夢見るババアの雑談室

たまに読んだ本や観た映画やドラマの感想も入ります
ほぼ身辺雑記です

「闇に沈む島」ー1-

2022-04-17 12:13:03 | 自作の小説

ーアリスー

 

船に乗っていたーそして船から落ちたのだ・・・たぶん

気が付けば水の中

あたしは泳げない もう死んじゃうと思った

目の前にというかー溺れかかった体にぶつかってきた「何か」にあたしはしがみついた

それから・・・・・気が付けばこの陸地に・・・砂浜に倒れていた

自分に何が起きたのか あたし自身分かっていない

知らない土地

とにかく水を求めて歩き出したけれど

何が起きたのかそこらじゅう荒れていた

たぶん町だなと思える場所は火事があったのか まだ煙の残っている建物も

それに・・・住民が居ない・・・・・・

 

水道は有難いことに生きていた

蛇口から水は出る

ひどく喉が渇いてはいたけれど その水を飲むのは何故か躊躇われた

一体何があったのか 漂う不気味な気配

焼け焦げてはっきり地名が読めないけれど 「・・・・・・島へようこそ」という看板が落ちていた

 

ようやく飲食店らしき店を見つけ 入ってみる

やはり誰もいない

棚から一本水のボトルを取って飲んだ

水が体に沁みていく

パンを食べ 見つけたチーズやチョコレートをポケットに入れる

商品にリュックもあったから これも拝借

細かな日用品も詰めた

 

できれば武器になりそうなモノも欲しいところだけれど

 

物色していると背後から声をかけられた

「いい判断ね あなた名前は?」

振り向けば薄汚れた女性が立っている

腰にベルトを2本斜めに交差するようにしめていて そこにあるのは刀と銃

背中にも斧みたいなのを背負っている

 

さて名前をきかれて困った あたしは名前も思い出せないのだ

「覚えてないの 気が付けば水の中にいた そこから前のことは何も 名前すら思い出せない」

 

「そしてこの島へ流れついた それは随分運の悪い」

武器だらけの女性は薄く笑った

金色の髪は肩にかかるかかからないか 瞳の色ははっきりとは分からない

近付けば その女性はあたしと同じくらいの身長だった

「名前なしは不便ね アリスと呼ぶことにするわ 私はコーラ」

「何故アリスと」

「ルイス・キャロルの小説でおかしな場所に迷い込んだ少女の名前がアリス そしてね化け物退治する映画の主人公の名前がアリス この状況と酷似しているので」

 

「化け物?」

 

「ああそこは運がいいわね あなた 気が付いたのが昼で良かった 夜になったら奴等が動き出すから

日が沈めば」

「奴等ってー」

 

「見せてあげる こちらへいらっしゃい」

コーラはあたしを手招きした

 

店の奥へと・・・・・

血塗れの惨殺死体が幾体も倒れている

 

「みんな・・・あなたが殺したの」

 

コーラは首を振った「いいえ・・・でもあなたも逃げた方がー」

コーラの左手から斧が飛んだ

あたしめがけて

思わず あたしは前に倒れた

背後でドサリという音

 

振り返れば乱杭歯をむきだしにした男が倒れるところだった

 

コーラはソレからあたしを助けてくれたのだった

「うん 奴らはドラキュラみたいに太陽が昇れば眠る習性だと思いこんでいたけれど

寝付きの悪い不眠症みたいな輩(やから)もいたんだわ」とコーラ

 

「ありがと 一体いつからここはこんなふうにー」

「半月にもならないわ タチの悪い咳をしたかと思ったらバタバタ死ぬ人が増えて 夜になると死んだ人間は動き出し 死んでいない人間を襲った

噛まれると伝染(うつ)る

今迄家族だった人間が噛みつきにきたら 中々殺せないもんよ

それで殺(や)られる どんどん化け物は増える」

「あなたはー」

「私はここの住人じゃない ちょっと旅行で寄っただけ だから事情が分かれば殺すのを躊躇う相手はいなかった」

 

「どうしてすぐに出ていかなかったの」

「質問の多いコね よその状態が分からないと安心して移動はできないわ 動いた先にもっと化け物がいたら嫌だもの

それよりここの化け物を全部退治すれば 少しは安心できる」

 

コーラは島の中を化け物退治をしながら移動しているのだと話した

島を出るには船を動かすしかない

しかしコーラは船を操れないのだとも

「世界とつながれる無敵のスマホも・・・ここでは用を為さない」

本当に必要な設備がととのっていないのか どうか

この島は「束縛されない自由を愉しむ観光地」が売りであったそうだ

 

だけど どっかうさんくさかったーとコーラは言う

「裏がありそうで 調べて記事を売ろうと思ったのよ こんな目に遭うとはね 計算外だわ」

 

・・・にしても相手は予想外の化け物 普通なら怯えて隠れるとか 餌食になりそうなものだけど

 

「普通じゃないのは あなたもでしょ」とコーラ

きょとんとする あたしに

「怖がっているように見えない 悲鳴もあげないし」

 

まだ悲鳴あげる余裕はありません

あたしには自分が誰かを思い出せないことが一番重要事項

「ま・・・なんにせよ 普通じゃない女二人VS化け物さん この勝負 どうなるんだろうね」

店のコーラを飲みながら涼しい顔のコーラ

コーラは名前すら思い出せないあたしを すんなり受け入れ戦力と数えるつもりらしい

 

 


「仕返し」

2022-02-15 20:19:23 | 自作の小説

人が倒れている 傷口から溢れ出る血を猫が舐める

血は止まらない

死が訪れた時 猫は空を仰ぎ ひと声鳴いた

死体は やがて朽ち果てる

 

「生きている?」話しかけられた男の声が少し高くなる

横目で相手を睨む「誰か 会ったのか」

 

相手・・・新井浩(あらい ひろし)は小声になる「姿を見かけたそうだ」

ー邪魔だったから殺した 確実に倒れて動かなくなったー

新井浩はおどおどしていた

ー小心者め!ー柳智(やなぎ さとし)は舌打ちをする

ーいちいち言いにくることか 使えない奴

あの女の持つ土地が必要だった

先祖代々の土地とか言い張り手放そうとしなかった女

迷惑だった こちらの計画の邪魔だ

邪魔なものは消せばいい

売買の書類はでっちあげる

その手続きに巻き込んだ新井

こっちも片付けた方がいいかもしれん

秘密を知る人間はいない方がいい・・・・・

 

他人の空似だろうが 姿を見かけた奴がいるのなら

それは あの女を「生きている」ことにできる

かえって好都合じゃないかー

柳智はほくそ笑む

 

それから間もなく 新井浩の死体は川に浮かんでいた

何に襲われたものか顔には傷跡

片目は抉られていた

ひどく怯えた表情のまま凍り付いた死に顔

 

