中国でアリババ集団などの大手IT企業に対する規制が強まっており、株価が急落。
中国の経済発展には明らかにマイナスだ。それにもかかわらず中国共産党が規制を強化するのはなぜなのか?
「いま起きているのが第3次天安門事件だ」と考えると、理解できると、野口悠紀雄・一橋大学名誉教授。
「コロナ下でIT企業の利益が増加している」。昨年の秋頃まではこれが世界の常識だったが、違ってきているようだと野口名誉教授。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、さまざまな活動がオンラインに移行した。
IT企業の利益が増加したというのはごく自然の成り行きだ。
こうした変化は株価にも表れていた。
ところが、2020年の秋にこの傾向に変化が起きた。アリババの株価が下落を始めた。
株価は10月末をピークにして、その後は下落を続けている。21年7月中旬では210HKD程度でありピークより3割程度低い。
業績が悪化したためではなく、むしろ逆。
アリババの株価が下落したのは、同年11月に予定されていた金融子会社の株式上場が金融当局の指導で計画見直しを迫られて、直前に延期になったことからだと、野口名誉教授。
今年4月10日には、中国の独占禁止法に違反し「市場支配力を濫用した」として、182億元(約3120億円)という記録的な額の罰金を科された。
中国当局の規制強化が及んでいるのは、アリババだけではない。中国のハイテク企業に共通の現象だと。
巨大IT企業のテンセントは、4月末には、中国人民銀行から呼び出しを受け、金融監督を全面的に受け入れるよう指導を受けた。5月には運営するアプリが個人情報を違法に収集しているとして是正を命じられた。
テンセントの株価も下落。
配車アプリが人気で急成長のディディも政府の規制強化の対象になった。
中国サイバースペース管理局(CAC)は、7月4日に配車アプリ「ディディ」が個人情報の収集と利用に関する規制に違反しているとの見解を発表した。そして、同アプリを中国のアプリストアから削除することを指示。
ディディは6月30日にニューヨーク証券取引所に上場したばかりだったが、この措置によって株価が暴落。6月30日の上場初日に付けた高値(18.01ドル)からの下落率は7月9日で実に39%にも達した。
実は巨大IT企業に対して逆風が吹いているのはアメリカも同じだと野口名誉教授。
サードパーティークッキーの規制が始まり、グーグルなどのターゲッティング広告の仕組みの見直しが迫られている。
またデジタル課税についての国際的な合意が形成されつつあると。
しかしこれらのことがグーグルやフェイスブックの株価に悪影響与えているようには見えない。巨大IT企業全般の株価も上昇を続けている。
アメリカの巨大IT企業と中国の巨大IT企業は明らかに異なる状況に直面している。
中国共産党は何のために規制を強めているのか?
いくつかの見方があり得ると野口名誉教授。
第1は、米中経済対立の中でデータが外国(とくにアメリカ)に流出してしまうのを防ぐことだと。
ディディのアプリ削除事件ではこの問題が如実に現れている。しかしこれだけでは、アリババやアント、そしてテンセントを規制する理由がわからない。
第2に考えられることは、巨大企業に経済力と富があまりに集中しすぎ、これらの巨大企業に経済力と富があまりに集中しすぎ、一般国民との格差が開きすぎたという不満が人々の間にあり、不満に答えるために、政府が巨大IT企業の活動に制約を加える必要があると判断したのかもしれないと。
しかし、この理由は、「なぜIT企業の規制強化なのか?」という疑問をうまく説明できないように思われるとも。
第3に考えられるのは、巨大IT企業の力があまりに大きくなりすぎて、共産党のコントロールから離れた独自の発展を歩み出したことへの共産党の懸念だと。
