実体が無いとは言いながら 僕には見えるし触れる
そして話し相手になる
最初の頃と比べると話す内容がかなり打ち解けてきてくれたようにも思える
ただ相変わらず僕の前に仏壇を世話していた人間については 徹底した秘密主義
それも彼等なりの仁義と思えば 信用できる仏壇達なのかもしれない
母親がよく「もしも・・・・だったら どうする」なんて突拍子もない設定で話をもってくる人だったので 僕も
よくよく考えてみればかなりおかしな状況に慣れてしまっているのか
「君が夜中に目覚める 喉が渇いて水を飲み トイレに行って洗面台の鏡を見る すると自分ではない人間が鏡の中から腕を伸ばし君を引きずり込む
君はそのまま鏡の中にいる それとも どうにかして脱出を図る?」
「君が旅館に泊まる すると布団の周囲に黒い手がびっしり 気のせいと思ってそのまま眠る それとも黒い手と戦ってみる?」
よくもまあ 次から次にとへんてこな設定をつくりあげてくれると感心するが 慣れて適当に躱せるようになる
それにまあジタバタしたってしょうがない その時なるようにしかならないし
これも給料のうちと思えばいいんだ
仏壇と話せる人間なんて そうそういないんじゃないかな
母親の親友の娘によればー「呆れかえるほどの暢気者 ザイルより図太い」-のが僕なんだそうな
暢気結構 山手樹一郎大先生の「桃太郎侍」とか浪人物の主役ってかなり大暢気でおっとりがいいんだし
それに僕はどうしたって柴田錬三郎大先生の「眠狂四郎」タイプじゃない
ニヒルとか そういうのは無理だ
あれは読むぶんだからいいんだよ
暢気さと図太さを発揮しておおらかに生きるんだ僕は
だけど世間は早々のんき者でいさせてくれない
夏の6時過ぎはもう充分に明るい
だからこれは闇討ちとは言えないかな
例によって「村のよろず屋」さんからの帰り道
「わりゃあ こないだはようも踏みつけてくれたな おかげでな儂は{踏まれの長介}と言いふらされて そのへんのガキにまで後ろ指さされて笑われる始末や
もう勘弁ならんわい カタつけたる」
馬場長介さんだった
「それで カタとは どのように」
「もう えらい気ィ抜ける奴っちゃな べらぼうにずたずたにぼろんぼろんにしたるのよ」
「ふうん」
「おい 怖ァないんかい」
「まだ べらぼうにずたずたにぼろんぼろんにーなったことがないんで」
「こンのガキは~~~~」
面倒な事に長介さんは刃物を持っていた
どっから持ってきたのか錆びた出刃包丁
あれで刺されたら雑菌入って厄介なことになりそうだ
さて どうしよう
逃げるか 走るのって好きじゃないんだよな
走ってこけたら 相手に刺してくれっていうよなもんだしな
ああいうの振り回す方が疲れるんだし
黙って後ろから刺すってやりかたもあるのに そこまで卑怯じゃないんかな この人
「お・・・お前 逃げんのか」
「走ったらこけるような気がする それに走ると疲れるし
仕事帰りなんだ 必要以上に疲れたくない」
「わっ われは~~~~~!」
ああ かなり怒らせてしまったようだ ぶんぶん包丁を振り回しているぞ 疲れるだろうに
怪我したくないし 怪我をさせるのもいやだな
「で?何処を刺したい?」
相手が呆気にとられる 根はお人好しなのか長介さん
重ねて問うてみる
「腕か 足か 腹か それとも胸か もしくは全部でめったさしか?」
そこで考えるのか 面白いなこの人
「じゃ・・・じゃこしいわ 全部刺したる 逃げるなや!」
冗談 僕は勿論 よける 刺されたら痛いじゃないか
長介さん 酒が入っているのか ふらついている
ーと僕の目に入り耳に聞えてきたのは・・・・・・
「ワレラニマカセテオクンナセエ」
仏壇の集団だったー
「!」声も無く 長介さんは倒れる
新手の仏壇達はこう言った
「オマタセイタシヤシタ ホカノヤツラヲヒロイニマワッテオリマシタンデ ゴアイサツガオクレヤシタ
コレカラワレラモ ヨロシュウニ オネガイシヤス」
「それはいいけど そういう口調というか物言い 何処で覚えたのかな 関西弁らしいのとか 話し方がそれぞれ違うよね」
「ソレゾレニ キニイッタコトバヲツカッテオリヤス アッシハコノモノイイガキニイッテオリヤスンデ」
こうして僕が世話する仏壇は一気に60を越えた
