冒頭「刊行によせて」では、久間さんが「防衛省に移行して初めての白書」と述べ、「省移行とともに政策官庁として生まれ変わらなければなりません」とし、「国家の最も基本的な任務である国の防衛に責任を有する官庁として、多様な政策の企画立案に当たるとともに、様々な緊急事態により迅速、的確に対応するよう、一層気を引き締め、高い使命感を保ち、努力を惜しまず任務に邁進してまいります。」と力説しています。
しかし、閣議に提出したのは、小池百合子防衛相になってしまっていました。
昨年は、8月 1日の閣議でしたから選挙の影響なのでしょうか、時期が早まっています。社説にとりあげたのは、昨年同様で、産経、読売、毎日の 3紙が7月 7日の朝刊で論説しています。
各紙とも内容の特徴として、中国の軍事力分析を取り上げています。(毎日は、省の不祥事の信頼回復について紙面を割いていますが。)
第I部 わが国を取り巻く安全保障環境
2 軍事
1 全般
中国は、国家の安全保障のための基本的目標と任務として、国家主権、領土、海洋権益を守り、経済と社会の発展を促進し、総合的国力を継続して増強することを挙げている。こうした目標と任務を達成するため、中国は、経済建設とバランスの取れた国防建設を進めることとしている。
<中略>
中国の急速な軍事力近代化の当面の具体的な目標については、台湾問題への対応を中心とするものと考えられる(2)。しかし、中国の急速な発展と軍事力の近代化が長年にわたって続いていることや軍事力の透明性の欠如を背景として、中国の軍事力近代化の目標が台湾問題への対応などを超えるものではないかとの議論が惹起(じゃっき)されるなど、中国の軍事力近代化の行方に関する懸念が高まっている(3)。中国は軍事力近代化を国家の近代化の一環としてとらえており(4)、地域の大国として着実に成長し続ける中国の軍事力近代化が地域情勢およびわが国の安全保障に与える影響について、慎重に分析していく必要がある。
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(2)例えば、昨年12月に発表された「2006年の中国の国防」は、中国の国防政策の内容として、「『台湾独立』分裂勢力及びその活動に反対し、抑止する」ことを挙げている。
(3)本年1月に公表された米国の「国家情報長官年次脅威評価報告」は、「中国は1999年に開始された急速な軍事力近代化を継続している。中国の偉大な国になりたいという欲求、脅威認識、および安全保障戦略は、台湾問題が解決した後も、この軍事力近代化の努力を継続させるだろう。」としている。
(4)中国は、軍の近代化は「国家の全体的な計画に依拠」するものとしており、党創立100周年である2020年頃と国家建国100周年である2050年頃を国家と軍の近代化の目標時期として設定している。中国は、2020年頃までに、国家については「十数億の人口にメリットをもたらす、より高いレベルのいくらかゆとりのある社会を築き上げ」、軍については「(2010年までに築いた基礎の)さらに大きな発展を成し遂げ」るとし、2050年頃までに、国家については「1人あたりの国内総生産(GDP)が中程度の発展をとげた国のレベルに達し、現代化を基本的に実現」し、軍については「情報化軍隊を建設し、情報化戦争に勝利するという戦略目標を基本的に達成する」としている。(02(平成14年)に改正された中国共産党規約および「2006年の中国の国防」白書)
中国の軍備拡充が、台湾海峡への対応を超えたもので、海上戦力では「より遠方の海域において作戦を遂行する能力の構築を目指しているものと考えられる。また、中国は、空母の保有にも強い関心を持っていると考えられる」とし、航空戦力でも、「国土の防空能力の向上に加えて、より前方での制空戦闘能力および対地・対艦攻撃能力の構築を目指していると考えられる」とし、我が国周辺の海域や空域の安全保障の為には、今後も動向に注目していくとしています。
中国の覇権拡大が、我が国へも影響があるとの警戒を表現したと言えます。
第3節 中国
2 軍事
7 海洋における活動状況