この見方は上で指摘した規制強化のすべての場合について成り立つと野口名誉教授。
規制を強めることによって海外からの投資が減ることは十分に予想され、中国の経済発展にとって明らかにマイナス。
それでも、共産党の存立のためにIT企業の力を削ぐことが必要と考えられているのだろうと。
これは経済的には不合理な決定といえるが、天安門事件の際に、共産党指導部が党の権威を守り共産党体制を維持するために強硬手段をとったのと同じことだと。
中国政府がデジタル人民元の導入を急ぐのも、同じ理由によるのだろう。「国民のマネーデータ」という最も重要なデータを、アントという民間企業の支配に委ねるのでなく、国家の手に確保することが目的だったとも。
経済的に見て不合理な決定を行なっているのは、アメリカも同じだと野口名誉教授。
とくに、フェイスブックが提案した仮想通貨「ディエム」(最初の名称は「リブラ」)に対し政府が総力を挙げて潰しにかかったことは、中国政府がやっていることと同じだと。
国家の権力が経済全体の利益を損なうと知りつつ、自分に不都合な勢力の台頭を許さないということだろうと。
国家組織の中の強力な一部分が自己保存本能のために、経済全体から見れば非合理な政策を取るということは、しばしば行なわれてきた。
いま中国やアメリカで進んでいるのは、そのことだと解釈することができると。
「ITあるいはデータという問題を中心に繰り広げられている」というのが、現代世界の特徴だ。データが極めて重要な役割を果たす世界になっていると野口名誉教授。
日本は??
# 冒頭の画像は、多くの企業や商店が集まる中国上海市の観光名所、外灘(バンド)
【中国観察】「国家安全」による統制強化と米中対立に直面する中国IT企業 - 産経ニュース
この花の名前は、キキョウ
↓よろしかったら、お願いします。
中国の経済発展には明らかにマイナスだ。それにもかかわらず中国共産党が規制を強化するのはなぜなのか?
「いま起きているのが第3次天安門事件だ」と考えると、理解できると、野口悠紀雄・一橋大学名誉教授。
中国政府の国内巨大IT規制強化は「第3次天安門事件」だ | 野口悠紀雄 新しい経済成長の経路を探る | ダイヤモンド・オンライン 2021.7.22 野口悠紀雄:一橋大学名誉教授
中国でアリババ集団などの大手IT企業に対する規制が強まっており、株価が急落している。
これによってIT企業の資金調達が難しくなって技術開発が遅れるので、中国の経済発展には明らかにマイナスだ。
それにもかかわらず中国共産党が規制を強化するのはなぜなのか?
「いま起きているのが第3次天安門事件だ」と考えると、理解できる。
■IT企業の好業績が常識だったが中国で起きている“地殻変動”
「コロナ下でIT企業の利益が増加している」。昨年の秋頃まではこれが世界の常識だったが、違ってきているようだ。
例えば、2020年9月8日の日本経済新聞は「世界の稼ぎ頭、激変 コロナ下でIT躍進」という記事を一面トップで報道した。
そこで強調されていたのは、四半期の純利益ランキングで中国のアリババ集団が前年同期の43位から順位を高めて9位に入ったということだ。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、在宅勤務が進められたり、外出が抑制されたりした。そのため自宅で過ごす時間が多くなり、仕事や買い物、レジャーなどさまざまな活動がオンラインに移行した。
IT企業の利益が増加したというのはごく自然の成り行きだ。
こうした変化は株価にも表れていた。
アメリカのeコマース最大手、アマゾンの株価は、20年初には1900ドル程度だったが、そこから上昇を続け、7月終わりに3000ドルを超えた。
