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本屋大賞 予想
昨日の「サラバ!」でノミネート作品を全て読み終えたことになるので、恒例の大賞の予想をしてみたい。今年のノミネート作品をみると、直木賞受賞作品、このミス大賞作品が入るなど、、この賞の性格が「世の中の評判にかかわらず良いと思う作品を発掘する」という当初の趣旨から少しずつ離れてきているように思われる。私自身、今年はノミネート作品10作品のうちノミネート作品発表時に既読が3冊、入手済みで未読が2冊で、ノミネートに促されて読むことになった作品は5冊に止まった、比較的楽に全作品を読めそうな感じで嬉しい半面、本屋大賞を通じて、知らなかった作品や作者に出会うという楽しみが少なかったということで、少し残念な気もした。以下は、それぞれの作品の、大賞候補という観点からの感想。
「アイネクライネナハトムジーク」伊坂幸太郎 それぞれが緩いつながりを持った連作短編集。軽い作品なので、この作品が作者の代表作になるかと言えばそういう気がしないし、過去の作者の受賞しなかったノミネート作品と比較すると、受賞の可能性は低いだろう。
「怒り」吉田修一 いくつものストーリーが並行して語られるよくあるパターンの小説だが、無理やりそれらをまとめあげるというようなこともなく、それでいてある1つのことを強烈に語っている。内容、形式ともに多くの人の心に残る1冊だと思う。
「億男」川村元気 ノウハウ本を読んでいるようで、個人的には好きになれなかった。
「キャプテンサンダーボルト」伊坂幸太郎 ストーリー・構成・文章、いずれも最高級のエンターテイメント小説だと思う。有力候補に挙げたい。
「サラバ!」西加奈子 忘れられない人物(僕)を創造したという点では素晴らしい傑作だとは思うが、こうした男子の話は少し食傷気味。
「鹿の王」上橋菜穂子 それなりに面白かったが、ストーリーが実際の医学的な知見に縛られ過ぎていて、自由な想像の世界を堪能できなかった。
「土漠の花」月村了衛 リーダビリティーではぴか一の作品。但し、好き嫌いもありそう。
「ハケンアニメ」辻村深月 全く知らなかった世界を垣間見させてくれた点ではこの1冊という気もする。ベスト3には入れたい。
「本屋さんのダイアナ」柚木麻子 この作品というよりも、作者の作品全体に惹かれるものがある。個人的に応援したい1冊。
「満願」米澤穂信 大きな話題になった作品で、よくまとまっていると思うが、個人的には、抜きん出た傑作、1年間の最優秀作品、というところまではいかないと思う。
心に残った作品という意味では「怒り」と「サラバ!」だが、 この2冊の印象の強さは多分に「大作」であるということが関係している気がする。。「サラバ!」は直木賞受賞作なので、やはり本屋大賞にはなじまないだろう。一方、素直に自分の好みを言えば、本命が「キャプテンサンダーボルト」で、次点が「本屋さんのダイアナ」「ハケンアニメ」の2冊だ。キャプテンサンダーボルト」は自分としては本命だが、作者の本は既に受賞しているし、毎年ノミネートされていて、あえて受賞する意義のようなものが感じられない気がする。それらを加味して、例年以上に当たらない気はするが、「怒り」「本屋さんのダイアナ」「ハケンアニメ」の3冊をベスト3としたい。