夢見るババアの雑談室

たまに読んだ本や観た映画やドラマの感想も入ります
ほぼ身辺雑記です

葉室麟著「辛夷の花」 (徳間文庫)

2019-09-16 21:19:37 | 本と雑誌
辛夷の花 (徳間時代小説文庫)
葉室 麟
徳間書店


嫁して三年 子無きは去るー
嫁いで三年しても赤子ができぬ石女は去れとばかりに 離縁され実家に戻った志桜里(しおり)

空き家となっていた隣家に入った男が声をかけてきた
亡き母の戒めで刀は抜かぬとしている「抜かずの半五郎」

殿の覚えがめでたいそうだがー
志桜里は ついつんけんした物言いをしてしまった

藩では三家が傍若無人の振舞をしており ただそうとする殿は志桜里の父の澤井庄兵衛を重んじたがー

実は三家の中の一つから娘を嫁にやってもと持ち掛けられた志桜里の夫は それで彼女を離縁すべしーとしたが
したがそちらの縁談が思うようにならず 志桜里に復縁してもーなどと勝手な事を言ってくる


殊更辛く当たって来る姑の本心を知り 思い迷う志桜里

何かと隣家の半五郎に相談するようになるが

半五郎も過去の出来事で幸せあってはならぬーと思い込んでいるところあり


殿さえも押し込めようとする三家の増長
三家は志桜里の父を始めに屋敷の全員を皆殺しにせんと襲い掛かる


志桜里一家を守ろうと獅子奮迅の働きをする半五郎だが 深傷を負う

志桜里の妹達に弟
志桜里の妹の縁談相手

颯爽と清々しい人々に

己らの我欲に拘る人間共の卑劣さ醜さとの対照



大矢博子さんの解説も作家と作品への好意に満ちています


薬丸岳著「ラストナイト」 (角川文庫)

2019-09-16 16:54:40 | 本と雑誌
ラストナイト (角川文庫)
薬丸 岳
KADOKAWA



夫婦でラーメン屋を持つことを楽しみに真面目に働いてきた男
馴染みの店で親しい店主の留守に その妻が因縁つけられ助けようとして相手ともみ合いになり刺してしまった


それからー妻は幼い娘を連れて男と離婚

男は犯罪を繰り返し 顔にはヒョウ柄の刺青まで

やっと就いた会社では機械で手首を失った

どうにも悪い噂が絶えない男
出てきたと思えば刑務所に戻る・・・


ろくでなしの父親に死なれた若い弁護士は 男にこれ以上再犯させまいと動き

母の兄に育てられた男の娘はー異様な風体の父親に会う

男は真実を語らず


ただ独り 刑務所へ戻ってばかりの男の生き方の真の動機に気付いた人間がいる

重病の息子の為に金が必要で強盗をしてしまった荒木

顔に刺青男の片桐はその罪を被り犯人として服役してくれた

どうして そんなことを
片桐のおかげで息子の死に目に会えた荒木は やがて片桐が刑務所に入り続ける理由を知る

妻を酷い目に合わせた男への復讐

自分を幸せにしてくれた女
家族を与えてくれた女


せめて せめて恩返しがしたかった荒木

一本気で孤独な男・片桐の生きざまは 荒木によって片桐の娘にも その真実が伝えられるだろう

そうでなければ・・・・

「よたばなし」ー24-

2019-09-16 10:30:29 | 自作の小説
闇に消える・3

「悪いな・・・ 人間であることをやめるほど人生に絶望していない
いや 俺は臆病なのかもしれぬ・・・」



ー追想ー

「桂を病院へー」
鳴海が言いかけると「それは駄目!」厳しい調子で女が制した
「考えてもご覧なさい どう説明するの 立ち入り禁止区域の建物に無断侵入して化け物に襲われたと?誰が信じるの そんな話 警察送りになりたいの」