その後も3000ドル程度で推移し、21年4月末には3400ドルを超えた。コロナ前に比べて8割程度上昇したのだ。7月中旬では3680ドル程度だ。
アリババの株価も似た動きをした。20年初めには210HKD(香港ドル)程度だった。3月末までは下落したが、その後上昇し10月末にはほぼ300HKDになった。
■子会社の上場、見直しを迫られアリババの株価急落
ところが、2020年の秋にこの傾向に変化が起きた。アリババの株価が下落を始めたのだ。
株価は10月末をピークにして、その後は下落を続けている。21年7月中旬では210HKD程度でありピークより3割程度低い。
業績が悪化したためではなく、むしろ逆だ。20年の中国の「独身の日」(11月11日:年に一度の大セールス)の売上額は前年比86%増で、過去最高の4982億元(7兆9200億円)を突破した。
アリババの株価が下落したのは、同年11月に予定されていた金融子会社の株式上場が金融当局の指導で計画見直しを迫られて、直前に延期になったことからだ。
その後もアリババに対する政府の規制は強化されている。
今年4月10日には、中国の独占禁止法に違反し「市場支配力を濫用した」として、182億元(約3120億円)という記録的な額の罰金を科された。
取引先に対し、オンラインの出店先を同社に絞るよう圧力をかける独占的行為を行なっていたと認定されたためだ。
アリババとアマゾンはそれぞれ中国とアメリカを代表するeコマースの大手だが、両社の最近の株価の動向を見ると、このように極めて対照的な動きをしている。
■巨大IT企業に広がる規制強化 逆風でも米企業の株価は上昇
中国当局の規制強化が及んでいるのは、アリババだけではない。中国のハイテク企業に共通の現象だ。
アリババと並ぶ巨大IT企業のテンセントは、4月末には、中国人民銀行から呼び出しを受け、金融監督を全面的に受け入れるよう指導を受けた。5月には運営するアプリが個人情報を違法に収集しているとして是正を命じられた。
こうした中国政府の監視強化のためテンセントの株価も下落している。
株価は2000年を通じて上昇を続け、21年2月中旬に760HKD程度にまで上昇したが、それがピークで、その後、株価は下落を続け7月中旬では570HKD程度だ。
配車アプリが人気で急成長のディディも政府の規制強化の対象になった。
中国サイバースペース管理局(CAC)は、7月4日に配車アプリ「ディディ」が個人情報の収集と利用に関する規制に違反しているとの見解を発表した。そして、同アプリを中国のアプリストアから削除することを指示した。
この命令に伴い「ディディ」が中国のアプリストアから削除されたのだ。
ディディは6月30日にニューヨーク証券取引所に上場したばかりだったが、この措置によって株価が暴落した。7月6日には一時25%も下落した。
その後も下落が続き、6月30日の上場初日に付けた高値(18.01ドル)からの下落率は7月9日で実に39%にも達した。
7月中旬では株価は12.6HKD程度だ。
実は巨大IT企業に対して逆風が吹いているのはアメリカも同じだ。
グーグルやフェイスブックが独占禁止法違反の疑いで提訴された(後者はその後、取り下げ)。サードパーティークッキーの規制が始まり、グーグルなどのターゲッティング広告の仕組みの見直しが迫られている。
またデジタル課税についての国際的な合意が形成されつつある。
しかしこれらのことがグーグルやフェイスブックの株価に悪影響与えているようには見えない。巨大IT企業全般の株価も上昇を続けている。
アメリカの巨大IT企業と中国の巨大IT企業は明らかに異なる状況に直面している。
■中国共産党はなぜ規制を強めるのか?
中国共産党は何のために規制を強めているのか?
