運よく1度だけ見るチャンスを頂きました。
色々ベルばらを見て来ましたけど、今回の演出は斬新で尚且つ退屈しない。
彩風咲奈のさよなら公演としても最高の出来で、彼女はなんて幸せなトップスターだろうと思いました。
これから見る方もいるかと思うのですが、オールドファンも初心者もこれだけは心得て見て欲しいです。
ベルばらは歌舞伎
一般的に植田歌舞伎と呼ばれる仕様で、再演を重ねる度に「これでいいのか?本当にこれでいいのか?」と考え続けてしまいました。時代はベルばらがヒットした時のような女性の権利を主張する時代ではないし、軍隊には女性が沢山います。その中で「男装の麗人オスカル」の需要があるのか?と私は思っていたのです。
そして「原作を読んでから見るべきか、見てから読むべきか」と悩む作品でもあります。
で、今回、結論に達したのは「歌舞伎の段だと思って見れば、整合性のとれない場面の羅列でも矛盾がない」という事です。
植田歌舞伎の特徴は、芝居の整合性よりスターの得意技と見せ場をふんだんにいれた「段」の連続で、だから植田作品に出演しているスターはすぐに認知されます。
柴田作品は徹底的にキャラのタイプはは常に同じ。悪い男と泣かされる女。時々のトップコンビに合わせてストーリーを変えていくという感じ。
植田歌舞伎はストーリー性より場を盛り上げるのが先。
だから「何でこんな所で〇〇なの?」「え?いきなりそれ?」と驚かずに、これは「段」だから、そのシーンに気持ちを埋没させればいいのです。
一幕
今までと何が違うかというと、一言いうと「ストーリー展開の早さ」です。余計なシーンは全部省きました。見たいところ、見せるべきところだけ見せます。
そして、つなぎに薔薇の精達のダンスを入れましょうって感じ。
仮面舞踏会の後はいきなり何年後かな?
薔薇の精達の真ん中に大きなつぼみがあって、そこが開くとピンク尽くしのフェルゼンとアントワネット様が・・・そして愛を語るんです。
そうかと思えば宮廷の広間で、いつものモンゼット夫人とシッシーナ夫人のやりとり。今回はフェルゼン様派とオスカル派に分かれての舌戦。
そこにいきなりジャンヌが現れ(この人誰?って感じですね)偉そうに生意気にぎゃんぎゃん毒を吐きます。
オスカルはどこまでも生真面目な軍人でおばさま達にお付き合いはしません。そこらへんが、星組と違うんだなと思います。
フェルゼンに「本当に愛しているならお別れするべきではないか」と言われ、ショックを受けたフェルゼンは怒って去ってしまいます。
このままだとオスカルとアンドレは結ばれる事にならないんじゃとハラハラ。
アンドレはひたすら片思いを口にしますけど、全然オスカルには伝わってなさそう。
アントワネットは「今日からあなたは王太子妃になるのだからと言ってお人形を取り上げられた」話をしますが・・・なんとこのセリフはメルシー伯爵のも含めて3回以上出て来る。
わかった。それは分かったからお人形の名前は何ていうの?と延々と思い続け、最後にやっとステファンだったとわかるのです。
そして、フェルゼンの屋敷にはメルシー伯爵が訪れ「お別れするのが・・・」とオスカルとすっかり同じセリフ。
オスカルの時は怒ったのにメルシー伯爵に言われたら素直にスウェーデンに帰るフェルゼン。
国王の「知っていたよ」も2回程聞きます。
そうか・・・ご存知だったのですね。でもお許しになった心の広い、いい国王陛下だわと。
そして、唐突に「今宵一夜」です。
何と、フェルゼンから手紙が来て、「君を愛しているのはアンドレ」と読んで
「え?アンドレが?」
となり、アンドレを呼び、ここが本当に見事だと思ったんですけど、オスカルは何もかも初めてだったんですね。
「私を抱け」とは言うものの、本当に抱かれたらびくびくしているオスカル。可愛い~~~そしてアンドレのいきなりな強引感がいい!
