Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

2020-05-12 | 外国映画(あ行)
★★★ 2000年/カナダ 監督/ドゥニ・ヴィルヌーブ

切断されたグロテスクな魚がパクパクと口を開けおしゃべり、そして唐突に中絶手術のシーンへ。実に奇怪な作品である。ヴィルヌーブって、合理的な美しさの映像監督だというイメージがあるので、びっくり。いかにも初期の野心作。厭な感じが全編漂う。

ざらつきのある青みがかったフィルム、全編に漂う息苦しさは、初期のハネケ作品を思わせるし、主人公が嫌な女で中絶というタブーを映像でぶちかましてくる感じは初期オゾンっぽくもある。殺すものは殺されるという魚のメッセージに反して、物語は矛盾をはらみ、観る者は消化不良を起こす。がやけに引きずる作品である。

顔たち、ところどころ

2020-05-11 | 外国映画(か行)
★★★★ 2017年/フランス 監督/アニエス・バルダ・JR

めちゃくちゃ良かった。田舎町を旅し、現地の人々を撮影して様々な場所に貼り付けていく。その芸術活動が市井の人々に自身の誇りを自覚させる。アートってすばらしい。それにしても、スタジオ付き移動カメラトラックすごい!これ発明!出力までできちゃうんだから。そりゃこんなの自分の街に来たらウキウキしちゃうよねえ。

年の離れたアーティストの友情物語のように帰結するんだけども、そのラストの展開を招いたのは、「あの」ゴダールの行動。このエンディングを予測してのあれかと思うと、若干腹が立つ。なんなんだよ、ゴダール。



アメリカン・アニマルズ

2020-05-11 | 外国映画(あ行)
★★★☆ 2018年/アメリカ 監督/バート・レイトン

非常に評価の高い1本なのだが、私には合わず。
ケーパーものとして、仲間の結託や裏切りという面ではなかなかにそれぞれの学生の苦悩が見えてきて人間ドラマとしてはそこそこ面白い。
しかし、学生たちの犯罪シナリオがあまりに杜撰で、ちょっとしたことで歯車が狂ってしまうのだが、そりゃそうなるよねと思わざるをえない。
実際の犯人のインタビューが挿入されるなど、トリッキーな作り方なんだけど、それが魅力かというとそうでもなく。実在の人物で映画を作り上げてしまったイーストウッドの「15時17分、パリ行き」の前にはこうした手法の作品が全て霞んでしまう。そういう意味ではあの映画、とても罪作りなのかもしれない。


アナイアレイション 全滅領域

2020-05-09 | 外国映画(あ行)
★★☆ 2018年/アメリカ・イギリス 監督/アレックス・ガーランド

久しぶりのガッカリ案件だな。
人類を絶滅から救う精鋭集団なのに
・仲間で揉める
・帰りたいとか言い出す
・装備がありえないほど薄い
という、私がSFで一番嫌いなパターンをことごとく踏んでいる。
しかも、メンバーをわざわざ女性ばかりにした意味はどこに? どう考えてもフェミニズムの文脈での展開を期待しちゃうでしょ。
生命のDNAが混じり合う異世界の映像は面白かった。動物と植物が混じった生命体とか、CG映像はお金かかってるなあって感じ。見所はそこだけ。



マリッジ・ストーリー

2020-05-08 | 外国映画(ま行)
★★★★ 2019年/アメリカ 監督/ノア・バームバック

主演2人の見事な演技。意外な面白さはNY派vsLA派の構図。両者の価値観の違いで夫婦の埋めがたい溝がわかると同時に何もかも違う2人がひかれあった恋のすばらしさも伝えてくれる。孤独でも仲間と仕事があれば生きていけるNewyokerの矜持を感じさせるアダムの歌声にしびれた。

監督自身の離婚経験が元ネタということだけど、後悔と反省を経てラストのBeing aliveで自己肯定に至る物語と私は感じた。しかし、互いの傷のえぐり合いもなかなかなので、これまでの恋愛経験によって感じ方は人それぞれだろう。あと、私は広さ自慢のLAより孤独を愛せるNYが好きだなー。

魂のゆくえ

2020-05-07 | 外国映画(た行)
★★★★☆ 2018年/アメリカ・イギリス・オーストラリア 監督/ポール・シュレイダー

環境破壊問題に教会の癒着。社会問題に斬り込む重苦しい作品かと思いきや、中盤に神秘体験、ラストはタクシードライバーという離れ技。ポールシュレイダーの作家性が色濃く出た作品。誰にも撮れない独創性。ラストカットも強烈な印象。2019年ベスト10に入れたい。

社会は矛盾に満ちている。それらを正すため一人の人間ができることなどほとんどない。人は無力だ。しかし、正すことができず絶望した人間が行き着く先は破滅しかないのか。直面する問題の大小はあれど、誰しもトラーの胸中に己を重ねることができる。磔刑を望んだトラーはマリアに救われるのだろうか。


静かなる叫び

2020-05-07 | 外国映画(さ行)
★★★★☆ 2009年/カナダ 監督/ドゥニ・ヴィルヌーブ

モントリオール理工科大学内の銃撃事件を描くヴィルヌーブ初期作。77分の尺の中で関係者のその後にまで迫り彼らの絶望と希望を静謐で、しかし力強い演出で描き切る。女性ばかりを銃撃した反フェミズムの犯人と、自身の無力さを悔いる男子学生。その「男性性」の対比がずしんと来る傑作。

凶行に到るまではガスヴァンサントの名作「エレファント」を想起させるのだが、本作の凄みは奇跡的に助かった学生のその後に迫っているところ。エンジニア志望ということで標的になった女子学生がどのような人生の選択をするのか。彼女の選ぶ道がどうか幸福でありますようにと願わずにいはいられない。

ステップフォード・ワイフ

2020-05-04 | 外国映画(さ行)
キャリアウーマンのジョアンナが移り住んだステップフォードの妻たちは美しく着飾り、家事は完璧、夫には従順。はびこる女性のモノ化と人権無視。何かがおかしい…その裏には驚愕の事実が。ミソジニー・ブラックコメディの怪作。1975年版も見たくなった。

貞淑な妻たちを取り仕切る主婦クレアをミソジニー映画の代表とも言われる「危険な関係」のグレンクローズが演じているのは偶然ではあるまい。彼女が従順な専業主婦を演じることで本作は二重三重の含みを持っている。そんな彼女が実は…のオチも含めて。見事なキャスティング。

男と女がバトルするTV番組や専業主婦のいかにもな生活ぶりなど、ジェンダー批評としては陳腐な表現の連続だが、これらが2020年の今も大して変わっていないことが実に悲しい。こういう表現が皮肉として笑えた時代もあったよね、という感想にならねばならないはずなんだ。

タリーと私の秘密の時間

2020-05-04 | 外国映画(た行)
★★★★☆ 2018年/アメリカ 監督/ジェイソン・ライトマン

まさにジェーンスー氏の名言「自分で選んだ道を正解にするしかない」である。子育てで疲弊し空っぽになった自分に一筋の希望を見出すある女性の物語。物哀しくもじわんと心に残る秀作。出産直後の主婦を演じるため激太りしたシャーリーズセロンの女優魂も凄い。

原題は「Tully(タリー)」。超シンプルなこのタイトルが実はとても深い意味を持っている(それに気づいた時の驚きと喜びといったら!)ゆえに、なぜ秘密の時間とか甘ったるい邦題にしたのか。マーロの苛立ちが子育てだけではないことが少しずつ明かされる脚本も秀逸。ヤングアダルトトリオ最高。やっぱ、ジェイソンライトマン好きだな。