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遠近法がわかれば絵画がわかる 布施英利
遠近法の基礎知識と歴史がわかる解説書。遠近法には「重なり」「陰影」「色彩」「縮小」の四種類があるということ、美術史において遠近法の時代とそうでない時代が交互に繰り返されてきた事実とその背景、といった知識が楽しく学べる。即ち、遠近法というのは「そう見える」という描き方であり、中世の宗教画は「見えないもの」を描くために遠近法を捨て、近代絵画は見るという行為を「深化」させる過程で遠近法を捨てたということになる。これは自分にとってとても面白い発見だった。更に本書の良いところは、説明に使われている図版が非常に適切だということだ。こうした美術関係の本を読んでいると、解説と図版がチグハグでイライラすることが結構多いのだが、本書ではそうしたことが全くなかった。その点だけでも本書の素晴らしさは類書の群を抜いているように思う。それから本書では、こうした解説本としてはかなり異例のことだと思うが、途中で文体が2回ガラリと変わり、読者を驚かせる。変わったすぐ後で、著者自らがその理由を書いていて、その時はそれで納得してしまったが、後でよく考えるとまるで理由になっていないことに気付いた。強いて言えば、解説の部分と論文の部分を書き分けているという見方もできるが、そうしなければいけない必然性は全くないだろう。著者が真剣なのかそれともジョークなのか、どちらもあり得るなぁと考えて、思わず笑ってしまった。更に、本書のあとがきには、「えぇ?」というサプライズが用意されていた。本文以外でも楽しみ満載の一冊だ。(「遠近法がわかれば絵画がわかる」 布施英利、光文社新書)
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