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トランプー劇画化するアメリカと世界の悪夢 佐藤伸行
今年11月のアメリカ大統領選の結果はどうなるか判らないが、共和党のトランプ氏が当選する可能性もゼロではないらしい。そんな状況なので、彼に関する基本的な知識を取得しておこうと思い、読んでみた。本書は、彼に関する情報を過不足なく伝えてくれている良書だ。読んで驚いたのは、彼の祖父が「売春宿」の経営で生計を立てていたこと、彼の父親がKKKのメンバーだったこと、彼自身最近まで民主党員だったことなど、日本ではそれだけで候補でいられなくなるような事実がいっぱい存在することだ。彼自身についても、強硬な地上げで悪い評判が絶えないこと、彼の会社が何度も破産していること、明らかな徴兵逃れをしていることなど、醜聞のオンパレードのような人物であることが書かれている。本書のような日本の一般教養書に書かれているのだから、当然アメリカ人は知っているか聞いたことがある内容ばかりだと思うのだが、こうした人物が大統領候補として生き残っていることが本当に不思議に思える。アメリカ人の大半がそうした情報を得るための新聞や本を読んでいないのだろうか。それとも、アメリカという国が、そうした個人的な来歴やこれまでの行状ではなく、これから彼が何をしてくれるのかという視点のみで選択するというある意味で非常に寛容な社会なのだろうか。本書の最初に、歴代大統領のなかで最も人気の高いレーガン大統領とトランプ氏を比較して、類似点を列記している箇所があるが、それを読むと、本当に彼が大統領になる可能性が小さくはないと思えてくる。トランプ氏がレーガンのような名大統領になる可能性はゼロではないだろうが、それに世界の行く末を賭けるのはどう考えてもリスクが大きすぎるだろう。(「トランプー劇画化するアメリカと世界の悪夢」 佐藤伸行、文春新書)
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