夢見るババアの雑談室

たまに読んだ本や観た映画やドラマの感想も入ります
ほぼ身辺雑記です

「わたしのお仕事」

2024-08-22 09:43:37 | 自作の小説

毒親なんて言葉は好きではないけれどー

ーとその娘は言ったー

 

でもね 親の過剰すぎる期待ってね 時には物凄く重圧なの

自分でね やっぱり到底無理とかわかるのに もっと凄い人 素晴らしい人達がいっぱいいるのにね

親にはわからないの

 

あなたにはこれだけお金をかけてきたのよ

こんなに可愛く産んであげたんだから

 

だから なれるはずよ

 

おかしいわ 一つ上のあの娘がなれたのに あなたがなれないなんて

絶対あなたの方が可愛いのに

もしや あなたイジメを受けているんじゃない

絶対 そうよ 許せないわ

 

でもって 

あたしは もうそこに居るのもつらいように追い込まれた

誰も言わないけれど あたしにはそう見えるの

周囲の人は あたしを こう見ている

 

あの娘はね 信用できない

自分に都合の良いように 物事を変えて話す

それだけの身を削るような努力もしていないのに

自分を守るために嘘をつくんだわ

 

ええ そう

あたし 自分で自分を追い込んでしまった

できもしないのに

 出来ます やってます

そう言って

全然できていないのに

だから嘘を吐くしかないの

責任が果たせていないから

なんにもやるべきことができないから

 

嘘がバレるから 相談もできない

教えを乞うことも

だからね もう嫌になっちゃったの

 

もう いいや

 

そう思ってしまったのよね

 

ーただ それだけで娘は死んだのだとー

 

「できないなら おえない責任なら 無理ですって言えば良かったのに」

うん こうなってから気づいた

重かったんだ 重すぎてしんどかった

あたし自身が届かないってわかっている場所へ行けると 思い込んでいる相手にさ

そんなの絶対無理です

って教えるの 

あたしが願っている場所はそこではないーと

 

あたしは そんなにできる人間ではないって言うのもね

できなかったの

 

「景色を見納めたなら そろそろ行きましょうか

もうお盆も終わりましたよ」

 

はい 死神さん 

待っててくれて有難う

 

ーその娘は こくりと素直に頷く

わたしは 娘の手を取り すいとその魂を胸に収める

次の世界へ届けるために

 

それが わたしのお仕事ゆえに

 

 

 

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「彼も来年を心配する」

2024-07-13 13:07:37 | 自作の小説

「あの二人 また喧嘩したのか 織姫早々と帰ってきおったな」

やや心配そうに天帝が言う

続けて「まあ 痴話げんかじゃろうて 喧嘩するほど仲がいい 良いこっちゃ」

などと呑気に言ったものだから 二の織姫に噛みつかれてしまった

 

「いいいですか 姉姫さまはかつては世の男性の憧れでした

それが 今や・・・嫁にはいっているのに

いけず後家と笑われる哀れな身の上に

 

それでも姉姫様は 一年にたった一夜の逢瀬

最高に美しく魅力的な自分を見てもらいたいと ダイエットに励み自分を厳しく律し

当日身に着けるものは 細やかに神経つかって選び抜き 装ってでかけるのです

健気すぎます

 

それなのに肝心の馬鹿夫は・・・天気予報が雨だからと出かける支度はおろか だらしな~~~~い!!!姿でいたのです

そりゃあ姉姫様の御怒りになる気持ちはよっくわかります

 

けれど姉姫様がこんなことになるのも お父様のせいです」

 

「わっわしの!?」

天帝は目を白黒させる

 

二の織姫が言うには

「ほぼ顔だけ取り柄のあの男が頼りにならない 姉姫様を任せるにはもの足らぬ

そういうお気持ちはわかります」

「そっそうじゃろう あれはなぁ どうにも姫を苦労させそうで

夫婦として長続きしそうになくてな」

 

「ダメだったなら 別れればよいだけのことです

そこは姉姫様が判断なさる事

いつまでこういう中途半端状態で捨ておかれるつもりです」

さしもの天帝様も娘にかかっては たじたじで言葉も続けられない

静かに笑っている妻の妃をみやれば

 

「二の織姫と同じことを あたくしは長年言い続けて飽きました

あなたのせいで 二の織姫もたいそうな迷惑をこうむっておるのですよ」

「ええ! いけへん姉妹・・・・・などとお笑い芸人のように呼ばれております

それもこれもお父様の本心

綺麗な娘を手放したくない

なんてわがままのせいです」

 

「しかしなあ 皆は七夕 一年一夜の逢瀬 ロマンチックなどと受けているぞ」

「そういうのね 当人たちにとっては ただの大迷惑です

とんまチックです」

 

 

二の織姫の追及に頭を抱える天帝様

そこに飛び込んできたのは きっちり身なりを整えてきた彦星クン

「すっすみません そこで聞いておりました

みんな俺が悪いんです」

 

「お前は~~~~ここは立ち入り禁止じゃと命じたであろうが

またも掟破りをしおったな」

チャンスとばかりに彦星クンを責め立てる天帝さん

内心助かったと思ったようです

 

「あのねえ 貴方 新婚時代に浮かれて 多少すべき事がおろそかになるのは ままある事ではありませぬか

恋に溺れる 貴方様にも身に覚えがありすぎますでしょうに」

 

「しかし しかし妻よ 来年の七夕はどうすれば・・・・・」

 

やっぱり 心配はそっちなんだと彦星クンは思った

さて来年の七夕や如何に?!

そして織姫 彦星 二の織姫の今後はどうなるのか

二の織姫も無事にお嫁にいけるのでしょうか

 

 

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ごめんなさい

 


「彼は来年を心配する」

2024-07-10 21:37:07 | 自作の小説

天気予報では雨だったんだ

じゃあ 身なりを整える必要はないな

雨なら出かけても濡れるだけだしね

 

とっころが!

天気予報は大外れ

外は ぴいかぴかのっき~らきらきらお星さま輝き・・・・

 

ああ なんてこった

うわあ まずいな どうしよう。。。。と焦っていたら

地の底も凍り付きそうな冷え冷えとした声が聞こえてきた

 

「貴方様と言うお人は・・・あんまし怠けて遊びまわってばかりおられて それで

あたくしも一年に一度しか会えない身となりましたのに

その一年にたった一度の逢瀬までこうして ぐうたらりんとお過ごしになり

こんなこんなだらしないお姿で

まったくまったく

良いですか 貴方様の数少ない取り柄のおひとつが その見た目なのです

身だしなみすらさぼられては

ああ 情けない 情けない

ようございます

おしまいにいたしましょう

もう金輪際 貴方様とは年に一度だってお会いしたくございません」

 

そうなんだ

優し気で綺麗な見た目だけど 織姫って性格きついんだよな

七夕 ひと夜の逢瀬って ロマンチックって勘違いされているようだが

そんなに甘やかなものじゃあないんだ

もっとしっかりしていただかねば困ります!ってさ

怒られてばっか・・・・・

 

しかし 来年からの七夕・・・どうなるんだろ

 

 

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ごめんなさい「


「闇草紙」ー消えぬ光景ー

2024-06-11 23:21:21 | 自作の小説

夜釣りに出かけて女を拾った

まあ そんな色っぽい話では全くないのだが

 

さしたる釣果もなく帰ろうとすると こうカサカサ・・・耳障りな音がして

妙にその音が気になり

見つけた音の出どころが・・・女だった

若いのか年寄なのかもわからないくらいに 骨に皮膚が貼りついてみえるほどに痩せている

窶れている

着ているものもぼろぼろで

枯れた草の中 岸辺にこびりついたゴミのように倒れている

見つけた以上 放ってもおけない

声をかけたら 喋った

「捨ておいてください」

そう言われて捨ててはおけないじゃないか

暮らす長屋に連れ帰る

「腹が減ってはいないか それとも医者がいいか どこか悪いんじゃ」

横にならせて 粥でも作って・・・と こちらがバタバタしていると

女は言った

「どうにもなりません いけないのは心なんです」

 

