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東電帝国~その失敗の本質 志村嘉一郎

東日本大震災関連本の1冊だが、そうした本の中で最も売れている1冊ということなので読んでみた。本書の内容は、九電体制が確立した頃の話が大半で、大震災の関連本として読むと、最初は正直言って「そこまで立ち戻らなくても良いのに」という感じがした。要は、普通の電力業界史の読み物に少し手を加えて、大震災の関連本にしてしまったのではないかという感じだったのだが、最後近くまで読み進むと、ここまで立ち戻って書かれているのは、著者が本当に、電力業界の問題は、そこまで立ち戻らないと本質が見えないと感じているからだということが理解できてきた。どこまで立ち戻れば本質が見えてくるのかという問題はいろいろな考えがあり、一概には言えないが、本書が、電力業界についてほとんど何も知らない者にとって大変啓蒙的な本であることは確かだ。特に、最後の章で、JR東日本が消費電力量の約半分を自家発電でまかなっているという話や、送電部門を今の電力会社から切り離す構想を紹介している部分は、いろいろな示唆に富んでいる。原発への是非についての自分の考えをまとめる際、まず自衛手段として何ができるかを考えることの重要性、あるいはそうした自衛手段を各々の家庭や企業がとる際の障害を取り除くことの重要性を教えてくれる。また読んでいて、先日の中国での高速鉄道での事故に関して、車両の技術とそれを制御する技術の進歩のバランスということが指摘されていたのを思い出した。原発の問題は、「どこで間違ったのか」とか「悪いのは誰だ」いう問いの解明だけですまされる性質の問題ではないことを痛感させられる。(「東電帝国~その失敗の本質」 志村嘉一郎、文春新書)

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