『子どものねだん―バンコク児童売春地獄の四年間』 マリー=フランス・ボッツ著 堀田一陽訳
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1986年、ブリュッセルの病院でソーシャルワーカーとして働いていた26歳の著者は、タイの難民キャンプでカンボジア人の子どもたちにフランス語を教える仕事のためにファナ・ニコムに向かった。当時、ベトナム戦争から続く内戦とポル・ポトの圧政から逃れた25万人の難民たちが、生活のあてもなく周辺諸国のキャンプで暮していたのだ。
ところが到着して間もなく、キャンプから子どもが「消える」ことに気づいた彼女は、やがてキャンプを警護する兵士たちの手で組織的に子どもたちが誘拐され売られていることを知る。買い手はバンコクやパタヤの売春宿や工場主たち。
彼女はタイ人ボランティアの協力を得て売春宿での潜入調査を敢行する。客を装って子どもを買い、おもちゃと食事を与えて生い立ちや生活状況を聞き取る。どの子も虐待され、怪我や性感染症に苦しんでいた。既にエイズを発症している子も少なくなかった。
たまりかねた彼女は子どもたちを救済・保護する組織を立ち上げてヨーロッパで援助を募り、タイ各地の地下組織との全面戦争を開始した。それは絶え間ない脅迫と暴力と、心も身体もズタズタに傷ついた子どもたちとの戦いだった。
『子どものねだん』は1991年に彼女がタイを去るまでの現地での活動を述懐したエッセイ。
単身で地球の反対側の異国へ乗り込み、マフィアと渡りあってボランティア活動に邁進する女性、というとなんとなく怖いもの知らずの“女傑”みたいな人物像をイメージしてしまうし、実際そういうタイプの人もたぶんいるんだろうと思う。
この本の著者マリーは違う。怖いことは怖いという。でも恐れはしない。怖い怖くないじゃなくて、目の前にいる傷ついた子どもを放り出せない、そんなことは断じてできないという、人としてごく素直な情動に任せてわき目もふらずただ闘う。
ヨーロッパ人としての迷いもある。彼女が出会った小児性愛者の大半はヨーロッパ人で、出会った場所がタイのナイトスポットでさえなければいい友だちにだってなれそうな、ふつうの小市民ばかりだった。若い人もいればなかなかのハンサムもいるし、インテリもいればエリートもいる。子どもに恵まれた既婚者もいる。彼女は彼らの話を聞いて、聞いた上できっちりと反論する。あなたは間違っていると。
こんなことは強くなくては出来ない。しかし彼女は単に強いだけではない。しなやかにみずみずしくあたたかな感受性に溢れた、美しく光り輝く心を持った魅力的な女性である。
ノンフィクションではあるが基本的には彼女個人の体験記という形態をとっていて、タイでの人身売買や児童買春の実態を数値的に分析するような資料ではない(巻末の訳者解説に簡単なデータは掲載されている)。
でもこの本を読んでいると、そんなものに大した意味はないんだろうという気がしてくる。おそらく著者本人もそういうデータには興味がないのではないだろうか。それよりも、ひとりでも多くの子どもを助けだして無事に家族のもとへ送り返し、ひとりでも多くの子どもを地下組織から守るというリアルな面こそがもっとも大切なのだろう。
こんなにも残酷な事実を知っても、知ったところで凡人には何ひとつ出来やしないなんていう人もいるだろう。けどそうじゃない。われわれには財布と投票権がある。インターネットでこうして発言する権利も持っている。多くの人権団体はクレジットカードでの募金も受けつけている。
ぐりだって世の中すべての売春が悪だとは思わない。小児性愛者にだって人権があることくらい認めたい。それでも、声を大にしていわずにはおれない。子どもを買うなんて間違ってると。好きこのんで自分を売り渡す子どもなんていないよと。
誰も聞いてなくても、一度知ってしまったら、もう黙っているのは、おかしいんじゃないかと思う。
CPCR(タイ児童権利擁護センター)
ACPE(反児童売春協会)
