけではないのだが、どうしても直前に読んだ「ハーモニー」と比較してしまう。本作を読むと、伊藤計劃という作家による、精緻な世界観の提示とストーリーの面白さの両立がいかに稀有なことなのかがよく判る。本書に対する書評などでも、「世界観は壮大で興味深いがストーリーがイマイチ」とか「世界観を把握する前に疲れてしまう」などなど、そこのバランスを問題にしたコメントが多いような気がする。実際、私も上巻の3分の2くらいまでは、作者がどこに案内してくれるのかやや懐疑的になったりした。どうでも良いことかも知れないが、世界観の提示に重きを置いた作品、特に翻訳本のそうした本を読む時には、コツがある。それは、ネタがばれることを恐れずに「あとがき」や「解説」を先にじっくり読んでしまうことだ。訳者のあとがきならばなお良い。そうすることで作者がストーリーに織り交ぜた世界観を大くくりにつかんでしまえるので、ある程度ストーリー展開に専念して読むことができる。ネタばれが心配だが、通常の「あとがき」であれば決定的なネタばれはしていないはずだ。こうした工夫で、難解とされるSFでも楽しく読めると思う。本書もそうした工夫でとても楽しめた気がする。(「ねじまき少女(上・下)」 パオロ・バチガルビ、ハヤカワ文庫SF)
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