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TAP グレッグ・イーガン

色々な書評を読んでいると、現代SF界で日本で最も評価の高い作家は「グレッグ・イーガン」だという結論になるだろう。それなのに、まだ自分はその作家の作品を1つしか読んでいない。しかもその作品を読んだ時、あまりに難しい記述に戸惑い、訳のわからないまま読み終えてしまった。自分の読後感と世間の評判の大きなギャップを何とかしたいと常々思っていたのだが、なかなかもう1冊を読む勇気が出なかった。ずっとそんな気分を引きずっていたところで目にしたのが本書だ。グレッグ・イーガンの短編集ということで、もしかしたら本書を読んでみて、世間の評判の高さの秘密が少しでも判るかもしれない。もしそれでもだめなら、自分には合わない作家ということであきらめもつくだろう、などと考えながら、読んでみることにした。読んでみると、巷で言われているような「ハードSF」という感じはあまり強くなく、普通に読める作品が並んでいた。心の中で鳴り続ける音楽に常軌を逸してしまう男、頭のなかで再構成される不思議な視点を持つようになってしまった男など、奇想天外な発想と、現代科学の行き着く先を見据えたような論理的なバックボーンがあいまって不思議な世界を構築している。解説を読むと、本短編集は著者の作品のなかでもハードSF色の弱い作品が並んでいるという。このくらいのハードさであれば自分にもついていけるという感じで有難い編集の1冊だ。作者の真骨頂には触れられなかったのかもしれないが、本書のおかげで著者の素晴らしさの一端を実感できた気がする。(「TAP」 グレッグ・イーガン、河出文庫)

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