いくつかの見方があり得る。
第1は、米中経済対立の中でデータが外国(とくにアメリカ)に流出してしまうのを防ぐことだ。
ディディのアプリ削除事件ではこの問題が如実に現れているといっていいだろう。走行データの中には重要なビックデータもあるだろうし、個別のデータでも機密に属するものがあるかもしれない。
しかしこれだけでは、アリババやアント、そしてテンセントを規制する理由がわからない。アリババなどにはデータのアメリカへの流出という問題は明確ではない。
これらの巨大企業に経済力と富があまりに集中しすぎ、一般国民との格差が開きすぎたという不満が人々の間にあり、不満に答えるために、政府が巨大IT企業の活動に制約を加える必要があると判断したのかもしれない。
これが、中国共産党が規制を強める理由として第2に考えられることだ。
しかし、富の集中は巨大IT企業に限ったものではない。国有企業にも似た問題があるかもしれないし、共産党内部の汚職が原因にあるのかもしれない。
この理由は、「なぜIT企業の規制強化なのか?」という疑問をうまく説明できないように思われる。
■経済発展にはマイナスでも体制存立のため力をそぐ狙い
そこで第3に考えられるのは、巨大IT企業の力があまりに大きくなりすぎて、共産党のコントロールから離れた独自の発展を歩み出したことへの共産党の懸念だ。
この見方は上で指摘した規制強化のすべての場合について成り立つ。
規制を強めることによって海外からの投資が減ることは十分に予想された。IT企業の資金調達が難しくなれば、技術開発がスローダウンし、中国の経済発展にとって明らかにマイナスだ。
しかしそれでも、共産党の存立のためにIT企業の力を削ぐことが必要と考えられているのだろう。
これは経済的には不合理な決定といえるが、天安門事件の際に、強権に訴えれば海外からの投資が減ると予想されたにもかかわらず、共産党指導部が党の権威を守り共産党体制を維持するために強硬手段をとったのと同じことだ。
その意味で、いま起こりつつあるのは、「第3次天安門事件」だということができるだろう。
1989年6月の天安門事件は「第2次天安門事件」と呼ばれるので、「そのつぎ」という意味で「第3次天安門事件」とした。
中国政府がデジタル人民元の導入を急ぐのも、同じ理由によるのだろう。「国民のマネーデータ」という最も重要なデータを、アントという民間企業の支配に委ねるのでなく、国家の手に確保することが目的だったのだと解釈することができる。
■「ディエム」潰しでアメリカも同じ誤りを犯している
ただし経済的に見て不合理な決定を行なっているのは、アメリカも同じだ。
とくに、フェイスブックが提案した仮想通貨「ディエム」(最初の名称は「リブラ」)に対し政府が総力を挙げて潰しにかかったことは、中国政府がやっていることと同じだ。
国家の権力が経済全体の利益を損なうと知りつつ、自分に不都合な勢力の台頭を許さないということだろう。
国家組織の中の強力な一部分が自己保存本能のために、経済全体から見れば非合理な政策を取るということは、しばしば行なわれてきた。
いま中国やアメリカで進んでいるのは、そのことだと解釈することができる。
それが「ITあるいはデータという問題を中心に繰り広げられている」というのが、現代世界の特徴だ。
データが極めて重要な役割を果たす世界になっているのだ。
中国でアリババ集団などの大手IT企業に対する規制が強まっており、株価が急落している。
これによってIT企業の資金調達が難しくなって技術開発が遅れるので、中国の経済発展には明らかにマイナスだ。
それにもかかわらず中国共産党が規制を強化するのはなぜなのか?
「いま起きているのが第3次天安門事件だ」と考えると、理解できる。
■IT企業の好業績が常識だったが中国で起きている“地殻変動”
「コロナ下でIT企業の利益が増加している」。昨年の秋頃まではこれが世界の常識だったが、違ってきているようだ。
例えば、2020年9月8日の日本経済新聞は「世界の稼ぎ頭、激変 コロナ下でIT躍進」という記事を一面トップで報道した。