心・・・何かとんでもないことがあってのことだろうか

ほぼおもゆのような粥のうわずみを どうにか女は飲んで・・・

一口だけ

それで

女は言うのだ

「もう・・・いけません」

と口元を抑える

 

「すみません」

それから理由を聞くと 暫く経ってから 女は話し始めた

ーーーーーーーーーーーー

「気味の良い話ではありませんよ

暫く前に あたしが暮らす一帯はひどい飢饉に襲われたんです

そりゃあ沢山の人が死にました

村中 あちこちに飢えて死んだ人が転がっていて

 

もうみんな埋める力も残っていなかったんです

そんななか 村外れにあるお寺のお坊様が そんな死体を背負って運び自ら穴を掘って埋めて下さっていたんです

読経もして下さってね

村の者は皆有難く思っておりました

なんてえらい立派なお坊様だろうと

どうにか食べる物が作れるようになってきた頃でしたか

村の子供たちがいなくなることが続いたんです

別の村でも 神隠しに子供たちがあっていると

 

十月〈とつき〉ばかりお腹に抱えて やっと産んだ この手に抱けた子供です

そんなの たまりませんよ

誰かがさらっているんじゃないかと言い出す者もおりましてね

とうとう あたしが産んだ子も消えてしまって

誰かが言い出したんです

お坊様が村を歩くと 子供たちが消えるーと

その人も自分の子供がいなくなって ずうっと捜していた人でした

いつしかお坊様が怪しいと思うようになったのだと

それでもね みんな まさかと思いましたよ

 

でも・・・でも まんがいち

万が一・・・・・

亭主とあたしは 他の人たちと一緒にお寺を張ることにしたんです

するとね 夜になってからお坊様は暗いお堂の中へ入っていくんです

最初は読経が

ところが そこに交じって聞こえてくる気がするんです

赤ちゃんの泣き声 それも激しい「ぎゃっぎゃっ・・・・・」

 

あたし あたし もうたまりませんでした

あれは あたしが産んだ子の声だ

そう思えたんです

 

誰かが戸を開け 持っていた松明をかざせば

 

振り向いたお坊様の口には 小さな指が覗いていたんです

ええ むさぼり食っていたんでございますよ

 

此の世の地獄でした

あの光景が あたしには忘れられないんです

お坊様が いえ あの鬼が繰り返すうまいのじゃうまいのじゃ

 

男たちは 松明を投げつけ 燃やしました鬼を

 

みんなね それでも もう村に暮らすことはできなくなってしまいました

 

村にいては思い出してしまいます

家族一緒に暮らすことも もう無理でした

頭から離れないのです

ずっとずっと

うまいのじゃ うまいのじゃ

この声が聞こえてくるんです

 

あの鬼はね 燃やされながら抱えた小さな体を離さず食い続けていたんですよ

 

あたしが産んだ子を

あたしの心の中では ずうっとあたしの子はあの鬼に食われ続けているんです

もう何か食べようとしても 吐いてしまうんです

飲み物も・・・・・

 

有難うございます

もう野垂れ死ぬ身でありましたに

こうして家の中でおしまいにできそうです

ご迷惑をおかけします」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

医者にも来てもらったが やはりどうしようもないーということで

それから暫くして 女は死んだ

 

女を弔ってもらった寺の僧侶に話せば・・・・・・

「聞いたことがある」

さして豊かでない荒れ寺へ向かった若い僧がいた

近くの村の野良仕事も手伝い 子供達には読み書きを教え いつしか慕われるようになっていった

そこへ未曾有の飢饉・・・・・

立ち直ったかと思われた頃に燃やされた寺

ーあのお坊様は 人食いの化け物になったとですよー

ー有難いはずのお寺は恐ろしい場所にー

ー燃やしてしもうた我らも地獄におちる 救われんのでしょうなあー

ー皆 地獄行きですて それでも我慢できんやったとですー

 

村を捨てた人々も。。。。。皆 かなしい亡くなりかたをしたのだと

 

南無阿弥陀仏・・・・・ただこの六文字を繰り返すしかできなかった

 

 

 

 

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「闇草紙」ー鬼を燃やすー

2024-06-07 14:08:02 | 自作の小説

かつて寺には鬼が居たのだと言う

それは昔むかしのこと

眠らない子供相手にどうしてそんな怖い話を聞かせたものか

話してくれたのは誰だったか

添い寝してくれて

ーーーーーーーーーーーーーーーー

それはそれはな 山奥にあった村なのじゃよ

もうせんに住む者もいなくなり この世から消え去った村

米がとれない 途中で腐る

麦も虫に食われて

何も育たない

雨も長いこと降らぬ

食べるモノなく飢えて死ぬ者が多かった

飢饉・・・

もう弔う元気ある者もおらず そこいらに死人が転がっておる

村はずれの寺のお坊様は 死体を拾っては寺の裏庭に埋めて読経する

自分とてろくに食べてはおられぬだろうに

えらいお坊様だと村人は皆感謝しておった

有難いことだと

少しずつ野菜もできるようになり 麦も米も

長い飢えの苦しみが人々から遠ざかっていく

 

ところがな ところがじゃよ

小さな子供や赤ん坊がいなくなることが続いた

神隠し・・・

子供が消えた親がそういうことで納得できようこともなく

案じたお坊様も見回りなどしておられたと

 

それでも子供は消える

村人たちは とうとう気づく

安心して子供がついていく人間

疑うことなく

村を歩いていても誰も不思議に思わないのは

それは

 

村人たちは誰も まさかと思った

信じたくはなかったのだ

 

しかし 

村人たちは聞いてしまった

闇に沈む暗い暗いお堂の中から微かに聞こえる声 言葉

物音

「うまし うまし」

美味じゃ美味じゃ 南無・・・・・

お坊様の声だった

 

お堂の戸を開けて松明を掲げた村人たちは見た

お坊様の口には赤ん坊のものらしき小さな手

 

 

飢饉の折に お坊様はひもじい気持ちに負けて

弔うために運んできた死体に口をつけた

それから

子供ほど美味しいことを知ってしまった

新しい死体ほど美味しい

そうして生きているものは その肉は臭くもなくただうまいのだと

 

飢饉が終わっても・・・お坊様はその味が忘れられず

食べ頃の子供を捜してさらってくるようになった

村に赤ん坊が生まれると この子はどれほど美味しかろうと

その気持ちを抑えられず

 

ただどれだけいとしんで大事に食べても 食べ続けていれば無くなってしまう

もっと食べたい もっと食べたい

 

うまいのじゃ うまいのじゃ

 

恥ずかしげもなく繰り返すお坊様

その姿は村人たちには鬼に見えた

お坊様の姿を借りた鬼だと

村人たちは持っていた松明でお堂に火をつけた

 

そうして村人たちは この子喰らいの鬼がいた村を捨てて出ていった

 

ただ言い伝えは残る

遅くまでお外にいてはいけないよ 鬼が来るよ

夜になったら大きな声で泣いてはいけないよ

鬼に食べられてしまうよ

恐ろしい恐ろしい鬼が来るのだよ

 

だから おやすみ

早く 早くね

いつまでも起きていてはいけないよ

 

ーーーーーーーーーーー

 

添い寝語りの物語は 細かな部分は繰り返されるたびに違うけれど

村の中の道を子供を求めて彷徨うお坊様の後ろ姿が目に浮かぶ

少し背中をかがめて いつでも見つけた子供に声をかけられるようにして

小さな子供は お坊様の衣の中に隠されて

「お前は愛〈う〉いね 愛〈う〉いね」

かぷり かぷり かじかじ

 

お堂を燃やされてお坊様は死んだのかしら

鬼は本当にいなくなったのかしら

 

 

 

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「闇草紙」ー縛めの糸ー

2024-05-28 20:57:16 | 自作の小説

とろとろ 眠りは誘う

ーそんなに眠いなら もう潔く眠ってしまえよーと誘ってくる

眠りに身を任せようか・・・このまま・・・

いつしか瞼は落ちて・・・・・夢を視〈み〉ている

 

