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ジェノサイド 高野和明 

「本の雑誌」の2011年度上半期のベスト1に選ばれた本書。この「上半期ベスト10」「年間ベスト10」は、本屋大賞などと違って、かなり選者の個人的趣味が反映されたランキングなので、必ずしも自分の趣味と合うことばかりではない。ただ、芥川賞受賞で一躍人気作家となった西村賢太をブレイクするかなり前に紹介してくれたのもこのランキングだったといった経験もあり、それなりに注目しているランキングではある。今回のベスト1は本当に「当たり」という感じだ。この本については、刊行時の「本の雑誌」では星4つ、それほどすごい本だという感じの紹介ぶりではなかった。個人的には、上半期ベストテンで取り上げてくれて良かった。そうでなければ読まずに過ごしてしまったかもしれない。著者の本と言われて「13階段」と「グレイブディッカー」の2冊しか思い出せないのは、この作家がそれほど多作ではないからだと思うが、とにかく「グレイブディッカー」のハラハラドキドキが印象に残っていた。本書は、人類の進化の歴史を踏まえた壮大なスケールのSFだが、微妙に歴史的な事実や最近の出来事を織り交ぜながら、独特の疾走感のある文体でどんどんストーリーが進んでいく。本書のメインテーマで題名にもある「あるジェノサイド」の発想は本当に面白いし、物語の終盤になって明らかになる「日本の協力者」の謎も本当に面白い。人間という種の持つ本性、民主主義という社会システムの持つダークな部分など、本書の全体を貫くトーンはかなりペシミスティックで、目を覆うような残酷なシーンも数多いのだが、何故か最後の結末はそれほど暗くない。翻訳するのが難しい部分もあるだろうが、これは世界中で読まれるべき傑作だと思う。(「ジェノサイド」 高野和明、角川書店)

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