そこで強調されていたのは、四半期の純利益ランキングで中国のアリババ集団が前年同期の43位から順位を高めて9位に入ったということだ。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、在宅勤務が進められたり、外出が抑制されたりした。そのため自宅で過ごす時間が多くなり、仕事や買い物、レジャーなどさまざまな活動がオンラインに移行した。
IT企業の利益が増加したというのはごく自然の成り行きだ。
こうした変化は株価にも表れていた。
アメリカのeコマース最大手、アマゾンの株価は、20年初には1900ドル程度だったが、そこから上昇を続け、7月終わりに3000ドルを超えた。
その後も3000ドル程度で推移し、21年4月末には3400ドルを超えた。コロナ前に比べて8割程度上昇したのだ。7月中旬では3680ドル程度だ。
アリババの株価も似た動きをした。20年初めには210HKD(香港ドル)程度だった。3月末までは下落したが、その後上昇し10月末にはほぼ300HKDになった。
■子会社の上場、見直しを迫られアリババの株価急落
ところが、2020年の秋にこの傾向に変化が起きた。アリババの株価が下落を始めたのだ。
株価は10月末をピークにして、その後は下落を続けている。21年7月中旬では210HKD程度でありピークより3割程度低い。
業績が悪化したためではなく、むしろ逆だ。20年の中国の「独身の日」(11月11日:年に一度の大セールス)の売上額は前年比86%増で、過去最高の4982億元(7兆9200億円)を突破した。
アリババの株価が下落したのは、同年11月に予定されていた金融子会社の株式上場が金融当局の指導で計画見直しを迫られて、直前に延期になったことからだ。
その後もアリババに対する政府の規制は強化されている。
今年4月10日には、中国の独占禁止法に違反し「市場支配力を濫用した」として、182億元(約3120億円)という記録的な額の罰金を科された。
取引先に対し、オンラインの出店先を同社に絞るよう圧力をかける独占的行為を行なっていたと認定されたためだ。
アリババとアマゾンはそれぞれ中国とアメリカを代表するeコマースの大手だが、両社の最近の株価の動向を見ると、このように極めて対照的な動きをしている。
■巨大IT企業に広がる規制強化 逆風でも米企業の株価は上昇
中国当局の規制強化が及んでいるのは、アリババだけではない。中国のハイテク企業に共通の現象だ。
アリババと並ぶ巨大IT企業のテンセントは、4月末には、中国人民銀行から呼び出しを受け、金融監督を全面的に受け入れるよう指導を受けた。5月には運営するアプリが個人情報を違法に収集しているとして是正を命じられた。
こうした中国政府の監視強化のためテンセントの株価も下落している。
株価は2000年を通じて上昇を続け、21年2月中旬に760HKD程度にまで上昇したが、それがピークで、その後、株価は下落を続け7月中旬では570HKD程度だ。
配車アプリが人気で急成長のディディも政府の規制強化の対象になった。
中国サイバースペース管理局(CAC)は、7月4日に配車アプリ「ディディ」が個人情報の収集と利用に関する規制に違反しているとの見解を発表した。そして、同アプリを中国のアプリストアから削除することを指示した。
この命令に伴い「ディディ」が中国のアプリストアから削除されたのだ。
ディディは6月30日にニューヨーク証券取引所に上場したばかりだったが、この措置によって株価が暴落した。7月6日には一時25%も下落した。
その後も下落が続き、6月30日の上場初日に付けた高値(18.01ドル)からの下落率は7月9日で実に39%にも達した。
7月中旬では株価は12.6HKD程度だ。
実は巨大IT企業に対して逆風が吹いているのはアメリカも同じだ。
グーグルやフェイスブックが独占禁止法違反の疑いで提訴された(後者はその後、取り下げ)。サードパーティークッキーの規制が始まり、グーグルなどのターゲッティング広告の仕組みの見直しが迫られている。
またデジタル課税についての国際的な合意が形成されつつある。
しかしこれらのことがグーグルやフェイスブックの株価に悪影響与えているようには見えない。巨大IT企業全般の株価も上昇を続けている。
アメリカの巨大IT企業と中国の巨大IT企業は明らかに異なる状況に直面している。
■中国共産党はなぜ規制を強めるのか?
中国共産党は何のために規制を強めているのか?