言われれば絶句するしかない鳴海

「それにね 病院では治せない 私ならどうにかできるかもしれない」

そんな会話をしている間に 彼等が忍びこんでいた病院から爆発音と共に火の手があがった

振り向き 謎の女を見る鳴海

「ええ・・・私の仕業よ 早く行きましょう 落ち着ける場所で話しましょう」

「ここからだと僕の部屋が近い」

「案内して!」

気分が悪くなった友人を運ぶ見せかけで鳴海は女と桂を中に挟んで歩く
よく見れば桂の足は地面に届いていないのだが

二人の男をぶら下げたまま高い塀を軽々飛び越える 
それだけで普通の人間ではないと分かる女
だが この女は自分達を助けてくれたのだと 疑問符だらけの頭の中で鳴海は思う

漸く3階の自分の部屋にたどり着くと 鳴海はテレビをつけた
ニュース番組を観たかったのだ


桂を 生前祖父が使っていた部屋に寝かせる
桂の意識はまだ戻らないのだった

冷蔵庫を開けて女にもペットボトルごとジュースを渡す
鳴海自身は水を飲んだ

「アレらは何なんです 昨今流行の火事はあなたの仕業ですか」

「なりそこないの化け物 それらを根絶すべく燃やしたのは私」

「では あなたは何者なんです」

「矢継ぎ早ね これ美味しいわ」
ジュースを飲んで女が微笑む
ちょっとだけ優しい雰囲気になった

「期間限定の商品だそうです」

「あら・・・残念」
案外茶目っ気のある性格なのかもしれない
こうしているとごく普通の女性にしか見えない
とびきり美しいだけの

「私はハンター 退治しないといけない存在がいてね ソレがああいう成り損ないを作っている」

「ゾンビとかドラキュラみたいな?」

「ファンタジーね 似たようなモノだけど 
きっちり仲間を増やせないモノが 仲間を作ろうとして失敗した その失敗作が又仲間を増やす気もなく ルールも分からず食事して成り損ないを増やしている
この仲間を作ろうとしたモノは 仲間にするつもりのモノに殺された
殺されたモノは 私が知るモノだったので後始末せねばと 追っているの」


「何故 僕らを助けてくれたんです」

「あなたは 招いてくれたから」

「招く・・・」

大学まで一緒に歩いただけだ
それがどんな意味を持つとー

だが鳴海はひとまず その疑問はおいておくことにした
それよりも桂のことだ

「桂は大丈夫なのか」

「さあ・・・・・ でも変化しないか暫く様子を見なくてはー私にできる応急処置ー消毒はしたから 後は彼の運ね」

「あの病院の屋上で 僕は誰かに見られているような気がした」

「それは私よ 良い勘してるわね いまどきの若者がすることを観察していたの」

「何故 火事を」


「大概のモノは燃やせば消せる 怨念とか怨霊には通じないけれど 一匹一匹相手して こちらが噛まれるリスクをおかすより効率がいいから」

「あなたも噛まれたらまずいのかー」

「どうでしょ 危険は避けるに限るでしょ」

「ところであなたを何て呼べばいい」

「長くこういうことやってると 名前なんて忘れてしまったわ 今回は緋真理(ひまりでいこうかな」

「ひまり・・・」

「そ 苗字もいるわね 橘(たちばな)緋真理でいこう」

「橘は亡くなった祖父の姓だ 僕の父親の父親  僕の父親は僕の母親の姓にしたからー
両親共に事故で死んじゃったけどね」

「そう・・・事故で」

両親の死後 鳴海は祖父に育てられたのだ


桂一郎が意識を取り戻したのは翌早朝だった
緋真理は「やる事がある」と出て行っている
戻ってくるかは分からない

「俺は何故縛られているんだ」
それが桂の第一声だった

「用心の為」と鳴海が答える


「・・・用心」桂は眉を寄せる そうして思い出したのか「ああ・・・」と言った

それから「貴水は あれはー」と問いかける


「燃えたよ 多分」と答える鳴海

それから何が起きたか説明する

成り損ないを追う美しきハンター 橘緋真理と名乗ることにした女のことを


「-成り損ない・・・ ではその女性は何者なんだ 助けてはくれたんだがー でなければ俺も貴水のようになっていたと
まだそうなる可能性はゼロではないと 貴水に何が起きたんだ」

