第8場 野獣の館(庭)
小鳥の声。明かりが入る。爽やかな朝。大きなおやしき。バラの花咲く庭。
商人の声; どなたか、どなたかおられませんか。
邸の扉を開け、商人が出てくる。
商人; 昨晩の嵐が嘘のようだ。こんな森の奥に、これほどまでに大きなお邸とは。
二羽の鳥が来る。
ヒバリ; ♪ ぼくらが建てた ♪
ハチドリ; ♪ みんなで建てた ♪
二羽; ♪ お邸は気に入ったかい ♪
商人; 人懐っこい小鳥達だな。いい声で囀る。
さらに二羽の鳥。
アオカケス; ♪ みんなできみを ♪
キツツキ; ♪ すくってあげた ♪
4羽; ♪ ご主人様の命令で ♪
さらに二羽の鳥が来る。ヤマセミとヒレンジャク。
商人; 何が起こったのか思い出せない。昨日は疲れきっていた。
6羽; ♪ 思い出してみよう ♪
商人; そうだ。嵐の中をさまよい、私はこの邸にたどり着いた。扉は開いており
人を呼びながら入ると、居間のテーブルにご馳走が並べられていた。
呼んでも応える人はいない。我慢出来ず食べてしまった。食べたいだけ食べると
今度はベッドをみつけた。たまらず倒れこみ、朝になると・・・
6羽; ♪ 朝になると ♪
商人; 私はさっぱりした寝巻きに着替えていた。着ていた服は洗濯され
きちんと折りたたまれ・・
ヤマセミ; ♪ 着ていた服も ♪
ヒレンジャク; ♪ 洗ってあげた ♪
6羽; ♪ ご主人様の命令で ♪
商人; 誰かが助けてくれたのだ。しかしお礼を言おうにも誰もいない。
6羽; ♪ 一番のお礼はすぐさま立ち去ること 道案内するから早く行こうよ ♪
商人; この小鳥達、まるで話しかけているようだ。
小鳥達、頷く。
商人; それにしても見事なバラだ。
6羽 ; ♪ さわらないで ♪
商人; お金がないので、娘達におみやげは買って帰れない。でもベルへの
おみやげなら・・
商人、小鳥達が止める間もなくバラを折る。
6羽; なんてことを!
商人; え・・・しゃべった?
雷、辺りが暗くなる。獣達が現れる。
野獣の声; ♪ 恩知らずな バラを折ってしまうとは ♪
逆光を浴び、野獣が登場する。商人、倒れこむ。
野獣; 私はあなたを、飢えと寒さから救った。それなのにあなたは、美しく
咲いたバラを折ってしまった。
商人; 大切なバラだったのですか。
野獣; どんなバラもわけへだてなく貴い。折ってしまえば枯れるしかなくなる。
商人; わ・・私は、おみやげが欲しかっただけなのです。
野獣; (驚き悲しむ)みやげ・・・・
♪ バラを折り 命をうばって みやげにするのか ♪
家臣(獣)達; ♪ それならばお前の命を 引き換えにするか ♪
商人; 私の命・・・助けて下さい。大切な末娘の為だったんです。
野獣; 末娘。
商人;許して下さい。どんな事でも致します。
野獣; どんな事も。
商人; 誓って。
野獣; 末娘と言ったが、娘は何人おられる。
商人; 3人です。
野獣; では娘のうち、一人をここへ遣すがいい。あなたの代わりに喜んで来る
娘を。
商人; 私の代わりに喜んで・・・
野獣; 娘達がみな、代わりは務めないと答えたら・・・
商人; その時は。
野獣; ♪ あなたが帰ってくるのだ ♪
あなたが寝んでいた部屋に、大きな箱を用意させよう。馬車も仕立てさせる。
バラを折らなければ、宝石であれ、銀の食器であれ、好きなものを持って帰るが
いい。娘にせよ、あなたにせよ、ここへ来るなら、きっと準備が必要になる。。
音楽ととともに野獣、去る。次景へ。
↓
第8場 野獣の館(庭)
小鳥の声。明かりが入る。爽やかな朝。大きなおやしき。バラの花咲く庭。
商人の声; どなたか、どなたかおられませんか。
邸の扉を開け、商人が出てくる。
商人; 何ていい朝なんだろう。昨日の嵐が嘘のようだ。
鳥達が盛んにはやしたてる。
商人; 人懐こい小鳥だ。昨日のご馳走やベッドはお前達が用意してくれたのかい?