いくつかの見方があり得る。
第1は、米中経済対立の中でデータが外国(とくにアメリカ)に流出してしまうのを防ぐことだ。
ディディのアプリ削除事件ではこの問題が如実に現れているといっていいだろう。走行データの中には重要なビックデータもあるだろうし、個別のデータでも機密に属するものがあるかもしれない。
しかしこれだけでは、アリババやアント、そしてテンセントを規制する理由がわからない。アリババなどにはデータのアメリカへの流出という問題は明確ではない。
これらの巨大企業に経済力と富があまりに集中しすぎ、一般国民との格差が開きすぎたという不満が人々の間にあり、不満に答えるために、政府が巨大IT企業の活動に制約を加える必要があると判断したのかもしれない。
これが、中国共産党が規制を強める理由として第2に考えられることだ。
しかし、富の集中は巨大IT企業に限ったものではない。国有企業にも似た問題があるかもしれないし、共産党内部の汚職が原因にあるのかもしれない。
この理由は、「なぜIT企業の規制強化なのか?」という疑問をうまく説明できないように思われる。
■経済発展にはマイナスでも体制存立のため力をそぐ狙い
そこで第3に考えられるのは、巨大IT企業の力があまりに大きくなりすぎて、共産党のコントロールから離れた独自の発展を歩み出したことへの共産党の懸念だ。
この見方は上で指摘した規制強化のすべての場合について成り立つ。
規制を強めることによって海外からの投資が減ることは十分に予想された。IT企業の資金調達が難しくなれば、技術開発がスローダウンし、中国の経済発展にとって明らかにマイナスだ。
しかしそれでも、共産党の存立のためにIT企業の力を削ぐことが必要と考えられているのだろう。
これは経済的には不合理な決定といえるが、天安門事件の際に、強権に訴えれば海外からの投資が減ると予想されたにもかかわらず、共産党指導部が党の権威を守り共産党体制を維持するために強硬手段をとったのと同じことだ。
その意味で、いま起こりつつあるのは、「第3次天安門事件」だということができるだろう。
1989年6月の天安門事件は「第2次天安門事件」と呼ばれるので、「そのつぎ」という意味で「第3次天安門事件」とした。
中国政府がデジタル人民元の導入を急ぐのも、同じ理由によるのだろう。「国民のマネーデータ」という最も重要なデータを、アントという民間企業の支配に委ねるのでなく、国家の手に確保することが目的だったのだと解釈することができる。
■「ディエム」潰しでアメリカも同じ誤りを犯している
ただし経済的に見て不合理な決定を行なっているのは、アメリカも同じだ。
とくに、フェイスブックが提案した仮想通貨「ディエム」(最初の名称は「リブラ」)に対し政府が総力を挙げて潰しにかかったことは、中国政府がやっていることと同じだ。
国家の権力が経済全体の利益を損なうと知りつつ、自分に不都合な勢力の台頭を許さないということだろう。
国家組織の中の強力な一部分が自己保存本能のために、経済全体から見れば非合理な政策を取るということは、しばしば行なわれてきた。
いま中国やアメリカで進んでいるのは、そのことだと解釈することができる。
それが「ITあるいはデータという問題を中心に繰り広げられている」というのが、現代世界の特徴だ。
データが極めて重要な役割を果たす世界になっているのだ。
「コロナ下でIT企業の利益が増加している」。昨年の秋頃まではこれが世界の常識だったが、違ってきているようだと野口名誉教授。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、さまざまな活動がオンラインに移行した。
IT企業の利益が増加したというのはごく自然の成り行きだ。
こうした変化は株価にも表れていた。
ところが、2020年の秋にこの傾向に変化が起きた。アリババの株価が下落を始めた。
株価は10月末をピークにして、その後は下落を続けている。21年7月中旬では210HKD程度でありピークより3割程度低い。
業績が悪化したためではなく、むしろ逆。
アリババの株価が下落したのは、同年11月に予定されていた金融子会社の株式上場が金融当局の指導で計画見直しを迫られて、直前に延期になったことからだと、野口名誉教授。
今年4月10日には、中国の独占禁止法に違反し「市場支配力を濫用した」として、182億元(約3120億円)という記録的な額の罰金を科された。
