ーアリスー
船に乗っていたーそして船から落ちたのだ・・・たぶん
気が付けば水の中
あたしは泳げない もう死んじゃうと思った
目の前にというかー溺れかかった体にぶつかってきた「何か」にあたしはしがみついた
それから・・・・・気が付けばこの陸地に・・・砂浜に倒れていた
自分に何が起きたのか あたし自身分かっていない
知らない土地
とにかく水を求めて歩き出したけれど
何が起きたのかそこらじゅう荒れていた
たぶん町だなと思える場所は火事があったのか まだ煙の残っている建物も
それに・・・住民が居ない・・・・・・
水道は有難いことに生きていた
蛇口から水は出る
ひどく喉が渇いてはいたけれど その水を飲むのは何故か躊躇われた
一体何があったのか 漂う不気味な気配
焼け焦げてはっきり地名が読めないけれど 「・・・・・・島へようこそ」という看板が落ちていた
ようやく飲食店らしき店を見つけ 入ってみる
やはり誰もいない
棚から一本水のボトルを取って飲んだ
水が体に沁みていく
パンを食べ 見つけたチーズやチョコレートをポケットに入れる
商品にリュックもあったから これも拝借
細かな日用品も詰めた
できれば武器になりそうなモノも欲しいところだけれど
物色していると背後から声をかけられた
「いい判断ね あなた名前は?」
振り向けば薄汚れた女性が立っている
腰にベルトを2本斜めに交差するようにしめていて そこにあるのは刀と銃
背中にも斧みたいなのを背負っている
さて名前をきかれて困った あたしは名前も思い出せないのだ
「覚えてないの 気が付けば水の中にいた そこから前のことは何も 名前すら思い出せない」
「そしてこの島へ流れついた それは随分運の悪い」
武器だらけの女性は薄く笑った
金色の髪は肩にかかるかかからないか 瞳の色ははっきりとは分からない
近付けば その女性はあたしと同じくらいの身長だった
「名前なしは不便ね アリスと呼ぶことにするわ 私はコーラ」
「何故アリスと」
「ルイス・キャロルの小説でおかしな場所に迷い込んだ少女の名前がアリス そしてね化け物退治する映画の主人公の名前がアリス この状況と酷似しているので」
「化け物?」
「ああそこは運がいいわね あなた 気が付いたのが昼で良かった 夜になったら奴等が動き出すから
日が沈めば」
「奴等ってー」
「見せてあげる こちらへいらっしゃい」
コーラはあたしを手招きした
店の奥へと・・・・・
血塗れの惨殺死体が幾体も倒れている
「みんな・・・あなたが殺したの」
コーラは首を振った「いいえ・・・でもあなたも逃げた方がー」
コーラの左手から斧が飛んだ
あたしめがけて
思わず あたしは前に倒れた
背後でドサリという音
振り返れば乱杭歯をむきだしにした男が倒れるところだった
コーラはソレからあたしを助けてくれたのだった
「うん 奴らはドラキュラみたいに太陽が昇れば眠る習性だと思いこんでいたけれど
寝付きの悪い不眠症みたいな輩(やから)もいたんだわ」とコーラ
「ありがと 一体いつからここはこんなふうにー」
「半月にもならないわ タチの悪い咳をしたかと思ったらバタバタ死ぬ人が増えて 夜になると死んだ人間は動き出し 死んでいない人間を襲った
噛まれると伝染(うつ)る
今迄家族だった人間が噛みつきにきたら 中々殺せないもんよ
それで殺(や)られる どんどん化け物は増える」
「あなたはー」
「私はここの住人じゃない ちょっと旅行で寄っただけ だから事情が分かれば殺すのを躊躇う相手はいなかった」
「どうしてすぐに出ていかなかったの」
「質問の多いコね よその状態が分からないと安心して移動はできないわ 動いた先にもっと化け物がいたら嫌だもの
それよりここの化け物を全部退治すれば 少しは安心できる」
コーラは島の中を化け物退治をしながら移動しているのだと話した
島を出るには船を動かすしかない
しかしコーラは船を操れないのだとも
「世界とつながれる無敵のスマホも・・・ここでは用を為さない」
本当に必要な設備がととのっていないのか どうか
この島は「束縛されない自由を愉しむ観光地」が売りであったそうだ
だけど どっかうさんくさかったーとコーラは言う
「裏がありそうで 調べて記事を売ろうと思ったのよ こんな目に遭うとはね 計算外だわ」
・・・にしても相手は予想外の化け物 普通なら怯えて隠れるとか 餌食になりそうなものだけど
「普通じゃないのは あなたもでしょ」とコーラ
きょとんとする あたしに
「怖がっているように見えない 悲鳴もあげないし」
まだ悲鳴あげる余裕はありません
あたしには自分が誰かを思い出せないことが一番重要事項
「ま・・・なんにせよ 普通じゃない女二人VS化け物さん この勝負 どうなるんだろうね」
店のコーラを飲みながら涼しい顔のコーラ
コーラは名前すら思い出せないあたしを すんなり受け入れ戦力と数えるつもりらしい