再読です
以前 読んだ感想はこちら↓
{天源寺家の跡取り娘の咲弥は 誰からもお似合いと言われた最初の夫を病気で喪った
そして父親の刑部が次の婿に選んだのは雨宮蔵人だった
教養優れ和歌を嗜む咲弥は この夫が気に入らず婚礼の夜に部屋で言った
-これこそご自身の心と思われる和歌を教えていただきたいのですーーこれぞとお思いの和歌を思い出されるまで寝所はともにいたしますまい」
そして刑部のしたことーその結果の為に 蔵人は藩を離れる
そして蔵人がしたと思われることのために 蔵人のいとこの右京と咲弥は蔵人を追いかけた
刑部は自分が企んだことが露見したと悟り切腹の覚悟を決め蔵人に介錯を頼んでいた
そうと知らず右京は他からの命により刑部を斬った
そして卑怯な手段で陰険に蔵人をつけ狙う十太夫の襲撃
様々な理由から長い歳月 別々に暮らすようになる蔵人と咲弥
やがて咲弥のもとに蔵人が届けた和歌はー
春ごとに 花のさかりは ありなめど あひ見むことは いのちなりけり
咲弥は右京から 幼少での花見の折りに咲弥が行方不明となった為に 蔵人の父がお役御免となったこと 職を奪われた蔵人の父がそのために命を縮めたこと
また迷子となっていた自分を見つけて送り届けてくれた目のすずやかな少年が蔵人であったことを教えられる
咲弥の為に桜の枝を花びらを散らさずに折ってくれたー
蔵人は幼い咲弥を見て桜の化身かもしれぬーと思った
自分を寝所に入れず触れさせぬ咲弥を守るために又 命を賭けた蔵人
様々なことを思い合せる咲弥
どれだけ長く離れて暮らしても咲弥はそんな蔵人を信じる
いつしか愛も育っていったのだろう
そんな咲弥に届けられた 遂に蔵人が見つけた和歌
ーいのちなりけりー
再び咲弥に逢うためにー蔵人は幾つもの死闘を斬り抜ける
ただ逢うためだけに
水戸黄門 鍋島藩の思惑 江戸幕府内の陰謀
幾つもの派から命を狙われながら 蔵人は相手を退けていく
蔵人と咲弥は ようやく夫婦として暮らす場所を得る
その後の話は「花や散るらん」にあります
今度は吉良討ち入りに絡むこととなります
朴訥無骨一途な蔵人の言動
それらは心ある人々に「死なせたくない男」との思いを呼び起こしました
愚かに見えても貫く真心の大切さ
真心無ければー恋は無い
幸せもまた}
この「いのちなりけり」の後日談的作品が「花や散るらん」
続けて読んだ時の感想がこちら
{「いのちなりけり」の後日談
雨宮蔵人と咲弥は 自分たちの娘として香也を育てている この香也が吉良上野介に縁ある者とも知らずに
頼まれて咲弥は大奥へ上がり 綱吉に目をつけられた
柳沢吉保の屋敷へ囚われた咲弥救出に向かう蔵人と そのいとこの清厳
大奥の女たちの争いに端を発した吉良上野介の公家への暗躍 陰謀
それは赤穂の浅野内匠頭も巻き込み 松の廊下の刃傷へ至る
そして赤穂浪士の吉良邸への討ち入りにも
心ならずもいきがかり上 かかわることになる蔵人
孫の姿に人の心を取り戻した吉良上野介}
前回 読んだのが2014年の10月でしたから 丁度3年経っての再読でした
今回 思ったのは歴史上の実在の人物も多く出てくる作品だけに どれだけ歴史の資料を読み込まれて書かれたのかということ
すけさん・かくさん・黄門様も出てまいりますがテレビドラマのように善なる面だけの水戸光圀ではありません
佐賀・鍋島の殿様も自分の命に従ったと思われる蔵人を殺す命も出しますし
上の人間達の権謀術数に振り回される従う者達
個人の野望と怨恨から人を殺す者
解説の中で縄田一男氏が著者の言葉を明かしています
作品執筆の念頭にあったものは森鴎外著の短編「ぢいさんばあさん」
{葉室麟はいうー「江戸に人々が羨むほど仲の良い老夫婦がいるんですが、実は彼らは長い間、離れ離れに暮らしていたんです。
夫は若い頃、人を殺めて流罪にされていた。
妻は三十年以上も夫を待ち続け、年老いてようやく一緒に暮らせるようになった。
思いを繋いだまま 巡り合う夫婦というものをいつか描きたいと思っていました」}
人の心は移ろいやすい
一人の相手を誠実に想い続けていくことは そうそうできない
ましてや家名 家の断絶
命の危険
何より傍に居ない・・・・・
それでも想う 信じる
十代のひたむき一途な年頃ならばまだしも 年を重ねたいい大人が相手に会う為に命を賭ける
一目逢えれば死んでもよい
これは美しいだけでないつよい恋
何者にも何物にも崩し破壊できない心と魂が強くなければできない「愛」
たいていの人間は一生に一度もできない「恋」
主人公二人以外の登場人物のプロフィールも面白く
当時の歴史を思えば 読み返すごとに新しい受け取り方もできる作品です