手を汚すまでもなかったかと柳智は喜んだ

ー金儲けの為に殺した女

所有する土地はいただいた

書類をつくらせた新井も死んだ

 

あの女の死体は とうに朽ち果てたはず

暗い森の奥でー

 

柳智は高笑いをする

道徳心も良心も持ち合わせてない男

己の心が醜く歪んでいることの自覚もない

自分中心 壊れている人間なのだ

十階建てマンションの最上階のベランダから空になったビール缶を投げ捨てる

ー奪われる奴 盗まれる奴の方が馬鹿なのだ

世の中は盗ったもん勝ち

間抜けな連中の相手などしてられるかー

 

 

もう少し飲もうと缶ビールを取りに部屋へ入る

冷蔵庫の扉をあけて缶ビールを取り出そうとする

背後で猫の鳴き声「みゃ・・・おぅ」

柳智が振り向くと 部屋の隅に長い髪の女

 

「なんだ お前 何処から入って来た」

 

にいぃっと女は笑ったか ー見覚えのあるような・・・・

そうだ 俺が殺した女だ

新井に手伝わせ 騙して呼び出し・・・捨てて来た

 

ただ目が違う

丸いのに吊り上がったこの目

妙に光る

まるで猫の目のようなー

 

猫?! あの女は白い猫を飼っていた

車にも乗せて連れてきていたか

あの時・・・・・

 

まさか まさか 化け猫など昔の映画だ

 

こんなモノに殺(や)られてたまるかー

 

だがー男は動けないのだった

殺した女の顔を持つモノは近づいてくる

笑いを浮かべた口が大きく裂けて 鋭い牙が現れる

構えた手が5倍ほどの大きさになる

長い爪が男の両目に食い込み抉る

抉られた目玉が床に転がる

 

顔の皮膚もぺろりと剥がれた

 

男はまだ死ねない

 

両目が無くなり何も見えなくなった男は もがきながらどうにか逃れようとし 部屋の外へ

ベランダに出て

喉を食い破られ バランスを崩し 落ちて行った

 

残ったモノは ひと声鳴いて

そして 居なくなった

 

殺された女の怨念か

それとも飼い主を殺された猫の仕返しだったのか

 

 


「よたばなし」ー34-

2022-02-04 20:17:54 | 自作の小説

不思議な眠りを続けていた深空野真夜(みそらの しんや)

彼を起こしたのは 夢だった

 

顔を盗んでいく魔物

盗まれて倒れ息絶える者達

夢達が真夜の意識を叩く 叩き続ける

悪夢といえるのか 繰り返し 空(から)の真夜を襲う

夢は夢か

それとも現実ーうつつのことか

 

妙に責任感が強い真夜 その心の奥底に意識に誰かが救いを求めているのか

夢が集まってくる

顔盗み・・・・・

にやりと笑うのっぺらぼうの

 

「お前の顔が気に入ったんだよ」

 

「そろそろ この顔にも飽きてきたんだ」

 

ーこれは誰の夢の中なのだろうー

奪われる顔 

消えた顔は腐敗し 身元不明の死体になる

 

記念写真に写る関係ない人間の顔

それは少し前に行方知れずになった人間の顔

心霊写真ではない

けれど いつの間にか集合写真に写り込んでいる関係ない人間の顔

 

「だって姿を残してみたいじゃないか この顔でいる自分を」

 

もしや顔を盗んでいるモノが見る夢か

 

「いい加減 顔を盗んでいることにも飽きた

盗まないでいるのもつまらない」

「飽きない顔が欲しいんだよ」

 

「何 いただく時には この顔欲しいーと思うのだがね」

「もっと他のこともしたくなってね」

「ところが何ができるのかわからない」

 

ー顔泥棒らしきモノ

人でないなら妖怪か

起きれば この夢は遠ざかる

僕に何ができるだろう

夢見ている実体を捕まえられるだろうか

捕まえてどうする

そもそも捕まえられるのか

僕には何かできるのかー

 

夢の中の思考

考えることは意識が戻っているということ

からっぽだった真夜 それに戻ってきた夢

誰かの夢でも

 

夢見ているなら夢鬼は入ることができる

真夜の夢を夢鬼も捕まえた

ーそれで お前はどうしたいー

夢鬼の声が聞こえる

 

顔盗むって随分はためいわくなことだもの できればやめさせたいー

 

顔を盗むモノは 自分の夢の中に自分以外が紛れ込んでいることに気付く

「おやお前は随分いい男じゃないか 当世風のイケメンという奴だな

これまでそういう顔は持ったことがない」

 

真夜に向かって手を伸ばしてくる

 

その手は裂かれた 夢鬼の長い爪から蒼い炎が伸びる

燃えて消える己の手を眺め 顔盗みはふんわり笑った

「ああ そうか 俺は存在し続けることに疲れていたんだ

飽きたんだ」

 

それは満足そうに消えていく

 

真夜へ振り返ると 夢鬼は「おかえり」

そう言った

 

 

 

 

 

 

 

関連した物語↓「泥棒用心」

https://blog.goo.ne.jp/yumemi1958/e/6c528a4c262b3eb17bd9984eb881fac4


「餌付け」

2021-08-28 09:46:33 | 自作の小説

穂積のことはあんまし良く言う人間が居なかった

僕も なんか暗い奴だな ちょっと気味悪いなと思っていたんだ

本屋で声かけられるまではね

猫が好きなんだけど寮暮らしでは飼えない

それで猫漫画や猫雑誌を読んでいる

その日も猫の本を物色していた

「あれ 鈴木君 君も猫好きなんだ」

穂積は猫写真本を数冊抱えていた

 

「君もーって穂積も猫好き?」と言えば

穂積は嬉しそうに笑う 案外なつっこい笑顔だった

「よく野良を拾ってきては叱られてるーいいトシをしてーってね でも猫はすぐに居なくなってしまうんだ」

ああ そうだ 穂積は自宅通学だっけ

 

「いいなあ 僕は寮暮らしだから飼えないんだ 両親は犬派だから 実家も犬しかいない」

 

「遊びに来る? 二匹 居るんだ」

 

そのまま穂積の家へ

つやつやした黒猫 白い猫

「漸くなついてきてさ これまでは餌食べちゃどっかに隠れていたんだ」と穂積

 

なんだ 案外いい奴じゃないかと思ったよ

映画も似た傾向のものが好きだとわかり

穂積の部屋で一緒にDVD観たり

そこそこに楽しい時間を過ごしたんだ

 

「暗いってよく言われるんだ 友達できて嬉しいよ」など言う穂積

 

それで親しくなって 一緒に卒業旅行することになった

「じゃあ計画立てるね わくわくする 」

そう穂積が言うので 「びっくり旅行」の手配は任せることにした

 

