
「ねー、トーちゃん疲れてる?」なんてお昼を前にした山の畑で妻が言う。
「疲れていなかったらオートバイでゴッポ蕎麦食べに行かない」そうだ先日ケーブルテレビに出ていたなー。
「疲れなんて大丈夫だけれど、まだオートバイは一回もエンジンを掛けてないぞ、車でも良いじゃない」
と、言うことで山から下りて、久しぶりに一人暮らしの叔母さんを招待と思い、電話を掛けた。
ところが時刻的に遅すぎて、もう昼ご飯は済ませたし、これから出掛けると言う。
それならばと言うことになり、思い出したのが我が家から見える山の上に有ると言う蕎麦屋。
思い出した情報誌で調べ、電話を入れて「これから下の村から食べに行きます」と告げる。

鄙びた山の上の村の道路に立つ、緑の幟を頼りに蕎麦屋を探し出す。
古い民家そのものの蕎麦屋さんには何人かのお客さんが窓越しに見えた。

「きざわそば」の暖簾の脇には郵便受けが。

洒落た野の花を生けた向こうのお品書きの「ビール」に思わず目が行く。

「な、良いだろう」と妻におねだり。お出かけを言いだした妻に不満は無し。
昼酒のかすかな背徳感と、山菜の突き出しをつまみに飲むビールの美味しさよ。

「トーちゃんがビールならば私はこれ」なんて妻が買った細工物。
近所の器用なオジーちゃんの作品だとか。それにしても添えた私の指の汚さよ。
ついさっきまで、さつま芋を植えたり、ジャガイモの土寄せをしていた手ですからね。

「お品書き」に有る「天ざる」の大盛りです。ワッ、唐辛子入れすぎちゃったー。

独活、アンニンゴ、ヨモギの山菜にカボチャの天ぷらです。
「通はざるだけなんて言うのにありがとの」なんて店主は驚くことに顔見知りでしたよ。
もう随分前の事になるけれど、農天市場の土地を手に入れた際に重機で整地してもらった人でした。

席から見える厨房の中のメンバーは年配の男性ばかり。
うん、中々美味しい蕎麦だけれども、手切だったらもっと良かったのに。
「もう、ここのところ雨が降らないから働き通しでサー」なんてビールの言い訳。
今日も朝早くから、さつま芋を300本植えて、そしてジャガイモの土寄せをしてきたと言うと、
同席の若い男女が驚いたような顔つきで聞いていました。
(続く)