ー女ー
人の恋愛-色恋ってさ
傍から見てるととっても歯がゆい いらいらさせられる
好きか嫌いかしかないでしょうによーなどと思う
でまあ 気を揉んだぶん 落ち着くところに落ち着くと 荷物をおろしたみたく
こうほっとする
肩の力が抜ける
ま うまくいって ようござんしたねーなどというようにね
或る意味無責任ちゃあ無責任なんだけどね
はたでわあわあ言ってるだけ
まあ それしかできないし
・・・というのは従妹のこと
あたしも従妹もひとりっこの一人娘でね
従妹の母親はあたしの母の妹
まあ血が近いというか なかば実の妹みたく思ってきたんだ
この従妹がさ 変に優しい そして素直な性格でさ
自分が死んだあとに独りぼっちになってほしくない
きちんと家族がいてほしいーそんな母親の願いにこたえてすぐさま結婚
そんな子供 いまどき居る?
いい年をしてひとりもんのあたしは呆れたわよ
そしたら・・・叔母の葬儀の時に 従妹のご亭主ってば 事故死
従妹は妊娠中のお腹を抱えて一気に未亡人
だけど健気にひとりで子育て・・・
見ちゃいられない
だから 戻ってこない 一緒に仕事しようよって声をかけた
母や叔母 孫のあたしと従妹にもあれこれ料理や裁縫まで教えてくれた祖母
この祖母があたしと従妹にって自分の生命保険の受取人にしてくれていたそのお金
安く売りに出てた店舗付き住宅を買って手を入れて
あたしが本当にやりたいのは町おこし
高齢化なんかで跡継ぎいなくて閉店していく商店
店の業種は変わっても どうにか活気を取り戻すことができないかしら
町ぐるみ家族のような
祖母から聞いていた町の姿
子供たちが安心して遊べる公園
ちゃんと遊具もあって
いろんなことの手始めとして
ささやかに従妹と惣菜兼お弁当屋さんを始めることにしたのだった
これが軌道に乗ったら そしたら次はと
夢は果てしなくあるわ
市の職員をしている悪友たちも巻き込んで
そして従妹がこの町に戻ってくる時に引っ越しの手伝いに参加した男
その目がずっと従妹の姿を追っていたから
あたしは思い出した
従妹がこの町で暮らしていた時もそうだったこと
いつか男が言い出すんじゃないかと思っていたけれど
そうそううまくはいかず
だけど未亡人として戻ってきた従妹
男にとっては 二度目のチャンス
だけどなかなか進まず
ずっとただの熱心な常連客でいて
いけ! もっとおせよーと
従妹には 気づいてやれよーと
もうね 従妹から再婚するーそう聞いたら安心して涙まで出てきちゃった
変なの
従妹は言ったの
「ありがと この町に呼び戻してくれて 暮らせるようにしてくれて
本当に有難う あの人と再び出逢わせてくれて」
ってね
あたしは何もしていない していないよ なのに
で ちょっと ずきりとした
遠い昔 あたしにも好きな相手はいたんだ
同じ中学2歳上
中一には中三はもう立派な大人に見えた
追いかけて同じ高校にも行ったわ
大学も猛勉強して同じところへ
だけど追いかけられたのは そこまで
海外留学 外国で研究
私には日本を出る勇気は持てなかった
出せなかった
ついてはいけない 追いかけることはできない
「研究 頑張ってください 日本から応援しています」
それを言うのが精いっぱい
可愛かったなあ あの頃のあたし
笑えてしまう
この町で就職し 夜は母の店を手伝って
料理学校にも通って
いつか両親は 結婚しろとも見合いしろとも言わなくなった
恋愛能力に欠けた娘だと諦めもついたのでしょう
きっとね
人間諦めが肝心よ
じたばたしたら しんどいじゃない
今や 従妹の子供を自分の孫のようにかわいがっているわ
そう
寝た子を起こすことはないの 無理して
・・・なのにねえ
ああ もう人生ってままならない
なんとなく このまま独りで生きていくんだろうなと覚悟していたつもり
駅で新婚旅行に向かう従妹たちを見送り 留守の間のお店は任せてーと
くるりと方向転換したら
そこに居たんだわ
なんでだか相手は あたしの姿を見て呆然としてた