で、次の場面ではもう死んでいるんです。
観客はここで思うでしょう。
「え~~バスティーユないの?でもまあ、フェルゼン編だから仕方ないか」
で、フェルゼンがグスタフ3世に出向いて、去る処ですが、夏見ようのグスタフ国王が素晴らしくて、フェルゼンに同情して泣いてしまいました。
私はこのシーンは壮一帆の方がいいと思っているんですけど、でも、こっちもやっぱり感動のシーンだなと思いました。
幕が下がるとみんな、感動のあまり色々声を上げていました。
宝塚が初めての人もいたようだし、「ベルばら」が初めての人もいました。
セットのキラキラ感が半端ないし、貴族たちの衣装も綺麗だし、夢の世界とはよく言ったもの。これが「宝塚」ですと世界に向けて発信してもいいんじゃないかと1幕だけ見てここまで思いました。
二幕
またも小公子達が歌って「フェルゼンとアントワネットはどうなるのでしょうか」とふり、ぱっと場面が変わったらいきなり「ロック・ラ・マルセイエーズ」が始まり、華世京率いる市民たちが「1789」ばりに踊ります。
尚先生頑張った!かっこいい事、びっくり。ここでこんな事しちゃって大丈夫?と思ったけど、次の場面でフェルゼンが「愛に帰れ」を歌うと、なぜか自然に繋がって、元の「ベルばら」に。
チュイルリー宮では王子と王女が「こまどりが泣いている」を歌います。この歌は鳳蘭のフェルゼン編に初お目見えだったと思うのですが、好きなんです。
途中で終わっちゃうのが悲しい。
ここでまたアントワネットが人形を取り上げられた話をし、そこに国王が入って来て、「知っているよ」が出てきます。
この場面ってアントワネットと国王が初めて夫婦らしい会話をするシーンですが、突如プロヴァンス伯爵が入って来て「呼び出し」があったと。
これで死刑なんですね。
で、何で弟君が?と思うと「お供致します」だったんですね。
アルトワ伯爵はさっさと逃げたけどプロヴァンス伯爵は兄に殉じるのかと感無量(史実は違うけどね)
あっと言う間に国王が死刑になって、フェルゼンは国境の町で国王が死んだ事を知り、馬車を走らせます。
ああ、懐かしい。ツレちゃんの声質に見事に合っていた「駆けろペガサスの如く」私にはいつまでもツレちゃんの声で残っています。あのベルサイユに咲く紅薔薇のように!じゃないよね。
でも、ジェローデルがここで時間を巻き戻してしまします。
なんと、ここでバスティーユですよ。諦めていたバスティーユが。
ここで思いました。
日本程、「ラ・マルセイエーズ」を美しくアレンジする国はないと。
パリ五輪の醜悪な開会式を思い出して下さい。
セリーヌ・ディオンが歌ったあれもよかったけど、やっぱりベルばらには叶いません。今でもこの曲を聞くと盛り上がりますから。
ここでのオスカルの「アンドレ、お前はもういないのか」に思わず泣いて。
今まで泣いた事ないのに。やっぱり歳のせいですかね。
小さい頃とまた違った感慨があるんです。
「バスティーユに白旗が!」あ、今、ロナンが死んだ・・・・
いやいやいや。
でもね、オスカルのいう「自由・平等・友愛」の先にあったものは、LGBTQと移民ののさばりでした。報われないスローガン。これだから左翼はと思ってしまいました。
どんなに理想を掲げて戦って、勝ち取ったとしても理想は理想でしかすぎず、結果的にこれを悪用しようとする人達を止める力もない。
「自由」の名のもとに「平等」の名の元に多くの人が傷つき泣いている。
その多くの人々がオスカル、あなたと同じ女性であること、留めておきたいです。
さて、こんな所で話を聞いてる暇があるの?フェルゼンと言いたいけど、オスカルの死の真相を知った彼は白薔薇を持って「よくやったな」と笑うんです。
そこ、そんなに清々しく笑っていいの?
そして植田先生の「持論」をフェルゼンが語ります。
つまり、人は黙っていても死ぬのになぜわざわざ戦争をするのかというような。確かにそうだよね。と思っていたら「セラヴィ・アデュー」が。
ここは咲奈ファンが号泣する所。
散る白薔薇も悲しかった。
次はもういきなりコンシェルジュリなんですけど、コンシェルジュリと言えば、忘れもしないパリ五輪開会式の「アントワネットの首」があったあそこ。
日本ではこんなにも愛され、悲劇の主人公として生きているアントワネット様、フランスでは違うのかな。
ここでフェルゼンは「王妃様!」と叫んでセリ下がっていくのですが、あまりに早すぎて。
ちょっと・・・ちょっと・・・ここはさあ、主役がもう少しためないと。
夢白あやは初風諄様じゃないんですから~~~~~と思ったら大階段に真っ赤な薔薇が。おおっ!と驚いてまあいいっかの気分に。
フィナーレ
赤い薔薇のロケットを経て、あとはほぼ彩風咲奈が出ずっぱり。特に群舞で縣千を中心に銀橋で踊る姿は生え抜きゆえの感慨がありました。
舞台上でジャケットを着たり脱いだり。
さぞや大変だろうなあと思いました。