中国当局の規制強化が及んでいるのは、アリババだけではない。中国のハイテク企業に共通の現象だと。
巨大IT企業のテンセントは、4月末には、中国人民銀行から呼び出しを受け、金融監督を全面的に受け入れるよう指導を受けた。5月には運営するアプリが個人情報を違法に収集しているとして是正を命じられた。
テンセントの株価も下落。
配車アプリが人気で急成長のディディも政府の規制強化の対象になった。
中国サイバースペース管理局(CAC)は、7月4日に配車アプリ「ディディ」が個人情報の収集と利用に関する規制に違反しているとの見解を発表した。そして、同アプリを中国のアプリストアから削除することを指示。
ディディは6月30日にニューヨーク証券取引所に上場したばかりだったが、この措置によって株価が暴落。6月30日の上場初日に付けた高値(18.01ドル)からの下落率は7月9日で実に39%にも達した。
実は巨大IT企業に対して逆風が吹いているのはアメリカも同じだと野口名誉教授。
サードパーティークッキーの規制が始まり、グーグルなどのターゲッティング広告の仕組みの見直しが迫られている。
またデジタル課税についての国際的な合意が形成されつつあると。
しかしこれらのことがグーグルやフェイスブックの株価に悪影響与えているようには見えない。巨大IT企業全般の株価も上昇を続けている。
アメリカの巨大IT企業と中国の巨大IT企業は明らかに異なる状況に直面している。
中国共産党は何のために規制を強めているのか?
いくつかの見方があり得ると野口名誉教授。
第1は、米中経済対立の中でデータが外国(とくにアメリカ)に流出してしまうのを防ぐことだと。
ディディのアプリ削除事件ではこの問題が如実に現れている。しかしこれだけでは、アリババやアント、そしてテンセントを規制する理由がわからない。
第2に考えられることは、巨大企業に経済力と富があまりに集中しすぎ、これらの巨大企業に経済力と富があまりに集中しすぎ、一般国民との格差が開きすぎたという不満が人々の間にあり、不満に答えるために、政府が巨大IT企業の活動に制約を加える必要があると判断したのかもしれないと。
しかし、この理由は、「なぜIT企業の規制強化なのか?」という疑問をうまく説明できないように思われるとも。
第3に考えられるのは、巨大IT企業の力があまりに大きくなりすぎて、共産党のコントロールから離れた独自の発展を歩み出したことへの共産党の懸念だと。
この見方は上で指摘した規制強化のすべての場合について成り立つと野口名誉教授。
規制を強めることによって海外からの投資が減ることは十分に予想され、中国の経済発展にとって明らかにマイナス。
それでも、共産党の存立のためにIT企業の力を削ぐことが必要と考えられているのだろうと。
これは経済的には不合理な決定といえるが、天安門事件の際に、共産党指導部が党の権威を守り共産党体制を維持するために強硬手段をとったのと同じことだと。
中国政府がデジタル人民元の導入を急ぐのも、同じ理由によるのだろう。「国民のマネーデータ」という最も重要なデータを、アントという民間企業の支配に委ねるのでなく、国家の手に確保することが目的だったとも。
経済的に見て不合理な決定を行なっているのは、アメリカも同じだと野口名誉教授。
とくに、フェイスブックが提案した仮想通貨「ディエム」(最初の名称は「リブラ」)に対し政府が総力を挙げて潰しにかかったことは、中国政府がやっていることと同じだと。
国家の権力が経済全体の利益を損なうと知りつつ、自分に不都合な勢力の台頭を許さないということだろうと。
国家組織の中の強力な一部分が自己保存本能のために、経済全体から見れば非合理な政策を取るということは、しばしば行なわれてきた。
いま中国やアメリカで進んでいるのは、そのことだと解釈することができると。
「ITあるいはデータという問題を中心に繰り広げられている」というのが、現代世界の特徴だ。データが極めて重要な役割を果たす世界になっていると野口名誉教授。
日本は??
# 冒頭の画像は、多くの企業や商店が集まる中国上海市の観光名所、外灘(バンド)
【中国観察】「国家安全」による統制強化と米中対立に直面する中国IT企業 - 産経ニュース
この花の名前は、キキョウ
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