うかうかと夢を見る

これは現〈うつつ〉か それとも・・・・・・

 

小癪な女がいたものだ たかが娘っ子

甘く口説いてやっても意に添わぬ

この女の父親も気にいらぬ男であったよ

躓かぬうちに邪魔な石は取り除くに限る

潰してやったわ

 

頼る者もいない娘っこ

どうとでもできると思ったに

 

甘々帝までもが 娘っこの美しさを耳にし 入内させよなどと画策を

 

面倒な

帝には我が娘をあてがっているというに

何をしても言うことを聞かぬゆえ

悪い噂を立ててやったわ

あれは人を呪っておると

そういう忌むべき者よと

 

それでも我が物とはならぬと頑な女はな

自ら死んだそうな

 

主〈あるじ〉亡き屋敷は見る影もない荒廃ぶり

余興に嘲笑ってやろうと見物に来てみた

 

ざまあみろ 言うことを聞かぬからだ

この儂に逆らうなどと

 

今頃は地獄にでもおちていようか

牛馬に踏まれておればよい

 

牛車を降りて外からボロ屋敷を眺めてやった

きらり 何かが触れたか・・・・・

何が 起きた?

 

これは何の香だろう

甘やかな不思議な香り 漂ってくる

何も見えない

昏い 昏い

 

今の今まで明るかったはずだ

面妖な

 

「明かりをお持ちします」

この声は何処からだ

 

確かに明るくなった

 

儂はいつ建物の中に入った

ここは誰の屋敷だ

御簾の奥にぼんやりと ぼんやりと 人らしき影

 

「おいでなさいまし お待ちしておりました」

 

いやいや かような女人は知らぬ 知らぬ

歌を贈ったこともないぞ

ぴいいい。。。。んと 不思議な音が聞こえる

指に何か絡んでいる

これは 細い細い これは

 

「お一人では お寂しかろうと少し集めてみましたの」

 

裾から何かが上ってきている びっしりと? びっしりと

この小さなモノは 小さなモノたちは・・・・・

「そのモノたちは大変飢えております 生き餌を待っておりましたの

悪しき血でも 血は血 肉は肉」

 

御簾をあげて女が姿を現す

それは美しい しかし額には2本の角ある異形の者

 

体が蜘蛛に覆われていく

小さいが無数の蜘蛛たち

わらわらと登ってくる

体が動かぬ 動けぬ

透明の糸が全身に絡んで 縛っている

た 助けてくれ 助けてくれ

 

気味が悪い この蜘蛛たちをどうにかしてくれ

目ざわりだ 邪魔だ

 

「姫様の父君を殺し 姫様を死においやったそちらこそ 邪魔者

消えていただきます」

異形の女は冷たく笑って姿を消した

 

後には・・・波のように押し寄せる小さな蜘蛛たち

ああ もう顎までも登ってきた

頬にも目にも

ああ目の中にも蜘蛛が

 

どうしてこうなった

何故儂が 儂が

これは夢か それとも

 

 

 

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ごめんなさい


「闇草紙」ー蜘蛛ー

2024-05-23 11:29:15 | 自作の小説

山歩きの途中で道に迷って おまけに雨も降りだして最悪な気持ちでとぼとぼ元気なく歩いていたら 頭を枝に打ち付けた

首を振って手で枝を払ったら・・・その先に家が見えた

 

ぼうぼうの雑草が生えた庭

声をかけてみたが返事は無い

誰もいないのか・・・それとも空き家なのか

軒先を借りて雨宿りすることにした

雨は止みそうにない

足が疲れていて 大きな石の上に腰掛ける

何やらうとうと・・・眠気に襲われる

雨があがるまで寝て過ごすか

 

こくん 首が落ちてくる

ああ こんな寝方をしたら あとで首が痛いぞ・・・などと思った

 

「もしもし」

声が聞こえる

「もしもし あなた こんなところで眠っていては危ないですよ」

声は言う

「この山は熊も出るのです どうぞ おあがりなさいまし」

声は続けた

「どうか 家の中でお休みになってくださいまし 何もございませんが」

声に誘われ 家の中へ

 

布団が敷かれていた

「ここでゆっくりなさってくださいましな」

 

それを不思議とも思わず遠慮なく横になる

 

 

ところが 横になってみれば 疲れているはずなのに眠りに落ちることができない

ぎゅっと瞼を閉じて眠ろうとはしているのだが

それがどうしてわかったのか 再び声がかけられる

 

「お眠りになりにくいご様子 子守歌代わりに昔語りはいかがですか

少しお喋りさせてくださいましな」

半分眠ったような うつつのような

声のみ流れていく時間

声は・・・語った

 

ーその昔 一匹の蜘蛛がおりましてね

ええ姿形が気味悪いからと 昔むかしから嫌われものの存在でございましたよ

踏みつけて殺されたり 石で潰されたり

けれど ここに不思議な姫様がおられましてね

雨の日に床を這う蜘蛛を 袖でくるんでお部屋にいれられたのでございます

「これから嵐になりそうだけれど ここなら濡れずにすみますよ」

それは優しくあたたかな・・・そして美しい響きの声でございました

その蜘蛛もそりゃあうっとりしたものでございます

薄暗い部屋の中すら輝いて見えるほどのお美しさ

 

その姫様は静かに孤独に暮らしておられました

お父上は高位の身分のお方でしたが 邪な心の政敵の為に 地位を追われて失意のうちにご病気となり世を去って

 

姫様の美しさを聞きつけた殿方からは 幾人からもお文をいただきもしましたが

姫様は お父上を陥れた側に連なる方々が許せなかったのでございます

 

むしろ誰からも忘れられ 打ち捨てられて世を去る

そんなことを願われておりました

ただ一つの希望として

 

そんな姫様なのに

どなたかを呪っているなどと酷い噂を流されて

 

ええ ええ おおかた姫様に相手にされなかった殿方のどなたかが流されたものでございましょう

自分のモノにできないなら いっそ罪におとしてやろうと

歪んだ醜い心の者はいつの世だっておりましょう

他人を陥れる者は己の心の薄汚さに気づくことはありません

その魂の泥まみれさにも

 

姫様は捕えられる前に いわれなき罪で その身を裁かれる前に

喉をついて

苦しい息の下

近づいていった一匹の蜘蛛に こう言いました

「そう 看取ってくれるの お前  物語のようには簡単に死ねないものね

もうこの家には食べるものも無いでしょう

どうか この流れる我が血をお飲み 

少しは足しになるでしょう

もう 何もしてあげられないから」

 

姫様は静かに微笑んで・・・そうして その命の火は消えてしまいました

 

小さかった蜘蛛は 姫様の血を飲んで 己の命の糧として その姿を変えました

蜘蛛はねえ

自分を可愛がってくれた姫様の仇をうちたいと思うようになったのでございます

 

その思いは その身に毒を有させるようになりました

毒糸を吐き 噛むことでも毒を

 

それで 姫様を陥れた人間たちへは復讐できました

 

姫様は戻ってはきません

あの方には二度と会うことはかなわないのです

ますます蜘蛛は寂しいばかり

 

ただただ寂しいばかり

 

そんな蜘蛛が いるのでございますよー

 

 

夢を見ていた

かなしい さびしい なにより哀れな

夢からさめれば そこは山の中

見上げる木の上に何か光るもの

あれは・・・蜘蛛の巣か

そこから涙の糸のように滴が落ちてくる

ぽとん ぽたぽた

それが顔に当たって目が覚めたのか

 

蜘蛛の巣が 美しい網目もようが ふらふら揺れる 

あっちへお行きよ と言うように

 

その通り歩いていったら・・・・・

見慣れた場所に戻ることができた

 

寂しい蜘蛛に助けられたような

不思議な気分だった

 

 

 

 