「や・・・あ 久しぶり」
久しぶりって言ったってことは相手もあたしがわかったということ
「帰国してたんですか」
「置いてくれる大学が見つかって」と彼が答える
「おめでとうございますーと言っていいんですよね」
「う・・・ん」
彼はあたしが手を引いている従妹の息子の姿をじっと見ている
「そうですか あたしは雪座町の角でお惣菜と弁当屋のおばちゃんしてます
良かったら買いに来てください」
なんだか気まずくて一礼して別れた
十年ぶりくらいか
背ばかり高くてひょろっとしていた彼は 少し落ち着きを増していた
平気よ ずうっとずうっと昔 好きだっただけの相手だわ
あたしには一生をかけられる町おこしの夢があるんだから
ー男ー
久しぶりの日本
駅で着物姿の随分と美しい女性がいる そう思って見惚れていたら・・・知った人間らしいと気づいた
彼女は男の子の手を引いている
ああ そうだ 日本を離れて10年ばかしか
ならば ならば彼女 結婚していて子供がいておかしくない年なんだ
呆然とした
どうしてか彼女だけ 時間が止まって 二つ違いの後輩のままでいると 思い込んでしまっていた
研究を続けながら・・・教えることもできる大学
そう思って選んだはずが・・・
お前は幾つだ 一体・・・馬鹿か!
なんの約束もせず 交際すらしていない
呆れかえったでくのぼう
帰国そうそう 頭にボウリングのボールをぶつけられた感じだった
それでも「来てください」と言われて行かないのも大人げない
そう自分に言い聞かせ
彼女がいる店を訪ねてみた
「あら いらっしゃいませ」
笑顔で迎えられる
弁当の選択に迷っていると「先輩 タコ好きだったでしょ タコ飯とデラックスおかずの組み合わせなんてどうですか」
「ああ・・・」
もたもたしている間に「有難うございます おまたせいたしました」
包みを渡された
「ちょっと出てきます」
店の女性二人に声かけて 彼女が出てくる
「新しい職場には もう慣れました」そう話しかけてくる
「迷子にならないようには してる」
この言葉に彼女は笑った
「ご主人は何する人」と訊くと 彼女きょとんとする
「男の子連れてたし・・・」
「ああ・・・」と笑った彼女「あれね 従妹の子なの ちょっと預かっていただけ」
結婚とか そんな色っぽい話は自分を避けて通ると笑う
「先輩こそ 随分落ち着かれて 奥様はー」
「しがない独身 駄目男だよ」
「選びすぎじゃありませんの」
「選ばれなかったほうだと思う」
それから夕飯を買いに仕事帰りに寄るようになった
短い会話 少しずつ互いの生活が見えてくる
離れていた時間
俺は 彼女についてきてほしいと思っていたんだ
学校と同じように追いかけてきてくれるだろうと
何の約束もしていないのに
当然のように
彼女は今も独身だ
俺は今の彼女がますます好きになっている
なら賭けてみようか
バレンタインデーまでに
きちんと 今度こそ言葉に出して
もうこれ以上時間を無駄にはしたくない
選びきれず幾箱も買ったチョコレートの詰め合わせ 赤ワイン
「受け取ってくれ 頼む」と頭を下げた
受け取って・・・「あの・・・どうしたんです」
「できるなら 一緒に生きてほしい」
「なんで」と彼女が返す
「好きだから」
「本当に?」
「うん」
彼女の隣にいた女性が 見るに見かねたのか こう言った
「この方 先輩さんなのでしょ 荷物は預かっておくから 一緒にコーヒーでも飲んできたら」
言いながら 彼女の頭の頭巾を外し割烹着を脱がせる
「美代ちゃんと私で店は回せるから ゆっくりしていらっしゃいな」
それから二人で何故か気まずくコーヒーを飲み 次はデートをすることだけ決めて別れた
外で会うようになり 一緒に出掛けるようになり
暫く経って ご褒美のように彼女から こんな言葉をもらった
「あのね・・・ずっと ずっと 好きだったの」
関連作品です↓よろしかったら
「好きだったんだ・・・」 - 夢見るババアの雑談室 (goo.ne.jp)
コメント欄は閉じております
ごめんなさい