宿泊予定のホテルへ向かう途中 穂積が言い出した

「あのさ この近くに今は誰も住んでいないけど おばあちゃんの家があるんだ

おばあちゃんが生きていた頃 よく遊びに行ってね

母からちょっと様子を見て来るように言われたんだ

寄っていいかな」

 

無邪気な笑顔の穂積

断る理由もなく 僕はついていった

 

「飲み物買っとく 鈴木 コーラでいい?」

僕が炭酸飲料が好きなことも穂積は覚えている

 

穂積は懐かしそうに おばあちゃんの家を眺める

「遊びに来た時 僕が使っていた部屋があるんだ 」

それは6畳ばかしの洋間

机にベッドに本棚

 

「あれ 何だろ これーちょっと観ていいかな」

何も書かれていないDVDを穂積は不思議そうに手に取る

 

さっき買ったコーラを穂積はコップに入れてくれた

DVDに入っていたのは

空飛ぶ蝶

捕まえてきたのか室内を飛ぶ蝶

のどかな画像は・・・・・

子供のものらしい指が 蝶の羽をもぐ

もがれて苦しみ だんだん弱る蝶

 

青虫をちぎる子供の指

興梠の足を一本一本ちぎる指

 

ばった かまきり とんぼ

標的はしだいに大きくなる

 

蛙 それから

嬉しそうに見上げる仔猫の目にナイフがささる

尻尾 前足 切り刻まれる・・・・・

 

途中で僕は吐きそうになった

 

「うん そうだね たぶん それが普通の人間なんだね

僕はこれが面白いと思うんだ

そして 猫ではつまらなくなってね」

 

なんだ 穂積は何を言っている 君は猫好きなんじゃなかったのか

え?!声が出ない 

指が動かない

 

「最初は用心している野良猫が 餌をやるごとに 段々この人間は信用できる人間と寄ってくるようになる

遂には餌をもとめて媚びて甘えるようになる

 

その信頼が裏切られた時の え?どうしてーって表情

そう今の鈴木みたいにさ

猫より大きなモノで試してみたくなったんだ

 

本当は痛いーって声も聞きたいけど 

誰かが聞くかもしれないから その危険は避けなきゃね

ちょっとねコーラに薬を入れた

僕は非力だから抵抗されたら怪我するし

 

だから じっとしていてほしい

この僕が君への処置を終えるまで」

 

そう言うと穂積はナイフを振り上げた

 

 

 

 

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「藍の衣」ー6-

2021-08-14 16:45:51 | 自作の小説

そう わたしはずっとあの人が気になっていた

だけどそれを認めてはいけないの

あの人はわたしから店を奪おうとしている敵なんだから

心を許してはいけないの

揺れる心なんて要らない!!!!

(弥生)

 

ー6-

 

多鶴摩千子が会う約束を取り付けたのはローウェル家の三男坊ジョージ・ローウェル

少しでも年が近い相手が会いやすかった 話がしたかったのか

 

「うん 町おこしのミスコンのことは聞いてるよ」

ジョージは日本語も流暢だ

「へえ 摩千子さんも出るんだ で?」

 

「出場者が集まらないの 景品とか賞金とか出場メリットが良ければ と思うけれど

たとえばここの豪華なお部屋に宿泊できて食べ放題とか」

 

「ふうん」と面白そうにジョージが笑う

「兄達や姉に交渉してもいいけど 一つ条件がある 

花野弥生さんも出場すること

僕は彼女が人並みに着飾った姿も見てみたいんだ」

 

摩千子はにんまりとした「願ったりかなったりだわ あのコも着飾る喜びを知ってもいい頃よ」

「じゃあ利害は一致だね」とジョージ

 

口笛吹きながらジョージは去っていった

 

場所はホテルの屋外カフェ 

少し呆気にとられたあきら子がジュースを飲んでいると やたら果物を盛ったスイーツが運ばれてきた

「ホテルからでございます」

 

「ジョージからね こういうことやっちゃう男なのよ あれは」

と早速スプーンを持つ摩千子

 

「えっと~~~ あの摩千子さん つまりー」

 

「うん あのね どうやらジョージは弥生ちゃんに一目惚れだったのよ

似合わない厚化粧でドスのきいた声で震えながら啖呵をきったあのコにね

全くどんな趣味なんだか

興味を持って花野酒店へ訪ねていって 素顔の16歳の弥生ちゃんに会った

弥生ちゃんには 店を取り上げようとしている敵ーとして認識されてるーっていうのにね

 

この5年の間にも色々あって・・・・・

ジョージは花野酒店も生き残れる道を模索しているし助けようともしている

弥生ちゃんも心の底ではジョージを信じたい

そう思っているのに素直になれない

意地っ張り

若いし 若いぶん頑なだわ」

 

「は・・・あ」

恋は あきら子には苦手な分野だった

「あの摩千子さん ジョージさんて外見的にもいい男でしょ 長身・金髪・青い瞳で

摩千子さんの方が弥生さんよりトシも近いし

そういう対象にはならないんですか

結構 気安そうだし」

 

くすりと摩千子が笑う「唐突に恋に落ちるタイプじゃないから それに弥生ちゃん可愛いし 苦労してきてるのも見てるから

とにかく幸せになってほしいなって」

 

日向竜子と多鶴摩千子が仲が良いのが あきら子は分かるような気がした

自分の事より他人 周囲が幸せで居てほしい・・・

でもって どこかおねえちゃん気質

そうあったかい人が多いのだ ここは

うんうんと一人頷くあきら子

 

表面では喧嘩して憎まれ口を叩いても 本心から相手の不幸を喜んだり望んだりする人間はいない

 

「町おこしかミスコンか 少しでも成功するといいですね」

そうあきら子が言うと 摩千子も「そうね じゃ 弥生ちゃんだまくらかしてミスコンに出る同意取り付けましょうか」

ーだまくらかしてー言葉は悪いけれど 摩千子のは善意からのおせっかい

仕掛けなければ物事は動かない

 

何かと親切にしてくれる 相談事の頼れる相手で 色々心配してくれる摩千子を 弥生は頼りにしている

摩千子に輪をかけておせっかいで面倒見の良い摩千子の母 そのおかげで兄もどうにか店を維持していけているーと弥生にはわかっている

 

いま花野酒店に必要なのはインパクト

何かで賞を獲るとか話題を呼ぶ「何か」

 

ーその細腕で何ができると思っているんだー

あの人 ジョージはそう言った

ひと言も言い返せなかった・・・・・

美味しいお酒なんて確かに世界中にある

わかってる この手でできることは・・・・・

まだまだ経験も工夫も足りない 思い付く頭もない 愚かでちっぽけな自分

掌の中に答は書かれていない

 

おかあさん いま どこでどうしているんだろう

おかあさんなら この花野の水を利用してどんなお酒をつくっただろうか

 