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「気にしちゃいけない」

2024-04-11 20:18:33 | 自作の小説

パチンコ店が無くなったあと 長く空き地だった場所が自動車販売店となり

また家の前の道路の突き当りも住人が居なくなり こちらもずうっと空き地状態が続いていたが

国道沿いと同じ自動車販売店が購入したとかで こちらも駐車場となった

工事に来た人の話では 国道沿いの土地とつなげるのに境のブロック塀を壊すから

整地後 こちらの道路を車が通ることはない

 

そんな話だったのだが

こちら側の道路も車が通っている・・・・・・

それがなかなかの台数なので 結構すごい音がする

今まで突き当りの一軒家で静かに過ごせてきたのに・・・・・

まあ 世の中は移り変わるもの

仕方あるまい

 

自動車会社の近所の住人ならご理解できるかと思うのだが

夜遅くまで ずうっと駐車場〈販売車の展示場〉に眩い照明が輝いていて・・・

夜早く寝たい時には些か迷惑でもある

 

庭の周囲をぐるりと自動車店の塀と車に囲まれている

ところでね 玄関から出入りする時に ひどく嫌なモノに気がついてしまった

ふっとね 不思議なモノを見てしまったような気がしたのだ

その不自然さが注意をひいたというか

 

車だから人が乗っているのは当たり前

普通なら そういう認識だろう

 

でもね ちょっとおかしかった

首の角度がね

車のサイドの窓に 真横に顔が貼りついている

首が直角に折れた感じで

 

家の玄関側から見える 自動車店の駐車場は 車が向き合って10台づつ

奥の突き当りにも10台並べるかって広さで

 

駐車している車の窓に90度に折れた首の顔が貼りついて こちらを見ている

 

怖い 気味悪いと思うより先に 一体何なのだろうと考えてしまった

 

で それから見るのを止めた

考えてもわかるものでもないし

 

今のところ 気づいているのは私だけのようだし

 

それに昼間はいない

内気なモノたちなのかもしれない

 

あの折れた首たちは 車に付いているものなのか

 

うん 私なら嫌だぞ

ああいう首付きの車を買うのは

だがしかし 世の中には物好きも多い

ああいう付属品 おまけが嬉しい客もいるのかもしれない

 

 

 

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「きれぎれの記憶から」

2024-04-03 08:57:03 | 自作の小説

ーその死ー

一度は起き上がることもできるほどになっていたのに ついに寝たきりになってしまった

娘は変わらず入院している個室へ来て あれやこれやと世話をしてくれているようだ

「また元気になって みんなで旅行に行くのでしょ」

動けるようになったら 今度は車椅子でもいいから旅行に行きたいーなんて言ってしまったのを覚えているようで

家にいる家族の世話をしに幾度か家へ戻っては 病室に来てくれる

娘の声は心地よい

娘の言葉に誘われるように これまでのことが浮かぶ

 

たとえば まだ生まれてもいない私の子供へ期待するように向けられた言葉

「もしも いつかー」

 

私と夫は10歳ほど年が離れている

夫は8人兄弟の末っ子

私は8人兄弟の長女

夫と私は職場結婚だった

夫はすぐ上の姉からとも6歳ほど年が離れており 一番上の姉からとでは親子ほども年が離れているのだった

とにかく好きだから結婚してくれ

強引だった夫

私の両親が反対すると 一緒になるために逃げようーなどとも言いだした

10歳も年上なのに 何処かやんちゃな子供のような

夫のすぐうえの姉の夫 Nさんが間に入ってくれて どうにか所帯を持つことができた

N義兄さんは 何故か夫を可愛がってくれていたのだ

N義兄さんは陸軍からの退役軍人

夫は海軍

それでも戦場を経験したものとして 通じるものがあったのだろうか

終戦時 子供だった私には 戦争は食べるものがない

終戦後もしばらくは食べるものなく闇市などの時代

弟妹たちを食べさせるための食べ物確保がなかなかに大変だった

 

このN義兄さん夫婦のところに やはり夫の姉のひとりであるMの二番目の息子Tが居候しており 東大を目指して勉強中だった

Tの兄がSだった

Sを夫は随分可愛がっていて

夫は実の姉ながら Mのことは嫌っていたのだ

「えげつない」と夫はMとその夫のAのことを怒る

夫と私が所帯を持つと Sは毎晩のように いやほぼ毎日 やって来た

N義兄さんもその妻も人が良いから Mに利用されているのだと 夫は言う

Sは素直で真面目な青年だった

いいコだったと思う

そう私と年は違わないのだが

最初は私に対してもとても恥ずかしそうにしていた

 

やがてなれてくると ひとなつっこいコなのだとわかる

家ではいつも笑っていた

楽しそうにしていた

 

ただ親たちのいる家に帰る時にとても暗い顔になる

いったい・・・・何故なのか 暫く私にはわからなかった

事情がわかってみれば これはとてもひどい話なのだった

Sは長男になる

MとAの言い分は 長男だから働いた給料は全部家に入れて当たり前

自分の小遣いなんてとんでもない

東大を目指す弟にも これから嫁入りする妹にも金がかかるというのに何を考えているのか

 

給料日 Sの給料をMとAが受け取りにいくのだ

夫はそんな家にSが帰る必要はない そう怒っていた

Sの弁当すら作らないM

「大人なんだから自分が食べるものくらいどうにかするのが 男の甲斐性」

AはAで

「ろくな仕事に就けないバカで役立たずなんだから 金くらい稼いでこい」

で弟妹たちはと言えば

弟のTは「勉強もできないアホな兄」

妹のE子は「こんな兄さんは恥ずかしい」

と両親の真似をするようにSをバカにしきっている

そのSの稼いだ金で暮らしているのに

 

自分が働いた金が自分の自由にできない どれほど悔しいだろう

情けないだろう

私も弟妹たちにと自分の給料から実家に入れていたから よくわかる

まだ子供ができない私は働いていた

夫も働いているから少しは余裕がある

職場でも気の弱いSのことを夫は庇っていた

Sの弁当も作るようになり 夕飯は勿論一緒

それがSがとても嬉しそうだった

小遣いのないSの為に夫は「煙草銭」などと言って小銭を与えていた

ーと言いつつ 煙草や時に着る服 下着なども一緒に店に行って買っていた

そう年は変わらないが Sにとって一応 夫は叔父になるのだ

末っ子である夫にとって Sは甥というより弟のような存在だったのかもしれない

ー身内にみっともない格好させてられるかー

夫は ええかっこしいでもあったのだ

 

気が短くて喧嘩っぱやく なまじっか腕が立つものだから 他人からも頼られたり厄介ごとを引き受けたりーなどと 苦労をかけられることも多い夫でもあったけれど

 

夫の横ではいつもにこにこと笑顔だったS

珍しく酔った時に 好きなコがいる・・・なんて話したことがあった

年が変わらないからかSは 私のことを義姉さんと呼んでいたのだが

ー眼が二重でね ぱっちりして大きくて ちょっと義姉さんに似てるんだ

笑うとえくぼができるんだよ

 

だけどダメなんだ 一緒になるには金がいる

俺はさ 給料全部 家にいれないといけないから

俺は とことんダメな野郎なんだよー

 

「そんなことはないわ そんなことはないわよ」

 

ーねえ義姉さん 俺さ こんな夢を見るんだ

義姉さんはきっと女の子を産むよ

おやっさん〈Sは夫のことを いつからか「おやっさん」と呼んでいた〉も義姉さんも綺麗な顔してるから

だから産まれてくるコもとっても美人さんになるよ

俺 うんとこさ 義姉さんの産むコを可愛がるから そしたら そのコたちは

俺のこと 好きになってくれるかな

男のコでも女のコでも 俺のこと「バカな役立たず」なんて嫌いにならないかなー

 

そうして ぽつんと言ったのだ

「家族に 血の繋がった家族に 冷たくされるのは つらいよ かなしいよ さびしいよ」

 

だけど すぐに笑顔になって

ーおやっさんも義姉さんも 俺 好きだよ 大好きだよ

いつもいつも ありがとねー

 

これが最期の言葉になるなんて 誰が思うだろう

 