まだあと40近くが行方不明なわけだ
そして話し相手になる
最初の頃と比べると話す内容がかなり打ち解けてきてくれたようにも思える
ただ相変わらず僕の前に仏壇を世話していた人間については 徹底した秘密主義
それも彼等なりの仁義と思えば 信用できる仏壇達なのかもしれない
母親がよく「もしも・・・・だったら どうする」なんて突拍子もない設定で話をもってくる人だったので 僕も
よくよく考えてみればかなりおかしな状況に慣れてしまっているのか
「君が夜中に目覚める 喉が渇いて水を飲み トイレに行って洗面台の鏡を見る すると自分ではない人間が鏡の中から腕を伸ばし君を引きずり込む
君はそのまま鏡の中にいる それとも どうにかして脱出を図る?」
「君が旅館に泊まる すると布団の周囲に黒い手がびっしり 気のせいと思ってそのまま眠る それとも黒い手と戦ってみる?」
よくもまあ 次から次にとへんてこな設定をつくりあげてくれると感心するが 慣れて適当に躱せるようになる
それにまあジタバタしたってしょうがない その時なるようにしかならないし
これも給料のうちと思えばいいんだ
仏壇と話せる人間なんて そうそういないんじゃないかな
母親の親友の娘によればー「呆れかえるほどの暢気者 ザイルより図太い」-のが僕なんだそうな
暢気結構 山手樹一郎大先生の「桃太郎侍」とか浪人物の主役ってかなり大暢気でおっとりがいいんだし
それに僕はどうしたって柴田錬三郎大先生の「眠狂四郎」タイプじゃない
ニヒルとか そういうのは無理だ
あれは読むぶんだからいいんだよ
暢気さと図太さを発揮しておおらかに生きるんだ僕は
だけど世間は早々のんき者でいさせてくれない
夏の6時過ぎはもう充分に明るい
だからこれは闇討ちとは言えないかな
例によって「村のよろず屋」さんからの帰り道
「わりゃあ こないだはようも踏みつけてくれたな おかげでな儂は{踏まれの長介}と言いふらされて そのへんのガキにまで後ろ指さされて笑われる始末や
もう勘弁ならんわい カタつけたる」
馬場長介さんだった
「それで カタとは どのように」
「もう えらい気ィ抜ける奴っちゃな べらぼうにずたずたにぼろんぼろんにしたるのよ」
「ふうん」
「おい 怖ァないんかい」
「まだ べらぼうにずたずたにぼろんぼろんにーなったことがないんで」
「こンのガキは~~~~」
面倒な事に長介さんは刃物を持っていた
どっから持ってきたのか錆びた出刃包丁
あれで刺されたら雑菌入って厄介なことになりそうだ
さて どうしよう
逃げるか 走るのって好きじゃないんだよな
走ってこけたら 相手に刺してくれっていうよなもんだしな
ああいうの振り回す方が疲れるんだし
黙って後ろから刺すってやりかたもあるのに そこまで卑怯じゃないんかな この人
「お・・・お前 逃げんのか」
「走ったらこけるような気がする それに走ると疲れるし
仕事帰りなんだ 必要以上に疲れたくない」
「わっ われは~~~~~!」
ああ かなり怒らせてしまったようだ ぶんぶん包丁を振り回しているぞ 疲れるだろうに
怪我したくないし 怪我をさせるのもいやだな
「で?何処を刺したい?」
相手が呆気にとられる 根はお人好しなのか長介さん
重ねて問うてみる
「腕か 足か 腹か それとも胸か もしくは全部でめったさしか?」
そこで考えるのか 面白いなこの人
「じゃ・・・じゃこしいわ 全部刺したる 逃げるなや!」
冗談 僕は勿論 よける 刺されたら痛いじゃないか
長介さん 酒が入っているのか ふらついている
ーと僕の目に入り耳に聞えてきたのは・・・・・・
「ワレラニマカセテオクンナセエ」
仏壇の集団だったー
「!」声も無く 長介さんは倒れる
新手の仏壇達はこう言った
「オマタセイタシヤシタ ホカノヤツラヲヒロイニマワッテオリマシタンデ ゴアイサツガオクレヤシタ
コレカラワレラモ ヨロシュウニ オネガイシヤス」
「それはいいけど そういう口調というか物言い 何処で覚えたのかな 関西弁らしいのとか 話し方がそれぞれ違うよね」
「ソレゾレニ キニイッタコトバヲツカッテオリヤス アッシハコノモノイイガキニイッテオリヤスンデ」
こうして僕が世話する仏壇は一気に60を越えた
まだあと40近くが行方不明なわけだ