関連レビュー:
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1986年、ブリュッセルの病院でソーシャルワーカーとして働いていた26歳の著者は、タイの難民キャンプでカンボジア人の子どもたちにフランス語を教える仕事のためにファナ・ニコムに向かった。当時、ベトナム戦争から続く内戦とポル・ポトの圧政から逃れた25万人の難民たちが、生活のあてもなく周辺諸国のキャンプで暮していたのだ。
ところが到着して間もなく、キャンプから子どもが「消える」ことに気づいた彼女は、やがてキャンプを警護する兵士たちの手で組織的に子どもたちが誘拐され売られていることを知る。買い手はバンコクやパタヤの売春宿や工場主たち。
彼女はタイ人ボランティアの協力を得て売春宿での潜入調査を敢行する。客を装って子どもを買い、おもちゃと食事を与えて生い立ちや生活状況を聞き取る。どの子も虐待され、怪我や性感染症に苦しんでいた。既にエイズを発症している子も少なくなかった。
たまりかねた彼女は子どもたちを救済・保護する組織を立ち上げてヨーロッパで援助を募り、タイ各地の地下組織との全面戦争を開始した。それは絶え間ない脅迫と暴力と、心も身体もズタズタに傷ついた子どもたちとの戦いだった。
『子どものねだん』は1991年に彼女がタイを去るまでの現地での活動を述懐したエッセイ。
単身で地球の反対側の異国へ乗り込み、マフィアと渡りあってボランティア活動に邁進する女性、というとなんとなく怖いもの知らずの“女傑”みたいな人物像をイメージしてしまうし、実際そういうタイプの人もたぶんいるんだろうと思う。
この本の著者マリーは違う。怖いことは怖いという。でも恐れはしない。怖い怖くないじゃなくて、目の前にいる傷ついた子どもを放り出せない、そんなことは断じてできないという、人としてごく素直な情動に任せてわき目もふらずただ闘う。
ヨーロッパ人としての迷いもある。彼女が出会った小児性愛者の大半はヨーロッパ人で、出会った場所がタイのナイトスポットでさえなければいい友だちにだってなれそうな、ふつうの小市民ばかりだった。若い人もいればなかなかのハンサムもいるし、インテリもいればエリートもいる。子どもに恵まれた既婚者もいる。彼女は彼らの話を聞いて、聞いた上できっちりと反論する。あなたは間違っていると。
こんなことは強くなくては出来ない。しかし彼女は単に強いだけではない。しなやかにみずみずしくあたたかな感受性に溢れた、美しく光り輝く心を持った魅力的な女性である。
ノンフィクションではあるが基本的には彼女個人の体験記という形態をとっていて、タイでの人身売買や児童買春の実態を数値的に分析するような資料ではない(巻末の訳者解説に簡単なデータは掲載されている)。
でもこの本を読んでいると、そんなものに大した意味はないんだろうという気がしてくる。おそらく著者本人もそういうデータには興味がないのではないだろうか。それよりも、ひとりでも多くの子どもを助けだして無事に家族のもとへ送り返し、ひとりでも多くの子どもを地下組織から守るというリアルな面こそがもっとも大切なのだろう。
こんなにも残酷な事実を知っても、知ったところで凡人には何ひとつ出来やしないなんていう人もいるだろう。けどそうじゃない。われわれには財布と投票権がある。インターネットでこうして発言する権利も持っている。多くの人権団体はクレジットカードでの募金も受けつけている。
ぐりだって世の中すべての売春が悪だとは思わない。小児性愛者にだって人権があることくらい認めたい。それでも、声を大にしていわずにはおれない。子どもを買うなんて間違ってると。好きこのんで自分を売り渡す子どもなんていないよと。
誰も聞いてなくても、一度知ってしまったら、もう黙っているのは、おかしいんじゃないかと思う。
CPCR(タイ児童権利擁護センター)
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