04(平成16)年11月に、中国の原子力潜水艦が、国際法違反となるわが国の領海内での潜没航行を行ったほか、何らかの訓練と思われる活動や情報収集活動を行っていると考えられる中国海軍艦艇や、わが国の排他的経済水域において海洋調査と見られる活動を行う中国の海軍艦艇や政府船舶が、近年、わが国の近海において視認されてきた。
また、中国は、その契約鉱区や構造が日中中間線の東側まで連続している白樺(中国名「春暁」)油ガス田などでの探鉱・開発を行うとともに、05(同17)年9月には、これらの油ガス田付近を海軍艦艇が航行した(12)。
また、昨年10月には、沖縄近海と伝えられる国際水域において、中国のソン級潜水艦が米空母キティホークの近傍に浮上したが、米空母に外国の潜水艦が接近したことは軍事的に注目すべき事象と考えられる(13)。
<中略>
わが国の近海以外でも中国は、 ASEAN諸国などと領有権について争いのある南沙(なんさ)・西沙(せいさ)群島における活動拠点を強化しているほか、中東からの原油の輸送ルートにあたるインド洋方面にも関心を有しているとみられている。
中国は、法律などにおいて、海軍が、海洋権益の保全や海上の安全を守る任務を担うと明記している。
また、中国の置かれた地理的条件や、グローバル化する経済などの諸条件を一般的に考慮すれば、中国海軍などの海洋における活動には、次のような目標があるものと考えられる。
第一に、中国の領土や領海を防衛するために、可能な限り遠方の海域で敵の作戦を阻止することである。これは、近年の科学技術の発展により、遠距離からの攻撃の有効性が増していることが背景にある。
第二に、台湾の独立を抑止・阻止するための軍事的能力を整備することである。たとえば、中国は、台湾問題を解決し、中国統一を実現することには如何なる外国勢力の干渉も受けないとしており、中国が、四海に囲まれた台湾への外国からの介入を実力で阻止することを企図すれば、海洋における軍事作戦能力を充実させる必要がある。
第三に、海洋権益を獲得し、維持および保護することである。中国は、東シナ海や南シナ海において、石油や天然ガスの採掘およびそのための施設建設や探査に着手しており、その中には、中国とわが国の中間線の東側まで、その構造が連続している油ガス田での採掘施設建設も含まれる。05(同17)年9月の中国海軍艦艇による採掘施設付近の航行には、中国海軍が海洋権益を獲得し、維持および保護する能力をアピールする狙いもあったものと考えられる。
第四に、中国の経済活動がますますグローバル化するにしたがって、その経済活動の生命線ともいうべき自国の海上輸送路を保護することである。将来的に、中国海軍が、どこまでの海上輸送路を自ら保護すべき対象とするかは、そのときの国際情勢などにも左右されるものであるが、近年の中国の海・空軍の近代化を考慮すれば、その能力の及ぶ範囲は、中国の近海を越えて拡がっていくと考えられる。
以上のような目標を有すると考えられる中国の海洋における活動状況については、わが国周辺における海軍艦艇の活動や海洋調査活動を含め、その動向に注目していく必要がある。
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(12)05(平成17)年9月9日、海上自衛隊のP-3C哨戒機が、東シナ海の「樫(中国名「天外天」)」ガス田付近をソブレメンヌイ級駆逐艦1隻ほか計 5隻の艦艇が航行し、その一部(ソブレメンヌイ級駆逐艦1隻ほか計3隻)については、同ガス田の採掘施設を周回したことを確認した。
(13)中国は(軍事的に)以前に比べて自信に満ちた積極的な態勢をとるようになっており、本年1月の対衛星兵器の実験や昨年10月に国際水域においてキティホークの近傍にソン級ディーゼル潜水艦が浮上したことはそのような文脈で見ることが可能である、との見解が示されている。(本年2月1日の米中経済及び安全保障見直し委員会におけるローレス国防副次官の証言)
東シナ海のガス田にも触れ、中国海軍の目標を4つに整理し、海洋権益の獲得・保護も軍の目標に含まれていることを明確にしています。
