落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

夜の子どもたち

2008年08月18日 | book
『子どものねだん―バンコク児童売春地獄の四年間』 マリー=フランス・ボッツ著 堀田一陽訳 
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1986年、ブリュッセルの病院でソーシャルワーカーとして働いていた26歳の著者は、タイの難民キャンプでカンボジア人の子どもたちにフランス語を教える仕事のためにファナ・ニコムに向かった。当時、ベトナム戦争から続く内戦とポル・ポトの圧政から逃れた25万人の難民たちが、生活のあてもなく周辺諸国のキャンプで暮していたのだ。
ところが到着して間もなく、キャンプから子どもが「消える」ことに気づいた彼女は、やがてキャンプを警護する兵士たちの手で組織的に子どもたちが誘拐され売られていることを知る。買い手はバンコクやパタヤの売春宿や工場主たち。
彼女はタイ人ボランティアの協力を得て売春宿での潜入調査を敢行する。客を装って子どもを買い、おもちゃと食事を与えて生い立ちや生活状況を聞き取る。どの子も虐待され、怪我や性感染症に苦しんでいた。既にエイズを発症している子も少なくなかった。
たまりかねた彼女は子どもたちを救済・保護する組織を立ち上げてヨーロッパで援助を募り、タイ各地の地下組織との全面戦争を開始した。それは絶え間ない脅迫と暴力と、心も身体もズタズタに傷ついた子どもたちとの戦いだった。
『子どものねだん』は1991年に彼女がタイを去るまでの現地での活動を述懐したエッセイ。

単身で地球の反対側の異国へ乗り込み、マフィアと渡りあってボランティア活動に邁進する女性、というとなんとなく怖いもの知らずの“女傑”みたいな人物像をイメージしてしまうし、実際そういうタイプの人もたぶんいるんだろうと思う。
この本の著者マリーは違う。怖いことは怖いという。でも恐れはしない。怖い怖くないじゃなくて、目の前にいる傷ついた子どもを放り出せない、そんなことは断じてできないという、人としてごく素直な情動に任せてわき目もふらずただ闘う。
ヨーロッパ人としての迷いもある。彼女が出会った小児性愛者の大半はヨーロッパ人で、出会った場所がタイのナイトスポットでさえなければいい友だちにだってなれそうな、ふつうの小市民ばかりだった。若い人もいればなかなかのハンサムもいるし、インテリもいればエリートもいる。子どもに恵まれた既婚者もいる。彼女は彼らの話を聞いて、聞いた上できっちりと反論する。あなたは間違っていると。
こんなことは強くなくては出来ない。しかし彼女は単に強いだけではない。しなやかにみずみずしくあたたかな感受性に溢れた、美しく光り輝く心を持った魅力的な女性である。

ノンフィクションではあるが基本的には彼女個人の体験記という形態をとっていて、タイでの人身売買や児童買春の実態を数値的に分析するような資料ではない(巻末の訳者解説に簡単なデータは掲載されている)。
でもこの本を読んでいると、そんなものに大した意味はないんだろうという気がしてくる。おそらく著者本人もそういうデータには興味がないのではないだろうか。それよりも、ひとりでも多くの子どもを助けだして無事に家族のもとへ送り返し、ひとりでも多くの子どもを地下組織から守るというリアルな面こそがもっとも大切なのだろう。
こんなにも残酷な事実を知っても、知ったところで凡人には何ひとつ出来やしないなんていう人もいるだろう。けどそうじゃない。われわれには財布と投票権がある。インターネットでこうして発言する権利も持っている。多くの人権団体はクレジットカードでの募金も受けつけている。
ぐりだって世の中すべての売春が悪だとは思わない。小児性愛者にだって人権があることくらい認めたい。それでも、声を大にしていわずにはおれない。子どもを買うなんて間違ってると。好きこのんで自分を売り渡す子どもなんていないよと。
誰も聞いてなくても、一度知ってしまったら、もう黙っているのは、おかしいんじゃないかと思う。

CPCR(タイ児童権利擁護センター)
ACPE(反児童売春協会)

関連レビュー:
『闇の子供たち』1
『アジアの子ども買春と日本』 アジアの児童買春阻止を訴える会(カスパル)編
『薔薇よ永遠に―薔薇族編集長35年の闘い』 伊藤文學著
『少女売買 インドに売られたネパールの少女たち』 長谷川まり子著

残念賞

2008年08月17日 | movie
『崖の上のポニョ』

5歳の宗介(土井洋輝)は海で金魚の女の子ポニョ(奈良柚莉愛)と出会って恋に堕ちるが、彼女は父フジモト(所ジョージ)に海の底へ連れ戻されてしまう。ポニョは宗介に会いたい一心で再び地上への冒険を試みるのだが・・・。

