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典獄と934人のメロス 坂本敏夫

たまたま本屋さんで見つけた1冊。刑務官を務めていた著者は、その在任中、刑務所に関する関東大震災当時の記録が皆無であることに疑問を持ったという。退官後にその空白を埋めることをライフワークとして調査を開始、20年に及ぶ調査の結果をまとめたものが本書だという。震災という災難の中で、自らの矜持を精一杯守った人々、他人を信じて勇敢な行動に立ち向かった人々。こうした人々への温かい眼差しが根底にある生き生きとした描写に心を打たれる一方、どんな世の中どんな世界にも悪い奴はいるんだなぁと思ったりした。記録がないという以上、文中の会話部分や登場人物の心中などはほとんどが著者の創作なのだろうが、読み手に迫るリアリティには感心させられる。調べられることは調べ尽したという著者の自負がにじみ出てくいるような文章の素晴らしい1冊だ。(「典獄と934人のメロス」  坂本敏夫、講談社)

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