実家の父が病気になり看病で暫く戻っていた

ある夜 夫が真っ青な顔で実家を訪ねてきて

そして言ったのだ

Sが線路で汽車に轢かれて・・・亡くなったと

遺書は無かった

 

事故だったのか 自殺なのか

わからない わからないけれど

 

それから数年 私はやっとひとりめの子を産んだ

女の子だった

 

死ぬ前のSの言葉が予言のようにも思える

いつか私が女のコをうんだなら

うんとかわいがるってSは言ったではないか

 

夫にもーおやっさんがいつか独立したら 一緒に働かせてくれる

俺 うんと働くよ それこそ命がけでさ

おやっさんにも義姉さんにも恩返しをするんだー

 

そう言っていたのに

 

何処も悪いとこなんてなかったS

違う両親 家族のもとに生まれていたなら

Sは幸福な人生を送っていたのだろうに

 

後年 思い返しては よく夫とSのことを話した

あれは自殺やったんやろなーというのが 夫の出した結論

この先の人生に希望が持てなかったのだろうと

 

ずうっと病院に詰めてくれている娘

もしもSが死なずにいたら どんなにか娘を可愛がってくれたのだろうか

 

夜 線路の上を歩くSの姿が目に浮かぶ

どれだけ寂しかっただろう 苦しい思いをしていたのか

それでも そんな死に方をさせたくはなかった

夫も私も

生き続けて 家庭を持ち そう自分の家族をもたせてあげたかった

 

もっと どうにかしてあげられなかったのか

生き続けていると後悔することのほうが多い

 

 

 

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ごめんなさい

 

 

 

 

 


「好きだったの」

2024-01-31 16:31:05 | 自作の小説

ー女ー

人の恋愛-色恋ってさ

傍から見てるととっても歯がゆい いらいらさせられる

好きか嫌いかしかないでしょうによーなどと思う

でまあ 気を揉んだぶん 落ち着くところに落ち着くと 荷物をおろしたみたく

こうほっとする

肩の力が抜ける

ま うまくいって ようござんしたねーなどというようにね

或る意味無責任ちゃあ無責任なんだけどね

はたでわあわあ言ってるだけ

まあ それしかできないし

・・・というのは従妹のこと

あたしも従妹もひとりっこの一人娘でね

従妹の母親はあたしの母の妹

まあ血が近いというか なかば実の妹みたく思ってきたんだ

この従妹がさ 変に優しい そして素直な性格でさ

自分が死んだあとに独りぼっちになってほしくない

きちんと家族がいてほしいーそんな母親の願いにこたえてすぐさま結婚

そんな子供 いまどき居る?

いい年をしてひとりもんのあたしは呆れたわよ

そしたら・・・叔母の葬儀の時に 従妹のご亭主ってば 事故死

従妹は妊娠中のお腹を抱えて一気に未亡人

だけど健気にひとりで子育て・・・

見ちゃいられない

だから 戻ってこない 一緒に仕事しようよって声をかけた

母や叔母 孫のあたしと従妹にもあれこれ料理や裁縫まで教えてくれた祖母

この祖母があたしと従妹にって自分の生命保険の受取人にしてくれていたそのお金

 

安く売りに出てた店舗付き住宅を買って手を入れて

あたしが本当にやりたいのは町おこし

高齢化なんかで跡継ぎいなくて閉店していく商店

店の業種は変わっても どうにか活気を取り戻すことができないかしら

町ぐるみ家族のような

祖母から聞いていた町の姿

子供たちが安心して遊べる公園

ちゃんと遊具もあって

 

いろんなことの手始めとして

ささやかに従妹と惣菜兼お弁当屋さんを始めることにしたのだった

これが軌道に乗ったら そしたら次はと

夢は果てしなくあるわ

市の職員をしている悪友たちも巻き込んで

 

そして従妹がこの町に戻ってくる時に引っ越しの手伝いに参加した男

その目がずっと従妹の姿を追っていたから

あたしは思い出した

従妹がこの町で暮らしていた時もそうだったこと

いつか男が言い出すんじゃないかと思っていたけれど

そうそううまくはいかず

だけど未亡人として戻ってきた従妹

男にとっては 二度目のチャンス

だけどなかなか進まず

ずっとただの熱心な常連客でいて

いけ! もっとおせよーと

従妹には 気づいてやれよーと

 

もうね 従妹から再婚するーそう聞いたら安心して涙まで出てきちゃった

変なの

 

従妹は言ったの

「ありがと この町に呼び戻してくれて 暮らせるようにしてくれて

本当に有難う あの人と再び出逢わせてくれて」

ってね

あたしは何もしていない していないよ なのに

 

で ちょっと ずきりとした

遠い昔 あたしにも好きな相手はいたんだ

同じ中学2歳上

中一には中三はもう立派な大人に見えた

追いかけて同じ高校にも行ったわ

大学も猛勉強して同じところへ

だけど追いかけられたのは そこまで

海外留学 外国で研究

私には日本を出る勇気は持てなかった

出せなかった

ついてはいけない 追いかけることはできない

「研究 頑張ってください 日本から応援しています」

それを言うのが精いっぱい

可愛かったなあ あの頃のあたし

笑えてしまう

この町で就職し 夜は母の店を手伝って

料理学校にも通って

いつか両親は 結婚しろとも見合いしろとも言わなくなった

恋愛能力に欠けた娘だと諦めもついたのでしょう

きっとね

人間諦めが肝心よ

じたばたしたら しんどいじゃない

 

今や 従妹の子供を自分の孫のようにかわいがっているわ

そう

寝た子を起こすことはないの 無理して

・・・なのにねえ

ああ もう人生ってままならない

 

なんとなく このまま独りで生きていくんだろうなと覚悟していたつもり

駅で新婚旅行に向かう従妹たちを見送り 留守の間のお店は任せてーと

くるりと方向転換したら

そこに居たんだわ

なんでだか相手は あたしの姿を見て呆然としてた

 

「や・・・あ 久しぶり」

久しぶりって言ったってことは相手もあたしがわかったということ

「帰国してたんですか」

「置いてくれる大学が見つかって」と彼が答える

 

「おめでとうございますーと言っていいんですよね」

「う・・・ん」

彼はあたしが手を引いている従妹の息子の姿をじっと見ている

「そうですか あたしは雪座町の角でお惣菜と弁当屋のおばちゃんしてます

良かったら買いに来てください」

なんだか気まずくて一礼して別れた

 

十年ぶりくらいか

背ばかり高くてひょろっとしていた彼は 少し落ち着きを増していた

平気よ ずうっとずうっと昔 好きだっただけの相手だわ

あたしには一生をかけられる町おこしの夢があるんだから

 

 

ー男ー

久しぶりの日本

駅で着物姿の随分と美しい女性がいる そう思って見惚れていたら・・・知った人間らしいと気づいた

彼女は男の子の手を引いている

ああ そうだ 日本を離れて10年ばかしか

ならば ならば彼女 結婚していて子供がいておかしくない年なんだ

呆然とした

どうしてか彼女だけ 時間が止まって 二つ違いの後輩のままでいると 思い込んでしまっていた

研究を続けながら・・・教えることもできる大学

そう思って選んだはずが・・・

お前は幾つだ 一体・・・馬鹿か!