独り言のように呟く桂は鳴海を見上げて尋ねた
「これは いつ解いてもらえるんだ トイレにだって行きたいぞ」

「襲わないと誓えるか 噛みついてこないと」

「大丈夫だ まだお前を食べたいとは思えない」

ひどく暢気に鳴海が尋ね 桂はとぼけた言葉を返す

そこに切迫感は皆無のやりとり

桂を縛るロープを解きながら鳴海は言った「襲う前に予告してくれ 食事は普通の物でいいな」

「俺は女も男も襲わない主義だ」と言う桂

鳴海が用意した食事は オーブントースターで焼いただけの食パン
スーパーで買って常備している生野菜パックにミニトマトを加えたサラダの上に目玉焼きのせたの
電子レンジで温めた牛乳
お湯を入れるだけのスープ
四つ割りに切った皮はむいていないリンゴ

「昨日の火事は 朝刊にも載らないしテレビのニュースにもなっていない ツイッターで誰かが流したくらいだ」
もう火事は珍しくもなくニュースにもならないことか 人々の感覚が麻痺しているのか
そんな意味をこめた鳴海の言葉

トーストパンに目玉焼きを乗せ 更に生野菜のっけて半分に折り畳み一気に食べる桂
牛乳もスープも一気飲み
早くもリンゴにかかっている
食べ終えてから言ったものだ
「俺は腹が空いていたらしい」

「まあ・・・そうだろうな」
鳴海は肩を竦める

「どう見たって まだ人間なんだけどな 病気みたいに潜伏期間とかあるのかな 映画だと完全に死んでからゾンビになるんだが」
桂は顔の前で両手を広げてじっと眺める「どれくらいしたら 安全と分かるのか」

「なあ・・・もしも俺が貴水みたくなったら なりかけたら あっさり殺してくれ それはもう俺じゃあないんだから」

さすがに鳴海は即答できない







葉室麟著「蛍草(ほたるぐさ)」 (双葉文庫)

2019-09-16 01:06:43 | 本と雑誌
螢草 (双葉文庫)
葉室 麟
双葉社



風早家に仕える女中の菜々は美しく優しい奥方から可愛がられ幸せに暮らしていた

ところが奥方の佐知は 菜々の亡き母と同じ病になり亡くなってしまった

藩を憂える旦那様の風早市之進は それを疎ましく思う人間に陥れられる

市之進を陥れた人間は 菜々の父の仇でもある轟平九郎

かつて菜々の父は轟の悪事の証拠をつかみ ゆえに罠に嵌められ切腹となった

市之進が捕らえられ子供達と菜々は屋敷に居られなくなる

菜々は市之進が戻ってくるまで風早家の子供達を守り抜こうとする

一方轟は菜々が自分にとっては危険な文書を持っていると知り 取り上げようとする

自分達の欲得ばかりの市之進の親戚は冷たく

菜々の叔父と従兄は力になってくれる

佐知の薬代の為に金を借りに行って知った質屋のお舟

学問を教える先生

菜々が剣を教えてもらう壇浦五兵衛

幼い娘を喪い市之進の娘とよに その面影を見る権蔵

健気に生きる菜々に力を貸して応援してくれる優しい人々


草むしりをしていた菜々に露草は蛍草という呼び方もあるのだと万葉集から美しい和歌も教えてくれた佐知

佐知は菜々を露草のようとも話していた


菜々には佐知こそ露草のように見えたけれど

轟の悪事を暴き市之進を救う為に 菜々は命を賭ける




健気でひたむきで 一途で生きる賢さも持っていて

挫けない心と優しさと勇気と

守ろうとする強さもある菜々


一所懸命に生きることの大切さ

くすくす笑えるところもあって

物語は大団円で終わります