小鳥達、頷く。
商人; (笑って)まるで言葉がわかるようだ。それにしてもこの邸の主はどこに?
一言お礼をいいたいのだが。
商人、バラに気づく。
商人; これは・・・バラの花だ。何て見事な。
アオカケス; ♪ ご主人様が ♪
キツツキ; ♪ 咲かせたバラよ ♪
4羽; ♪ ここにしかない花 ♪
商人; これならいい土産になる。こんなに沢山あるんだから少し頂いてもいいだろう。
商人、バラを折る。
雷、辺りが暗くなる。獣達が現れる。
野獣の声; ♪ 私のバラを手折ったな ♪
野獣のシルエットが浮かぶ。商人は驚き倒れこむ。
商人; お・・お許し下さい。
野獣; 私のバラだ。私だけの。
商人; 本当に申し訳ございません。そのような大事なバラとは知らず。悪気はなかった
のでございます。ただ土産にしようと。
野獣、吼える。獣達が商人を取り囲む。
商人; 私の命でよければ差し上げます。でもこのバラを可愛い末娘にやる事を
お許し下さい。あの子はバラを見た事がないのです。
野獣; お前の命など貰っても・・・末娘?娘は何人いる?
商人; さ・・三人です。
野獣; 鏡を。
大きな鏡が登場。カーテンを開銀橋に3人の娘が。
ベル; 風が出てきたわ。お父様、大丈夫かしら?
長女; 大丈夫に決まってるじゃない。首飾り、買えたかしら?
次女; 靴も。
ベル; 何だか胸騒ぎがするわ。
野獣; 娘達か。
商人; ・・・は・・はい。
野獣; この娘のうち誰か一人を貰い受ける。手折ったバラの代わりに。
商人; 何ですって?それだけは・・
野獣が手を上げると獣達、鳥達が一斉に去っていく。
鏡の中の娘達は何事が起こったのかと驚く間もなく消える。
野獣; ♪ 深い森の中 誰にも知られてはいけない秘密
咲いてはならないバラの花 存在してはいけないこの姿
夢かうつつか 確かめろ ♪
商人; ここは・・・魔法の森なのか?私はとんでもない所に来てしまった。
獣達; ♪ 深い森の中 誰にも知られてはいけない秘密
一言でもしゃべったら お前を殺そう ♪
風と共に雷。獣達に押しやられる形で下手より娘達が登場。
商人; おお娘達。
娘達; お父様!
長女; ここはどこ?一体何が起こったの? (野獣のシルエットに)きゃあ、
や・・野獣?化け物?
次女; お父様、助けて。
野獣; 父親の手の中にあるバラは私のもの。
ベル; まあ・・・これがばら?
野獣; お前達の父親は無断で手折った。だから罰を受けねばならぬ。父親にとって
最も大切なもの。それがお前達。だからそれを奪う。3人のうち、一人だけ
ここに残るのだ。
商人; 許しておくれ。私がつい・・・
長女; バラが欲しいって言ったのはベルでしょう?こうなったのはベルのせいよ。
次女; そ・・そうよ。そもそもベルが。
野獣; 誰が残る?
次女; それはやっぱり長女のお姉さまが。
長女; え・・?私?嫌よ。何で。あんたこそ残りなさいよ。獣と暮らすのがお似合いよ。
野獣; 誰も残らないなら父親を・・・・
ベル; 私が残ります。
商人と娘達; ベル!
長女; あんた・・王様との結婚は断っておいて野獣と一緒に暮らすの?
ベル; ええ。私が残るわ。
商人; それはいけないよ。ベル。私はもう歳老いた。どうなってもいいからお前達は
助かっておくれ。今すぐ私をおいて逃げるんだ。
ベル; いいえ、バラが欲しいと言ったのは私よ。だから私が。
次女; いい子ぶりっこもここまで来ると見事だわ。
野獣; よかろう。それではこの娘を残してお前達は帰るがいい。
風、雷。獣と鳥に追われて商人と姉達が退場。
ベル; お父様!お姉さま達!
虎を残して獣達が消える。
ベル; (虎に)あなたは見張り?大丈夫よ。逃げたりしないわ。聞いてる?私、
逃げないから。
野獣; 気が強い娘だ。泣いてもいいぞ。
ベル; 泣かないわよ。お父様の身代わりになれて嬉しいわ。さあ、私を煮るなり
焼くなり好きにすれば?
野獣; 怖くないのか?
ベル; 全然。
虎; (くすっと笑う)
野獣; 調子が狂う・・・いい。今日はもう休め。
次景色へ。