日本では、海上保安庁が国境警備の任務としてあたっていますので、装備では格段の差がつきます。国境警備は、平時には軍隊ではなく警備隊があたるのが国際常識のはずです。
ここでも、我が国周辺での中国海軍の動向に注目が必用と述べています。
3 台湾の軍事力など
<中略>
中台の軍事力については単なる量的比較だけではなく、さまざまな要素から判断されるべきであるが、一般的特徴としては、次のように考えられる。
1) 陸軍力については、中国が圧倒的な兵力を有しているものの、台湾本島への着上陸侵攻能力は限定的であり、中国は大型揚陸艦などの建造に努力している。
2) 海・空軍力については、これまでは中国が量的には圧倒しているものの、質では台湾が優位であったが、近年、中国の海・空軍力が着実に近代化されつつある。
3) ミサイル攻撃力については、中国は、台湾を射程に収める少なくとも7百数十基の短距離弾道ミサイルを保有しており、台湾には有効な対処手段がとぼしいと見られる。
いずれにせよ、軍事能力の比較は、兵力、装備の性能や量だけではなく、運用態勢、要員の練度、後方支援体制などさまざまな要素から判断されるべきものであり、このような観点から、今後の中台の軍事力の近代化や、米国による台湾への武器売却などの動向に注目していく必要がある。中国は、軍事力の近代化を急速に進めており、中台の軍事バランスは中国側に有利な状態へと向かって変化しつつあり、近い将来にも台湾の質的優位に大きな変化を生じさせる可能性もある。
中国と、台湾の軍事バランスが『中国側に有利な状態』へと向かって変化しつつあるとの見解を初めて示しています。
これまでにもこのblogで書いてきていますが、更に、米国や日本の支援も封じる抑止力となる軍備の整備(この白書で言う「より遠方の海域」「より前方での制空戦闘能力」)も、着実に進んでいるわけで、台湾は蛇に睨まれた蛙状態に追い込まれてきていると言えますが、この認識を白書であらわしたことは、中国に関する記述が、昨年あたりから見られてきた、言うことは言う姿勢に変わってきており、一段と踏み込んだ表現がされており、評価・歓迎に値します。
竹島に言及しているのも喜ばしいことです。
中国の覇権拡大策は、あらゆる世界で、表裏の手段で進展しており、我が国の対応が遅れている状況です。(米国では、議員の買収までしています。)
問題は、「注目する」と見ているだけでなく、国を守るため、対処する国防計画を立案し、実行に移すよう行動して頂くことが何処まで出来るかです。
沖縄担当相でもあられた小池新大臣には、失言で諸事態を混迷させる前大臣とは違って、是非とも本題(まずは米軍再編の成就での、日米安保の安定化)を進捗させて頂けるよう、お願いしたいものですが...。
省になったからと、外務省などと権力争いをしている場合ではありません。
↓ よろしかったら、お願いします。
注意深く見守るではなく、対処の仕方も考えておかないといけません。
気が付いたら沖縄も中国領だなどという悪夢は見たくありません。
> 気が付いたら沖縄も中国領だなどという悪夢は見たくありません
全くあり得ないと笑い飛ばせない話なのですよね。
沖縄の危うさが、気がかりな例の話があります。
http://blog.goo.ne.jp/taezaki160925/e/dcbde6b5916c56b6588b85517f0d8d3b
中国と、買収されて国を売る政治家、教祖様、高級官僚、落ち目の政党やリベラルと自称する非生産活動団体にも、注目と評価の具現化が必用ですね。
沖縄のマスコミは米軍のなんでもない動きには大騒ぎしても、中国軍の動きにはまるでノーテンキです。
又コメントさせて下さい。
拙ブログにも時々お立ち寄り下さい。http://blog.goo.ne.jp/taezaki160925
> 又コメントさせて下さい。
どうぞよろしくお願い致します。
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これからも、沖縄の新鮮な情報を読ませて頂けるのを楽しみにしていますので、よろしくお願いします。