意外な事実を知った為の知恵熱か 鬼の攪乱か 俺は倒れた
なんか だる~と思いつつ店に降りて ばたっと倒れて救急車
気がついたのは三日目で インフルエンザだったらしい
栄三郎と仁慶には 「心配かけやがって」「自分の体調 気付かないのか あんぽんたん」 と 殴りたくなるよな見舞いの言葉を貰った 栄三郎が言う「早智子さんが心配して廊下に詰めてる 優しい言葉の一つもかけるように」
「チャンスは最大限にいかすように」頭を光らせて仁慶も言った
少し緊張して 病室へ早智子さんを呼んでもらう
早智子さんは一人だった
「史織ちゃんは?」
「カシムちゃんのお家」
「そっか 心配かけてごめん」
「いいえ 気がつかなくて 助けていただくばかりで して欲しいことがあれば おっしゃって」
では結婚を―と言いたかったが我慢して 「こっちこそ すまなかった 俺は大丈夫だから 有難う」
「あたしは・・・」言いかけて ちょっと唇を噛み「聡さんは大きくて明るくて 優しい太陽みたいな人だと ずっと思ってました
そりゃ太陽って夜は見えなくなるけれど
倒れたって妹さんから聞いて・・・
本当に早くお元気になって下さいね」 そう言って頭をさげ 病室を出て行った
自分に都合よいふうに解釈しようとする心を 抑える
あれは見舞い相手に誰もが言う言葉だ
都合三日ほどの入院だったが 珠洲香さん 美智留さん 家族みんな交互にやってきて 賑やかなものだった
おかしかったのは巨大なマスクをしたカシムと史織ちゃん
「史織ちゃんを病原菌に汚染させてはいけないからな ほら近寄るな どうだ具合は 史織ちゃんが会いたがるから 見舞いに来てやったぞ」と カシムは全く可愛くない態度だが そこが何故か笑えた
「大丈夫?肉屋のお兄ちゃんは 史織のパパ代わりなんだから いなくなっちゃヤよ」 そうだった なんだったか父親がいない事で泣いてた史織ちゃんに 父親がわりになろう― そう言って慰めた事があったんだ
あれを覚えていたのか 今よりずっと小さかったのに
「死なないよ 史織ちゃんが お嫁にいくの見るんだから」
「ほんとね?ほんと?」
「指切りだ それ」 小指をだすと 可憐な花のように白い手を出してきた
「史織ちゃんが心配する 早く元気になれ」
そして少年は例によって黒服従え 史織ちゃんと帰っていった
むっつ違いだカシムと史織ちゃんは 大人になったら丁度良いバランスかもしれない
案外なつっこい性格なのか 退院して三日め 店にカシムがやって来た 「おお仕事してるな
ミンチカツ揚げてくれ 今から史織ちゃんに持っていくんだ」 黒服の護衛つき美少年に両親は目を白黒させていた
「はは・・・今飛び切り美味しいの揚げてやる」 なんとなく判ってきた こいつカシムは 偉そうな態度の割に 子供として 時に男として対等に扱われたいのだ 孤独なのだろう
「ほれ特製ダンゴ オマケだ 食べてみろ あ 御付きの武官さん達もどうぞ 毒は入ってない」
ぱくっと一口「うまい 初めて食べる」
カシムが満面の笑顔になる
「蒸した里芋潰し鶏ミンチと合わせ 味付けした蓮根のみじん切り合わせ 後は企業秘密な調味料混ぜ 卵白加え くるっと こう揚げるんだ」
「人気ある肉屋さんなわけだね」
「早く持っていくといい」
「うん!」 カシムは子供の顔に戻っていた 車に向かうカシムに「カシム」と呼びかけ 振り向いた所へ「お買い上げ有難うございました 又のご来店をお待ち致しております」そう言ってやった
実に無邪気な笑顔を見せたね カシムは
子供って可愛い いいものだよな~
たった三日の入院であったのに
栄三郎と仁慶は全快祝いに―と 何故かお寺で席をもうけてくれた 料理学校で教えてる珠洲香さんが中心に 美智留さん 早智子さんも腕をふるってくれたのだそうだ
「あの海水浴を思い出すなぁ」 昔 栄三郎が珠洲香さんと付き合い始めた頃 みんなで海水浴へ行った
あの時 初めて早智子さんに会ったのだ
女性三人は無茶苦茶豪華美味な弁当を作ってきてくれた
懐かしさ
みんなの気持ちが嬉しかった
栄三郎も仁慶も笑ってる
カシムや史織ちゃんも
そして黒服武官達も心なしか 寛いでいた
暫くしてカシムがすっと寄ってきた
「事後承諾になってすまないが 罠を仕掛けた」
「!」
「僕はいつまでも この国にいられない 相手が手を出しやすいように 今夜勝負をかける
橋本さん仁慶さんのご家族にも了解して頂いています」
カシムは大人の表情になっている
だから 少し人家離れた寺なのか
仁慶の両親は孫連れホテルで保護されている 栄三郎とこの子供達は 珠洲香さんの実家
「今後手出しできないように脅しをかけるつもりです」
カシムはその凄さの片鱗を見せた
「暗殺の危険もあり二重の意図で日本で暮らしてきました けれどいつまでも国を離れていては 暗殺者に負けたままだ 父の妻は母一人でないし 子供も僕一人ではない
数名の競争相手に勝てない男でいるつもりはないのです
僕は王になってみせます 王になって次は日本へ来る
だから史織ちゃん 早智子さんが脅かされないように しておきたい」
真剣な目で覚悟を述べる
大人の男になったカシムが見たい 肝(はら)の底から思ったね
「きっちり罠にかかってくれる事を祈る!」言えるのは それだけだった
ニコッと憎めない笑顔を見せるとカシムは言う 「僕の犬に会ってください」
その犬と言うのがさ 子牛くらいはあろうかっていう巨大なグレートデン五頭だったんだぜ
「史織ちゃんに子犬をプレゼントする約束なんだ」
訓練済みのグレートデン 実に迫力がある
一定の時間後 カシム達は 引き上げるフリをする
勿論犬は残して
早智子さんと史織ちゃんは離れで泊まる部屋割りだ
襲撃か拉致か
やりやすい環境を整える
身が引締まるのを感じた
この計画に乗り平然としてる悪友達とその妻 そして早智子さん
別の意味での感動だった
俺は本当に何て凄い人間達に囲まれているのだろうね