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ジークフリートの剣 深水黎一郎

作者の初期の作品とのことだが、未読だったので読んでみることにした。作者の作品の特徴は、薀蓄満載の衒学的な文章と最後に待ち受けるどんでん返しの2つだと思うが、本書はその前者の特徴が色濃くでた作品で、読んでいて音楽評論でも読んでいるような専門的な知識の開陳にひたすら圧倒される。もう一つの特徴であるどんでん返しの方は、確かに最後にどんでん返しがあるのだが、作者の作品の中のドンでん返しの規模としては小さい方だと思う。本書の大きな特徴は、読者にとって最後の最後までミステリーを読んでいるような気がしないことだ。特に謎めいた出来事は起こらないし、引っかかる部分も見当たらない。それにもかかわらず最後の最後で作品全体が大きなミステリー作品だったこと、謎や謎解きそのものよりもこの作品がミステリーであることを隠すその構成そのものが作者お得意のどんでん返しだったことに気づいて、驚かされる。それにしてもこの作品にも見られる音楽に対する薀蓄の深さには、バイロイトの歌劇を一度も見たことがないものにとっても何となくわくわくさせられてしまう不思議な力を持っている。(「ジークフリートの剣」 深水黎一郎、講談社文庫)

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