なんの約束もせず 交際すらしていない

呆れかえったでくのぼう

帰国そうそう 頭にボウリングのボールをぶつけられた感じだった

それでも「来てください」と言われて行かないのも大人げない

そう自分に言い聞かせ

彼女がいる店を訪ねてみた

「あら いらっしゃいませ」

笑顔で迎えられる

弁当の選択に迷っていると「先輩 タコ好きだったでしょ タコ飯とデラックスおかずの組み合わせなんてどうですか」

「ああ・・・」

もたもたしている間に「有難うございます おまたせいたしました」

包みを渡された

「ちょっと出てきます」

店の女性二人に声かけて 彼女が出てくる

 

「新しい職場には もう慣れました」そう話しかけてくる

 

「迷子にならないようには してる」

この言葉に彼女は笑った

「ご主人は何する人」と訊くと 彼女きょとんとする

「男の子連れてたし・・・」

「ああ・・・」と笑った彼女「あれね 従妹の子なの ちょっと預かっていただけ」

結婚とか そんな色っぽい話は自分を避けて通ると笑う

「先輩こそ 随分落ち着かれて 奥様はー」

「しがない独身 駄目男だよ」

「選びすぎじゃありませんの」

「選ばれなかったほうだと思う」

それから夕飯を買いに仕事帰りに寄るようになった

短い会話 少しずつ互いの生活が見えてくる

離れていた時間

俺は 彼女についてきてほしいと思っていたんだ

学校と同じように追いかけてきてくれるだろうと

何の約束もしていないのに

当然のように

 

彼女は今も独身だ

俺は今の彼女がますます好きになっている

なら賭けてみようか

バレンタインデーまでに

きちんと 今度こそ言葉に出して

もうこれ以上時間を無駄にはしたくない

選びきれず幾箱も買ったチョコレートの詰め合わせ 赤ワイン 

「受け取ってくれ 頼む」と頭を下げた

受け取って・・・「あの・・・どうしたんです」

「できるなら 一緒に生きてほしい」

 

「なんで」と彼女が返す

「好きだから」

「本当に?」

「うん」

彼女の隣にいた女性が 見るに見かねたのか こう言った

「この方 先輩さんなのでしょ 荷物は預かっておくから 一緒にコーヒーでも飲んできたら」

言いながら 彼女の頭の頭巾を外し割烹着を脱がせる

「美代ちゃんと私で店は回せるから ゆっくりしていらっしゃいな」

 

それから二人で何故か気まずくコーヒーを飲み 次はデートをすることだけ決めて別れた

外で会うようになり 一緒に出掛けるようになり

暫く経って ご褒美のように彼女から こんな言葉をもらった

 

「あのね・・・ずっと ずっと 好きだったの」

 

 

関連作品です↓よろしかったら

「好きだったんだ・・・」 - 夢見るババアの雑談室 (goo.ne.jp)

 

 

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ごめんなさい


「眠りたくない・・・」

2024-01-30 09:38:08 | 自作の小説

久しぶりに会った友人が・・・とても恐ろしく見えた

彼はこんな話を始めたよ

ー覚えているか 去年一緒にドライブに行ったろ

お前は体調崩して先に帰ったが

久しぶりに会った連中もいて俺たちはあの後も予定通りに旅を続けた

そこでな 女の子を拾ったんだ

山ん中で足を挫いて動けなくなっていたんだよ

麓まで送ってやろうって話になったんだが・・・

俺たちはみんな酔ってた

酔った男5人の中に女がひとり

・・・トイレ休憩しようかと車を停めた

この時には酔いをさまそうーなんて気持ちも 特に運転しているMにはあったんだな

一番酔ってたKが女の子の近くに座っていて・・・・・

まあ言い訳はよそう 俺たちは結局 そのコをやっちまった

ああ・・・そうケダモノってやつだ

男たちの中の誰がそのコの首を絞めたのかもわからない

みんな興奮していた

俺たちはそのコを素っ裸にして重石をつけて海に沈めた

ひどい話だ

みんなそれを忘れることにしたんだよ

 

男ばかりの車の中に乗ってきた女が悪い

そう思い込むことにしたのさ

今も女の名前も知らない

一年もして・・・夢を見たんだ

死んだ女が首をもたげる

貌は見えない どういう表情をしているのかも

だけど それがやたらと恐ろしい

自分たちのやったことがやったことだから 誰にも相談できないー

 

「じゃあ 何故今頃 俺に話す?」

 

ーあのなこの一年の間に他の4人は死んだんだ

薄気味悪いだろ

で 昨日・・・女の声が聞こえた

「やっと見つけた 次はあなた」

 

俺たちが何をしたか

知っていてほしかったー

 

そうして5人目の彼も死んだ

もしも殺された女の復讐であったなら ここで終わりだと思うだろ

ところがね

俺も何故か夢を見るようになった

俺が下りたあとの車の中

酒を飲み続ける男たち

動けなくなっている女を見つけ

無理やり車の中に引きずり込み・・・あとはケダモノたちがしたい放題

そこから夢の場面は こう変わる

暗い部屋 友人が項垂れている

ゆっくり首を擡げてくる 

「あの旅行に誘ったのは もともとはお前じゃないか 連帯責任ってことでいいだろ

幹事のお前が途中で抜けるから こうなったんだ」

 

夢の中 俺はそんなバカな話はあるかって思うんだ

しかし しかし

俺はいつか この夢から抜け出せなくなる気がする

人は眠らずにはいられない

俺は眠ってしまうのが 夢を見るのが恐ろしい

夢など 見たくないんだ

 

 

 

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ごめんなさい


「好きだったんだ・・・」

2024-01-10 08:52:14 | 自作の小説

ー彼ー

「振ってないよ・・・振ってない」

そう力なく繰り返すしかできなかった

近所で育った年下の少女

通学路が同じだったから会うことも多かった

いつしか見守るように育ち 年を重ねて

やや大人びた表情にはっとさせられることも多く その姿を目で追うようになっていた

幾度か言葉を交わすことはあったんだ

挨拶やら 実に他愛無い・・・繰り返し・・・

その少女が少し離れた街に転居するらしいと噂を聞いた頃 たまたま会ったのは覚えている

少し並んで歩いたか

残念なことに話の内容はもう覚えていないが

最後に少女は寂しそうな表情で振り向いて 頭を下げて・・・それで去っていってしまった

俺の言葉の何がそんな表情をさせてしまったのか

わからないまま・・・・・

それから何年かして結婚したらしいって噂も聞いたんだ

赤ちゃん連れていたって

 

ああ そうだろうなって思ったよ

美人さんだったから結婚も早いのだろう

 

それが この町へ戻ってくると聞いた

病気で両親も相次いで亡くなり ご主人も死んで・・・・・

従姉さんに誘われて一緒に仕事する為に引っ越してくると

 

だから悪友の話に強引に割り込み その引っ越しの・・・荷物運びに参加することに決めたんだ

 

もう少女とは言えない彼女は・・・小さな男の子を片親で育てて

惣菜兼弁当屋の店舗の建物の二階で暮らしている

おかずや弁当を買いに行けば普通に会える

そんなうちに従姉さんが こうけしかけた

俺はまだ独り者 付き合っている相手もいない

ならば まとまってしまわないかと 

随分乱暴なことを従姉さんは言う

するとうつむいた彼女は苦笑しながら こう言ったんだ

 

「私ね・・・もうずうっと昔に振られているのよ」

「え~~~」と派手に驚く彼女の従姉さん 

「なあによ いつの話よ」

「だから昔よ この町から引っ越す前あたりだったかな・・・とにかく私はもう振られているのよ」

そう彼女は笑った

 

「振ってないよ 振ってない」としか言えない俺

 

「昔のことだもん 覚えていなくて当然」とも彼女は言って 「だから また振られるのは ちょっと・・・きついかな」

 

それで ずっと考えている

あの時 彼女は何を言って 俺の返した言葉に・・・「振られた」と思い込んだのか

 

 

ー彼女ー

まさか引っ越しの手伝いで・・・また姿を見るとは思わなかった

腕まくりし荷物を運ぶ姿に驚いた

どきりとし ときめいてしまった

遠い昔の少女だった頃のように・・・・・

これも馬鹿な死に方をした夫が悪いんだわ

夫は優しい人だった 三月ばかりの入院生活で母が亡くなり火葬場で・・・

掛かってきた電話相手と話すのに建物の外へ出て・・・バックしてきた車にノックアウトされた

夫を潰した車の運転手は前進と後退・・・アクセルとブレーキのペダルを踏み間違えて 建物の入り口も破壊した

ガシャガシャガッシャ~~ン!!!!

