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ヴァンショーをあなたに 近藤史恵

フレンチ・レストランを巡る小さな謎解きミステリーの第2弾。前作もそうだったという記憶があるが、謎の小ささと文章の簡潔さがマッチしていて、読んでいて気持ちが良い。小さな日常の謎にふさわしい本当に掌のようなサイズの文章であるのも良い感じだ。それでいて、短編にありがちな出し惜しみのようなものや、わざと最後を曖昧にして余韻を残すような姑息なこともない。あまりマニアックな薀蓄ではなく、おそらく現実のレストランでも日常的に起こっていることを題材にしている点も好感が持てる。さらに本書の後半では、探偵役の登場人物の過去が描かれた短編が掲載されていて、シリーズとしての面白さも満喫できる。良いところをいくつも挙げられる1冊だが、こうした長所は、作者の物語を紡ぎだすことへの情熱と自信があればこそだ。読者にとって、内容の濃い短い文章を読むことは、それだけでかなり贅沢なことだと実感できる。ただ残念なのは、こうした良本は、その良さゆえにすぐに読み終わってしまうことだ。(「ヴァンショーをあなたに」 近藤史恵、創元推理文庫)

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