摩千子とあきら子が花野酒店に着いた時 ひとりぼっちで弥生は落ちこんでいた

 

「ま~た考え込んでいたんでしょ このコは」と大袈裟に摩千子が騒ぐ

「はじめまして」と頭を下げるあきら子

長身のあきら子を遠くから見かけたことはあった

知らない顔ではない

「あ・・・はじめまして」と弥生も答える

摩千子が提げていたのはホテル菊野の紙袋

 

途端に弥生の顔が険しくなる

「美味しいものを拒むのはよくないわ」と摩千子

取り出したのはキウイと苺と生クリームの詰まったフルーツサンド

照り焼き唐揚げと卵のサンドイッチ

メロンジュース 桃のジュース

「果物は美容にいいのよ 菊野のテイクアウトは美味しいわ

敵!なんて拘ってないで飲みなさい 食べなさい 命令よ」

笑顔で押しつけて弥生が食べるまで腕組みして待つ摩千子

笑顔なのに迫力がある

 

根負けして弥生が口にすると

「よろしい」

しかも弥生が食べ終わるまで無言の摩千子 それも笑顔のまま

なんて怖い笑顔なんだろうと あきら子は思った

「うふふふ・・・・食べ終えたわね しっかり食べたわね いいコだわ弥生ちゃん

お姉さんが撫で撫でしてあげましょう」

 

こういう性格だったのか この人ーと あきら子は驚いてばかりだ

「あの・・・・何なんでしょう お二人 何か用事でも」

言いかける弥生に「よく聞いてくれたわ 実はね困ってるの さびれた商店街に賑わい取り戻そうーってことでね

見た目のいい女のコたちに出場すべしーなんて招集がかかったの

迷惑だけど出ないと言い張るのも大人げないしね

ここは見世物パンダよろしく出ましょうって度胸のいい娘達がいるのよ

けど数が足りないの イベントとしちゃ弱いわね

そこで出場者を餌で釣ろうーって ホテル菊野にも景品についてご協力くださいーって交渉に行ってきたの

そしたらそんなに大切なイベントなら協力ーという色よい返事はもらえたけれど

けれどね 条件があるの

弥生さんも出るのならーって

 

このあきら子さんは出場者集めの いわば美人スカウトのお仕事を言いつかっていてね

お店の仕事あるけれど一緒に走り回ることにしたの

だって生まれ育った町の為だもの

どうか協力してくれない」

 

摩千子の話の途中から弥生は青くなったり赤くなったりした

表情変化の豊かな人だーと あきら子は思う

黒目がちの大きな瞳 噛み締めている唇は淡い桜色

男の腕にすっぽりおさまりそうな身長 体つき

かと言って小柄でもなくて

くっきりした眉は意志が強そう

 

うん これはメイクすればかなりの美女だわとも

 

「出ていただけませんか 勝手なお願いですが」と あきら子は頭を下げる

「まさか断らないわよね 弥生ちゃん あなた今 我々からのワイロ受け取って食べちゃったじゃない」

 

「あ あれは摩千子さんが食べろってーーーー」

 

うん それは無いわ 汚いわーと あきら子も思う

気の毒だ弥生さん

 

「つまり自分の意地 プライドが大切でホテル菊野ごときが出す景品の為などの役に立ってはやらないと

我が町の商店街なんざどうなってもいいと」

そこで摩千子は大きく溜息をついた 「仕方ないわ あきら子さんごめんなさい

花野酒店は参加せず ホテル菊野のイベント協賛もなし

みんながっかりするでしょうけれど」

 

じわっじわと追い込まれる弥生

気の毒なほど項垂れる

「とにかく少し考えてみてくれませんか」とだけ あきら子は言った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「藍の衣」ー1-

 

「藍の衣」ー2-

 

「藍の衣」ー3-

 

「藍の衣」ー4-

 

「藍の衣」ー5-

 

 

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「よたばなし」ー33-

2021-07-23 20:02:15 | 自作の小説

検査の結果は何の異状も見つからないのに深春野真夜(みはるの しんや)は眠り続けている

何故か 目覚めない

それは自分が解決するように言った 一度は解決したはずの例の黒い女の問題の為なのか

多少の責任を木面衣都子( きづら いとこ)は感じている

 

長い銀の髪 黒銀の長い爪 異形の姿の夢鬼は衣都子の夢に現れ言ったものだ

真夜は眠っていはいるが夢は見ていない

入ろうとすると夢鬼は弾かれるのだと

そんなことを言う夢鬼は少し寂しそうに見えた

 

夢鬼が言うには衣都子と真夜の血は遠い昔の何かでつながっていると

二人が出会ったのは その血が呼びあったからだと

眠っていない起きている衣都子と夢鬼が語り合えるのはそのためだと

 

衣都子が逢魔が時を選んで夢集めを始めた時 手伝わされる羽目になった夢鬼は呆れた

自分を使おうなどと考える人間がいたことに

もともと衣都子は本人に自覚がないだけで周囲から見ればズイブン変わった人間なのだ

「あたしは夢を呼ぶことはできない 真夜のように他人の夢にも入れない

どうにか変わった話を拾うことくらいしかできない 

夢の中に真夜を起こす手がかりがあるかもしれないでしょ

夢に始まった話だというなら

他人の夢など あたしにはお手上げよ

夢鬼なら夢は得意領域でしょう

真夜に起きてほしいなら そちらが頑張ることね」

 

一つの夢を片付けた夢鬼に 衣都子が尋ねる「どうだった」

「散らばった闇の一つ」

 

ある日 ばったり倒れて動かなくなった真夜

真夜の中に居る夢鬼にも理由が分からない

真夜が何にとっつかまったのか

 

もしくは何か 大化けする前の蛹状態に入ったのか

生まれる前に持つ能力を封じられたという真夜

闇のモノが欲しがる血の持ち主


「よたばなし」ー32-

2021-07-23 16:05:48 | 自作の小説

ー夢の残像・2・真夜(しんや)-

自分の存在を脅かすような才能溢れるーこれから世に出ようという人間を幾人も潰し
もっとも美しい若い娘は事故にみせかけて焼き殺した
そんな女優がいた
しぶとく芸能界を生き残り 長く芸能界を生き抜いた 
それだけで大物女優と呼ばれた

年老いて心弱り自分の罪を夢に見てうなされるようになり
やがて夢にとらえられるようにして死んだ

死んだ女の悪意が夢に残り ばかりか怨霊化して伝染する夢となった

誰かの見る夢の中に現れる黒い心の女

夢から悪意を抜き取り そのよくないモノを夢鬼の夢檻に閉じ込めて
事は終わったと僕は思っていた


だが その夢檻が破られたという

てんでばらばらに逃げだした悪意の群れ
小さな点となり 滴にふくらみ人の心の黒い部分を吸い取って 別の悪夢をうみだす

無邪気に心の悪を拡げていく

人は夢に影響される

起きて忘れて思い出せない形の無い夢に

「かように夢はタチが悪いのだ」
と夢鬼が言う

「誰の心にも黒い部分はあるものだ」とも


それはそうなのだろう

 

