書評、その他
Future Watch 書評、その他
SPEED 金城一紀
本書は、著者の作品の中では、他の本よりも少し若い読者層を想定したシリーズの第3弾にあたり、以前読んだ「レボルーションNo.0」の前の作品といことになる。主人公の少年たちの1人1人のキャラクターにも馴染んできたので、「そういえばこの少年はこんなヤツだったな」などと思い出しながら読むのがとても面白い。話の途中で出てくる「他に人も車もないところで信号を守るかどうか」という話は、私も実際に時々悩む話だ。全く他に人も車もいないところで止まるというのは、思考停止というか、自分で状況を判断できない馬鹿者のようでいやだし、止まらないのも、自分が周りの状況によって態度を変える小さい人間のようでいやな気がする。単純に「常に信号を守る」人間が偉いと言われても、どうも釈然としないし、「信号を守るのはやっかいなことを避けるため」という本書で語られる論理も少し単純すぎる気がする。歩行者の場合は自己責任という言葉を持ち出してくればそれで片が付くかもしれないが、車の運転者の場合は法令違反になるのでそうとばかりも言えない。そこに監視カメラがあったらどうなるか。そんなものを気にするような自分はもっといやだ。横で小さな子供が見ていたらどうするか、ここはちゃんと「信号は守るもの」ということの範を垂れなければなどと考えてしまうかもしれない。いろいろ考えた末に行きつくところは、この問題は他人が自分をどう評価するかということに一定の価値を見出しているから悩むのであって、人が他人のことをとやかく言わないようにする、そうした態度が社会全体の合意事項になれば、悩みの大半はなくなるのではないか、ということだ。でも、そうした考えを社会の合意事項にするのは、この世から全ての「信号」をなくしてしまうくらい難しいかもしれない。ストーリーはいつも通り痛快無比。こうした話が面白いということ自体かなり日々に流されている証拠かもしれないが、時々読んで自分の流され度合いを確認するのも良いものだと思ったりする。(「SPEED」 金城一紀、角川文庫)