んー。
ぶっちゃけ、微妙。
やりたいことはすごいわかるんだよね。小さな子どものなんともいえない愛らしさ─無邪気さ、優しさ、純粋さ、健康な心、みずみずしい感性、頼りなさ、儚さetc.─を表現したいとゆーフェチ心と、CGアニメまっさかりのこの時代にあえてセル画でスペクタクル・ファンタジーをやってみたいという冒険心。
そこはわかるし共感できる。素直に大したもんだと思う。
けどね。それだけなの。やりたいことはわかるのに、いいたいことは伝わってこない。響いてこない。
子ども向けとはいえ話が強引すぎてついてけないし、世界観を単純にしたいのか複雑にしたいのかがすごく中途半端にみえて、観ていて困惑してしまう部分が多すぎる。たとえばポニョの本名はブリュンヒルデなんだけど、由来となった北欧神話に登場するブリュンヒルデとポニョとの間にあまりに大きな落差があるために、本名の設定そのものにものすごい違和感がある。ベースになった童話「人魚姫」にしても、人魚姫は人間になって王子と恋をすることに苛酷な賭けを強いられるけど、ポニョは幼すぎて犠牲にするものをまるで自覚していないから、障害のある恋を軸にした物語の構造そのものに矛盾がある。
終盤にゾロゾロ登場する古代魚たちもイマイチ手抜きに見えるし・・・描いてみたかっただけなのかなー?それこそここで『風の谷のナウシカ』の王蟲で使った技術を駆使してほしかったわん。

観ようかどうしようか迷って迷って、でも宮崎駿だしとりあえずと思って観たけど、正直にいってこれはとくに観にゃいかんとゆー映画ではなかったです。
だって観たってその後なんにも残んないんだもん。マジで、さっぱり、なんもなし。
残念。
無念なり。

声優陣では山口智子と天海祐希が無茶苦茶ハマってました。天海祐希は顔まで似てて笑った。所ジョージは全然ダメ。演技以前に声質から口調から何もかもがまったく役とマッチしていないために、登場人物中でいちばん奥行きを感じさせるべきキャラクターがいっさい表現できていない。フジモトこそもっと雰囲気にぴったりあう人が演じてれば映画全体のクオリティがよくなったかもしれない。
クレジットが肩書きなしの順不同になってて、そこに「この映画は子ども向けですから」的な押しつけがましさも感じた。気持ちはわかるけどね・・・。

暗黒の騎士

2008年08月13日 | movie
『ダークナイト』

マフィアと結託してバットマン(クリスチャン・ベール)抹殺を目論むジョーカー(ヒース・レジャー)。ゴッサムシティに登場した若き検事ハービー・デント(アーロン・エッカート)とバットマンの元恋人で今はハービーと交際しているレイチェル(マギー・ギレンホール)をターゲットに悪行の限りを尽す快楽殺人鬼の狂気に、バットマンは自らマスクを棄てる覚悟をするのだが・・・。

えー。
おなかいっぱいっす。もう食べられません。満腹。勘弁。
とりあえず、ふだんこの手のヒーローアクションものってあんまり観ないからすっごい新鮮です。ストーリー展開はめまぐるしいしセリフ(字幕)は多いしカット数もハンパない。情報量がすごい。観てて何度も「アタシついてけてる?」なんて自問自答してしまったよ。
けど満足です。おもしろかったし、ヒース・レジャー観たかったし。ヒースの熱演には確かにビビる。マジで怖い。全編ドロドロに崩れかけた白塗りのクラウンメイクに口裂け特殊メイク。詰め物でもしてるのか顔の形も違うし、声や喋り方もまったくの別人。てゆーか今まで観た出演作でもかなりいろんな役柄を演じてるけど、基本的に悪役ってこれが初めてだったんじゃないかな?まあここまで凶悪な役もめったにないけど。だから彼自身この役・作品には相応の思い入れもあったろうし、楽しんで演じてたというのもホントだと思う。役に入り込みすぎて不眠症になったのが薬物中毒死という不幸な事故の引き金になったという噂もあるけど、それもわからなくはない。共演女優と次々に浮名を流した彼なら、そんなこともあったかもしれない。早くもオスカー候補確実なんて噂もなるほど納得の演技だと思う。
ホントに惜しい人を亡くしたんだなと、しみじみ悲しくなってしまった。