 

 

 

 

 

 

ー夢占(ゆめうら)の女・客ー

人は不眠が続くとおかしくなる

常の自分ならぬ行動をしてしまう

多分 その時の私はおかしくなっていたのだ

それは夕暮れ 昼と夜とが入れ替わる刻(とき)

 

易者が座るような台の後ろにいたのは黒いヴェールを顔にかけた女

看板は何も出していない

 

なのに私はふらふらと吸い寄せられた

その女が何者で何の商売をしているかも分からないのに・・・・・

 

それだけ私は眠れずに切羽詰まっていたということか

簡素な台の間に置かれた椅子に私はへたりこんだ

視線すらこちらに向けず 女は問うてきた

「どういうご用件でしょう」

 

通りかかる人間がひっかかるのを待つ商売ではないのか

濃いヴェール越し 女の表情は読めない

見えるのは形は良いが薄い唇ばかり

 

それなのに私は話しだしていた

「眠れないんだ」

女は何も言わない

「同じ夢を見る その夢を見たくない 夢に捕まりたくない

ずうっと追いかけられていて

とうとう何処かのトイレに 個室に逃げ込みドアを閉めようとする

すると閉めさせまいと 手がかかる

それが入ってきたら おしまいという気がしている」

 

初めて女が言う「どういふうに おしまいだと」

 

「わからない ただ 恐ろしいんだ」

 

「いつも逃げてばかり 逃げ続けているんですか 何故?」

ひどく不思議そうに女が訊く

「だって 恐ろしいから」

 

「何故でしょう それに捕まるのが  それに向き合うのが」

 

「全部」と私は答える

 

「なるほど そういうものですか」と女

そして「あたしならー」と女は続けた

「あたしなら それと向きあいます でもって危害を加えてくるようなら先制一番

ぶん殴ってやります」

 

楚々とした見かけに反し 女は随分と攻撃的な性格らしい

「追いかけてくる相手と向き合っては いかがですか

それはあなた自身かもしれません あなたの中にある何か

その恐怖に勝てるものなら この拳でぶん殴ってみてはいかがでしょう」

 

更に言う「いずれにせよ それはあなたの夢 あなた自身で解決しないことには ずうっと眠れずに気が狂ってしまうのではありませんか」

 

「まずは立ち向かってみて下さい」

こうも言った「天は自らたすくものをたすくーです」

 

「あの見料は」と言えば

「そんなものは要りません ここにこうして座っているのは ただの気まぐれです」

商売ではないーと

 

どうにも不思議な女だった

 

やがて女の姿は闇に沈む

 

その夜 私は早々と眠りについた

 

ああ まただ 誰かが何かが追いかけて来る

閉めようとするドアを手が掴む

見覚えある指

そうだ あれは私の手だ

 

思わず その手を掴む

 

手の先に居たのは 私だった

私が私を脅かしていたのか

 

何故 

しかし それは随分と邪悪な表情をしていた

 

ーそれが悪 闇だからだよー

私と邪悪な私の前に現れたのは額に角ある とても美しい鬼

その鬼を見て 邪悪な私が怯えている

鬼は邪悪な私を引き裂いた

闇が消える

 

ー柄ではないが 安心して眠れー

 

鬼も姿を消した

 


「逃げられた」

2021-06-08 09:51:45 | 自作の小説

収入は生活するにギリギリ 余分な貯金など全くない

 

それでも現在暮らす場所が老朽化で取り壊しとなり 早急に住む場を捜していた

家賃・水道光熱費・通信費(電話代)ーおさえられる出費はできるだけ低くおさえたい

不動産のおじさんが出す物件に どれも「家賃 高いと毎月払えないんで」と

情けない言葉を繰り返していたらー

 

おじさんが寄越した資料は

え?!いまどき家賃5000円

それ絶対ワケアリ物件だろーと思った・・・

思ったが背に腹はかえられない

 

「何か条件は」と尋ねたら

 

「夜逃げしないこと」と返ってきた

 

百聞は一見にしかずー早速案内してもらった

 

嘘だろう?!

駅まで徒歩10分

階下にコンビニあり

一階はコンビニとクリーニング店が入っている

便利じゃあないか

向かい側には蕎麦屋とファミレス

 

そこの5階の突き当りの部屋

建物は真ん中に廊下があって U字形に部屋が並ぶ

 

案内されたのはUの字の弧の部分

 

明るい部屋 ワンルームだが トイレも風呂もある

中二階の収納も ああロフトというんだっけ

 

勿論即決

不動産屋のおじさん氏は言った

「いいですね くれぐれも勝手に逃げないで下さいよ 特に夜には」

 

え?!夜逃げじゃなくて 夜 逃げーと言う意味

などと頭の中は疑問符だらけだが

取り敢えず引っ越し準備でささやかすぎる荷物をまとめ 移ってきた

 

カップ麺の蕎麦を食べ 風呂に入る

いまのところ 何もないぞ

何が起きるか 何が出るのか

 

ほらホラー映画で怖い場面がいまくるか いまくるかーと待ってしまうまでが恐ろしいような

そんな気分だった

何も起こらないままひと眠り

目が覚める トイレに行って水でも飲むかー

 

ートイレに入りドアを閉めようとするとー閉まらない

見れば ドアに手がある

両手で開けようとしている

「あんた変態か!」と怒鳴ったら その手はびくっとした

「男のトイレ覗きたいなんて いい趣味だな」

かぶせるように言い連ねれば

その手は震え出した

「あんた 手だけなのか」

手は申し訳なさそうに ドアから離れ ぶらりぶらりと揺れた

「いいか 俺はここに家賃払って 金を払って住む権利を得ている

あんたは何か ずっとタダで居座っているのか それは犯罪だぞ

警察に突き出してやろうか

それともお祓いの坊さん呼んでやろうか」

ぶるぶる手の震えが増す

俺はすっかり面白くなった

「ここに居たいのか」

手は真っ直ぐに揺れる

頷いているらしい

 

「なら出せない金のぶんだけ働け 手があってモノが持てるんだ

トイレなり風呂なり掃除くらいできるだろ やってみろ

働きぶんを見てやる」

 

手は真面目に掃除をし

 

時々疲れたのか布団で休む

夜に目覚めて 横に手だけあってみろ

かなり不気味だ

叱ってやった

「脅かして嫌がらせのつもりか そんなに根性悪い手なのか お前」

手は回りながらぶんぶん揺れる

「反省してるんなら 床にワックスがけしてみせろ」

 

