死ぬほど貴方を愛してる
他の女に渡しはしないわ
ーそう女は歌った
だから男は恐ろしくなった
男には妻があり別れるつもりは無かったから
男は姿を消し 残された女は その死の噂を信じず待った 待ち続けた
女は男の娘の近くで暮らし網を張る
暗い暗い恋唄を歌いながらー
だが男はそんな女のことなどとっくに忘れていた
実家に帰る麟子に「たわけ島って行ったことがないわ」とついてきた同じ下宿で暮らす女ー懷 湖美子(おもい こみこ)と言う
自称・歌手 その名を知る者は何処かにいるかもしれないし全然いないかもしれない
「ここが 家よ」とコンビニらしき店の前で麟子は足を止める
何かやたらと賑やかな声が食堂からしていた
「おいしそうな匂いがするわ」湖美子が言う
自称ただの観光客の海底人達が 次から次にひたすら食べまくっているのだ
真は掛かり切りで魚を焼き 肉を焼き 桃子さんも 揚げ物・炒め物・煮物を次から次へと仕上げていく
「う~れしいな 嬉しいな こんな美人の作るご飯 美味しいよったら美味しいよ」
海底人達は食べながら歌っているのだった
懷 湖美子は その歌声にメラメラと対抗意識を燃やした
―あたくしはプロの歌うたい
負けてはいられないわ!―
「らりほ~ほ らりほ~ 美味しいご飯も食べ過ぎると太るのよ~ 成人病で病院行きよ~ ららり~ほ ららり~ほ」
横でその歌を聞いた麟子は一瞬脱力したがすぐ立ち直った
「うちの売り上げが
落ちるような営業妨害は いくらお友達でも許さないわ」
とガラガラガラッと食堂の戸が開き
「よく言ったわ 麟子ちゃん 忙しいの 手伝って」
そうして湖美子の首を掴み「どなたか知りませんが 娘のお友達 手伝って下さいな」と 店内に引きずりこんだ
―何で あたくしが!」と思った湖美子だが ふと目が合った超美形の真に「助かります 有難うございます」と笑顔で言われ
―ああ 好みだわ―と落ちた
「運びをしてくれますか
僕の割烹着がそこに洗濯したのかけてあります 使って下さい
テーブルは番号がサイドに打ってあります
前から横並びで四列かけの五と二十
カウンターは いろはにほへとって入り口から数えます
大丈夫ですか
よろしくお願いします
わからないことは尋ねて下さいね」
「任せて 命かけちゃうことよ」
更にとどめの笑顔を真は向けた
湖美子の頭から辰彦のことは綺麗に消えた
額に鉢巻きして働く 真でいっぱいになる
なんて健気な♪惚れちゃうじゃないのーである
やがて漸くさすがに満腹になり ただの観光客・・その実海底人達は去っていった
「ありがとね 戦争だったわね 疲れたでしょう 桃子のお友達」
「懐 湖美子(おもい こみこ)さんって言うんだよ お母さん 湖の美しい子供 綺麗な名前だね」
「同じ下宿の住人なの 島を案内してあげようと思って」
忙しそうな食堂の様子に手伝おうかと一度覗いた辰彦は 湖美子の姿に・・・旧悪を思い出し
なんで なんでだーとパニックになり押入れに隠れた
阿釶埜辰彦・・・・・逞しい海の男のはずだが・・・桃子さんには弱い
だったら浮気しなきゃいいのに・・・・・
そういう病気なのだろうか・・・・・・・「女好き病」
「じゃ真も一緒に行ってあげなさい 休みとっていいわよ 」
そう桃子には 大事な用事があった 帰ってきた辰彦をとっちめるーという とてもとても楽しい仕事である
押入れの中にいながら辰彦は たいそうな寒気を感じた
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