特にラストは銀橋でのステップが秀逸で。
難しい振りはいらないの。男役がこういう風に立ったら、こういう風に振り返ったらかっこいい!ポーズの連続で堪能させて頂きました。
パレードは、アントワネット様の真っ赤な衣装で始まり。
そう言えば、初風諄様の時はせり上がってのパレードで、あれも斬新でしたね。
今回はその上でした。
なんせ、トップが降りてきた時、誰もいない。
こんな経験は星組、稔幸の「WEST SIDE STORY」のフィナーレ以来。
え?と思ったらなんと。客席から登場ですよ。
そこで歌って私達も拍手で応えてという、客席一体型のパレードでございました。
終了後は、どよめきが止まらず、私もめまいがしそうでした。
宝塚、やればできるじゃん。
宝塚は永遠ですというのを「ベルサイユのばら」で証明しましたね。
110周年にふさわしい演出でした。
出演者について
彩風咲奈・・・さよなら公演で恵まれてよかったですね。パンフレットも分厚くて、衣装もとっかえひっかえ、これ以上ないです。優しいフェルゼンでした。
夢白あや・・・この世代で植田節を語るのは難しいと思います。時々「へ?」ってセリフ回しもあったけど、非常に歌舞伎的で威厳のあるアントワネット様でした。
朝美絢・・・オスカルとしての出番が少なくて。フィナーレも全然出てこないし。でも、朝海ひかる程ではないにしても、非常に素直で可愛いオスカルだったと思います。場面数のない中で個性を発揮するのは大変だったと思うのですが、よく頑張りました。
縣千・・・非常にかっこよく包容力のあるアンドレだったなと思います。貫禄がついたというか、上級生としてよい意味で成長したなと思います。
華世京・・・ベルナール。ベルナールのモデルはカミーユ・デムーランだと聞いた事があります。新聞記者でジャコバン派の中心になるけど、池田理代子さんの続編では殺されちゃう可哀想な役です。でもここのベルナールは非常によかったと。まあ、ベルナールの見せ場は本来、黒い騎士でそこが省略されているので見せ場はないけどね。
野々花ひまり・・・ロザリー。彼女の見せ場は撃たれたオスカルに駆けよるシーンくらいですね。それと王妃にスープを差し入れるところ。そしてフェルゼンと止めるところ。そつなかったなと思います。
音彩唯・・・大胆なジャンヌでした。見た目も印象的ですけど、セリフ回しの元気のよさが印象に残りました。
まあ原作を知らない人からすれば「誰?」って話ですけど、ジャンヌはロザリーのお姉さんなんだよ。
専科の方々も本当に素晴らしく盛り上げてくれてよかったです。
本当は、アントワネット様の名セリフ
「例え太陽が西から登ったとしても」や
「こまどりだって平和平和と鳴いているでしょう。マリーアントワンネットはフランスの女王なのですから」とか
ポリニャック夫人の「文句があるならベルサイユにいらっしゃい」も聞きたくなるわ~~~
衣装について
今回の衣装担当は加藤真美氏です。
任田先生のように袖口のレースや、燕尾服の肩のラインが素晴らしいとか、有村先生のようなワンショルダーのドレスのインパクトや、群舞の衣装のかっこよさは過去のものになりつつあるんだなと。
次代の流れなんだからそれはしょうがないです。
加藤真美氏の衣装は個性的で、現代的で。ある意味好き嫌いがあるような気がするんですね。いい時はいい、でもダメだなと思った時はダメ。
今回、主役クラスの衣装はよいとして、問題は貴族の奥様達なんですね。
何となく「ちょっと違うかも」って感じが。
それは、万里柚美ら大貴族の衣装と、その間に挟まっている昔の貴族の衣装。これを比べると、昔の衣装の方が華やかで可愛いわけ。
で、加藤氏は、年齢に合った衣装を考えたのだと思います。
しかし、ベルばらというのは、全体的にパステルカラーで難しい色合いはあまり似合わないのです。
フィナーレの夢白あやの赤いドレスを見て「これが最強」だなあと思いました。
他の衣装は、ピンク、グリーン、ブルーと色の統率が取れていて好きです。
薔薇の精達の衣装も可愛いし。
だけど、加藤氏の現代性が、今後のコスチューム物の流れを変えてしまわないか、そこから宝塚的なものが消えてしまわないか、ちょっと心配なのです。
任田氏が陽なら有村氏は陰。そして加藤氏はどっちなのか。
ショー向きではあるけど、芝居の中で溶け込んでくれたらいいな。
そしてせめてもう一人、「陽」のデザイナーが欲しい。
「夜明けの光芒」の衣装を担当した植村麻衣子さんのコスチュームは中々よかったなと思います。
日比谷シャンテの衣装展もぜひ見た方がいいですね。
今までになくお金を使っております。
もうびっくり。
そして東宝のグッズ売り場にはキャトルに負けじと品揃えが豊富になりつつ。
特にモーツァルトのくまには着せ替えがあって女子が群がっておりました。
私、「ルパン」のDVDを買おうか迷っているんですけど、買う価値ありですか?