手が退屈しないように 俺はどんどん手の仕事を増やしてやった

 

すると ある夜 手が床に両手をついた

「どうした」と訊けば

 

その手はひらひらと・・・部屋の入り口のドアを開け 出ていってしまった

 

それから手は戻ってこない

何も出なくなって

部屋は普通の部屋になった

家賃は安いまま

 

しかし物足りない

あの手はなかなか便利だったのに

あの手 今頃どうしているんだろう

新しい居場所は見つかったんだろうか

 

 

 

 


「藍の衣」ー5-

2021-05-27 13:20:25 | 自作の小説

全く どうしてこんなにこじれるんだ

何一つ うまくいかない

誤解されてばっかだ

最初(はな)っから

 

まだ少女だった君 あのイキの良さ

強気のくせに もろい

たかが小娘 

それがー

 

こっちは負け続けだ

君の為に 君の為だけに良かれと思ってしたことが

どうして・・・こう うまくいかない

 

俺の気持ちに気付いてくれないんだ

君の夢を応援したい

そう 俺は ただ君の笑顔が見たいんだ

(ジョージ)

 

ー5-

ミスコンの出場者はまだまだ集まらない

男達とは別に

ミスコンへの出場を決められている娘達は 竜子(りゅうこ)の声かけで集まったりしている

竜子いわく「絶対ミスコンだけじゃありきたりで人集めには弱いでしょ」

客寄せパンダの立場に甘んじる娘

他の出場者に対抗意識むき出しの娘

みみっちい諍いも時にはあるけれど

出るからにはこのイベントが失敗してほしくないと思う娘ばかり

 

「人が集まると言えばー祭りだと思う」

遠慮がちに言い出したのは酒屋の娘の多鶴 摩千子(たづる まちこ)

「今更新しい祭りなど あざといけれどー」

少し言いにくそうに摩千子は続けた

新酒を作ろうとしている娘がいる

ただ代々の店がーある大手ホテルと土地のことでもめていて

どちらも実はこのいざこざを本心では解決したいのだ

話のもっていきようでは大手ホテル側が この町起こしミスコンのスポンサーになってくれるかもしれない

「それで その娘さんって美人なの?」

パン屋の娘の玉矢緑が言う

「ほら緑も知っているでしょうに 花野酒店の弥生ちゃんよ」

「ああ・・・・まだ頑張っているんだ」

それから弥生の事を知っている娘達は口々に話し出す

 

「あそこはねえ 弥生ちゃんが後継いだ方が良かったのよねえ」

「あそこのお兄ちゃん気が弱いからー」

ときわ駅と次の駅の間には大きな川があり美しい朱色の橋がかかっている

その川沿いに花野酒店はある

とあるホテルが建築され その敷地は花野酒店を囲む形で ホテル側はみすぼらしい小汚い店を売るように圧力をかけている

そこに乗り込んだのが当時まだ16歳だった弥生

子供だと馬鹿にされないように 厚化粧して世慣れた女に見せかけて

「うちは代々ここの水でね お酒を作ってきたの ここの井戸の水でなきゃ美味しいお酒は 花野のお酒はできないんだから

絶対に絶対に売ったり手放したりしない

あたしが あたしが世界中に売れるお酒をつくってみせるんだから」

 

摩千子は溜息「あれからね5年 弥生ちゃんは21歳になったわ とても綺麗なコなのに 朝から晩までお酒のことばかり

端から見てるとじれったいと思うことも多くてねー」

それから少しちょいと色っぽい目つきをしてみせ「少し仕掛けてやろうかと思ってーかまわない?」

他の娘達は顔を見合わせる

「それがこのミスコンに役にも立って誰も傷つけないのならー」代表して竜子が言う

 

「もちろん」と摩千子

中々の策士なのかもしれない

 

まとまるものならまとめてやりたいーなどとも考える摩千子

 

人は自分の事では気づきにくくても 他人のことは案外わかってしまうもの

見えてしまうもの

オーナーはアメリカ人なのにホテルの名前は「菊野ホテル」 実にクラシック

菊野とは このアメリカ人の曾祖母の名前 一家には日本人の血が流れており日本にもホテルをつくることを夢にしていたと

その菊野さんは どうやらこのあたりの出身であったらしい

アメリカ人のジョンージョナサン・ローウェルと恋に落ちて 共にニューヨークへ

そこで日本料理店を開いた

店は繁盛したが そこで中国人から妬まれ恨まれー暴れ込んだ中国人たちから夫を庇おうとして 菊野は殺された

子供達を育て 孫を可愛がりジョナサンは100歳まで生きた

子供達に殺された妻 菊野の事を忘れないように言い続け

孫にも「おばあちゃんのおかげで じいちゃんは生きてる」

やまとなでしこがいかに素晴らしいか 日本が美しい国だと そう伝えて

それで子供や孫やひ孫達はいつか日本で暮らすことを夢見るようになる

ホテル菊野は彼らの夢

だから小汚い店が邪魔

邪魔なはずだった

 

ところがー

追い立てようとする兄や姉を末っ子のジョージが止める

 

どこの兄弟でもそうなように 末っ子に甘い兄や姉たちは

この末っ子のお手並み拝見と見ている

 

意固地になってホテル菊野には酒を売らない花野酒店

そこで花野の酒を扱う摩千子の多鶴酒店が ホテル菊野に販売している

何故なら花野の酒はおいしいから

独特のかおり 味わい

 

弥生の母のまり子は女ながらに酒をつくる才能があった

ところが それがまり子の夫には我慢ならなかった

自分には何もないのにー妻に嫉妬し続け 

まり子は夫の暴力にも耐えかねて家を出ていった

妻に捨てられた形の男は 妻を見返そうとー逆に事業に失敗

店は傾く

そのまま酒に溺れて死んだ

多くいた杜氏も一人去り二人去り まり子に杜氏のてほどきをした倉持が残るのみ

父親は娘の弥生が母のまり子と同じ杜氏になることを反対していたが

 

蛙の子は蛙というのだろうか

こっそり隠れて弥生は倉持から杜氏の仕事を教わった

兄の圭一は経営を学び 妹を支えようと必死ではあるのだ

 

摩千子はお人好しの圭一が子供の頃から放っておけない

その妹の弥生のことも

 

百合野あきら子は 摩千子が何を考えているかも知らぬまま 摩千子のいう「交渉」についていくことになった

「さすがに一人ではね 心細いから 一緒に来てくれる」

そう摩千子が言うのだ

「ある程度口がかたい人が良いの あきらちゃんは便利屋してていろんな家に出入りしているけれど あれこれ言いふらしたりしないでしょ だからね」とも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「悲恋抄」ー2-

2021-05-26 21:00:43 | 自作の小説

「涼音 頼れるのはお前だけ 信じられるのはお前だけ

義松を頼みます 心真っ直ぐな人に育つよう」

 

