ジャンが鳴ると(その1)
一時期赴任していた、県境の職場は関東に近い、立地条件とあいまって、
賭け事の好きなメンバーが揃っていた。
仕事の後の麻雀は勿論、休日には競輪競馬にと繰り出す。
元来賭け事も嫌いでない私は、先輩達の薫陶を十分に受けた。
誘ってくれた先輩が競輪好きだった事もあり、専ら競輪場に通った。
競輪場のある町は、鉄道の駅さえ雰囲気が違うような気がする。
確かにタクシーは違う。小声で乗り合いを誘う。
「競輪でしょ。乗り合いでどうですか」お客も慣れたもの、知らない者同士が平気で乗り込む。
タクシーの運転手は饒舌だ。「私もこの前、万車券を取りましてね。お客さんも頑張って下さいよ」と上機嫌だ。
そう勝負に関係無く、開催日には儲かるのだから。
さて、入場券売り場からさえ熱気が溢れている。押されるように入場する。予想屋の元気の良い声。
立ち食いの食べ物の匂い。雑然とした賑わいは競馬場の雰囲気と比較される事も多い。
あまり紳士的では無いと。
予想紙を買い、ついでにちびた赤鉛筆も買う。一本の鉛筆を何本に分けるのか。何でも商売にする逞しさだ。
立ったまま予想紙を読み、自分の推理も入れ考える。
本命を多めに買い、穴を狙って何点か買い足すのが、私の教えられた常道だった。
(続く)