明治維新を迎えて仇討ち禁止令がされてから 仇討ちをし「最後の仇討ち」
そう呼ばれる その仇討ちをした男はどういう人間であったのか
どういう因縁からの仇討ちとなったのか
臼井六郎の父は傑物であった
人柄優れ 時代のさきを見つめ 藩に尽くした
ただ旧弊な考えで己の権勢欲ばかり思う人間に妬まれ 物事の是非が分からぬ愚か者どもに殺される
六郎の父は亘理(わたり)と言った
幕末 ペリーの黒船来航もあり世は大きく変わろうとしていた
尊王 攘夷
秋月藩でも様々な考えを持つ者がおり 脱藩する者も
脱藩し やがては死に至った人間の中には 亘理と親しい者もいた
家老一派の意を汲む者達が 夜押し入り亘理と妻の静を殺す
この時 静と寝ていた流浪の妹も傷をおった
やがて父の亘理を殺した人間の名前を六郎は知る
まだ少年 今戦っても相手には勝てない
六郎は仇を討つことを心の底で誓う
まだ少年の六郎を炙るような言動をしていた男
その男は上京する
仇を討とうと上京した六郎は山岡鉄舟の道場で修業をし 仇のいるという甲府に向かうが
仇も六郎の動きを警戒していた
幾度もの卑劣な襲撃
六郎をささえるお文もその為に命を落とす
なんとしても相手を討つ!
だがー仇討ちを果たした六郎の胸はむなしかった
青空は見えない
ただ 人を殺しただけだ
父が教えてくれた言葉
雨過天青雲破処
雨が止み 雲の隙間から覗いた青空の青色こそ もっとも澄み切って清々しい青
思い迷った時には青空を見よ
苦しい時には青空を見よーとは 亘理が若き日 ある人物から聞かされた言葉
亘理が死んだあと 苦しきことあれば 青空を見よ 父はそこにいる
そう六郎に伝える
この時 亘理は襲い掛かる死を予期していた
時は過ぎ
六郎は 故郷に帰る
そして気付いた
蒼天は故郷の上にあるのだ
生き方に悩み苦しんだならば 故郷に戻り 空を見上げればよかったのだ
葉室麟先生の書かれる作品を読むと 清雅という言葉が浮かびます
誠実に生きる主人公が多いからでしょうか
彼等は狡い醜い生き方はしないのです