藩の正室 病弱なお梨世(りよ)の方からの言葉を心に刻み 涼音はお世継ぎの義松 若君に仕え続けていた

 

お梨世の方が案じていたのは 家老 大木田将監のこと

その野心

女好き お金大好き

主君の寵愛深いお梨世の方にまで好色の手を伸ばそうとしたことも

戯言(ざれごと)と誤魔化そうとしたが

主君には遊興を勧めようとしどうにも信用ならない不遜な輩(やから)

 

殿様だって目に余るものを感じ その悪事の証拠を掴むべく手を打ってはいたが

 

大木田はことあるごとに若君に涼音への不信を植え付けようとしていた

正室お梨世の方の信任あつく 武芸にも優れ「巴御前」とも渾名される涼音が邪魔で仕方ないのだ

とうとうでっちあげの罪を被せ

涼音を手討ちにすべしと 若君に強く言う

「情に流されてはなりません これは悪い女なのです 正しく行うが上に立つ者のー」

 

義松はまだ元服前の年齢

常日頃可愛がってくれている涼音を殺すことなど 死を命じることなどできない

 

ーお許し下さい 御方様 わたしはこれまででございますー

涼音は懐剣で喉を突いて死んだ

 

主命により大木田一味に潜入していた若侍 真之介もまた斬殺された

真之介と涼音は恋仲であり いずれ夫婦となる約束をしていた

 

 

大木田将監ー

うるさい鼠二匹片付けてご満悦

 

しかしこの頃から怪異が始まる

 

夜半その寝所近くで足音がする

びしゃん びしゃん 濡れたような

 

廊下には朱色の 血に染まったような足跡が残り

 

毎夜 少しずつ将監の部屋へ近づいてくる

ある夜

「ごめん・・・」という声を将監は聞いたかどうか

脅える将監の前に嬲り殺され血塗れの真之介の姿

 

振り返れば 背後にはこちらも喉から血を吹いている涼音の姿

 

「ゆるせ ゆるせ・・・・・」

 

将監は腰を抜かし尻で後退さる

後ろ手に這い逃げる

じわじわと真之介と涼音が近付く

将監は庭に転げ落ち なおも後退さって逃げる

そしてー

 

井戸へと落ちた

 

真之介と涼音の姿をしたものは うっすらと微笑み 顔を見合わせると 静かに消えた

 

 


「悲恋抄」ー1-

2021-05-26 16:43:21 | 自作の小説

ー亜矢希(あやき)ー

いつかはこんな日が来ると分かっていた

何か約束したわけではない

ずっと一緒に居ただけ

年上の女は 捨てられかけてる女は こう言うしかなかったわ

「子供ができたんなら 責任取らなきゃ」

 

「俺は・・・」

言い淀むあの人に あんなことまで言ってしまった

「親無しの子にしたくないんでしょ あなた それは絶対 嫌な筈よ」

相手は売り出し中の女性記者 あたしなどより随分若い

実家も資産家

 

子供が産めるか産めないかのトシのただのくたびれた女より どちらが良いかは考えるまでもない

迷う価値すらありはしない

孤児で親を知らずに育ったあの人

人一倍 あったかな家庭に憧れているはず

自分の家族が欲しかったはず

あたしとの暮らしでは子供を・・・持てなかったのだから

 

ままごとのような そんな生活はもうお仕舞

 

ううん 本当は苦しい

この喉をかきむしり いっそこの手で心臓をえぐり出し 握り潰して死にたい

なのに体に力が入らない もう

あなたは あたしの全てだった

 

 

「別れたですって!」

昔からの友人でカクテルバー「夢」のオーナー勝子が眉をしかめる

「現在(いま)のアイツがあるのは あんたのおかげじゃない

アイツの才能に惚れこんで 自分の夢は投げ捨てた」

 

あたしの代わりに怒ってくれているようだった

勝子はずっとそう 気を揉んで案じてくれる

 

「あの人が あの人の作品が あたしの夢になったのよ

記者が取材にくるほど あの人は成功し あたしの夢をかなえてくれた」

 

「ずっと苦労してきたんじゃない その苦労が実を結んでーこれからーなのに

何 潔く身を引いてんのよ じれったい

いい?! わたしはね亜矢希の描く絵好きだったのよ 優しくてあったかくてー」

 

「ありがと そう言ってくれるのは勝子だけよ」

 

「まったくー無理に 無理に笑わなくていいのよ

ここでっくらい泣きなさい」

 

 

ー塔崎 凉吾(とうざき りょうご)ー

ふらふらと投げ出された体に手を伸ばした

気の迷い

 

その結果がこれだ

「子供ができたの 責任取ってくれるわよね

パートナーがいるって 何よ

籍にも入ってないじゃない

もしも堕胎(おろ)せなんて言うなら 私の両親だって黙ってないわよ

ケチな画家ひとり捻りつぶすくらい

ねえ 私 美人でしょ

これでも引く手あまたなの

あなたはイケメンだし きっと似合いの夫婦になれるわよ」

 

取材の時の感じ良さなど消え失せていた

いいやお前は俺の何も刺激しない

 

誰より 何より俺を思ってくれたのは

絵の描き方から教えてくれたのは

まだ美大生だった亜矢希

絵具代が大変なのーとバイトしていた

俺の身の上を知ると

「その年で一人暮らしは大変でしょ」と 弁当を作ってくれるようになり

俺が描いた絵を褒めてくれた

一緒に作品を創ってきたんだ

お前が居たから お前が喜んでくれるから 描いて 描き続けてこれたんだ

 

俺をひきとめなかった 泣いて縋りつかれるより辛い

俺はお前には必要ない男だったのか

 

 

ー勝子ー

亜矢希と別れた塔崎凉吾は描けなくなった

当然だ

ずっと二人を見て来たわたしには分かる

画家 塔崎とは 凉吾と亜矢希 二人で一人の画家だったのだ

 

亜矢希はここに寄った帰り 自動車事故で死んだ

女性記者の妊娠は嘘

いい男をつかまえがたい為のー

 

女の嘘に踊らされた凉吾は

彼も死んだ 描き疲れたかのように

 

最後に描き上げた肖像画の前で死んでいた

肖像画の亜矢希は微笑んでいて

凉吾は もう一度 幸福そうな亜矢希に会いたかったのだろうか

 

なんて馬鹿な二人

長年の友を喪ったわたしは ただ泣くしかない

あんた達 もっと我儘に生きれば良かったのに

本当にお馬鹿さん


「宿主」

2021-05-14 20:09:08 | 自作の小説

頭痛持ちではあったが 50歳を過ぎてから随分ひどくなった

検査しても原因が分からない

血圧も普通 余病もない

 

その上 妙なモノを見ることがある

それは もう気のせいだと自分に言い聞かせる

頭がおかしいと思われたくない

 

エアコンの上の黒い人間

それはエアコンに跨るのが好きらしいのだ

時々笑っている

 

あと額縁から伸びてくる腕

腕がいない時に額縁をずらしてみるが 何もない

あの腕は何処からやってくるのか

 

奇妙なことも続くと慣れてしまう

むしろ変わったモノが見えないと どうしているのだろうーなどと心配になるのだ

 

ただ頭の痛いのは辛い

 

頭蓋骨の中から痛い

両のこめかみあたりが特にひどい

 

痛い痛い痛い痛い 痛い・・・!

