Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

何がジェーンに起ったか?

2013-02-05 | 外国映画(な行)
★★★★★ 1962年/アメリカ 監督/ロバート・アルドリッチ


「こわれた女ほど恐ろしいものはない」


(DVDにて鑑賞)
映画を見て身震いがしたのは久しぶりです。
ホラーのジャンルでない作品でこれほど恐ろしい思いをしたのは初めてかも知れません。
ジョン・カサヴェテス「こわれゆく女」でジーナ・ローランズが見せた静かな狂気とは真逆。
ベティ・デイビスが見せる激しい狂気は彼女の生き霊が自分にも乗り移ってくるのではないかというほど恐ろしい。
下品で、意地悪で、浴びるように酒を飲む。そして、若作りに化粧した顔の醜悪さ。
ここまでさらけ出すベティ・デイビスに圧倒されない人はいないでしょう。

幼い頃歌っていた歌がレコードから流れてきて、ふと昔の子どもの頃に戻ってしまうジェーン。
その瞬間のベティ・デイビスの表情もすばらしいのですが、
醜い老女がスポットライトを浴びたかのように立ち止まり恍惚の表情をみせる、
その様子を正面から切り取るロバート・アルドリッチの演出も容赦がありません。
前半部に妹は演技が下手とこきおろされるシーンがありますが、
あれは実際のベティ・デイビスの出演作品を使っているというではありませんか。その徹底ぶりに驚きます。
また一番最初のカットでびっくり箱からピエロが出てくるのですが、このイントロも作品のテーマを表していて巧いです。

一方、人のいい姉を演じるジョーン・クロフォード。
冒頭、売れっ子の姉を憎々しく見つめるシーンがあるが(ここは子役)、
ジョーン・クロフォードにバトンタッチしてからは車椅子生活になっても姉を思いやる可憐な妹がそこにいる。
自動車事故を挟んだ姉妹のコントラストが見事で、まんまと観客も監督の罠にはめられてゆくのです。

そしてタイトルが示すとおり、何がジェーンに起こったのか。
事故が起きたシーンの思わせぶりなカット、そして妹の仕打ちにより追い込まれていく姉。
一体どんな結末が待っているのかと、ラスト30分は自分の心臓の鼓動が聞こえるほど興奮しました。
そして、浜辺でアイスクリームを買う老いたジェーン。
そう、彼女はアイスクリームを欲しがっていた。
劇場の出口で父親を罵倒し、アイスクリームをせがんだ時の小さなジェーンはあんなに憎らしかったのに、
今は全ての重荷を下ろしたかのように安心しきって微笑む老女のジェーンがいる。見事なラストシーンでした。

ここからは余談ですが、不仲であったベティ・デイビスとジョーン・クロフォード。
アカデミー賞主演女優賞にベティ・デイビスがノミネートされたのが不満だったジョーン・クロフォードは
他作品でノミネートされたものの当日舞台で参加できないアン・バンクロフトの代理人として出席。
結果、アン・バンクロフトが受賞し、代理人のジョーン・クロフォードは隣に座ったベティ・デイビスの肩をそっと叩いてから、
舞台に上がってスピーチをしたというではありませんか。
映画そのままに大女優の場外乱闘が続くというのも傑作のなせる技だと思います。