凄まじい音がして 何が起きたのかと思った

今度は夫の葬儀 四十九日 法要あれこれ

ちょっと落ち着いた頃 子供が生まれた

男の子だった

亡くなった夫は男の子を欲しがっていたから 生きていたら さぞや喜んだだろうに

母の亡くなる半年前 父が病死

父の生命保険 母の生命保険 夫の生命保険・・・・・と立て続けに受け取っていて 働かなくても暫くは生活することはできた

 

それでも子供が保育園に入るまでには仕事をみつけなくては・・・自分に何ができるだろうーと考えていた

 

そんな時 少し年上の従姉が「帰ってこない」と声をかけてきた

惣菜兼弁当屋を一緒にしないかと

安く手に入れた店舗付き住宅 少しいじって・・・

私たちのおばあちゃんは人をもてなすのが好きな人だった

従姉にも私にも祖母が作ってくれていた料理の味

祖母譲りの母たちの料理 その記憶を頼りに

その準備で半年ばかし 私たちはそれぞれ別の弁当屋さんで働いた

実家でひとり暮らしの従姉は 店舗の住宅は私に住めばいいと言ってくれた

従姉と一緒にお店に並べる惣菜や弁当のおかずを考えるのは楽しかった

従姉も私も一人っ子

母たちは二人姉妹だった

従姉は言う「身内が傍にいてくれたら安心」

だけど助けられているのは私の方

何かと気にかけてもらって

大騒ぎしながら始めたお店

顔の広い従姉があちこち声をかけてくれていたおかげで常連客も確保できて

日々忙しいけれど楽しくて

 

それで充分だったの

毎日大きくなっているんじゃないかと思うような子供に

お店に来てくれるお客さんとの短い会話

私はもうじゅうぶんに本当に幸せだった

もう私は片思いにくよくよする子供じゃない

そんな少女の時は終わってしまった

 

だからね従姉の言葉に・・・彼を妙に意識しすぎるようになってしまった

私はもう少女の時に振られている

今更 今更だわ・・・ そう自分に言い聞かせる

少女の時の精一杯の気持ちを伝えようとした言葉

だけど通じなかったの 駄目だったの

嘲笑うように傍らを通り抜けていった何かの宣伝のチンドン屋

頭を下げて逃げるようにその場を離れるしかできなかった

店に律儀に弁当屋おかずを買いにくる独身の常連の男

それでいいのよ

今のままで

私は美味しい料理を作る

彼が食べる 食べてくれている

 

もう・・・じゅうぶんじゃあない

子育て中の子持ち女は余計なことを考えないの

 

 

 

ー彼と彼女ー

彼女がこの町に戻ってきて3年

すっかり町にも馴染み 彼は夕食も彼女の店の弁当と惣菜を当てにしている

店からすれば有難い常連さん

その夜も閉店ぎりぎり 彼は来店

彼女は暖簾を仕舞おうとしていた

店の前で立ち止まり 入るのをためらう彼

笑顔で入るように勧める彼女

店の中 いつもなら聞こえる男の子の声がしない

「ああ あの子はお泊り保育なの 柿ノ木山へ 明日は帰ってきます」

察して答える彼女

「ああ そうなんだ」

「お仕事は 終わりですか なんならそこで食べていかれません

お味噌汁も温かいですから」

店内にあるベンチとテーブルをさして彼女が言う

戸惑った男の表情に

「あ でもご迷惑なら」そう出した言葉を引っ込めようとする

「いやいや有難いよ いつも一人メシだからね」

笑顔になった彼女は「お店終わりました」の札を店の外へかけた

カウンター奥に戻った彼女は 部屋からとってきた汁椀に味噌汁をつぎ 湯呑に熱いお茶を入れた

男の前に出して 「おかずとご飯は何がいいですか」

そう尋ねる

「残り物でいいよ どれもうまいから」

少し考えた彼女は 煮魚 野菜の炒め物 漬物の盛り合わせなどを出す

「これ食べててくださいね」

男が食べていると 焼いたばかりの出汁巻卵が置かれた

「いつも美味しいと褒めて下さるから こんな機会に焼きたてをーと思って」

はにかむような笑顔に少女の頃の面影が浮かぶ 重なる

 

「いただくよ」 

一口食べて 「うんうまいな」と男が笑う

「よかった」と明るい笑顔の彼女

カウンターの向こう側に戻った彼女はこれも残り物のおにぎりを食べている

「おにぎり まだあるの」

男が尋ねると 「はい おかかと鮭と梅干しと昆布なら」と彼女

「じゃ包んで 持って帰る」

彼女「かしこまりました」

 

食べ終わると男は「美味しかったよ ご馳走様 お勘定・・・・」

言い出す男に

「今夜は店はおしまい後でしたから これは一人ご飯が味気ない私に付き合ってくださったお礼です」

そして おにぎりが入った包みを差し出す彼女

「いや そんなわけには・・・・・」

そこで男はずっと気になっていたことを訊いてしまう

「随分と結婚 早かったよね なんでまた 勿論 亡くなったご主人のことを想って

いや・・・」

 

「母は余命宣告されてしまっていて 一人娘の私のことを気にしていたの

生きてる間に娘の今後を安心したいのだと病室でも繰り返し話してた

夫はね そんな私の母の言葉に洗脳されちゃったんだわ

この患者の為に この娘〈こ〉を自分が引き受けるのだーなんてね」

そう苦笑いする彼女

「とにかく優しい人だったのよ あの人は 情が深くて・・・」

おかげで母の生きているうちに花嫁姿を見せることもできた

安心してももらえた

なのにまさかあんなに呆気なく死んじゃうなんてね

そう彼女は続けた

 

「いい男性〈ひと〉だったんだ・・・」

 

「ええ そうね 私には過ぎるくらいに」

「じゃあー」と男は言う

「もう 恋はできない もう当分は」

 

彼女は目を見開く

「振ってないよ 振ってない どうして君がそう思い込んだのか思い出せないけど

僕はずっと君が好きだった

君が引っ越すらしいと知った時に とにかく会いたくて 会いたくて

そして

何も言えなかった

好きだったんだ ずっと

今は もっと好きになっている」

続けられる言葉

「振られたくないから 返事はまだいい

僕が君を好きでいることを ただ知っていてほしいんだ」

 

大人だから 未亡人だから 子持ちだから

色々 彼女は考える

 

それでも「好き」という気持ちこそ一番大切なのだと 彼女が気づくまでには少し時間がかかった

 

 

 

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ごめんなさい

 


「出逢い」

2023-12-15 21:52:21 | 自作の小説

白い影がぽつんと立っている

誰も気づかない

影はやがてうずくまる

その影に独りの女が声をかけた

「どうしたの」

影ははっとしたように顔を上げる「あたしが見えるの?」

女はうっすらと微笑んだ「だから 声をかけているでしょう」

「だって だって 誰も気づいてくれなかった 誰もあたしを見てくれないの」

焦ったように言い募る 

「わたしも・・・生きてはいないモノだから」

「もって・・・もって・・・・あたし死んでいるの」

影は両手を広げ 眺める

「だから あなたはここから動けないでいるのよ」諭すように女は続ける

 

「死んだ・・・あたし・・・」

「覚えていないの どうやって死んだのか」

影は両手を口元に持っていった「そんなの わかんないよ 思い出せないよ」

「まあ 普通はそういうものよ 中々どうやって死んだのか覚えていられないものらしいわ わたしもそうだし」ーと 女は苦笑いする

「じゃ どうやって死んだってわかったの」

「質問ばかりね わたしは道具に呼ばれたの 寂しがっている道具が居てね

そういう道具を集めるモノが居なくなって それで わたしはそういう道具に選ばれたらしいのね」

 

「道具が呼ぶって」

「古くなったモノが異変を起こすというか そんな話 聞いたことない」

影は首を振る

「そうね 普通は知らないわね まあ わたしはそういう道具に呼ばれるものなの」

「あたしは道具じゃないわ」影は抗議するような声をあげる

「ええ・・・人間だったのでしょう?」女の声は影を宥めるように穏やかだ

「あたし ここから離れたいの 動きたいの」両手をぐーの形に握り 影はぶんぶん振る

 

