Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

按摩と女

2008-11-16 | 日本映画(あ行)
★★★★☆ 1938年/日本 監督/清水宏
「日本人のアドバンテージ」 


石井監督のカヴァー「山のあなた」を見て、オリジナルに興味が湧き観賞。

よく「フレームの美学」なんて言われますけども、日本人の場合、日本人であるというだけで物凄いアドバンテージがあるんじゃないか。本作を見て、そんなことを痛感します。格子戸、障子、襖、縁側…。これらの日本建築に必ず備わる様式は、フレームの端々に配置するだけで、絵画のようにしっかりと収まる。例えば、スクリーン左端に格子戸を置く。スクリーン下側に縁側を持ってくる。それだけで、何とも美しいフレーミングが完成する。障子にもたれかかって、考え事をするという何気ないカットにしても、障子そのものが「こちら側」と「あちら側」の曖昧な境界を作り出すという役割があるため、人物たちの揺れる心が表現できる。

人々の心をざわつかせる「財布が盗まれる」という事件。これにしても、この宿屋の障子が開け放されていたり、子どもが縁側づいたいに行ったり来たりできるからこそ、人々の猜疑心は膨れあがる。この日本建築そのものが持っている「意味」と物語の「意図」が絶妙に溶け合っています。

で、やはりこのフレームの美しさがもたらす余韻、そしてイマジネーションって、カラーよりも断然モノクロの方が大きいんですね。石井監督のカヴァー版よりもそれぞれの登場人物の小さな心の揺れがさらに際立っています。面白いのは「山のあなた」では、物語の振り子の役割を担っていると考えたほどの子供の存在感が、本作ではずいぶん薄く感じられたこと。しかし、逆に徳市の「お客様!」の土下座シーンは、こちらの方が何倍も悲壮感があります。徳市の「俺が助けてやる」という傲慢、「もしかしたら恋仲になるかも知れない」といった希望が打ち砕かれる。そんな徳市の心の動きは、正直「山のあなた」では今ひとつ心に迫りませんでした。どちらかと言うと、温泉宿場での群像劇のようにすら感じられたのです。しかし、オリジナルは奈落の底に落とされた徳市の情けなさ、つらさがラストまで後を引きました。