吐きそうだ

首の上に頭を立てていられない

コンと机の上に頭を置く

耳に音が響いてくる

聴いたことが無い音だ

ああ痛い

もう死んだ方がマシだ

 

 

ーふっー

ひどい痛みが走り ぐわあああっと叫びたくなる

ーふっー

 

再び それが耳の傍から聞こえた

頭が痛くて動けない

何かがこめかみを伝って・・・

目の前に降りた

小さな黒い生き物 角が2本ある

ということは鬼なのか

小さいから小鬼か

 

ーやっと出られた お前の脳みそは不味いよ おいしくないよー

目もなくて口ばかりの小鬼

小鬼の口は伸び縮みするストローのような形をしていた

どうやって喋っているのか こんな形の口で喋れるのだろうか

 

ーああ それは ずっとお前の脳みそを啜っていたからね ある意味お前の体の一部だよ

オレはお前の頭蓋骨の中で孵化したのさ

オレたちは成長が遅くてね 出てくるのに半世紀かかるのさ

お前は俺の宿主だった

じゃあオレは行くよ バイバイー

 

黒い小鬼は去っていった

寄生小鬼に出ていかれたわたしは・・・自分の人生から去るようだ

 

もう・・・目も見えなくなった


「逃げたい」

2021-04-18 15:35:21 | 自作の小説

隣に死体が寝ている

黒い長い髪・・・女性だろうか

首から下は焼け焦げている

アバラ骨も見える

どう見たって生きているようには見えない

私はどうして死体と並んで寝ているのか

同じベッドで

腕が死体に触れている

 

自分に何が起きたのか思い出そうとしていた

 

動けるのだろうか 私は

ここは何処なのだろう

 

ーと隣の死体が口をきいた

「ずうっと一緒だよ 何処かに行っては駄目だよ」

声は男のものだった

では これは男性なのか

 

いや死体が口をきいた

 

怖ろしさに何とかして逃げなくてはーと思った

ここを出て これから逃げ出そう

「トイレに行きたいの」

そう言って私は それから離れ 部屋を出て走った

病室かと思っていたが 階段を下りれば そこは酒場

西部劇によく出てくるような

 

私はカウンターの中に隠れた

あれが追ってくるような気がしたのだ

 

「どうした」カウンターの中の髭面男が声をかけてきた

「なんでも」と私は答える

 

「ふうん 逃げちゃいけないな」

 

驚いて見上げれば髭面男は 部屋に置いてきたはずの死体男の顔になっていた

ばかりか 他の客たちも皆 あの死体男と同じ顔

 

もう悲鳴をあげる元気もない

 


「王妃の遺言」

2021-04-13 09:32:16 | 自作の小説

その女性は王女として生まれたが 国の政情は安定せず 小さな戦いが繰り返されて 物心ついてからは逃げて隠れて暮らす日々が続いた

それでも彼女は恋をしていた 

ずうと傍で自分を護ってくれる青年 命を賭けて

青年もまた王女に恋した 一人の女性として愛した

 

やがて国に平和は戻り 隣国の王子を夫として王女は迎えた

隣国の王子は 良き王となりこの国を治めた

 

王妃として暮らし死んだ女性の 王女時代の若い恋を知る者は もう殆どいない

あの生きるのに必死だった若い娘の 命がけの恋はどうなったのだろう

王と王妃の間に子供はできなかった

それは残念なことであったが 無理のないことでもあったのだ

そこでこの国の王家の血は途絶えたのだろうか

 

王女が配偶者を得て暫くし その生活が落ち着いた頃

美しい娘が侍女として 王妃に仕えることになった

王妃に忠実であったこの侍女は 嫁ぎ娘を産む

その娘を王妃はことのほか可愛がり 時にその暮らす家を訪ねた

 

王妃は侍女だった娘に ある頼み事をしていた

 

その手紙にはー

 

・・・・・可愛くいとおしくてたまらない貴女

貴女が現れた時 一緒に暮らせるようになった時 どれほどわたくしは嬉しかったことでしょう

あの人から連絡はありました

それでも信じられなかったのです

 

最も苦しい時にわたくしを支え守り愛してくれたあの人

王女として城に戻らねばならなくなった時に 全てを引き受けてくれたあの人

この国の平和の為にーわたくしは城に戻り隣国の王子を夫に迎えねばなりませんでした

娘らしい恋心は全て置き去りにし いえあの人へを残して

全部あの人に託して

 

今更「母」などと名乗りはあげられない

そう諦めていたのに

 

あの人は ひそかに貴女を育ててくれただけでなく 城に向かう貴女に全てを話してくれていた

今度はお前が王妃様を守れーと 

あの人からの手紙には 自分が病気でもう長くないこと

だからこれからは娘を頼む

娘がいつか愛した相手とごく普通の幸せな家庭が持てるようにと

 

それこそが自分の心からの願いだと

 

それはこのわたくしの願い 夢

 

あの人は 

暫く娘を母親の傍で暮らさせてやりたい

そうも思ったのだと

 

わたくしは 貴女のお父様が好きでした 好きでした

愛しておりました 心から

 

あの小さな村で過ごした時間

何ものにも代え難い幸福な日々

 

自分は死んだことにしたいと あの人に縋りました

でも あの人は言うのです

 

国民の事を考えろと

 

隣国の王子については・・・よく知っていました

悪い人間ではないことも

 

だから わたくしは安心でした

ええ

夫となった王子とわたくしは よく理解しあえておりました

男と女として愛し合うことはありませんでしたが

ですから子供などできようはずがありません

 

夫は女性は愛せない人間だったのです

夫には情人がありました

常に夫の傍に居た人物です

ゆえに夫と私は利害が共通する夫婦でもあったのです

それ以外では夫は実に公平で寛大な人物でした

人として優しくあったかくて

 

それは貴女も知っていますね

 

夫も このわたくしの望みは知っています

どうか叶えて下さい

 

お願いです・・・・・

 

 

 

侍女でもあった娘への依頼

それは娘の父親と同じ棺に自分の遺体を入れてくれーというもの

 

国葬のあと 国王の密かな協力もあり その願いは叶えられた

 

 

小さな国の秘密の物語