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完盗オンサイト 玖村まゆみ

今年の江戸川乱歩賞受賞作。ロッククライマーの主人公が皇居に潜入し、樹齢550年の盆栽を盗み出すという奇想天外なストーリーだ。本書の巻末に付いている選考委員のコメントをみると、本作品は選考の段階で、ストーリーが面白いとする強く推す委員と、そうでない委員との間で意見が大きく分かれたらしい。そうでない方の委員は、ストーリーや登場人物の設定や行動にリアリティがないことを大きなマイナス点と捕らえたようだ。実際読んでみると、選考委員の1人が言うように、かなり漫画チックな人物設定などでリアリティに欠ける部分は多いものの、ストーリーの面白さはそれを十分に補っているように思われた。「雪に閉ざされた山荘での密室殺人」といった「本格推理小説」の方がよほどリアリティがないと思われるし、リアリティと面白さのどちらを取るかといえば、個人的には面白い方を読みたい。ただ選者の1人(東野圭吾)が、登場人物の行動のリアリティのなさについて、「ストーリーに合わせて登場人物を動かすのではなく、登場人物の思考や動きに合わせてストーリーを動かしてみることも重要」と言っていて、なるほどと感心した。(「完盗オンサイト」 玖村まゆみ、講談社)

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