Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

シッコ

2008-11-21 | 外国映画(さ行)
★★★★☆ 2007年/アメリカ 監督/マイケル・ムーア
「わかった上でムーアマジックにかかる」

ムーアの作品に何かとケチをつけたくなる人が出てくるのもわかります。だって、あまりにも素材の料理の仕方が旨いですから。深刻な問題を扱いながらも、楽しくてわかりやすい見せ方でエンターテイメント作品として成立させる。そこには、少々のおふざけやジョーク、ムーア個人の思い入れ(または意図的な思い込み)は必須。本作で言えば、ダジャレを飛ばして洗濯かごを抱え、ホワイトハウスの階段をのぼるラストシーン。あれは、あまりにもでき過ぎ。「いいラストカットが思いついた」というムーアのほくそ笑んだ顔すら思い浮かびます。

それでも、このようなエンタメ方式にこだわっているからこそ、多くの観客が問題を知るのですから、私は少々のことには目をつぶります。もう、そういうことにします(笑)。目の前の素材をどう料理すれば面白く伝わるのか。これ、モノ作りをする人間のひとりとして大いに参考になるんですもん。

何かと対比させるやり方がムーアは得意で「ボーリング・フォー・コロンバイン」の時も、アメリカの銃社会を隣国カナダと比べていました。今回はフランスなど保険制度の充実した国と比べて、アメリカの保険制度のもろさを嘆きに嘆いています。本来ならば、税制度の違いもありましょうし、一面的に比較するのが正しいとは思えません。しかし、そういうツッコミを交わすかのように、後半は911の消防活動にあたった方々の保障制度に話が移行。この辺の目くらましの術はとても巧い。

それでも、グアンタナモまで医療と薬を求めてくだりは、当事者の無念がひしひしと伝わり、胸に込み上げるものがあります。社会主義国キューバで医療が受けられ、薬を安く手に入れられる。ここでも、資本主義と社会主義の比較が行われています。おそらく、ムーアは作品作りをする上で「アメリカ イズ No.1」的なアメリカ人の目を覚まさせること。それに、最も重きを置いているのでしょう。その場合、何かと比べて語るというのが、いちばんわかりやすいですから。

作品のキャッチコピーにもなっている、「人ごとじゃない」。これ、痛感です。現状、我々日本の保険社会とアメリカの保険社会は、全く構造が異なるのに、最終的には多大な危機感を持たせられている。これぞ、ムーアマジックですね。