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イスラム国~テロリストが国家を作る時 ロレッタ・ナポリオーニ

イスラーム国に関する本はこれで3冊目。1冊目がジャーナリストが書いたごく最近の話に絞った啓蒙書、2冊目が学者が書いたイスラムの歴史から今を紐解く教養書で、3作目の本書は、少し解説書とは違う本を読んでみようと思って手に取った本だ。内容的には、前に読んだ2冊に比べると理路整然とはしておらずまとまりに欠ける感じだが、「イスラム国」という対象の見方に日本の前冊の本と大きく違う点があるように感じられた。それは、イスラム国の将来について、著者がイスラム国をあまり特別視せず、その可能性について論じている点だ。それを楽観的というのか悲観的というのかわからないが、前の2冊には、いずれも「イスラム国は長い目で見れば消滅する運命にある」「大きな問題ではあるが世界を根底から覆すものではない」という暗黙の了解、イスラム国というのは非常に特殊な存在だという前提のようなものがあり、それに沿って話が進められていた気がする。それに対して、本書は、歴史的にみてイスラム国は決して特殊なものではない、という部分が強調されているように思われる。本書の中で著者は、イスラム国について、「イスラエルの建国と同様の動き」「PLOが国際社会で認められたのと同じように国際社会の一員になる可能性」「古代ローマの周辺諸国への動きとの類似性」「モンゴルのオスマン帝国侵略との類似性」などを論じている。こうした問いかけは、ある程度イスラム国というものを特別視せず肯定的に見ない限りでてこない視点だろう。「カリフ制度」に対するムスリムの夢と期待という視点からの考察も本書ではうまく説明してくれている。また、欧米諸国が、あるテロリストを捕まえるために「最重要人物」として指名手配すると、それがその人物のカリスマ性を高め、その人物の周りに資金が集まり始めるという悪循環があるという考察も、なるほどと思う。また本書を読んでいると、イスラム世界における内紛への他国の干渉は結果的に事態をこじらせるだけに終わっていることが痛感され、やりきれない気持ちになると同時に、「イスラムの内紛はイスラム世界のなかでしか解決できない」ということではないかと思われる。最後に「第3の道」に言及しているが、その部分があまり具体的でないと批判するのはやはり酷だろう。いずれにしても、イスラム国という対象物について、色々な地検を与えてくれると同時に、様々な見方が必要だと思わせてくれた1冊だ。(「イスラム国~テロリストが国家を作る時」 ロレッタ・ナポリオーニ、文芸春秋)

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