少し女は溜息をつく「さて どうしたものかしら あなたは何処に行きたいの

一番したいことは何?」

「あたしの願い 行きたい場所」

「もしくは会いたい相手」

女の言葉に影は考え込む

「もしもあたしが死んでいるのなら そうならお母さんとお父さんはー

あたし お母さんとお父さんのところに行きたい 行きたい

あたしが見えるか 気づいてくれるかわからないけど」

 

「それが 心からの願いなの? 」

 

「でも動けないの 行けないの 行けないの」

影は泣き出す 顔をおおって泣きじゃくる

「それにもし行けたって 行けたって あたしが居るってわかってもらえないもん」

 

「大丈夫よ」女は影の頭をぽんぽんと撫でる

「背中から抱きしめてね それでなにがしかの思い わずかばかしの気配を届けることはできるわ」

影は女を見上げる「本当に 本当に」

「伝えたい気持ちは?」

「ごめんなさい 死んじゃって悲しませてごめんなさい」

影はふわりと浮いた

「あたし 浮いた 浮いた」

「そのまま頑張ってごらんなさい 心から願うのなら きっと行きたい場所へ行けるから」

「ありがと ありがと」

2度3度 その場で飛び跳ねた影は 浮かんで飛んで 姿を消した

 

女は影を見送ると 懐から取り出した日本手拭いで長い髪を覆った

その女に黒い影が声をかける「ああいうのも集めようと思ったんだけどね」

女は少し眉を吊り上げてみせる

「漬けてみて どんな案配か試すのも面白い」

黒い影は漬物屋と呼ばれるモノ 悪霊使いとも呼ばれる

 

「さてね」女は応える「わたしは ただ呼ばれただけ 」

「代替わりした わ違い屋か・・・・・」

 

「呼ばれたところへ行くのが わたしの仕事らしいので」

黒い影に頭を下げて 女は去っていく

ゆっくり歩いているように見えたその姿は景色へ溶け込むように消えた

 

 

 

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ごめんなさい


「人を呪うものは」

2023-12-14 20:03:31 | 自作の小説

此の世は闇だ そして全ては幻だ

死ねば それで消える おしまいだ

けれど中には此の世にしがみつく魂も稀にある

それを幽霊とも悪霊とも もしくは祟りとも・・・・・

それもまた幻なのか

 

ここに勝てない相手を恨み呪いぼやき謗り続ける男が居る

ー俺の方がアイツより優れているのに なんでアイツが選ばれる

いつもいつも俺を出し抜きやがって

あんな奴 死ねばいい 滅べばいい

できれば呪ってやりたいー

ちびちびビールを呑みながらぶつぶつ ブツブツ・・・・・

酒が回り どんどん目つきが悪くなっていく

店を出て夜道をふらふらよろめきながら歩き まだ恨む相手への呪いの言葉を吐き続ける

 

「そんなに憎い相手なのか」揶揄うような声が掛かる

「なにをっ!」細い目を吊り上げて男は声の方へ振り向く

相手の姿は闇に紛れよく見えない

細身らしい影が夜に同化している

「ならばー」と影は続ける

「その願い叶えてやろうか 」

 

「お おう」と男は応〈こた〉えた

 

「ふふふ・・・しかし人を呪わば穴二つ それで良いのだな」

「望むところだ」深く考えずに言う男

 

「心得た」夜の中の影は応じた

 

酔っている男は 朝起きるとこのやりとりを忘れた

男がその成功を妬んだ人間は 抜擢され出向した会社が潰れて退職

「ざまあみろ」祝杯あげる男のもとへ あの影が訪れる

「代償を頂戴にきた」

男は怯える その影が醸し出す禍々しさに

「他人を羨み己は何の努力もせず恨み呪う その魂のひねくれ加減 よき漬かり方をしそうだ」

影は指を鳴らす

その背後から煙のようなものがたちのぼった

それに向かい影は告げる「これを連れていけ」

煙のようなモノは嬉々として男の口の中に入り込み・・・・・

そして何かを連れて消えた

影は薄く笑う「半端者だが漬けておくと程よい悪霊に育ちそうだ」

ある種の魂を集め悪霊に仕上げるこの影は・・・漬物屋と呼ばれる悪霊使い

時に彼は言う「その魂 漬けてやろうか」

 

 

 

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「闇に沈む島」ー2-

2022-04-23 21:32:32 | 自作の小説

ーコーラー

 

およそ30年前 世界中が敵となり この国は他国の支配下となり 首都だけが独立国として残された

秘かに同盟を結んでいた国も この国を見限り裏切った

私達はこの国が威信を そして領土を取り戻す計画の為に生まれた時から 両親から引き離され 国家による教育で育てられた

 

国こそ全て 国民は国の為に生存している

鎖国し世界を閉ざした国・・・・・

充分な力をつけるまで 国民は国の外へ目を向けてはいけない

世界は敵だ

敵を斃すまでは

国こそ愛 国こそ親

個人の考えは認められない国

締め付けて 締め付けて それが「普通」と教え込む

ある種の洗脳

生き続ける為に その教えに従っていなければならない

 

それでも綻びは生じる

抑えつけられれば 抑えつけられるほど

何かおかしい 真実を知りたい!と思う人間は出てくる

外の世界を知りたい

本当にこの国の外は・・・・・悪魔のようなひどい国ばかりなのか

あるちっちゃな島国は この国の領土をぶんどったと

 

みんな敵だ 破滅させるべきだと 国は教える

疑問を持つな

国に尽くすのだと

 

全部嘘 真実は真逆

隣国が言う通りにしないからと攻撃を始めたこの国は その身勝手さと残虐非道ぶりで 世界中から非難され

 

かろうじて首都だけ残してもらえたのだ お情けで

この国の首脳陣はそれさえ良しとしなかった

またかつてのような広い領土を手に入れるのだ

その為なら どんな手段を使っても

 

反省などしない指導者たち

 

子供の素質とか適性で分けられ 何故か私は表向きはジャーナリスト

国家への提灯持ち記事を書く

そして密命は国家の為にならない人間を密告すること

いつ私も密告されるかわからない

破滅と背中合わせの日々

そういう日常

 

家族どころか友も持てない

 

それでも私は幾人かと連絡とる術を見つけた

同じテーブルには座らない

隣り合わせ 背中合わせの席で秘かにメモを渡し合う

それが会話の代わり

 

国に絶望し逃げて他の国へ向かう者

この国をどうにかすべく地下にもぐる者

それぞれの戦い

 

かと思えば いつの間にか消されている人間

私が生きているのは そういう国だった

休暇に良いと言われている謎の島があって ひそかに調べるうちに

私は幼児学級の時の娘と再会した

彼女は研究職で 自分の研究していることの恐ろしさに気付き

やっぱり調べていたのだ

ごくごくこっそりと

 

私は手持ちの情報と ある場所を彼女に教え・・・・・

私達は5年休みなしで働いた人間に与えられる特権

束縛なしの島行きの許可を得た

 

約束の時間 島に彼女は現れず

私は一人で動き始めたが

島はとんでもない状況となり

おかしな化け物が跳梁する場所となった

 

そして そして やっと現れた彼女は記憶を喪っていたのだ

「アリス」と自分の名前で呼ばれても それが自分の名前と気付けない

 

たとえアリスが記憶を喪っていても 私達は一緒に行動できそうだった

まだアリスに言っていない教えていないことがある

瞳の色こそ微妙に違うけれど

私は淡い金色の髪に翡翠色の瞳 アリスは琥珀色に見える赤みがかった金髪に緑色の瞳

だけど身長はほぼ一緒

 

アリスは 私の妹なのだ

父は警察官 母は研究者

そしてどちらも 私達を取り上げられたあと

殺された

たぶんアリスは母に 私は父に似たのだろう

 

この国に不満を持ち 居なくなったブランドン

彼が調べて教えてくれた私の家族のこと

 

ブランドン

彼が現在何処にいるのか 私は知らない

生きているのか 死んでしまったのか