実をいうとぐりはバットマンシリーズってあんまり真面目に観たことなくて、前作『バットマン ビギンズ』もDVDで観たハズなのに内容がまったく思い出せない。大丈夫かアタシの脳味噌。
だからこれまでのバットマンと比べてどこがどーとかいうことは全然わからないんだけど、この『ダークナイト』に関していえば、人の心の中の“善”と“悪”ではどちらがほんとうに強いのかという、キリスト教社会における普遍のテーマを現代の寓話=ヒーローアクション映画のロジックを使って実にうまく表現した、すごく大人向けの社会派娯楽映画という感じがしました。
それも“善”=バットマンVS“悪”=ジョーカーなんて単純構造じゃなくって、“善”と“悪”の両面を持つハービーというひとりの人間を挟んで、ゴッサムシティの市民すべてを巻き込んで“善”と“悪”の観念の本質を戦わせている。うーん。ナイス。
ただぐり的にはハービーの豹変ぶりがちょっと・・・だったのが惜しかった。っちゅーかヒースのキレっぷりの前には誰がどーゆーキレ方してもなかなか太刀打ちできないかもねー。残念。

マイケル・ケインとかモーガン・フリーマンとか脇役の渋さに萌え。やっぱ男は60代からでしょ(終わってる?アタシ?)!前作からのつながりか一瞬だけキリアン・マーフィが出てたけど、その後も出てくんのかと思って期待したらそれっきり。ちっ。一瞬といえば陳冠希(エディソン・チャン)はホントに一瞬しか出てこんかったね・・・顔なんか0.3秒くらいしか映ってなかったよ。
しかしひさびさヒーローアクションもの観て疲れたわー。けっこー長かったし(152分)。ハリウッド映画って長いよね・・・最近・・・。

ヒース・レジャー出演作レビュー:
『アイム・ノット・ゼア』
『キャンディ』
『カサノバ』
『ブロークバック・マウンテン』
『ブラザーズ・グリム』
『ケリー・ザ・ギャング』
『サハラに舞う羽根』
『ROCK YOU!』
『チョコレート』
『パトリオット』
『恋のからさわぎ』

栗の花の呪い

2008年08月12日 | book
『男性不信』  池松江美著
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先日ファーストフード店で後ろの席に座った男子高校生がケータイで合コンの段取りを話していて、相手の女子に求める条件が耳に入ってきた。
「6割性格、2割顔、2割乳」
・・・意外と中身重視じゃん。高校生のくせに堂々と喫煙席に座るのはどーかと思うけどね。少年よ。とか思ってしまった。
てかtaspo導入も年齢確認も結局意味ねーじゃん。あ、アタシが止めるべきですか。高校生がタバコ吸ってんな!とか?すいません、アタシも吸ってたからさ、高校時代から。他人のことはいえないの。

『男性不信』 は雑誌「hon−nin」に連載された池松江美=辛酸なめ子の自伝的小説。
実は彼女の本を読むのはこれが初めてです。ラジオ番組は聞いてるしブログもたまに読んでるけど。ついでに大学もいっしょ。学部は違うけど世代も大体同じ。今まで読む機会がなかっただけです。TV観ないし雑誌も読まないから(修業中かよ)。
なので読む前に連載読んでる友だち(やっぱり同じ大学)に「どーよ?」と訊いてみたら「べつに・・・」という回答。それでもこのタイトルの誘惑に負けて読んでしまいましたー。

うん。おもしろかった。ワッハッハって感じじゃなくて、ニヤ〜リって感じですけど。
なんちゅーかねーもういちいち共感しちゃうね。若い女・かわいい女・頭のゆるい女・脚が綺麗な女・胸が大きい女・男に都合のいい女、そういう女にしか興味のない男たち。女=欲望の対象としかとらえない男たち。「男は全員強姦魔予備軍」ってギャグじゃない。実際そう思う根拠なんかいくらでもあるもんね。同じネタでよければぐりにだって本1冊くらい軽く書けるだけのネタ在庫はたんまりございますわよ。
まあ男も女もどっちもどっちか。男は女を欲望の対象として見るけど、女だって心の中では男をさんざんバカにしてる。どんな風に?ってことがゼーンブ、微に入り細に入り書かれてまーす。男の人は読んだ方がいいよ。マジで。

ぐり自身は別名“色ボケ温泉”と呼ばれる高校に通いながら“天然記念物”というあだ名がつくくらいの超カマトトだったので、ヒロイン由美ちゃんほどモテないことで悩んだりした記憶はない。あとスピリチュアル方面にもほとんど興味がないのでそのへんは読んでても意味不明だったけど、最後まで読むと実は著者もけっこーどーでもいーとか思ってる?的に自虐的なオチなのが笑えました。
彼女の本はいっぱいあるけど、他に読んでみたくてもどれからいけばいいかわからにゃい。こーゆー女尊男卑思想毒舌系の本ご存知の方がおられましたらご教示くださいませ〜。